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杯作戦と関連した読書&映画日記 【その4】独逸編ZWEI

ブラザー・マテウス

 こちらの続きです。またまた独逸特集です。






スターリングラード

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 2001年イギリス、アメリカ、アイルランド合作映画。ジュード・ロウが主演したのでこれは観た人も多いのではないしょうか。
 映画の中は1942年。電撃作戦で破竹の勢いでポーランドやフランスを制したドイツ軍が東部戦線でロシアに矛先を向けるも、冬将軍に行く手を阻まれ泥沼化した頃の、スターリングラード攻防戦の激戦の中のスナイパー対決。
 実在しソ連軍の英雄と祭り上げられた狙撃兵ヴァシリ・ザイツェフの活躍と、彼を仕留める為に送り込まれてきた第三帝国軍ケーニッヒ少佐の息詰まる狙撃兵同士の戦いが描かれています。
 ジュード・ロウが演じるザイツェフもいいんですが敵役、自分も息子を戦争で失い、戦場に舞い戻る壮年の狙撃兵ケーニッヒ少佐を演じるのがエド・ハリス! ちょっと古い映画ですが『ザ・ロック』で信念と同胞の為に立つ敵テロリストのハメル准将を演じたあの人ですよ! 激渋です。むしろ敵を応援します。(ぉ
 エンターテイメントな映画なので狙撃描写には嘘もあるようですし(特にラスト、ケーニッヒ少佐が標的にしろといわんばかりに自分から出てきてしまうのがありえない)、ヒロインとの恋愛の話は余計なんじゃないかとかもありますが、まあまあ面白いです。TRPGの『ガンドッグ』のリプレイ『マリオネット・ネメシス』の作中で、ザイツェフたちのことを作中のキャラクターたちが触れていますね。

 この作品で残念なのは、まー英語圏の映画ですし俳優の人たちにとっても外国語の習得は大変ですし仕方ないのですが、ソ連軍もドイツ軍も台詞がぜんぶ英語なこと。(降伏勧告の放送やチラシにはロシア語も出てきます。)
 ミリタリースキーには、ドイツ軍はドイツ語でなきゃヤという人も多いですね。


眼下の敵

 大戦中は海の世界でもドイツ海軍の誇るUボートを始め様々な艦艇、潜水艦が活躍しました。潜水艦映画でも名作が幾つかありますが、古い名画だというので観てみました。
 イギリス海軍中佐の体験に基づく小説 "Enemy Below" が原作の作品でなんと1957年。我々も生まれていませんね。SFXもなく、ほんとに古い時代の映像です。
 ところは大西洋。アメリカ軍の駆逐艦ヘインズ号は退屈の中、レーダーに未確認の機影を捉えます。一方の海中を潜行していたのは、ベテラン艦長フォン率いるUボートだった……
 アメリカの映画なのでドイツ軍側も英語を喋っているのですが、ドイツ軍を単純な悪にしていないのは好感が持てます。駆逐艦の艦長も妻を魚雷攻撃で失った過去があり、一方のUボート艦長も息子を戦争で失い、今度の大戦に疑問を抱きつつも任務を全うしようとしています。部下の中で一人だけ「我が闘争」を読んでいるおのぼりさんを笑い飛ばすぐらいのナチスへの反骨精神さえ持っています。
 そんな艦長と部下たちの乗る、1隻の駆逐艦対1隻の潜水艦だけの静かな戦い。虚虚実実の駆け引き、レーダーの光点とソナーの音だけの情報、死を覚悟した極限のUボートで敢えてレコードを掛けて全員が歌いだすドイツの歌。
 計略と静かな戦いの果て、ほぼ双方痛み分け状態で駆逐艦と潜水艦が衝突炎上して戦いは終わるのですが。駆逐艦から艦員はみな脱出、最期を見届けるマレル艦長。一方の時限爆弾の刻限が迫るUボートからも乗組員は脱出、しかし気絶した同僚を救うために最後に出てくるフォン艦長。
 両艦の艦長が初めて顔を合わせる瞬間、視線が絡み合い、両者が取った行動は……共に敬・礼! くぅ〜!
(敬礼にしては確かに手の角度が変だし、後で調べるとどうも挙手らしいんですが、どっちにしろかっこよ杉です)
 最終的に両軍の生存者が手を取り合って脱出し、捕虜になったドイツ側艦長が別の艦の上で言葉を交わすところで物語は終わります。

 TRPGだと構造上やむをえない単純な善悪の構図というのはよくありますし、安っぽいハリウッド映画にも沢山出てきますが、昔の映画でもここまでいい作品があったんですねー。なんとも爽やかな後味を残す作品でした。


史上最大の作戦』 (The Longest Day)

 大戦後期、1944年。一旦は西ヨーロッパ全土を覆い尽くしたナチスが東部戦線でソ連を落とせず敗色の兆しが見えた頃。米英連合軍は密かに全面的な反攻作戦を練っていました。欧州を包囲しフランスのノルマンディーを中心に一挙に上陸、大西洋の壁を切り崩して第三帝国の中枢に迫る。運命の日6月6日の暗号名はD-DAY、作戦名はオーバーロード作戦。
 密かに無線で決行の日を知る欧州の地下レジスタンス、拠点占拠の任を負い密かに夜空に飛ぶ特殊部隊レンジャー隊の面々、鐘の鳴るフランスの町に次々と舞い降りる空挺部隊。固唾を呑んで上陸の時を待つ米、英、フランス軍の兵士たち。ドイツの将校たちもある者は第三帝国の威光に酔い、ある者は防衛の強化を進言する。そんな中で、遂に、歴史に名を残す運命の日、第二次世界大戦中で規模最大と言われるD-DAYが始まります……
 なんと1962年の古いモノクロ映画なのですが古い名作ということで記念に観てみました。アメリカ映画ですがあのジョン・ウェインを始めとしてイギリス・フランス・ドイツからも豪華キャストを迎え、当時としては破格の制作費を掛けた超大作だったようです。
 多数の登場人物が出てきますが特に活躍が描かれる主人公はおらず、それぞれの視点からののD-DAYの進行を淡々と、静かな盛り上がりでドキュメンタリータッチで描いています。フランス自由軍やコマンドー部隊はちゃんとフランス語を喋り、ドイツ軍もドイツ語を話しています。ドイツ側の視点でも公平に描いているのもよいですね。慢心して酔っ払っている将校もいれば、いち早く総統閣下に戦車部隊での援軍を進言し、拒絶されて「今日、我々は負ける。歴史に残る日になるだろう。」と副官に呟く将官なんかは印象に残ります。
 そして中盤、日が明けて本格的な侵攻作戦が始まった後は、オハマ・ビーチ上陸の困難な戦いが描かれています。あのスピルバーグ監督のアカデミー賞に輝く『プライベート・ライアン』冒頭20分間のあまりに激しい戦闘シーンで有名な戦いですね。


 現代の映画と比べての弱点というと、やはり尺の長さでしょう。上映時間3時間、作中で運命のD-DAYが朝になって上陸が本格的に始まるのはなんと1時間45分頃です。(今の映画だったらもうクライマックスですYO!) 何でも若き日のショーン・コネリーがチョイ役で出てくるそうですが、まったく分かりませんでした。てへ。
 なお、かの水野晴郎氏が意訳したという邦題『史上最大の作戦』の原題、The Longest Day(最も長い日)ですが。序盤でドイツ軍の誇る名将ロンメル元帥が海岸を訪れ、「我々にとっても連合軍にとっても長い一日になることだろう」と呟くシーンが元になっています。(台詞はドイツ語ですが。)
 トーキョーN◎VAのRevolution時代のシナリオ集SSS、Vol.6-1のカリスマSSS『怒りの日 -The Longest Day-』の元ネタは恐らくこれでしょう。和泉大佐のゴスペルの構えが表紙のあのテロ物のシナリオです。


鷲は舞い降りた

鷲は舞い降りた 完全版 (Hayakawa Novels)

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鷲は舞いおりた [DVD]

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 ヒギンズですよ! (;゚∀゚)=3 イギリスを代表する冒険小説作家ジャック・ヒギンズの代表作にして金字塔。古いですが映画にもなりました。
 "The eagle has landed"。有名なので作品は知らなくても、このフレーズだけは何かで見たことのある方は多いのではないでしょうか。「紙は舞い降りた」などとフレーズが他作品で使われたりしています。TRPGでもN◎VAのアラシSSS『フロントライン』に、よく見るとある襲撃シーンのタイトルに使われています。
 作中の舞台はドイツの敗色が濃くなってきた1943年秋。気まぐれなヒトラー総統の思いつきで軍情報部アプヴェールに押し付けられ、実現に移さざるを得なかった計画は……度重なるドイツ空軍の爆撃からイギリスを守り英国民を団結させてきた、英国首相ウィンストン・チャーチル本人を休暇中に誘拐するというほとんど不可能な作戦。イギリスの田舎を訪れる完璧な休暇予定、現地で活動していた優秀な老婦人のスパイ、ジョウアナ・グレイの存在など、偶然が重なり実行に移される作戦に起用されたのは……勇敢なるドイツ落下傘部隊の最精鋭、クルト・シュタイナ中佐率いる男たち。
 密かな準備の後、歴史に名を残されていないイーグル作戦が始まります。悪天候の中の霧をかき分け、名パイロットのゲーリケ大尉が飛び立たせるイギリス軍機に偽装した輸送機。赤いベレー帽には羽つき短剣、大戦中から存在した英国特殊空挺部隊SASポーランド人部隊に化け、ドイツ軍服の上に連合軍の軍服を着た隊員たちは闇の中へ次々と飛び降ります。成功を待つ情報部のラードル中佐、そして諸悪の中枢ゲシュタポ本部のヒムラー長官の元へ届く暗号文。そこにはただ一行「鷲は舞い降りた」と……


 それまではナチスと結び付けられていつも悪役が多かったドイツ軍人を魅力的な人物たちとして描いた作品でもあります。自ら望まない状況で運命という大きなうねりに抗う男たち、ロマンチシズムというかセンチメンタリズムというか、ヒギンズ節が全編に溢れています。二次元的な単純な善悪はなく、登場人物はみなそれぞれの背景があり、誇り高い人間ばかり、かっこいい軍人だらけです。
 作戦に協力するIRAの伝説的テロリスト、リーアム・デヴリンは、でも女子供は狙わない好GUYでアイルランドの詩を愛する教養人。17歳の村娘とラブになっちゃったりして自分のことを「偉大なる冒険家の最後の一人」と自分でうそぶいてしまうような人なのですよ。リーダーのシュタイナ中佐は非常に優秀な軍人で、でもロマンチックな愚か者の好GUY。勲章を貰うぐらい伝説的な中佐とその部隊がどうして懲罰と自殺的任務に就かされるのかといえば、よせばいいのに駅で見も知らぬユダヤ人の少女を庇ったせいでゲシュタポ連中に目をつけられてしまうのですよ。
 密かに英国に舞い降りる空挺部隊も小説では国際条約違反を恐れてヒムラーの案でドイツ軍服の上にポーランド軍の制服を着ますが、映画では「我々は最後までドイツ軍人だ」と自分で選んだことになっています。正体を偽って潜伏した村でも村人たちと仲良くなり、チャーチルを待ち構えて一見作戦はうまくいくようにも見えるんですが、ふとしたはずみで正体がばれてしまい絶望的な戦いに。
 しかもそれが水車小屋で溺れそうになった村の子供を助けるために、隊員が飛び込んで代わりに死んでしまい、それでドイツ軍の制服が見えてしまうというものなんですねー。
 論理的に考えたら敵地潜入にそれではダメダメなはずなんですが、でも熱くてヒギンズ節で男の美学全開でかっこよすぎなのです。大佐に任務の成功を託し、囮として残る部下と教会で最後に別れるシーンの「私は君たちを部下に持てたことを誇りに思う」も名場面。
 原作では負傷する副官のリッター・ノイマン中尉が別れ間際に言う「あなたの部下であったことは無上の光栄です」や、教会に立てこもった空挺部隊の面々が村人たちを人質に取ったりせず、手当てをしてから全員を解放する場面で子供が「おじさんたちはどうしてドイツ人なの? どうして僕たちの味方じゃないの?」 と尋ねる場面も涙の名場面です。英米でベストセラーになった文句なしの傑作です。


エニグマ奇襲指令

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)

 エニグマと聞いてほとんどのゲーマーは秘幽体を思い浮かべるでしょうか。語源はギリシャ語の Enigma であり“謎”を意味します。まだコンピュータもない時代、第三帝国軍で使われていた機械式暗号機の名であり、ヒーリングやクラブ・ダンス・ニューエイジ系では結構有名なアーチストのグループ名でもあります。
 こちらは映画の『ミュンヘン』の原作も手がけたイスラエルのマイケル・バー=ゾウハーの古い冒険小説。
ミュンヘン―オリンピック・テロ事件の黒幕を追え (ハヤカワ文庫NF)

ミュンヘン―オリンピック・テロ事件の黒幕を追え (ハヤカワ文庫NF)

 時は大戦末期、いよいよ米英連合軍が欧州上陸から反撃に移らんとする1944年。しかし第三帝国には、後の宇宙ロケット発展の基礎ともなったフォン・ブラウン博士の秘密兵器V2ロケットがありました。これが実用化すれば、英国本土、ロンドンへの直接攻撃も可能となる。計画阻止に必要なのは占領化のパリへの危険な潜入と、ドイツ軍が暗号通信に使用している難解なローター式暗号器“エニグマ”の密かな強奪。
 不可能に近いこの作戦に英国軍情報部MI6傘下の特殊作戦執行部が選んだのは、いまは獄中にあった世界を股に掛けて活動した大泥棒、男爵ことベルヴォアール。終戦前夜、鉤十字で覆われた花の都を舞台に、一大作戦が始まる……
 主人公ベルヴォアールは犯罪者なんですが自分なりの流儀がある義賊で、反骨精神のあるまさに快男児的な好漢。フランス人というところもアルセーヌ・ルパンとどこか似ています。古き良き時代を舞台に、ユダヤ人の若い娘との悲しい恋もあったりなんかして短いながら内容が詰まった作品です。
 そして主人公の前に立ちはだかるのが、ドイツ国防省情報部のルドルフ・フォン・ベック大佐。これがまた悪のナチスなんかじゃなく、アフリカ戦線でロンメル元帥に従った怜悧な秀才で切れ者の好人物。二人は互いの先を読み合い駆け引きが続くのですが、作中で実際に会うのはたった1回。
 偽物のエニグマを破壊し、火事に紛れてドイツ軍の輸送用荷物の中に本物のエニグマを隠し列車で脱出するという大胆不敵な手口でやり遂げるベルヴォアールと、出し抜かれたことに気付いて後を追うベック大佐。
 ベルリン中央駅で2人は初めて邂逅します。そしてそこで一旦は機関銃を向けるも、死を前にもたじろがない冒険児の瞳の前に引き金から指を離し、逃がしてやるベック大佐が格好いい! TRPGの中だと互いを称えあっているPCとNPCの対決を彷彿とさせますね。
 そして最後に、連合軍のフランス上陸のD-DAY前夜、作中の英国陸軍情報部MI6ブライアン・ボドリー長官の口から、現実世界でも戦後数十年後にようやく明かされた事実が語られます。
 ドイツ軍の誇る暗号機エニグマは、実は大戦初期にポーランド経由で連合国側に捕獲。英国情報部は解読に成功するもウルトラ情報としてこれを固く秘匿し、終戦までドイツ軍に故意に使い続けさせて暗号を解読していたのです。まさに、事実は小説よりも奇なり!


オデッサ・ファイル

オデッサ・ファイル (角川文庫)

オデッサ・ファイル (角川文庫)

 第三帝国敗戦が決まる前から、ユダヤ虐殺の張本人である親衛隊上層部は戦後の追求を逃れるために策を用意していました。SS隊員の庇護を目的とした秘密機関オデッサの結成。ユダヤ人から搾取した大量の金を豊富な資金源とし、終戦間際の混乱の中を多くのSS高官が国外へ脱出。迫り来る米英連合軍との絶望的な戦いを国防軍に押し付け、大きな罪の意識をドイツ国民に残し、肝心の大罪人たちはまんまと逃げ出していたのです。
 ある者は南米で、ある者は欧州に戻り社会の層へ浸透を計り。互いを“同志”(カメラート) と呼び合う重ね稲妻のナチスの亡霊たちは来るべき帝国復活の日に備え、大戦後の新世界にまだ生き残っていたのです……。
 舞台は、ケネディ暗殺が世を震撼させた頃。主人公ミラーはドイツ人の青年、愛車のジャガーを乗り回し恋人と同棲するルポライター。ユダヤ老人の自殺事件がきっかけで、彼は孤独な老人の日記を発見し、ドイツが目を背けたがる恥ずべき過去へと旅します。
 リガ強制収容所での迫害、愛する妻を死刑場へ送った日から何も感じなくなった心。当時明らかな戦争犯罪を犯していた収容所所長エドゥアルト・ロシュマンが今もドイツでのうのうと生きていることを告げ、孤独な老人は誰にも看取られずに死んでいったのです。
 ミラーがある理由から決意を固め、ドイツの何処かに隠れているロシュマン大尉を追い始める所から、ジャーナリストとしての過去への旅が始まります。母親からも雑誌編集長からも遭う反対。警察機構でも芳しくない協力と謎めいたオデッサからの圧力。物語はやがてユダヤ人組織と繋がり、ミラーはなんと特訓の果てに元SS隊員に成りすまし、オデッサに潜り込むことに……


 一方、流浪のユダヤの民の安住の地イスラエルモサドを始めとする情報機関は当時の敵国のエジプトに注意を光らせていました。オデッサの手を借りてエジプトへ逃れたSS高官と科学者は数多くいたのです。
 V2ロケット後継機として製造が進むロケット兵器。標的はイスラエル、弾頭の化学兵器ユダヤの民を根絶やしにする計画です。モサドは小包爆弾や科学者への圧力、脅迫で計画を妨害し続けます。
 しかし重要事実が発覚しました。そのロケットを動かす当時としては高性能の誘導装置はエジプトでなく、なんとドイツ本国で造られていたのです。民間のトランジスタ企業の中に隠れた研究施設で進む研究。その企業社長、コードネーム“ヴァルカン”の正体こそ……


 そんなストーリーの、イギリスの作家フレデリック・フォーサイスの傑作スリラー。タイトルになっているオデッサ・ファイルは実在し、作中の登場人物も実在が混じっているという、真実の中に巧みにフィクションを織り交ぜた物語は実に説得力があり、最後までぐいぐいと惹きつけられます。主人公の行動理由は最初の方でもう伏線が張ってあるんですが、僕は気付かなかったために余計に面白く、ラストで本当にはっとさせられました。70年代の古い作品ですが実に面白い。
 かつては隣人だったユダヤ人がみないつの間にか消えてしまっても、自分たちは何もしなかった。当時のドイツの民はたとえナチ党員でなくても、みなそのようにどこかに後ろめたい部分があったといいます。その罪の意識を逆に利用して盾とし、第三帝国の亡霊たちは密かに存在し続けていたのです。主人公が追求を始めても、圧力の掛かっている法的機関からはなかなか協力を得られない所からも現実が分かります。
 何かを悪と決めるのは簡単ですが、人の世の闇はかくも深いのです。作者の元には執筆中、実際に脅迫状が届いたといいます。


 TRPGゲーマーが読みそうな漫画で作者がドイツスキーな人の作品だと。『ヘルシング』の少佐率いる最後の大隊が一番最初は南米アルゼンチンあたりから出現するのは実に理に叶っていますね。かの『ブラック・ラグーン』の最初の方の海底に眠るナチの遺産の絵の話でも、Uボートや親衛隊、そしてオデッサの名もちらりと出てきます。


さらば、ベルリン

さらば、ベルリン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

さらば、ベルリン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

 今度映画化されるということで早川文庫から新装版が出ていた小説。著者はジョゼフ・キャノン。
 こちらの舞台は1945年、終戦直後のベルリン。米軍の従軍記者として廃墟の街を訪れた主人公は、かつて何度も訪れたこの街に住んでいた恋人(結婚しているので不倫ですが!)の姿を探し求めます。折りしもポツダム条約が結ばれる頃、そして川から上がる米兵の死体。生きる目的を見失うドイツの人々、横行する闇市場、やつれ果てた姿の恋人。そして生きていた夫は、V2ロケットと関係した技術者で……というもの。大戦後のラブロマンスです。
 新装版の表紙にも写真が載っているのですが、終戦直後のベルリンは本当に廃墟同然なんですね。あれだけ栄華を誇った第三帝国がここまで無に返るとは。どこの国も、東京など日本の都市もそうですが、人の世の無常さを感じさせます。そして戦勝国の軍に蹂躙される敗戦国の首都。米英連合軍に先んじてソ連赤軍がベルリンに一番乗りを果たしましたが、では彼らはナチズムから人々を救った英雄だったかというととんでもなく、略奪や女性への暴行が横行していたといいます。
 肝心の小説の方ですが、当時のベルリンの悲惨な状況なども良く分かるのですが、上下巻と長い割に冗長で自分的にはあんまり面白くありませんでした。軍事要素とか情報機関とかがもっと出てくるともっと燃えたのでしょう(ぉ
 映画化される The Good German の方はあのスティーブン・ソダーバーグ監督、主役がジョージ・クルーニーでヒロインがケイト・ブランシェット、全編モノクロ撮影で今年日本公開とのこと。こちらは観てみようかとも思いました。



 もうすぐ終戦記念日なので最後に日本編を加えて締めくくりたいと思います。
【以下、続く】