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ITエンジニア関連の様々な話題を書いているはずのブログです。

Googleの全貌

 本日はTRPGの話題から離れ、しばらく前に読んだ本の話でも書いてみましょうか。

日系BP社 日系コンピュータ編『Googleの全貌』。

 仕事でも趣味でも本は色々読んでいますが、いよいよGoogleじるしのAndroid端末Nexus Oneも発表された今、Googleの本です。
大きい本屋のIT書籍コーナーに行くとよく置いてある最近話題の一冊です。

GOOGLEの全貌 そのサービス戦略と技術

GOOGLEの全貌 そのサービス戦略と技術

 曰く、昼食が無料。有名な20%ルール。大学の研究室のような自由な雰囲気がある。世界最高クラスの天才が集まっている……云々。
外部に様々な技術やコードを公開していながら秘密主義的な部分もあり、実体が分からないGoogle
2009〜2010年現在のそのGoogle社の実体に迫った充実の一冊です。
 書いたのは日本の人たちですが現地取材を繰り返し、有名な創業者から現場のエンジニア、日本エンジニアを含む沢山の人へのインタビュー、ビジネスモデルの分析、技術的な分析、展望と抱える課題……と、多角的に迫った1冊でした。


 彼らがミッションの根底を「世界中の情報を整理して人々に提供する」ことに置いているのは有名な話ですが、読めば読むほど、彼らがこの遠大かつ夢のような大目標を本気で達成しようと取り組んでいるのがよく分かります。
 最初の見開きページがGoogleが現在展開しているサービス一覧の表から始まり、検索エンジンから始まった同社が今や非常に幅広く手がけているのが分かります。


 お馴染みになったGmailや話題のGoogle Waveにしても、電子メールのような既存のIT技術の常識を一旦破壊する所から始まっています。
今後が気になるChrome OSについてもかなり頁が割かれており、その狙いが従来のブラウザとOSの枠組みを変える、まったく新しい所にあるのが分かります。
 将来的にはネットに繋がっていなくても動くような仕組みを目指している……というのが面白いですね。
 僕はiPhoneAndroidが今年どうなるか興味津々ですが、携帯電話業界の仕組みを根底から変えようとしているAndroidについてもかなり詳しく書かれています。
 彼らの言によると、同じモバイル・プラットフォームが世界に広がり、人々が人種や場所を越えて繋がることができる。そんな革命をAndroidで起こしたいのだ。そして、「iPhoneは競合相手ではない」……と言い切っているところが非常に興味深かったです。
 Googleが提供するクラウド・サービスの根源とするデータセンターや並列分散処理システム、キー・バリュー型DBなどについては『Googleを支える技術』という技術評論社の本に詳しいのですが、本書でも最新の状況が取り上げられています。データセンター構築の経験のない他社には頼れない、ハードからソフトから仕組みから何まで、全て自前で作ってしまうという精神がやはり真似できないものがあります。

Googleを支える技術 ?巨大システムの内側の世界 (WEB+DB PRESSプラスシリーズ)

Googleを支える技術 ?巨大システムの内側の世界 (WEB+DB PRESSプラスシリーズ)


 そして、Googleで働いている人々……“グーグラー”についても本書はかなり実際の姿を取材しています。日本人エンジニアへのインタビューもあるのが面白いですね。本文中にも何度か「Google語録」というのが出てきて、普通企業ではなかなか出てこないであろう、面白い名文句を読むことができます。
 面白いことに人材評価は身近な同僚からのレビューを繰り返し、評価の高い人間からよい評価を得たエンジニアほど評価が高くなるという、検索のページランクと同様のシステム。活発な社内勉強会。コードレビューの仕組み。
 巨大なインフラや様々なツールを自由に使い、優秀な人間同士が影響を与えあって仕事をし、そして何より彼らが「自分たちが今世界を変えているんだ」という高い意識の元に動いているのがよく分かります。


そして最後は未来へ突き進む同社を取り巻く諸問題。Google BookSearchやStreetView騒動は記憶に新しく、そして今現在は……まるでサイバーパンクSF顔負けの情報統制とサイバー攻撃を繰り返してきた中国からの撤退がどうなるかが話題になっていますが、天下のGoogleも未来の全てが薔薇色ではありません。
 Microsoftとの一層の全面対決は避けられないでしょう。日本からすると馴染みがないのですが、SNSの分野では米国最大手のFacebookが新たな敵として浮上しているそうです。
 識者へのインタビューで法規制、そして将来的な米国政府の介入の可能性がちらりと触れられているあたりが、なるほどなあと思いました。
 ネットに良いことはGoogleにも良いことだ、を合言葉に常識を打破し、ネットを活性化させてきたこの企業は数年後、そして10年後、どうなっているのでしょうか。


 充実した内容なのですが、ふと不思議に思いました。素晴しい人材が揃い、素晴しい環境で夢と希望に満ちた仕事をしている。しかしグーグラーも同じ人間ですから、時には仕事がヤになったり酒を飲んでウサを晴らしたくなることもきっとあるはずです。
 ネットを探すと、退職した人たちの声の日本語訳も見つけることができます。
 曰く、創業者ラリー・ペイジ自身が今も入社希望者の履歴書全部に通していて面接から採用まで半年以上掛かる、カリフォルニア本社との連携が遅い、意外なことに給与が悪い(日本とは制度が違うでしょうが、福利厚生面が悪いらしい?)、自分のいる支社と本社の違い、技術者陣は伝説的だが管理職がダメだ、新興企業ゆえの未発達な部分がある……などなどなど。そして辞めた理由で多いのは、やはり人間関係……と、やはり世の中一般の会社と同じような問題を抱えているようです。
 追い求めた理想がGマークの元にないことに気付いて去っていく人々の呟きを見ると、世の中の全てのものに光と影があるのと同様、天下のGoogleにも影があるのだなぁと思いました。
 グーグラーである事を辞めた人たちはその履歴を活かしてステップアップしたり、最近は米国SNS業界の最大手Facebookに転職する人が多いというのが面白いですね。


 読み応えのある本でした。技術者向けの高度で難解な内容はあまりなく、図表や写真も豊富なのですらすらと読めます。
 1998年の本格開始以来ネットの入り口を制し、ネットの巨人となったGoogle。世界の全ての情報をデジタル化しようと本気で考えている彼らは何を考え、どこに向かうのか。
ITの世界の遥かな地平の最前線を知り、未来を読み解く助けとする上でも参考になる一冊です。