【感想】『図解 Amazon Web Servicesの仕組みとサービスがたった1日でよくわかる』:フルカラーで図解AWS
1日(?)で学ぶAWS入門の本
Kindleでポイント50%還元セール対象になっていた本。最近会社の所属部署でミニ勉強会の講師をした時にこの本をオススメしたので、そういえば講師の自分もちゃんと読んだ方がいいなと思い購入しました。
執筆陣はAWS勢にはお馴染みNRIネットコムの皆さん。約260ページの強力フルカラー。AWS最初の一歩の基本知識を凝縮した本となっています。
- 1日(?)で学ぶAWS入門の本
- Chapter 1 Amazon Web Servicesの基礎知識
- Chapter 2 Amazon Web Servicesの始め方
- Chapter 3 コンピューティングサービス
- Chapter 4 ストレージサービス
- Chapter 5 ネットワークとコンテンツ配信サービス
- Chapter 6 データベースサービス
- Chapter 7 セキュリティ、アイデンティティサービス
- Chapter 8 知っておきたいその他のサービス
- まとめ:AWS全体が1日~数日で把握できるフルカラーの入門本
Chapter 1 Amazon Web Servicesの基礎知識
- 最初は一番の基礎から。パブリッククラウドとはなんぞやという話から、図表多めで解説していきます。
- パブリッククラウドにおけるAWSのシェアは2020年時点で40%としていますね。(2022年春時点の現在は、確かAzureが追い上げてきて33%ぐらいでした)
- クラウドの基礎の仮想化についても図を用いてわかりやすい。最初の章なのでサーバーレスはここでは「サーバーを持たない」と解説しており、仮想サーバーがその都度作られるので多少の待ち時間が発生する、とあります。実際には仮想サーバーの上にコンテナも載っているでしょうが、初心者向け解説ということを踏まえているのでしょう。
- けっこう分かりにくいSaaS、PaaS,IaaSの分類やマネージドサービスも、一番最初にこの章で解説してあります。
- 細かいネタとしては本書ではIaaSの読みは「イアース」でなく「アイアース」となっています。どちらの派閥もありそうですね...
- サービスの分類についてはサービスの特性ごとに分類して理解するのがお勧めとあり、まさにそうだなと思います。自分も勉強会の講師をしたとき同じようなこと言ってました...
- 最後には導入事例も。任天堂の『スーパーマリオカート』で最強RDSのAuroraが有効活用された話、『ドラゴンクエストX』の世界中から負荷がかかる写真撮影でサーバーレスのLambdaが有効活用されたのはニュースにもなった有名どころですが、他にもヘルスケア、製造、金融業界の導入事例もいくつか紹介されています。最近の実例があるのはありがたいですね。
Chapter 2 Amazon Web Servicesの始め方
- アカウントの作り方、マネコン/AWS CLI/AWS SDKからのアクセス方法...など基本のところから、実際の扱い方に関しての章。
- リージョンの話で東京リージョンが2011年3月、ちょうど記念すべき10年後が大阪リージョンだというのは知りませんでした。
- またこれも忘れがちだと思うのですが、"ap-northeast-1a"がAZ名、1対1で対応する"apnel-az1"のようなAZ IDがあり、AWSアカウントごとに実はAZ名に対応するAZ IDは違って各AZに分散するような仕組みになっている話も載っています。このへんも助かりますね。
Chapter 3 コンピューティングサービス
- サーバーとは、Webサーバーとは、DBサーバーとは何か...という基本から図入りで丁寧に解説しながらコンピューティングサービスの章。
- AWSで使う上でLinuxとWindows Serverの比較表があってありがたい。
- サーバーの仮想化の説明で物理サーバーが一軒家、仮想サーバーが多数の家族が住んでいる「マンション」の建物だ、というメタファーの図があってこれはすごくわかりやすいです。
- 基本のEC2についても、マネコンからの起動方法や公開方法などを丁寧に解説しています。
- ここでサーバーレスが再び登場、EC2との比較や使いどころも交えながら解説。
- 7節は最近話題のコンテナ。仮想サーバーがマンションならコンテナは「シェアハウス」だという図があり、これも分かりやすいですね。
- 2022年の最新の本なのでコンテナ管理サービスとしてECSとEKS、動かす環境としてEC2とFargateも解説し、メリットなども割と詳しめに解説されています。
- 9節のサーバー知識なしで使える代表的なサービスとして、認定試験にもよく出るElastic BeanstalkのほかにLightsail、AWS Batch、SAP試験に出てくるOutposts、そして2021/5登場で話題のApp Runnerも記述があります。これらもそれぞれ利用イメージの図があってとてもありがたい。
コンテナベースでアプリをかなり簡単に動かせるApp Runnerは話題になった一方で、抽象度が高いので割と融通が利かないというような話も聞きます。今後の進化に要注目ですね。
↓オレンジ色のコンテナ本の作者さんによる記事。
Chapter 4 ストレージサービス
- S3中心にストレージ系サービスを解説する章。様々なサービスと連携して保存場所に使われることも書いてあり、やはりS3は中核のサービスなのだなあと。
- S3:// のURLの解説、ストレージクラスの話やバージョン管理や公開、暗号化の話も整理してあり、本書には明記されていませんがほとんどAWS認定対策にもそのまま使えそうです。
- 後半でEBSも解説、最後にストレージは基本はS3とEBSをよく使うという話があり、認定試験の書籍類を通して読むと多分そうなんだろうなあと思うようなところが、本書ではしっかり整理されています。
- 僕もEFSがLinux専用だというのをけっこう後から気付いたのですが(死)、対になるような形でFSx for Windows File ServerとFSx for Lustreもここで解説されています。
Chapter 5 ネットワークとコンテンツ配信サービス
- 最初にIPアドレスとは何ぞやという基本から始まって、CIDRブロックが解説してあるのがありがたい...AWSの学習を始めたときに最初にここで躓きました...(単にネットワーク系が苦手なだけw)
- まずファイヤウォールや負荷分散、ルーティングの概念を解説してからその後、お馴染みVPCなど実際のサービスの解説に移っていくのがありがたいですね。
- 各種Nネットワーク系サービスやネットワークACL/セキュリティグループなどの解説も詳しく、この章もそのまま認定試験で役立ってしまうんじゃないかというぐらいです。
- AWSのサービス群はネットワーク上の存在位置として、グローバルサービス/リージョンサービス/AZサービスの3種類があるのを踏まえた上での実際の構成例があるのがありがたいですね。この辺はどのサービスがどれに属するか、意外と混乱しがちです。
- Route53のルーティングも図入りでかなり詳しいです。
- 認定試験にもよく出るDirect ConnectやVPNの話も図が豊富でとても分かりやすい。この流れでTransit GatewayやPrivateLinkが出てくると理解しやすいです。
- SAP試験で出てくるので最後に言及されているGlobal Acceleratorは知っていたのですが、人工衛星の利用予約ができるGround Stationというサービスは初めて知りました。宇宙までカバーしているのですねえ。
Chapter 6 データベースサービス
- 最初にRDBとはなんぞやとSQL入門、ACID特性の話を経てからRDSに繋がるのがありがたい。
- RDSだと別々のものである、スタンバイレプリカとリードレプリカも図を用いて解説しています。
- その後に最強のAuroraに繋がるのですが、クラスターボリュームのサイズは2020/9から128TB(正確にはTiBのティビバイト)にまで増えているんですねえ。
- そして対になるDynamoDBの話でも、社員データの格納方法を例にkey-value型のデータの持ち方の例を載せていて理解しやすいです。
- 最後に様々なデータベースのサービス紹介として、DocumentDBやNeptuneのほかにElastiCacheの発展型としてサーバー停止後もデータが消えない2021/8月発表のAmazon MemoryDBも紹介されています。Amazon Managed Blockchainも情報あり。ブロックチェーンそのものは分散保持の技術で、仮想通貨でよく使われるだけで直接イコールではないんですねえ。
Chapter 7 セキュリティ、アイデンティティサービス
- 最初にセキュリティの3要素を解説した後、AWSでの実現手段であるIAMの話。IAMも奥が深く複雑ですが、ここでも図で整理されていて理解しやすいです。
- IAMロールのアイコンがヘルメットのデザインで、IAMユーザーに必要な時にIAMポリシーの帽子をかぶせるというメタファーがわかりやすい。
- CloudTrailやConfigでは使用でかかるお金も併せて解説されています。
- AWS WAFの解説の後、VPCをまたいだ通信を守る2020/11リリースの新しいサービス、Network Firewallも登場します。便利なマネージドサービスがどんどん登場していきますね...
Chapter 8 知っておきたいその他のサービス
- 溜めたデータを次に生かすデータ分析サービスとして、Athena、Glue、OpenSearch Service、EMR、QuickSight、Kinesisを紹介。
- 機械学習の定義を解説した後、代表的なSageMaker、その他のサービス
- システムマネジメント(=運用管理)として、CloudFormation、CloudWatch、Systems Manager、Codeシリーズの紹介
- 最後に利用料についての理解を深めるコラムがあってお役立ちです。
まとめ:AWS全体が1日~数日で把握できるフルカラーの入門本
本全体がフルカラー、装丁やデザインも工夫されており、非エンジニア層向けに敷居を下げる努力がかなりされています。文章も平易な言葉を選んであり分かりやすいですね。本書の狙いではないでしょうが、かなり詳しく解説されているのでAWS認定の学習にも使えそうです。
そして何度が触れましたがありがたいのが、図がかなり豊富なこと! AWSのビルディングブロックのサービスを繋いだ具体的な構成図だけでなく、抽象度がより高い段階の図、人物や矢印や各種アイコンを活用した図が理解を助けてくれます。これらの図も鮮やかな色で描かれていてよいですね。AWS入門時に頭の中になんとなく描きながら理解を進めていったようなぼんやりとした図が、本書だと最初からクリアな図として用意されています。フルカラーでこれだけの図を揃えるのも大変だったのではと思います。これなら入門者でも、●ラ●リーの難しくて分厚い本のように眠くならずに読み進められるはず...!(笑)
会社のミニ勉強会で包括的に入門するならこのあたりの本を読むと良いですよ、とこの本を紹介したのですが、実際に読んでみてやっぱり一番最初にこの辺の本で基本を固めておくとその後の理解がスムーズだな、と思いました。講師の僕が話したことと同じようなことも本書に書いてあったりして、内心ほっと安心したりもしました。
そして2022年2月の本なので最近のAWSの新サービスの話も書いてあるのが良いですね。やはり定期的に基本に戻ったり最新の情報を取得しなおすのは大事だなと思いました。
なお本書のタイトルは若干煽り気味(?)に「たった1日で」とありますが、1日は厳しくて数日ぐらいじゃないかな~という気はします。(笑) まあそれはさておき、2022年現在で1冊の本でAWSに入門するなら絶好の本でしょう。
メイン執筆者の小林さんによるNRIネットコムブログの記事。
おまけ 最近のAWSの入門本
本書と同種のおすすめ入門本を挙げてみました。
『図解即戦力 Amazon Web Servicesのしくみと技術がこれ1冊でしっかりわかる教科書』はアマゾンでもベストセラーの定番本。2019/11発売なので情報が若干古くなっている所があるかなというところです。
『AWSの知識地図 〜現場必修の基礎から構築・セキュリティまで』も同種の本、こちらはお馴染みクラスメソッドさんのメンバーによる本。2022年4月発売の最新です。タイトルに「知識地図」とある通り、最初に理解すべき基礎情報をまとめた"情報のハブ"を目指したとのこと。
『AWSエンジニア入門講座――学習ロードマップで体系的に学ぶ』がYouTuberの人による本でこちらも2022年1月と新しい。ハンズオンが豊富なそうです。
この本は物理本を本屋で手に取ってみたのですが、主要サービスを女の子のキャラ絵で擬人化するという、技術書ではたまにあるけどクラウド関係の本では珍しい試みをしています。擬人化路線で行くなら女の子の萌えイラストにもっと力を入れた方がよいのでは?と思ったり。
そして、執筆者のお一人の上野さんのブログ記事に、よく見たら入門書の比較についてまとまっていました...