Rのつく財団入り口

ITエンジニア関連の様々な話題を書いているはずのブログです。

リプレイ『剣十字の騎士』

 ちょっと発売直後から遅れましたが感想記事などを上げてみます。
2008年のN◎VAリプレイ『ビューティフルデイ』もユーザーにはかなり好評だった稲葉リプレイが出た! N◎VA、BoA、ALSと3つ揃いましたがこれからも続くのでしょうか。本のサイズが文庫より大きいA5なので電車などではちと読みづらいですが、このまま続けてほしいですね。
 表紙も田口順子イラストでいかにもファンタジーらしい美しい絵柄になっています。同時期のR&R別冊のRead&Leadの深淵リプレイと絵が被ってるんですが、まあしょうがないですね。w
 剣を掲げているのは前後編通して登場する騎士ミハエル、右上がグラディウシア修道騎士団ハイデルランド分団の新リーダーとなるダイアナ枢機卿、左上の黒髪の少女がアンゲリア七世なんですね。

『笑わない町』

 なんと遡ること2006年、GF誌別冊に掲載されたもの。ブレカナの遊び方の手本を示すということで、ある司祭が権力を振るういわくありげな町にそれぞれの事情でやってきた聖痕者たちが出会い、事件を解決し、そして去っていく……という奇をてらわないもう王道中の王道、水戸黄門もかくやのお話。
 公式シナリオにもよく導入でPC4-5に登場するPC向け設定、秘密のグラディウシア騎士団の新たな指導者はなんと「はうぅ」口調のどじっ娘か! と話題になった作品でした。

  • ミハエル:アルドール=アダマス=グラディウスと戦闘系アルカナでそろえたHuman Fighter Otoko。こういう若い男性の主役格の戦士/騎士タイプのキャラクターはブレカナ内外を問わずファンタジーRPGではパーティに1人は欲しい一方で、下手をすると似通ってしまうものですが。ミハエルは基本がお人好しで行く先々でヘマをしては仕官を断られ、名よりも実のある金を取る現実的な騎士……という爽やかないいヤツ路線でうまくキャラ立てしています。小言しか言わないお付きの爺さんがいい味を出していますね。
  • ダイアナ:アンゲリア七世の親友にして大任に震える新枢機卿の少女。加筆分の文章と田口順子イラストだとGF掲載時よりだいぶ雰囲気が違ってくる気がします。支援系としてはヒルデガルド王女も真っ青のアングルス=マーテル=コロナ。ブレカナは下手に攻撃するより支援専門系が強いのは有名な話ですが、DPをかなり削りながらパーティを鼓舞しています。
  • ヴィルギニーア:ヴァージニア(Virginia)のドイツ語読み。やはりこういう話に1人は欲しい忠実なグラディウシア騎士団員。マテラ人のかっこいい大人の女性系キャラですが、デクストラで武器は剣でなく二挺拳銃の騎士というところがいかにもブレカナらしい。
  • 通り雨のレイン:セプテントリオンの丘より来たるエルフの元力使い。通り名に絡めて去っていく終幕の演出がよいですね。未来の因果律で選んだ“夢幻”のイメージで表に添えられた言葉「雨の中の涙のように」と絡めてGMが感動しています。この台詞はSF映画の不朽の名作『ブレードランナー』の一節(All those moments will be lost in time like tears in rain...)なんですが、もう知らない世代の方もいるでしょうか。w


★実はグラディウシアの一番偉い人がダイアナになったのかという理解をしていたのですが、これが間違い。(同様に思っていた人はいるんじゃないかと思います。)
 グラディウシア修道騎士団は本拠は真教本拠、各地に独立した分団があってその中のひとつ、ハイデルランド分団の偉い人がマレーネ枢機卿→ダイアナに変わったという位置づけなんですね。分団同士では連携がなかったり対立もありそうな構図です。考えてみれば真教の総本山はバルヴィエステ王国にあるのだから、そりゃそうですね。


★真教の内なる断罪の剣として秘密裏に活動し、一度は滅ぼされてから今度は外に向かう秘密の剣となって今に至るグラディウシア修道騎士団。今回コラムで改めて説明されています。
 歴史ファンやファンタジーファンやブレカナファンには割と知られた話ですが、イメージモデルは10世紀〜13世紀にヨーロッパに存在したテンプル騎士団です。聖杯と結び付けられる秘密結社めいた神秘的なイメージや、最後に壊滅させられて火あぶりにされるところも同じ。
 テンプル騎士団に習って古い時代のグラディウシア騎士団員も、舌べろにしるしを刻んでいます。後編でちゃんとゴニョゴニョ団長があかんべーして見せてくれます。
 団員が会うたんびにあかんべーで同志の印を見せ合うのはスタイリッシュでないので、PCが所属する新しい時代の聖グラディウシア団員は手のひらの印を見せ合うことになっています。ちなみに念で浮き沈みするという設定は、確か最初期はなかったような……?


★本編の方は短いながらよくまとまった物語となっています。PL同士が展開フェイズで互いの見せ場を意識して登場を待ったり、GMサイドのNPCや殺戮者がPCの設定を活かして反応したり戦闘中にいちいちアクションに反応したり。この編は手馴れたメンバー同士でやっているという印象がかなりありますね。


★作中のギミックでも使われているように、枢機卿の敬称は日本語では「閣下」でなく「猊下」。他にもや「恐懼に耐えませぬ」など、現代日本ではついぞ見かけぬなかなか古風な言葉遣いもあちこちに出てきます。ファンタジーらしくてよいですね。
 リプレイなので文章にする際の修正はいくらでもできますが、やはり実際のカジュアルなプレイだとファンタジーものでもこういうのは徹底しきれない部分はありますね。


★クライマックスは例によって実は殺戮者だったゴニョゴニョとの戦いになるのですが、序盤からGMサイドでかなり力押しの殺る気満々の展開。ゴニョゴニョもキャラが立っています。戦闘前の∴紋章∴演出や敵の奇跡が尽きた所でのPC陣の反撃から勝利の下りなど、なかなか絵になる流れになっています。


★これから遊ぶ人も意識したのでしょう、A5サイズリプレイの例に漏れず欄外はゲーム用語や背景用語の解説がかなり充実しています。それだけに「P***参照」の誤植2箇所がちょっと目立ちますね。w


★新領主を任命するダイアナ、ダイアナを呼んでおいて自分のEDでは手紙を残して影のように去っていくヴィルギニーア、街でお抱え騎士になれず去っていくミハイルと爺、街で知り合った少年の元を去っていくレイン……と絵になる綺麗な終わり方をしつつ、このキャラクターたちの後日譚がまたいつか見たいと思わせる終幕になっています。そして……

『剣十字の騎士』

★実は『笑わない町』は本のボリュームの1/3程度でメインはこちら。
 アンゲリア七世のハイデルランドへ向けた怒りと陰謀を防ぐべく、青の指輪と赤の指輪、それぞれ5つを嵌めたグラディウシアの10人の指輪の騎士が互いに殺しあう……という、あとがきにある通りの山田風太郎の『甲賀忍法帖』もかくやのバトルシナリオになっています。


★実はこの作品の下地となっているシナリオ、一部で出回っています。東京近辺では遊んだことがあるという話をあちこちで聞きますね。

  • 輝きのクルト:下のオリアーナと遂になる弟、グラディウシアのハイデルランド分団側の若者。姉と弟が敵陣営で互いに殺しあうことに……という葛藤を作中でうまく解決しています。ウルフェンの血が入った少年、ためらいなく命を奪うことに疑問を感じるグラディウシア騎士、戦い方は大剣でエフェクトスの光の元力を重ねた抜く手を見せぬ居合抜刀系……ということで同じ戦士系のミハイルと差をつけつつ上手くキャラを立てていますね。
  • 闇のオリアーナ:グラディウシアの本団側の騎士。波打つ黒髪、設定では白となってますが肌の色の濃いマテラ人、20代のグラマーで影のあるかっこいい系の女性キャラ……というと一見「おいおい前編のヴィルギニーアとキャラ被ってるニャア!」と言いたくなりますがさにあらず。血の繋がっていない弟のクルトを溺愛するおねいさんとして相当キャラ立ってます。相当病んでます。ヤンデレ姉さんです。w プレアクトの段階からかなり飛ばしてますね。中の人は分かっててやっているのでしょうが、本編でもあわや暴走まで行っています。他のPLやGMが地の文で割と冷静に素で受け流しているのがちょっと面白い。w
  • ミハエル:続投のミハエルはウニオンのヒルデガルド王女の元に士官の口を見つけることに。ダイアナとの絆が深まっています。
  • ダイアナ:続投の枢機卿は支援系をさらに充実させています。果たしてアンゲリアを止められるのか? 命の重さと責任に悩む彼女の決断が、本編を通してのテーマとなっています。PC4だけど主役に近い立ち位置ですね。


★序盤でのダイアナとのやりとりを見ると、どうもアンゲリア七世をNPCで出すときはツンデレにするとよいようです。(元からそうだって?)


★中盤、助言者役NPCの代表格のサルモン・フィーストがチョイ役で出てくるのがうれしいですね。


★かつては直球ど真ん中のお姫様キャラ代表だったヒルデガルド姫も、愛しの兄上に濁点がついてしまった今はもう一児の母になっています。ダイアナとミハイルが謁見する場面があるのですが、二人の冒険の話を聞いたりダイアナの危機に駆けつけたミハイルを白馬の騎士と称えて持ち上げたりと人のフラグ立てまでしてくるようになりました。時は経ったものだなあ……(当たり前ですw)


★前編で登場したヴィルギニーアもハイデルランド側騎士のNPCとして登場します。多分そうなんだろうなあと思っていたら案の定序盤で(以下略)


★本作で重要人物となるグラディウシア騎士団本団の大総長サイモン・ブラック。ブレカナ最初期の頃から設定に名を連ねていた有名NPCですね。ファンには嬉しい人も多いんじゃないでしょうか。
 総長御自らも指輪の騎士として出陣してしまいます。総大将ですから最後に堂々と出てくるのだろうと思わせて、意表をついて序盤で(以下略)。そしてまさかの(以下略)。と思わせて(以下略)。そしてまたまた(以下略)。ちゃんとあっかんべーもするし、かなりあっぱれなゴニョゴニを見せてくれます。
 サイモン・ブラックにまつわる秘密は1stの頃から『ランド・オブ・ギルティ』に記された、ユーザーには有名な話でした。田口順子イラストもついているし、ここまで立派な最期を遂げれば旧来からのファンも満足でしょう。w


★『バジリスク』もかくやの5対5バトル、やはり指輪の騎士たちのキャラクター性も大事なところ。前編にも出てくる寡黙な道士ルイ、洒落者のパパガイ、魔剣持ちドワーフのセプルクルム、カヴィーナス(猫人)のバスカニア、かっこいい狼のカニスらはかなりキャラが立ってますね。秘密の騎士団の最精鋭、いかなる手練が出てくるのかと期待させつつ人外や猫や狼から始まるところがブレカナらしい。
 中でもシャム猫のバスカニアのニャア口調は面白いですね。使う技も似合ってます。PCの回想シーンの中にまで出てきて徹底的に悪なあたりが、GM/PLレベルでも愛される悪役なのが分かります。
 リプレイの文章だとオリアーナがオリアーニャになるぐらい台詞もニャア口調で書いてあるのですが、はたして実際のセッションではどこまでニャア口調だったのでしょうかニャア。気になります。w
 ルール解釈をあんまり考えずに読んでいたので、モニョモニョのトリックにも感心しました。「一対一ではなあ!」


★最後の方のイベントには熟女系大人系の女性キャラクター代表格だったマレーネ元枢機卿御自らもやってきます。能力はあるけど聖痕者ではない彼女、まさか見てるだけのヒロイン?と思ったらいつもの女狐マレーネ様で逆に安心しました。w


★さてエンディングは、オリアーニャもといオリアーナとクルトは姉弟の相克を解消し良い終わり方をするのですが。ダイアナといい感じになってきたミハイルたちは完全にハッピーではない、ちょっと物悲しいエンディングを迎えます。ここが逆によいですね。
 GF誌掲載時の『笑わない街』は分量が少ないこともあり、あれだけだとダイアナにいまいち共感しきれない部分もあります。
「分団の新たな指導者が萌え狙いのどじっ娘とは、グラディウシアも格が落ちたものよのう……(殺戮者風に)」的な印象もあるのですが、本作2編を読了後だと「ダイアナ猊下になら、この方になら、剣を捧げられる……!(グラディウシア団員風に)」と思わせるぐらいに、キャラクターのコンセプトはそのままに成長を見せています。厚みのある単行本のリプレイならではの良さですね。


★本作には付属シナリオ『沈黙の守護者』として後編の剣十時の騎士の話が収録されています。シナリオなので当たり前ですが描写はかなりあっさり目に抑えられています。PCの設定を活かしてうまく肉付けしていけば、このリプレイのような重厚な話にもできるでしょう。うーん遊びたいですね。w


★作中もよく読むと、各PLがPCの行動がシナリオに影響がないか気遣ったりする姿勢や、周りのPLに了解を求める場面や他のPCを盛り立てる行動などもあり、全員がアクトに協力しているのが見て取れます。
 僕もTRPGを遊ぶときに必ず観察していますが、やっぱりこの辺はできる人もできない人もいますね。やはり慣れた人同士でやっている、この面子だからこのリプレイの完成度になったのだ、というのは感じます。


★僕もリプレイやプレイレポートの類はいろいろ書いてきたので分かりますが、稲葉リプレイは実際のセッションそのまま路線ではなく、文章の脚色の力でかなり補強されているなというのは感じますね。
 しかしその補強された部分で増したスタイリッシュさや重厚さが、N◎VAやブレカナが目指しているものには向いていると思います。以前のリプレイの『まことの騎士』もよい作品でしたね。
 読了後に爽快感がある読み物としての面白さ、そして「読んだ後にまた遊びたくなる」という2点において、良作のリプレイでした。

 SRS系諸作品や新作が賑やかに並ぶ現在のFEARゲー路線ではブレカナは主流から外れていますが、また機会を作って遊びたいですね。