ブルーローズ・ネクサス
ブルーローズ・ネクサス (ログインテーブルトークRPGシリーズ)
- 作者: 朱鷺田祐介(スザク・ゲームズ)
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2009/12/19
- メディア: 大型本
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日本のTRPG界に数あるシステムでもありそうになかった、現代が舞台の秘境や遺跡探検&オーパーツ探索&トンデモ系。地雷が多数埋め込まれた分厚い500P級ルールブックの後半1/2以上は学術書かと間違うぐらい超ド級の設定資料。世界史と各種雑学の勉強にもなって思わぬお徳。そして索引が付いてないという伝説のゲーム。だ が そ こ が い い 。 ( ´∀`)
そんな、2000年代前半(2002年発売)の伝説のゲームだった『ブルーローズ』が帰ってくる。しかもルールが『ガンドッグゼロ』とのコラボ!
というわけで朱鷺田ゲー信者(笑)として外せない待望の第二版『ブルーローズ・ネクサス』がいよいよ刊行されたので読んでいます。
当然ながらガンドッグとのコンパチなので能力値やデュアルロール、クラスから2つ選んでのキャラクターメイキングなど基本システム周りはガンドッグそのまま。見開きで収まるイラスト付きのサンプルもついて、今風のゲームになっています。
旧版はキャラメイク時に星座を選んだりするルールがあったのですがこの辺は星座カード、天体カードなどが廃止、クラスの中に対応する惑星が書いてあって名残がある感じですね。
旧版はゾディアックメンバーというPCサイドのローズ考古学財団側の中枢に位置する各方面での強力な能力を持ったお助けNPCがPC側リソースとして用意されていました。(このへん、公式NPCの人気や萌えで保っているFEARゲーなどを当時から色々参考にしているのが窺えます。)
新版ネクサスでは設定変動に伴いゾディアックのメンバーも死んだり敵側に寝返ったりでばらばらになり、支援はなし。代わりにガンドッグと同様のクラスアーツが1シナリオ1回×複数アーツ分1キャラクターが使え、割と強力なアーツが多いのでPC側は初期でもそこそこは強くなるようです。
ローズ財団の特別調査部門ブルーローズ所属時点で初期装備のBRサバイバルスーツやより高度なAスーツで拳銃弾は大抵防げるし、ガンドッグの初期キャラクターよりは多少強い感じなのでしょうか。
テーマが冒険活劇なので派手めを意識しつつも……ある意味初期からやりたい放題のFEARゲーほどでもなし。うーんブルロです。だがそこがいい。
それにここは陰謀史観に基づいた、超古代アトランティスの時代から様々な陰謀が張り巡らされた世界。敵は魔術を使ったり狼に変身したり米軍もまだ実験に成功していないはずの超兵器やサイバーパンク的装備を使ってくるので油断できません。w
オーパーツに触れたり恐ろしい出来事にあったり強力な魔法を使ったりするとガンドッグにはない「精神汚染」の値が増えていき、最後はNPC化してしまいます。この精神汚染もけっこう増えやすいです。クトゥルフ的です。うーんブルロ。だがそこがいい。
クラス選択によっては魔法も使えますが、舞台はファンタジー世界ではなくてあくまで現実世界の延長のシームレス・ワールド。各魔法はTRSロールだし精神汚染も増えやすいので、そうやすやすとは使えない感じです。この辺が実に『深淵』チックですね。うーんブルロ。だがそこがいい。
また、ガンドッグの「リワード」の代わりに旧作ブルロでもあったヒーローポイント的な「夢と希望」の値が健在です。年を取って経歴が増えたキャラクターだと初期値が少なくなりますが、使用済みクラスアーツの増加、達成値ブースト付きの判定自動成功、ダメージ治癒と強力な効果があるので、これでファンブルや危機的状況は切り抜けていく感じでしょうか。
ガンドッグルールにもある余暇のルールがあり、ブルーローズの世界設定に相応しい形で各種余暇をセッションの合間に過ごすと夢と希望が回復していく形になっています。旧作の時も思ったんですが、この「夢と希望」というネーミングもいまいち垢抜けない感があるんですが、この辺がやっぱりブルロですね。だがそこがいい。
基本がガンドッグなので、戦闘はちゃんと遮蔽を取ったり戦術的行動をしないと危険。ゾディアック・メンバーがもういない分はセッションごとのリソースであるクラスアーツと夢と希望で何とかしながら、世界の四大陰謀組織とオーパーツ争奪戦。初期では一般人より強いが、主要イメージ元作品『スプリガン』の超人クラスの登場人物にはまだまだ到底及ばず。この状況で『インディ・ジョーンズ』ばりの現代冒険活劇をしていく……と基本線は旧版に概ね沿っています。
旧版の頃から銃器や兵器、車両や装備などがやけに豊富に揃っていてマニアックだったのですが、新版でもこのへんのノリは健在です。ローズ財団側のメンバの基本拳銃はグロック26だし、FN P90とファイブセブンでガンドッグのサンプルキャラと同じコンビ武装も可能。ナチスの残党やドイツが好きな人向けにモーゼル自動拳銃やシュマイザー短機銃もあれば、HKやコルトの有名シリーズ、未来的なデザインのアサルトライフルならXM-8やベレッタStormもあります。銃の数自体はそんなに多くはないのですが、足りなかったら『ガンドッグ』からそのまま持ってこれるのでアイテム類はかなり豊富に増やせます。
旧版も、戦闘ゲームではなく、あくまで現実の延長レベルの人間たちがインディ・ジョーンズや『トゥームレイダー』のララ・クロフトや冒険野郎マクガイバー(古っ)的に知恵や機転を生かして不要な戦いは切り抜けつつ冒険するはず……なのですがその割に戦闘ルール関係はかなり本格的でした。この編が実にブルロ。だがそこが(ry
新版ネクサスの戦闘ルールもほぼ『ガンドッグ』とコンパチ、銃弾を回避したりはできない世界でのスリリングな銃撃戦が楽しめます。爆発物の効果範囲やらあの辺の細かいルールも健在。昨今の日本のRPGのだいたいの標準からすると、冒険アクション活劇の連続とするとちょっと重いんじゃないかな……という気もしますが、『ガンドッグ』を遊んでいる人には覚え直す手間がいらないのでお徳でしょう。
読み物として面白いのはやはり設定周り。旧版とこっそりロゴが変わっています。大航海時代と大英帝国の頃から続くローズ財団の紋章、ローズ財団所属調査部門ブルーローズの部隊章も大きく紹介されています。旧版はひたすら字が並んでいるイメージがありましたが、設定周りのレイアウトもだいぶ読みやすくなっていますね。
ブルーローズ側のゾディアック・メンバーは死んだり敵側の陰謀組織に加担したり散り散りになっているのですが、事実だけでなぜ敵側組織に離反したかの理由そのものはほとんど語られていません。やはりここはきっと、陰謀論的な思考に基づいてイロイロと妄想にふけるべきなのでしょう。w
4つの陰謀組織、アメリカ軍需産業『シュープリーム』といにしえから続く魔術結社『銀の暁』、こういう世界勢力だと中華系1つは欠かせない『龍三合』、そしてカリフォルニアからセカイにラブを訴えている『セレスティアル・ゲート』のトンデモぶりは健在。4つともロゴは旧版と同じです。
人名で「マーリン」とか「ペンドラゴン」とか「ヴラド」とか、古代アトランティスの生体兵器でハーピーに変身できる九姉妹とか、こういう設定は架空世界や現実と似てるけど違う世界が舞台のTRPGで見ると「ふ〜ん、またオフィシャル組織の厨設定が増えたのかー」的なノリで自然と流れていくんですが、あくまで舞台が現実の延長になっている世界でこう真面目に書かれると、後からオカシさがじわじわとこみあげてきます。w
世界から隠されたシャドウ・ウォーの世界の人物たちの呟きも「>>>」から始まるのが実にシャドウランっぽい。古代や中世から秘密の戦いを続けてきた『銀の暁』の設定も実にメイジっぽい。ある勢力を他勢力から見た場合のステレオタイプ的な台詞が用意されてるのも実にワールド・オブ・ダークネスっぽい。『セレスティアル・ゲート』の説明の最後にちゃんと西暦2012年ネタが入っているところもニクい。ザッツ朱鷺田ゲー。ザッツ・ブルロです。そこがいい。w
NPC周りは世界設定の文章の中の流れのところどころに混ざる形が多く、明確な説明はないまま他の章のデータの中に出てきたりもしますね。ルールブックのレイアウトは旧版よりは読みやすく、イラストもあるにはあるんですが、旧版からの絵の流用もけっこうあります。ゾディアックメンバーのイラストは全員流用、敵側NPCのヴラドや枢機卿やシュタイナーなど一部は新規になっていますね。
ガンドッグの絵師さんも絵を描いてたりはしますが、ビジュアル周りはもうちょっと金を掛けて絵師さんを雇って、重要NPCなどは顔イラスト+設定、必要なら戦闘データ付きで別途章を設けて列挙した方がインパクトが出るんじゃないかなあと思いました。ローズ財団の旗印にしてPCサイドのココロの御旗(のはず)たるジェシカ・ローズおぜうさまも、全身像イラストがありませんからね。気になって旧版を調べてしまったのですが、ジェシカのイラストはポーズと髪型がまったく同じで、台詞まで同じでした。w
読み物として面白い設定周りも、今時のゲーム並みの量にライトに抑えられています。旧版はどう見ても多すぎですが、もうちょっと多くてもよかったんじゃないかなと思いました。まあこのへんはR&R誌上で今後追加していったりもするのでしょう。
そして……やはり設定周りで注目なのは、このゲームが“シームレス・ワールド”と呼ばれる世界観であること。現実世界とまったく同じ事件や歴史があり、現実と同じ古代遺跡があり、そこに架空の陰謀組織と架空の人物と陰謀史観が加わった世界なのです。
秘密結社が世界の影でシャドウ・ウォーを続けたこのシームレス世界は、ちゃんと西暦2009年〜2010年に進んでいます。アメリカ大統領はオバマに変わっているし、余暇で「We can change!」も聞けます。湾岸戦争の後は9.11同時多発テロもイラク戦争も起こっているし、その影でシュープリームも暗躍しています。サイバネティクス兵士はもうレールガンも実戦で使っています。
ブルーローズ所属メンバの基本武装パックでアーマーはハンドガンレベルの火器を防げるし、骨伝道通信も高性能PDAもGPSも装備。ゴーグルにはもう拡張現実技術も採用されています。
ジャパニーズ・アニメと聖地アキハバラを信奉するセレスティアル・ゲートのギークさんたちは(汎用)人型決戦兵器を使うしTwitterで宇宙と語り合ったりiPhoneのセカイカメラを使ったりしてるわけですよ。セレスティアルが応援するアニメの美少女ヒーロー、聖戦士ギャラクティカR(旧版はRがなかった)は、ちゃんと新版ネクサスでは軽音部所属になってます。うーんこの辺りがたまりません。w
タイトルにもなっている“ブルーローズ”は世界に存在しない不可能を表す青い薔薇から取られており、ローズ財団の紋章にも使われているのですが、奇しくも旧版とこの新版が出るまでの間には、現実世界ではサントリーが遺伝子組み換え技術でより青に近い薔薇の生成に成功しています。
こちらも偶然、本作ネクサスの発売と機を同じくして、iPhoneアプリの「セカイカメラ」もv2.0が世界中からダウンロード可能になりましたね。
こういう、歴史や国際情勢、ハイテクやオカルトや雑学やら、現実世界のちょっとした知識が活かせるゲームというのは国産TRPGの中では非常に珍しいのでこのへんが面白いですね。
そんな『ブルーローズ・ネクサス』。現実世界の変遷と進化、そして日本のTRPG界の変遷を重ねて読むと面白いルールブックでした。
ちなみにどうでもいい余談をすると、旧版ブルロのローズ考古学財団の設定を読んだ時に一番萌えたのはイギリスお嬢様のジェシカたんではなく、忠実な副官のナサニエル・ウィンスローが特殊部隊SAS出身だったところでした。(そんなとこかよ!www)
しかし新版ではゲーム中の現在より過去に起こった重大事件、イスカンダル・クライシスでナサニエルも行方不明になっちゃってます。ジェシカも車椅子、ゾディアックメンバーも散りぢりになってかなりローズ財団は厳しい状況のようですね。ガンドッグ生命体の支援が必要なわけです。
くわっ! でもナサニエルは生きてるんだよ! シュープリームでサイバー兵士に改造された(ピーーー)少佐はきっとヤツなんだ! オリオンからの声がそう囁くんだよ!ヽ(@▽@)ノ