オールドゲーマーとして反応せずにはいられないゲームブックネタ。『デストラップ・ダンジョン』『ハウス・オブ・ヘル』の2作が復活したのは年末のTRPG界を賑わせましたが、さて次には何が出るのか。
大魔法使いザゴールや妖術師バルサス・ダイアが萌え美少女化してしまうのかと期待と悪寒でwktkしながらもうヤズトロモ様や正義の女神リーブラ様にお伺いを立てたいキモチでいましたが、先日3作目が出ました。
しかもなんと……20巻目の『サムライの剣』が『サムライ・ソード』として復活! 予想の斜め上を行く超展開がキタでござる!

- 作者: スティーブ・ジャクソン/イアン・リビングストン,榛名まお
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2009/04/01
- メディア: 文庫
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表紙はご覧の通りのラノベ調。HJ文庫のラノベと並んで本屋に並んでいたらまったく違和感がないですね。w
なんとも面妖なジャパニズムに溢れていた旧版のカラー表紙、死霊ざむらいの鎧武者が背負っていた旗印に燦然と輝く「悪死」の2文字が記憶にある方はこの新版の表紙をよくご覧ください。
帯の宣伝の文字に隠れがちですがよく見ると……この若武者、背にちゃんと「悪死」の2文字を背負っています。表紙GJでござる!
そんな大昔の話は知らないでござるという普通のゲーマーさんに昔の話をすると、ゲームブックは1980年代の日本のTRPG黎明期に大きな役割を果たした作品群です。翻訳もの/国産入り混じり乱立した作品群には玉石混合いろいろあるのですが、『ファイティング・ファンタジー』のシリーズはその中でも本場イギリスの本格シリーズ。
『火吹山の魔法使い』を始めとする不朽の名作もある一方で、珍作・奇作・怪作も多いのですが、この旧タイトル『サムライの剣』は間違いなく後者の作品。
「あんまりリサーチしてないけど、イギリス人が頑張って日本“風”の国のセッティングで作ってみました」的な日本人から見るとあちこち間違った素敵ジャパネスクなオリエンタリズムのセンスに溢れた作品です。
といってもここで「これだから洋ゲーは……」と決め付けるのは早計、武士として名誉点が下がる行為でござる。それを言ったら国産TRPGに描かれる西洋風ファンタジー世界や我々が演じている西洋風キャラクターだって間違いに満ちていますからね。ここはタイタン世界にもこんな愉快な国があるとユーモアを持って受け入れるのが、粋なゲーマーというものでござろう。
舞台はFFシリーズの公式背景世界であるタイタン世界にある大陸、アランシア、旧世界、そしてもうひとつある暗黒大陸クールの端っこにある八幡国(はちまんこく、新版では「蜂漫国」)というステキオリエンタルな東洋の国。旧ソード・ワールドのアレクラスト大陸におけるイーストエンド諸島的な位置づけにある神秘の東洋です。
システムは基本は他のFFシリーズと同じ、技術/体力/運で2d6でやっていくシステム。主人公は武士なので必殺の技として弓術や居合術を開始時に選ぶことができます。
そして面白いのは本作には名誉点(Honor)という数値があること。初期値3点、サムライらしい行いをすると上がり、サムライにあるまじき行いをすると下がっていきます。そして0になると強制的にパラグラフ99行き。問答無用で切腹してゲームオーバーです。エクスカリバーJrと一緒に死の14に行くのより辛いです。w これぞハチマン国の武士の生き様。そこにしびれるあこがれる〜!
ちなみに原作著者がスティーブ・ジャクソン&イアン・リビングストン的な書き方をされてますが、英語版でも書いたのは別のコンビでスティーブとイアンは監修だったはずですね。
個性を持たない「君」だった主人公も新版デストラ、ハウス・オブ・ヘルでは女戦士フィリア、女子高生のマキというキャラクターが与えられましたが、本作『サムライ・ソード』も同じ。ここで美少女ざむらいや女ざむらいになるのかなあと思っていたら意外、ラノベ調イラストも眩しい男の若武者になっていました。
闇将軍から神剣を取り戻し、桜の彩るこの美しい国を守るべく冒険の旅に出発するこの若き剣術指南役の名は、「四根今直(しね・いますぐ)」。
剣聖のシネ殿、四根殿が「イキルマジ今すぐ氏ね」の不退転の決意と共に旅立つ訳ですよ。このネーミングは作品全体のセンスと合っていてなかなか上手いですね。
オープニングも四根殿の旅立ちに合わせて描写が変更がなされています。意味的には Evil Death をどうやら示したかったらしい旗ぢるし「悪死」も、この国のサムライは「悪には死を与えて罰する」のだと、ちゃんと序盤で説明がなされています。GJでござる。
本文は固有名詞の日本語風のネーミングを苦労して日本語に翻訳した様が旧版からも見て取れるのですが、新版だと少しづつ訳語が違っています。思いつくところを抜き出してみました。
- ラスボスの闇将軍イキル→闇将軍鋳切(いきる)
- 八幡国→蜂漫国
- 神器“鍔鳴りの太刀”(つばなりのたち)→神剣“鳴神(なるみ)の太刀” 英語では確か the Dai-Katana, the great sword Singing Death だったのでどちらも意味は同じですね。どうでもいいですが漫画の『BASTARD!!』に出てくるサムライマスターのキャラの持ってる刀の名前が“鍔鳴り”なのは本作から取っていた記憶があります。w
- 主人公の「君」→四根今直(しね・いますぐ)
- イキルが待っている鬼軽城(おにがるじょう)→御仁駆城(同じ) これは旧版のほうがいいですね。
- 八幡国の都の今市(こんいち)→紺壱城(こんいちじょう)
- 八幡国の将軍 長谷川喜平(はせがわ・きへい)→馳皮奇兵(同じ)
- 神に祈る文句で出てくる幸運の布袋様(ほていさま)→そのままです。GJでござる!
- 冒険の舞台の処水山(しょすいざん)→寿司牡胃(すしおすい)山地
- 冒険のルート、影の森を抜けて葉隠橋(はがくればし)→同じ
- 冒険のルート、浅瀬川を横切り水グモ沼→溝蜘蛛沼地(みぞくもぬまち)
- 途中に出てくる悪の殿様、貞信公(ていしんこう)→津絵鎮公(つえちんこう) デブで頬が弛んだいかにもダメな悪役だった貞信公、旧版の洋ゲーイラストでは和風っぽい服に戦用の大兜を被るという面妖な姿でしたが、新版のイラストでもちゃんと兜を被ってます。イラストGJ!
- 落ち武者に襲われていた村の長の忍次(にんじ)→忍次
- アイテムの赤い鉢巻の謂れになっているこの村出身の英雄、新免武蔵(しんめん・むさし)→新面武蔵(同じ)
- 途中で仲間になる武士、弓常茂市(ゆみつね・もいち)→黄泉爪茂市(よみつめ・もいち) 今風に前髪のある好青年ざむらいになっています。しかしゲームブックで途中で仲間になるNPCの例に漏れず、しばらくすると(以下略)
- 城に入る時の合言葉 「桜花」→「サクラサクラ」
- 途中に出てくる敵武者→ローニン 鎧銀星(よろい・ぎんせい) 女ざむらいになっています。記憶が定かではないんですがここは女性化されている模様でござる。
- カッパやシコメ、ムカデなどモンスター系→「渇破」「無苛出」など故意に変な漢字の名前に。旧版で貞信公の城を守っていた「鬼女」がシコメか?
- 頼りになる地獄地蔵(じごく・じぞう)→破魔地蔵(はま・じぞう)
- 中ボスの大鬼→大鬼(だい・おに) 旧版通り青銅の巨人、大ガマガエル、大カマキリを従えて主人公と戦います。大鬼はサムライマスター・ミフネみたいな感じでかっこよくなってますね。
- ゴニョゴニョ召喚の秘密の合言葉 「知行合一」(ちぎょう・ごういつ)→「和をもって尊し」 聖徳太子の言葉ですが、これは旧版の方がいいですね。
女ローニンの鎧銀星がなんかローゼンメイデンみたいなネーミングですが、貞信公改め津絵鎮公を守っている武士もラノベ調だけど男。それほど女性化はされていないようです。大鬼が従えているガマガエルやカマキリたちもラノベ絵でなんか可愛いので和みますね。
そして本作の特徴は、大鬼との決戦前、八つの扉から別世界へ飛んで仲間たちを探し、彼らの助力を受けながら大鬼チームと戦えること。
この仲間たちが新版では「召喚闘獣」「召喚闘獣乙女」と称されてカラー口絵で全員集合するぐらい女性化されています。最大の萌え化はここにて候。
- 仲間→召喚闘獣
- 8つのフィールドである究極山の頂、大草原、神秘の山脈、アコンの果てしなき砂漠、古代の沼、永遠の塔、魔法の森、戦いの場→究極頂点界、古代平原界、不言神聖界、無限砂漠界、始源沼沢界、久遠尖塔界、魅惑森林界、決戦闘技界
なんぞD&Dの多元宇宙を無理やり日本語にしたみたいなネーミングになってきました。w
- 「巨大蛇」→「大蛇さん」 下半身が蛇、上半身がグラマラスな裸の美女。どちらかいうとラミアっぽい。
- 羽のない東洋のドラゴンの「竜」(たつ)→「タツ」 チャイナドレス風の衣装に鹿みたいな角、古風で尊大な口調で喋る幼女キャラに。謎掛けに答えられないと食べちゃうぞと言って来るのも同じ。拙者、タツたんに食べられるなら……(*´Д`) 【名誉点一点を失う】
- 馬の胴体に獅子の頭、巨大な翼をもつ神獣「キリン」→「キ・リン」 額に角、背に翼、仙女めいた白基調の衣装の高貴な天使系の女性に。解説役っぽい。ちなみに旧版のイラストはどう見てもマンティコアに見えます。w
- 不死鳥の「フェニックス」→「不死鳥姉(ふしちょうねえ)」 威勢のよいはすっぱなおねいさんキャラ。腕が羽になっているのでフェニックスというよりはハーピー。
- 獰猛なサーベルタイガーの「剣歯虎」→「剣歯虎(けんしこ)ちゃん」 トラ模様のビキニ、手足が獣で獣耳の野生少女。「まるかじり!」
- 「黄金騎士団」 団長のガイデス卿はヒゲも眩しいおやぢでしたが……→「黄金騎士団」 団長は前髪を切り揃えた金髪、後ろでおさげにしたいかにも実直な女騎士に。ちなみに青◎の◎人に当てるよりも、どちらかいうと失敗して大カ◎キリにやられて逃げ惑うイラストが萌えで……(*´Д`) 【名誉点一点を失う】
- 緑のマントに冠を被った記憶混乱中の「魔法使いエレノア」→「エレオノール」 『マリみて』なんかに出てきそうな、髪をリボンで結んだ見習い魔法使いの萌えっ娘に。内気な眼鏡っ娘でさらにどじっ娘ぽいです。本書を開くとまずカラー口絵で彼女が告白してきます。w 『サムライ・ソード』の最萌えはこのエレオノールたんでござる……(*´Д`) 【名誉点一点を失う】
おお。もう名誉点がないので99でハラキリ決定ですね。w
かように召喚闘獣が最大の萌え化ポイントとなっています。テキストは前作2作と同じ作り、本文中は訳語以外はほとんど同じ、ケンセイ四根今直の視点や台詞が入った部分に若干修正が入っている感じです。
旧版イラストは洋ゲーテイストのままステキジャパニズムを描いているので何とも言えない面妖な感じがたまらないのですが、『サムライ・ソード』はラノベ調とはいえ同じ日本人が描いているので、だいぶ自然に見えますね。表紙の「悪死」や貞信公改め津絵鎮公の兜など、細かいネタも活かしているのがGJです。
闇将軍イキル改め鋳切を成敗するもよし、古き良き日の冒険を思い出すもよし、ロートルゲーマー同士で話のネタにするも良し。引き続きオールドゲーマーならマストバイ(敵性用語)の1作です。
しかしここまで続けてくれるとホビージャパンに続きを期待してしまいますね。迷宮探検、ホラー、東洋と毎回題材を変えているところを見ると次はSFあたりが来そうな感じもしますが……『さまよえる宇宙船』なんかを訳すよりは、タイタン世界が舞台の作品でやってほしいでござるなあ。と思いました。