新たなグラフィックソフト Affinityシリーズのスタートアップガイド
2020年9月にオンラインで行われた技術書典 9の技術同人誌の感想です。『Affinity Suite』、製作はサークル*PetitBrainさんとなっております。(@petitbrain)
公式告知サイトがこちら。
Affinity シリーズとは?
さてWebでも紙でもグラフィックソフトの定番といえば、世界でたくさんの人に使われて続けてきた一番有名なAdobeの製品群。ところが2012年からAdobe Creative Cloudへ順次移行し全製品が買い切りでなくサブスクリプション制へ。いろんなコースがあるのですが毎月数千円を払い続ける必要があり、個人ではなかなか辛くなってサブスク地獄に各所から悲鳴が上がりました。ユーザーを完全に囲ってから値上げしてサブスクでお金を搾り取る、まあIT業界でいうとDB保守料を後から値上げして儲ける某オラ〇ルさんのようなことを始めた訳です。(笑)
じゃあもうAdobe以外の製品でもいいや...ということで代替ソフトに移行するパターンも出てきました。例えばベクターグラフィック系だと海外だとWeb開発でもよくつかわれているSketch、GIMPと同じく長年使われてきたフリーソフトのInkskape、無料版とPRO版のあるGravit Designer、そして中でも有力株がAffinity Designerを有するこのAffinityシリーズ(あるいはAffinity Suite)です。
AffinityシリーズはMacでもWindowsでも使え、本などを作れるAffinity Publisherが現在6100円、ビットマップグラフィックのAffinity Photoが6100円、ベクターグラフィックのAffinity Designerが6100円。PhotoとDesignerはiPad版もあります。3つ揃えても1.8万円買い切りでサブスクリプションもなし、コストパフォーマンスもよく機能も十分...と、注目されています。本書はそんなAffinityシリーズの数少ない本となります。
僕は以前別ジャンルの活動で個人Webサイトを運営していた頃、画像作成にはフォトショやイラレではなく長らくAdobe(旧Macromedia) Fireworks を愛用していました。ぐぐると本職のデザイナーさんでも好きだったという人がけっこういて嬉しいところ。
このFireworksも時の流れでもう開発停止、泣く泣く代替ソフトを探したのですが...そこでたいてい必ず推されてるのがこのAffinityシリーズでした。というわけで最近からAffinity Designerを触り始めていました。
Chapter1 Affinity Basics
さて本の方の感想です。
- まずはAffinityシリーズ3ツールとはなんぞや、基本的な使い方の話。
- デザイン誌だけあってレイアウトはとてもきれいです。表題の下、見出し、テキスト本文、画像、どれも適度なスペースで余白があって読みやすい。オンラインストアのページでもサンプルページをみることができます。
- 文中の大事なところはテキストが黄色背景になっており、割と重要情報が載ってます。
- 画像、Affinityのキャプチャ画像も豊富に載っていてフルカラーなので分かりやすい。
- 何気にChapterの下の階層のセクション?ごとに、右上に3つのアイコンがあってどのツールにその機能があるのかが分かるようになっています。こえrもありがたいですね。左側のカメラのシャッターみたいなアイコンがAffinity Photo、真ん中のAっぽいのがDesigner、右側の斜線が入っているのがPublisher。
- ツールの一覧や、画面右に出てくるパネルの集まり(=スタジオ)もすべてフルカラーのキャプチャ付きで解説してあってありがたいですね。「こんなパネルあったんだ!」とか「ここ押せるんだ!」ってなります。
Chapter2 Affinity Tools
- 一番よく使いそうな頻出機能の章。
- レイヤーの話で、複数レイヤーを重ねた時の見え方が変わる「レイヤーブレンド」が全種類、例と一緒に説明が載っているのがとてもありがたいです。いつも理屈を知らずに雰囲気で選んでいましたw
- 各種エフェクトやブラシ、テキスト、シェイプなども設定ひとつひとつについてもしっかり説明してくれてありがたいです。読んでいてけっこう、「あっこの操作知らんかった……」となります。
Chapter3 Affinity Tips
- 計16シーンの簡単なグラフィック制作を通して、こんな機能があるのだというのを知るTIPSの章。1ページが1つのTIPSで分かりやすいです。写真の切り抜きや色調の変更、光の強調などなど。
- TIPS 05の青い車の写真の色を一部だけ変える例はインパクトがありますね。これぱっと見だと本物と見分けがつかないです。フォトショ並み?!となります。
- 自分的に参考になったのはやはり、Affinity Designerの範疇のTIPS。テキストの縁のデザインはテキストごと複数レイヤーにコピーしてそれぞれをデコるテクは、なるほど……と思います。
- 立方体を作る機能もあるんですね。これも知らなったです。
- 使うシーンが実際にありそうなTIPSとして、スマホアプリの画面の制作、爆弾型バッチや喫茶店のメニュー、カレンダー作りなんてのもあります。
Chapter4 Affinity Workflow
- Affinityを活用した様々な小さな作業内容の組み合わせがワークフローとなり、デザインになることを紹介していく章。
- これまた題材が、ポニテの女の子のvTuberに頼まれた初配信のサムネ画像づくり、イラスト集の同人誌制作と、非常に役に立ちそうなテーマです。
- 表紙イラストとロゴの色がぶつかると文字が見え辛くなるので外側に光彩……などは自分でも思いつくのですが、ロゴの背後をガウスぼかしでぼかしてグラデーションづけや、大きさを変えたイラストでは全体はぼかしつつマスクで顔回りを目ぢからUP……等のテクニックを実際に見ると、なるほどそうやってるのか……!と唸って感心します。
- ちなみに題材の発注元と思われるVTuber氏はどう見ても二次元にいる萌えるポニテの女の子なのですが、素材はあくまで「自撮り風イラスト」ではなく「自撮り画像」ということで、VTuberすげえな!と思いました。(関係ない)
まとめ:日本語で読める数少ないAffinityの本!
Affinityの日本語で読める商業本は2016年頃に出た同一シリーズだけがあります。
僕も『はじめてのアフィニティデザイナー Mac対応: 最新改定3版 ~』はパラ見して参考にはなったのですが、商業本の割に誤字脱字や日本語がおかしい所がけっこう多いな...という印象でした。
そしてYouTubeにも公式チャンネルがあって解説動画などもあるのですが、オールENGLISHです。
そんな、日本語で読める情報もまだ少ない中、かなり貴重な技術同人誌です。イベント中20%OFFでのお値段2000円は技術同人誌の中では高めな方ですが、フルカラー100ページもある本格本であることを考えれば十分オトクですね。
別に探した訳ではないのですが、テキスト部分は誤植なども全く見当たらず、完成度はかなり高いと思います。これからツールを使って本格的に技術同人誌づくりに取り組もう...なんて方にも役に立つと思います。
なお物理本は完売、電子版は見開きページ版PDFと単一ページ版PDFの両方をダウンロードできます。Kindle Fire HD10で読んだところ、単一ページ版の方が読みやすかったです。
関連ツイートによると、本誌シンボルの表紙のけも耳キャラはAffinityちゃんという名前だとのこと。実にぐっとくる...じゃなかった、、スタイリッシュな表紙になっています。たくさんの本の表紙が並ぶ技術書典オンラインマーケットでも、ひときわ目を引きますね。
本誌は雑誌形式をとっていますが、続きのVol.02は2020年12月の技術書典10でできれば出したいとのことです。
読者の応援にかかっているとのことなので、購入した方はTwitterなどで応援してはいかがでしょうか。
以下まったくの余談です。
僕は学習アプリのStudyplusに読む本を登録して記録をつけています。スタプラのスマホアプリで教材として本を登録する際にスクショ画像を指定できるのですが、アプリとして画像サイズを揃えるため、全寸の元画像ではなくて上下左右がトリミングされて切り取られた長方形の画像が登録されるようになっています。タイトルとか重要なテキストや絵がはみ出してる本の場合は、トリミングの四角を適宜動かして調整してから決定するわけです。(けっこうはみ出る本あります)
本書を登録しようとした時のiPhoneアプリのスクショ画面がこれなのですが...
トリミング用の四角を動かさずとも最初から、タイトルや添え字やキャラの位置が上下左右ともぴったり完全に収まっていました。おお~ちゃんと表紙デザインされた本はしっかり位置揃えして配置を考えてるんだな...とひそかに感動した次第です。