アメイジングに再起動:『アメイジング・スパイダーマン』
サム・ライミ版の3部作は当初は4-6作目まで行くと言われていたものの頓挫、監督もキャスティングも一新してアメイジングにリブート再起動となったアメイジング・スパイダーマン略して「あめすぱ」。今年はアメコミ系映画も豊作なので早速見に行きました。
主人公
日本ではあまり有名でないですが、『ソーシャル・ネットワーク』で主人公の友人役を演じたアンドリュー・ガーフィールドが新生ピーター・パーカーを演じています。背も高くてイケメン、髪もモジャっとしていてなんとなく前作のトビー・マグワイア版ピーターではなくて親友、オズコープ社長パパの息子のハリーに似てますね。w
トビー版のピーターも特に序盤、服装がイケてなかったり眼鏡がイケてなかったり台詞がイケてなかったり等身大ヒーローのイケてなさぶりがあちこちに出ていて笑いを誘ってきました。「あめすぱ」版ピーターはリア充の爽やかイケメソでえらくアメイジングな変身を遂げているのかと思いきや……背が高いんだけど猫背気味だったりしょっちゅうポケットに手を突っ込んでいたり、まだ垢抜けない学生ぶりは割合と出ていたと思います。それでも基本線は爽やかで行動力もあり、新シリーズに相応しい主人公ですね。
遺伝子を調整されたスーパー・スパイダーに噛まれてアメイジングな能力を得て驚くシーン、行方不明の父の眼鏡を掛ける家のシーンで背景にちゃんとアインシュタイン大先生がべーしてるポスターが貼ってあります。ピーターは化学が大得意という設定でトビー版ピーターの自室にもアインシュタインが貼ってあったので、これはオマージュではないかと思ってみたり。叔父さんの家も旧作に比べるとだいぶ広くなっています。
ヒロイン
旧シリーズはキルスティン・ダンスト演じるメリー・ジェーン、MJがけっこう日本でも不評でした。どれぐらいかというとGoogleの検索候補で「スパイダーマン MJ」のあとに「性格」とか「ブス」と出てしまうぐらいです。w
映画中のMJも親に問題がある貧しい下層の家に生まれ、厳しいNYの実社会の中で成功しようと努力する中で男に頼る必要があり、付き合う相手が転々と変わるのですがこれがぱっと見、やはり自分に都合のいい女に見えてしまうんですね。海外作品だとこういう女性は時々出てくるのですが、日本人の感性だと特に受けが悪いようです。MJを巡って壮大にピーターと親友ハリーが争う3作目も見ていると「お前らの世界にはMJしかいないのか! NYに可愛い女の子なんて沢山いるだろ!」とついツッコミたくなってしまいます。( ´∀`)
あめすぱ版ではエマ・ストーン演じるグウェン・ステイシーがヒロイン役に代わっています。プラチナブロンド、ポニーテールにすると高校生に見えなくもないし序盤からピーターに好意を持っているしヒロインも爽やか路線にアメイジング。作品を通して性格がそれほど深く掘り下げられている訳でもないのですが、映画のヒロイン役としてはこれぐらいのキャラの方が似合うのではないでしょうか。お父さんのニューヨーク市警の警部(だっけ)も、好感の持てるパパに描かれています。
ちなみにグウェンは旧シリーズでも出てきて、3作目で崩れるビルから助けられてスパイディに好意を持ったりMJから嫉妬されたりヴェノムに侵されて黒くなったピーターに略奪愛されたり痴話バトルに巻き込まれる可哀想な人です。
ヴィラン
アメコミものに欠かせない敵役のヴィラン。前シリーズでもグリーン・ゴブリンやドク・オクトパスが強い印象を残しました。『バットマン』でもジョーカーが主役を食うぐらい有名ですね。
今回の敵は巨大トカゲに変身するリザード。そのまんまなネーミングもアメイジングです。
アメコミのシリーズでは名の知れたヴィランだそうですが、新生シリーズに相応しいインパクトのある強大な敵かと言うとう〜んちょい物足りなかったなあという気もします。これだけCGで多彩でアメイジングな映像表現が可能になった21世紀の現代なのにあえてトカゲ男か!という感じで。
作品全般で夜の暗いシーンが多いので全身像がよく見えないシーンが多いんですね。また人間が変身するので喋れる設定なので、体は直立トカゲの恐竜みたいなシルエットなのですが顔だけが爬虫類の縦長の顔でなく人間ぽい顔です。平たい顔族のままです。この造形デザインがちょっと気持ち悪いかもしれません。
自身も片腕を失い、オズコープ社で人体再生の悲願を掛けて研究を続けるカート・コナーズ博士がゴニョゴニョしてムニャムニャなのですが、博士の悲哀なんかは表現できていたと思います。普段は穏やかな天才科学者です。Youtubeもやっててアメイジングな博士です。ピーターとの会話のシーンがもっとあったらさらに際立ったでしょうね。
敵のリザードも純粋悪というほどでもないのでヴィラン遂に登場キター!的な名乗り上げや見栄を切るシーンもあまりないんですね。
そこへ行くとやはり旧シリーズのヴィランはなかなか印象に残ったなあと思います。特に個性派俳優ウィレム・デフォーが演じたノーマン・オズボーン社長/グリーン・ゴブリンは1作目から3作目までピーターや親友ハリーの心に影を残してますからね。変な飛行機に乗って空を飛ぶとCGだと分かってしまいますが、1作目でお祭りのシーンに摩天楼の谷間を笑いながら襲撃してくるあのシーンはゾクゾクします。アメイジングです。
このカート・コナーズ博士は旧作シリーズでもチョイ役で出てきて、大学で教授をやっています。
スパイダー・ウェブ
ビルからビルへ飛び回るスパイダーマンのアクションの源になっているあの糸。前シリーズではクモに噛まれてから無限に射出できる変異器官が手首に出来た設定になっていますが、あめすぱではなんと機械で出します。(!)
ところがびっくり、元のアメコミ版も何回か設定変動がありますがこちらの機械式が正しいらしいですね。これはオズコープ社製の高分子ポリマーで作られたハイテクでアメイジングな糸で、ピーターが自作した装置に液体化したカートリッジを装填して射出するそうです。スイッチは中指と薬指につけた接触式スイッチで手のひらをダブルタッチ。言われて見ると確かにスパイダーマンはいろんなポスターで、この手のひらを上に出して中指薬指を丸めた独特のポーズをしています。あのしぐさにもちゃんと理由があったんですねー。
お馴染みの高層アクションのほかには、敵のリザードの回りを素早くぴょんぴょん飛び回りながら連続発射してぐるぐる巻きにする使い方が面白かったですね。
そういえばスパイダーマンは身に降りかかる危険をなんとなく感知する超感覚「スパイダーセンス」も持っていて、旧作ではこれを表現するシーンが時々あったのですがあめすぱでは出てきません。まだ覚醒しきっていないようです。
昼と夜
悩める等身大のヒーローだけど戦闘中は軽口を叩きながら飛び回っているスパイダーマンは基本的には陽性のヒーローなので、旧シリーズも昼間のシーンが多かったです。ポスターや一枚絵の類もビルのガラスに太陽が反射していたり明るい色彩になっています。
新生あめすぱは雰囲気を変えるためか、ポスターも夜だし黒の色彩がメインになっています。クリストファー・ノーラン監督の下でリアリズム路線に生まれ変わった新生『バットマン・ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト・ライジング』を多少意識しているのでしょうか。でもストーリーはそれほどシリアス路線でもないですね。バットマンはゴッサムを守る闇の騎士ですが、スパイディはやはりNYの昼の守護者。
作中も夜のニューヨークを飛びまわる場面が多めです。リブート版で雰囲気を変えたのは分かるのですが、それほど暗くしなくてもよかったんじゃないかと思います。
ちなみに旧シリーズの夜景は割合普通だったのですが、あめすぱの方が美しいマンハッタンの美しい夜景のライトアップが強めな気がします。予告編でもビルのてっぺんで戦うシーン、周囲に眼を凝らすと背景が美しく浮かび上がっています。
CGや3D
20世紀の技術ではあの摩天楼を飛び回りまくるアクションの実写映像化が技術的に無理と言われ見送られていたスパイディのシリーズ。見事に映画化された際は喝采をもって迎えられました。
今作もCGはうまく多用されています。前シリーズも遠景のシーンだと、遠くを飛んでいるスパイダーマンやグリーン・ゴブリンは動きがやっぱり「ああこれCGだな」と思ってしまうような軽々と空を飛んでいる場面がけっこうあったのですが、あめすぱ版は多少リアル寄りになっている感があります。重さのある世界で質量を持った生身の人間が、糸を頼りに飛び回って物理運動をしている感が出ているような感じです。橋でブランコのように飛び回るシーンは見物ですね。
IMAXでない3D版で見たのですが、作中でなかなかスパイダーマンに目覚めてくれないので前半は3Dで嬉しいシーンがあまりありません。w
興奮するのはやはり後半ですね。クレーンを次々に飛び回るクライマックス、高層ビル頂上でのリザード戦へ繋がるシークエンスはやはり3Dで観てこそのアメイジングです。
ガジェット
格差社会(笑)がしっかり描かれていた前作では貧乏なトビー版ピーター、ルームシェアをやめた後もぼろいアパートで携帯も持ってませんでした。恋を応援してくれる健気な大家の娘さんの前でいつもコインを入れてMJに電話を掛けていました。
新生2010年代のアンドリュー版ピーターはイケてるのでスマホを使いこなしています。どれぐらい使いこなしているかというとスパイディコスチュームで高いところからNYを見張りながら、メイおばさんに「帰りに卵買って来て」と電話で頼まれるぐらいです。w
アメイジングなスマホはAndroid端末、SONYのXPERIAでした。理由は簡単で配給元がソニー・ピクチャーズだからですね。地下でウェブを張り巡らせて敵が来るのを待ちながら、暇なのでアプリでゲームをしているシーンがあります。スパイディもスマホで遊ぶ時代。アメイジングです。( ´∀`)
BGM
日本では最後の最後で突然流れる邦楽にズコーとした洋画ファンが多かったようです。元々はCOLDPLAYがテーマ曲を提供したそうですが(こっちが聴きたかった!)、日本語版はSPYAIRの新曲『0 GAME』が代わりに使われています。
僕は前もって知ってYoutubeでも聴いていたのでそれほどダメージはなかったのですが、出だしのイントロなどはなかなかスパイダーマンに合ってるとは思うのですが、日本語の歌詞が始まるとやっぱり違和感がありますね。やはり洋画は洋楽で聴きたいものです。
これはソニーピクチャーズの陰謀という説も、SPYAIRの人にスパイダーマンのファンがいてダメもとで頼んだら幸運にも大抜擢となったという話もあります。
その他違うところ
★ピーターを育ててくれるベン叔父さんとメイ叔母さんは旧作でも重要な役どころですがここもキャストは一新。旧作同様ベン叔父さんは命を落としてしまいスパイダーマン誕生のきっかけにもなるのですが、ピーターがあんまり死を悲しんでいる描写がないんですね。このへんは脚本の見せ方がまずいのですが、旧作より軽薄に見えるかもしれません。
★旧シリーズだとピーターの本当の両親は一切触れられていないのですが、あめすぱでは何か重大な秘密を抱えていたことが言及されています。どれぐらい重大かというとエンドクレジットの後まで前振りをするぐらいです。基本的には続編に続くというところですね。
★旧シリーズのオズコープ社は社屋に赤いロゴでOZCORPと書いてありましたが、あめすぱだとよりオサレな今っぽい先進的ビルディングで研究が続いています。名刺や社員証、コンピュータの画面などに出てくるOZCORPのロゴも細めのサンセリフ体で、いかにも2010年代の今っぽい謎のハイテクノロジー企業になっています。
★旧シリーズでは高級スーツを着こなしたウィレム・デフォーが存在感マソマソだったこのオズコープ社長のノーマンパパ、息子のハリーは、あめすぱではまったく出てこないですね。社長は病に冒されていることが語られているので、次回作の伏線なのかもしれません。
★ちなみにこの新オズコープ社のセキュリティの甘さがあまりにアメイジングな事については観た人のほとんどがツッコんだでしょう。w
高校生のインターンに化ければ侵入余裕。画面が美しいタッチパネル式のドアキーもピーターが番号を覚えられるほど余裕。DNAを強化したスーパースパイダーが鎮座している実験室にいたっては人がいません。ポケットに手を突っ込んだいかにも場違いな高校生が廊下を歩いていても白衣の人たちは気にしないぐらい研究熱心です。さすがは映画の世界。うーんアメイジングです。( ´∀`)
★旧シリーズでカメラマンを目指すピーターたちが写真を売り込んでいる新聞社のデイリー・ビューグルも、あめすぱは新聞に名前が出ているだけで登場せず。あの自分勝手な名物編集長が怒鳴り散らしている新聞社です。あれも真面目に考えるとピーターのような優秀な若者が働くにはあまりにブラックすぎる新聞社ですが(笑)、キャラが立っていたのでちょっと見たかった気もします。
★学校でスパイダーマンとリザードが大バトルを繰り広げるシーン、アメコミ原作者の御大スタン・リー大先生がちゃっかり出てきます。図書室でヘッドフォンを付けながら仕事をしていて背後の大乱闘に気付かない老人という約束の場面ですね。この御老体、あまりにアメイジングな笑いで全てを持っていってしまうので背景の2人が霞んでしまいます。( ´∀`)
★高校だとナード君な主人公ピーターをイジめるフラッシュという爽やか短髪スポーツメンな同級生があめすぱ版でも出てきますが、ヒロインのグウェンに諌められると手を引いたり、あまり陰湿なイジメ感がないですね。やはりリブート版は爽やか明るめ路線になっています。
それどころかこのフラッシュ君、叔父さんを亡くして落ち込むピーターを励ましたり途中から突然いいヤツにチェンジします。まさかの男ツンデレです。うーんアメイジング。
このフラッシュというキャラは旧シリーズの1作目冒頭にも出てきます。優秀だけど内向的なピーターをいじめ、ヒロインのMJにちょっかいをだし、あちらだと腕力に物を言わせた明確に嫌なヤツになっています。在学中は新車を買って彼女にしたMJを乗せてハイスクールライフをブイブイしてますが卒業式の日にMJにふられて交際エンド。その後は高卒でつまらない仕事に就いたのが一瞬映るだけ。あの映画の中の格差社会(笑)では、その後ぱっとしない一生を送るだけなのでしょう。
こういう「オレはスポーツ万能アメフトやってるクラスで一番イケてるリーダーだぜHAHAHA」的な脳筋キャラはアメリカの高校文化のヒエラルキーではジョックス(Jocks)に当たるのでしょうか、なんかもう向こうでは基本のテンプレらしいですね。映画や学園ドラマに沢山出てきます。ふと思い出したところでは実写版『トランスフォーマー』の冒頭のイケてない主人公サム君の日常シーンがまったくそのままで笑いました。
日本だと遅刻しそうになってパンを食べながら走ってぶつかったり転校生が隣の席に座ったり委員長が眼鏡っ子だったりするアレみたいな約束でしょうか。
★眼鏡っ子といえば、ヒロインのグウェン以外にも同級生に可愛い眼鏡の女の子がちらっと出てきます。続編にも登場キボン……(*´∀`)ノ
★あめすぱ1作目はまだピーターも高校生でスパイダーマンの力に慣れていない按配なのか、旧シリーズに比べるとあまり強く描かれていないようです。ニューヨーク市警の皆さんは旧作だと瞬殺レベルですが、あめすぱだとけっこう苦戦しています。いや、それともあめすぱ世界のNY市警が基本的にみんな強いのかもしれません。アメイジング……( ´∀`)
★そして一番アメイジングなのは誰かといえば、NYを愛するビル工事のおぢさんたちを上げなければなりますまい。まことGJです。あのシーンが作中一番の胸熱シーンです。アメイジング! ヽ(*´∀`*)ノ
そんな感じでした。サム・ライミ版はソニー・ピクチャーズのテコ入れが入って監督もやる気が下がったり脚本が雑だったりいろいろあった3作目が評判がイマイチでしたが、3部作の映画としてはかなり評価されています。
リブートした新シリーズは前作を超えられるほどまでアメイジングかというとそこまでは至らないかもしれない感じですが、日本でも初登場週1位。めでたくアメイジングに続編も制作決定。最後の最後のピーターの決めセリフ「守れない約束もある(ドヤァ」がツッコミ待ちなのかどうにも腑に落ちない感があるのですが(笑)、まあまあのフレッシュな再起動という感じです。
いよいよの『ダークナイト・ライジング』『アベンジャーズ』と一緒にアメコミ映画好きはぜひどうぞ。
サム・ライミ監督版の旧シリーズ3部作はこちら。
伝説が(ドヤ!)壮絶に(ドヤ!)終わる(ドヤ!!)なDark Knight rises。
アメリカでは悲しいことに上映会場で銃乱射事件が起こってしまいました。
日本語版の予告編も上がっていました。アベンジャーズも続編は決定しており、スパイダーマンが加わる可能性も噂されています。うーん実現したらアメイジングだ。