Rのつく財団入り口

ITエンジニア関連の様々な話題を書いているはずのブログです。

ベクシル -2077 日本鎖国-

ベクシル コンプリート・ガイド

ベクシル コンプリート・ガイド

 FLASH全開の公式サイトがあれだけカッコよく。裏サイトにあれだけトリビア情報が載っていて。サウンドトラックに集結したアーチストがあれだけ豪華なのに。深夜アニメ枠にたくさんCMが流れながら公開後ほとんど話題になっていないベクシル
 だが! 映画版『APPELESEED』みたいなこういうカッコよさげな音楽とカッコよさげなメカが出てくる作品が見逃せないワタクシはっ。たとえ外れと分かっていても観てしまうのだぁ!

 というわけで映画『ベクシル 2077 日本鎖国』を見てきましたよ。


☆     ☆     ☆     ☆     ☆


★時は近未来。ロボット工学で世界最先端を走る日本製のロボットが世界中で使われるようになった時代。だが技術がアンドロイドなど人の生命の領域に達すると、国連が厳しい規制を設けるようになりました。
 日本はなんと国連脱退! 超すごい技術で日本列島全土を覆い、あらゆる電波や通信を遮断。衛星からの写真撮影すら遮断するハイテク鎖国を宣言したのが2067年。それから10年後の2077年、誰も本当の日本を知らない時代。女性主人公ベクシルを始めとするアメリカ軍特殊部隊SWORDの面々が、誰も知らない日本に挑む……という話。


★とりあえず日本が鎖国をしています。どこかのTRPGのニューロエイジ世界設定と同じです。w そこへ何やらカッコよさげなロボやメカが乱舞し、APPLESEEDでも御馴染みのすぐ分かるブンブンサテライツの超カッコイイ曲が流れる! オトコノコの魂をくすぐる予告編には期待せずにはいられません。


★物語の冒頭は悪のスキンヘッドが各国の要人を呼んで悪巧みをしている雪の大邸宅に、ファイタースーツというパワードスーツを着た特殊部隊SWORDがと護衛のロボたちが急降下して強襲を掛けるところから始まります。
 この一連の流れはCGならではのロボットの精密な動きやアクションを堪能でき、音楽もぴったりで相当かっこいいですね。サントラに集結した海外アーチストにイメージの源泉として見せられたのも本編前に作られたこのシーンが中心のようです。(『APPLESEED』も冒頭の戦車との戦闘シーンが最初に作られて見せられたそうです。)
 実は映画の中で一番かっこいいのはこのシーンではないかと思えるほどです。w


★キャラクターでは悪役ですが、イカすサングラスにスタイリッシュにスーツで決めたサイトウというスキンヘッドがイケてます。この人は漫画のNANAにも出てきそうです。声が大塚明夫で『攻殻機動隊』のバトーと同じというのもポイントです。w


★そして頑丈極まりない翼を持った飛行機でバッドガイズが屋敷から逃げていった後。置き土産の脚を調査すると……なんとUSAの科学力では絶対無理な、金属探知機にすら引っ掛からない極めて成功な生体金属のアンドロイド用の義足! 鎖国日本の科学力はここまで達しているのです。いやが上にも期待が高まります。
重大な協定違反に、ついにUSAの誇るSWORD部隊は日本の貨物船を利用して日本潜入を試みることに。


★デッド・カン・ダンスのダークな曲が流れる中。ベクシルたちは秘密裏に遂に日本侵入。あらゆる電波を遮断する超すごい技術を破るべくその秘密を本土に送信しようとするのですが……その時! 高い所に照明がついてバトー声で悪の歓迎が!w


★という感じで前半は日本の正体解明に向けて静かにテンションが上がっていきます。SWORD部隊が特殊部隊に見えないなど突っ込み所は幾つかありつつも割といい感じで進むのですが。やはり、N◎VAのイワヤトを超えてはならぬのと同様、日本の秘密は探ってはならなかったのです。w
 予告編などでも一部バレていますが、舞台が東京に移り、日本の内情が分かってくる辺りから物語は急速に失速します。 (;´Д`)ノ


★映像も音楽もかなりいいので、やはり脚本がだめだめなんでしょうね。
 日本の秘密、その背景、この辺の理屈があまりに荒唐無稽というか幼稚で非科学的でがくっとテンションも下がります。主人公のベクシルが共感して心情が変わっていく経緯や台詞も説得力がなく、登場人物たちにも共感できません。
 実は重要な役のマリアが後半で全員と一緒に決起するところも、盛り上がる感動の場面の予定なのでしょうが観客は既に心が砕けているのでもうダメダメです。もうネタとして観るしかなくなってきます。こういうSF系やアニメ作品に目が肥えている人は確実に心が砕けるでしょう。w


★予告編でも出てきた、荒野を疾走するバギーに襲い掛かるぐるぐる回る蛇のようなサムシングのシーンは、本編でも音楽はよくて映像的には盛り上がります。
 この怪物はジャグといって、捨てられた機械やアンドロイドの部品のかけらが集まった集合生命のようなモノらしいですね。『砂の惑星デューン』っぽいです。
 しかしこのジャグ、CGも相当手が掛かっていそうですが結局何なのか正直よく分かりません。とりあえず水の上はまったく飛び越えられないようです。お前は吸血鬼か!w


★トンネルを疾走するシーンも、作品としては盛り上がるところなのでしょうが観る側はもう心が震撼しているのでもう回復できません。w
この地球上で重力もあるはずなのに、あのバギーはなぜロケット推進だけで前進できるのだろうか、ワイヤーが(ピー)に引っ掛からないのだろうか、ベクシルのファイタースーツはなぜ背中のバーニアを吹かさないのだろうか、(ピー)を引き寄せるならバギーだけでも金属部品だからいいんじゃね? などなどそういう所にしか目が行かなくなってしまいます。w


★映画全体が途中から急速に失速するので、ほんとにこれ音楽にお金を掛けすぎて途中でお金がなくなっちゃったんだろうか?と心配になりますね。w
 TRPGで言うと鳴り物入りで始まったキャンペーンが諸般の事情で第1回で尻すぼみでムリヤリ終わりになるようなものです。w


★悪のボスはキサラギというイケてる眼鏡を掛けた日本人なのですが。いわゆるマッドサイティスト系の人物なのですが、観客総ポカーン状態になるぐらいへちょいです。まさに出来の悪いTRPGシナリオのヘボい悪役を見ているようでとにかくヘタレてます。TRPGセッションで言うとクライマックスフェイズが途中でなくなってしまうようなものです。おまいは10年間何をやってたんだぁぁ!w


★ダメなボスに比べると腹心の部下サイトウ、このスキンヘッドは最後までイケてます。さすがはバトー声のスタイリッシュなハゲです。最後の最期は漢を見せてくれます。きっとどこかで修行してきたに違いありません。この映画は、ハゲを堪能する映画だったんだぁ!(うそ)


★主人公のベクシルは仕草は可愛いのですが、声の人がやっぱりうまくないですね。黒木メイサという若手女優を起用しているのですが、脇役の声優陣の方がやはり印象が強いです。


★登場人物の過去の因縁もあるのですが伏線を匂わせておいて何もなく終わってしまう隊長のレオン。設定をよく見ると……ベクシルと10歳違いか! 観た人だけに分かりますが、とりあえず二股はイクナイと思います!w


★最後は感動のテーマ曲が流れるのですが、物語はムリヤリ感漂う微妙な終わり方をするためどうにも感動できません。w
 観察していると映画館で席を立つ人がみんな微妙な顔をしていたのが面白かったです。フフフ……事前にこうなると分かっていて敢えて観に来たワタシは勝ち組だぁ!(そうか?w)


☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 関連作品として思い出したので、2004年に公開された映画版『APPLESEED』をもう一度観てみたのですが。原作のコアなファンには物足りないところもあり、ストーリーも展開が速くてシーンぶつ切りで一部アレなところもありつつ映像と音楽がすごいので映画作品としては十分面白い『APPLESEED』。
 今にして見てみると、やはりこちらの方がアニメアニメしていますね。人物の顔はみなアニメ顔ですし、ランドメイトや戦車やヘリなどメカも相当かっこいいですが3Dでもやはり基本的にアニメっぽさが残ります。
実写的な背景シーンもありますが、そこで動く人物がアニメ的で違和感が残るシーンもあります。
 一方こちらの『ベクシル』はというと。金属の質感や雪や水や日光の当たるエフェクト、メカや建造物など、背景はかなり実写的に進歩していますね。荒野をバギーが疾走するシーンや、ファイタースーツを着込んだSWORDが洋館に舞い降りる冒頭シーンなどはかなり出来がいいです。
 人物はというと、顔にかかる陰影の処理なども『APPLESEED』よりもより細かくなってはいるのですが、3Dアニメ特有の顔ののっぺり感とでもいうべきものはやはりあります。
 こういうものなのだろうかと思ったらさにあらず。現在の技術ではもっとリアルにもできるのですが、リアルにしすぎると今度は人間に似すぎて人間の目から見て気味悪くなるので抑えているのだそうです。これを「不気味の谷現象」というそうでWikipediaにも載っていました。人間の視覚というのは面白いものですね。


 造形としては主人公のベクシルはアメリカ人とフランス人のハーフという設定だそうですが、瞳はブルーですが黒髪、眉毛もきりっと柳眉で顔立ちは日本人顔です。(日本の作品なんだから当たり前ですが。w)
 キーパーソンで日本人女性のマリアも出てきますし(しかもベクシルと正直キャラが被っているw)、東京の人物も難民っぽい粗末な衣装に黒髪の日本人顔なので、全体的に地味なんですよね。
 差別化のために主人公ベクシルは髪を金髪にするなど造形に差をつけてもよかったのかなと思います。あまり出てきませんが、アメリカのシーンのSWORD内の人物もみな髪の色が黒やグレーなんですね。色を変えると処理が重くなるんでしょうか?
 また、『APPLESEED』は理想郷オリンポスという色彩鮮やかな美しい都市を舞台に、キャラクターたちも色々な服を着たり様々なカラーリングのメカが乱舞し、SFチックにかなり華やいでいるのですが。
ベクシル』は難民街のような東京や貧相な服装の日本人顔のキャラクター、夕日の色合いが多く、全体的に地味で華が欠けているんですよね。この辺も負けてしまっているなあと思いました。


☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 海外何十ヶ国で公開予定となっていたので、こんなの公開してだいじょぶなんだろうかと心配になるのですが。
 改めて考えると、海外を意識した要素は随所にありますね。まず主人公サイドはUSAの軍部隊。(はっ! 悪名高い映画版FFと同じだ!w) ベクシルたちが未来のロサンゼルスを遠景に語るシーンもあります。敵はアルファベットでもDAIWA、コンテナにも見事な漢字で「大和」と書いてあります。かっこいいパワードスーツを着た主人公たちがニホンに潜入する。偵察衛星ですら伺い知れない完全な鎖国を成し遂げた神秘のニホン、その首都トキオに!
 ベクシルが東京で目覚めるときはフトンを被ってますし、将棋やラーメンが映るシーンもあります。日本人キャラクターの名前も「マリア」「タロウ」「リョウ」「タカシ」「サイトウ」など、英語圏の人からしても比較的難しくない名前にしてあります。
立ちはだかるのは黒服に眼鏡をかけたスタイリッシュな日本企業の悪人たち。そして日本のアニメの誇るメカがイカすクラブ・サウンドをバックに駆け回る。冒頭の襲撃シーンでは、銃撃で壊れますが外国人が喜びそうなオリエンタルな仁王像らしきものがちゃんと屋敷に飾られています。
 ストーリーがアレでも、外国の人から見たら十分に「It's cool!!」と映るのかもしれませんね。


 同じ3Dアニメ系では大コケした映画版ファイナルファンタジーは製作費すら回収できず、会社の経営にまで影響を及ぼしたのは有名な話ですが。そこまで行かずとも本作はしくじってしまったようです。
 今後も発展するであろう3Dライブアニメに、人気のある原作などもなくいオリジナル作品で挑戦する意味はあるのでしょうが。映像、音楽共に良くてもストーリーと脚本がダメでは破綻する、何事もバランスは大事だということでしょうか。
 映像と音楽やアクションを堪能するか、日本のトップアーチストたちが作った海外向け作品として観るか。まあ、分かっていて観に行くかDVD版をレンタルしたりして観る価値はあると思います。
 ストーリーが破綻しているといえば同時期に公開中の『トランスフォーマー』も相当突っ込み所だらけですが、あれはあれで作品として十分面白いですからね。


☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 あまりけなすのもあれなので音楽の紹介を。映画のスコアは『マトリックス・リローデッド』や『ソードフィッシュ』を手がけ『APPLESEED』にも曲を提供したUKのトップDJ、ポール・オークンフォールドが自分から申し出て担当。映像に合った形でかなり効果的に使われています。
 『APPELESEED』もサントラがかなり豪華でしたが、こちらも負けない豪華絢爛な顔栄え。CMで度々流れて曲ですぐ分かるアップテンポな『Easy Action』は日本からブンブンサテライツ。タイトルテロップ、ベクシルとレオン中佐がロサンゼルスで目覚めて街を流すシーンで流れるのがベースメント・ジャックスの曲。かのモンスターバンド、プロディジーも曲を提供しています。敵のサイトウとキサラギが会話するシーンで流れていますが、なんとなんとUKからアンダーワールドまで! (´▽`*)
 クラブ・ダンス・エレクトロニック系の音楽が好きな人だけに分かる話ですが、この海外アーチストの結集ぶりは豪華すぎです。ブンブンの激しい曲以外は、作品のテーマを反映してダーク調の曲も多くなっていますね。


 デラックス・エディションだとおまけDVDにこのポール・オークンフォールドへのインタビューが載っています。
 自らも日本文化のファンだというポール、日本についての質問には、未来のテクノロジーを連想する日本が鎖国するというストーリーは実に面白い、日本といえば世界で手に入らない製品が手に入る国で特別なイメージがあるとにこやかに答えています。海の向こうのイギリスから、世界で活躍するDJがこう答えているのです。
 多くの海外製TRPGで日本やトーキョーが実にエキゾチックな異国に描かれているのと同様、東の果ての侍の子孫たちの国、世界に誇るアニメの原産地である我々の国は、アーチストたちにとっても何か特別な趣のある国として映っているようですね。


☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 恐らくこのベクシルがだいぶ比較されてしまうであろう『APPLESEED』の続編、『エクス・マキナ』は今年の秋の10/20に公開予定。
 なんとジョン・ウーがプロデュースに参加(マジ?)。主人公デュナンの衣装は超有名ブランドのプラダが制作(マジ?)。サウンドは海外アーチストの参加はないようですが、m-floや元YMOメンバーの細野晴臣坂本龍一などまたまた豪華な前触れ。
 ずっと音沙汰がなかったのですが、公式サイトが最近更新されました。FLASH全開で作られた本ページは内部がかなり工事中ですが紹介を見ることができ、トレーラーも新しくなっています。
 前作のデータを完全に破棄して作り直したようでかなり進化しています。デュナンの顔の造形もより細かくなり、前より大人っぽくなっています。
 そしてトレーラーをよく見ると……ブリアレオスがサブマシンガン二挺拳銃をしていたり空中を飛びながら撃ったり落ちていく薬莢が強調されていたり、まだ鳩は飛んでいないようですがちゃんとジョン・ウーっぽくなっています。こ、これは全力で期待するしかない!w