この戦いには義ありと:『プロメテウスは火を運ぶ』 【3】
従業員「ユイさま、どうぞ。◎イ◎ード様がお待ちです」
“スーパー美少女エクスプローラー”の名はここにも鳴り響いていた。ゴニョゴニョが本拠地にしている超高級ホテル。一階では絨毯の上にずらりと並んだ正装の従業員たちが待っていた。
橘ユイ「ほんとに大丈夫なのかな……」
小十郎「行こう。本当に悪い奴は、その瞳を見ないと分からないんだ」
有名人になったとはいえ、一介の女子高生であるユイはさすがに怖がる。なにせ軌道の超大物が待ち構えているのだ。すがりつくトワを抱き、小十郎は先を促した。山村正はいつもの飄々とした様子で続く。
超高級ホテルの最上階。総ガラス張りの外には、いよいよ雪が強くなった夜の東京新星市が一望できた。天より睥睨するモニョモニョの影響が強くなっているのだ。
生命維持装置のような巨大な装置をつけた、車椅子に座した尊大な老人。その横には冷酷な笑みを浮かべた青年が立っていた。鋭い刃物のように怜悧な雰囲気を漂わす、信じられないほど美しい銀髪の青年だ。瞳が赤く不吉に輝いている。
ユイ「あなたたちにこの子は渡さない!」
ゴニョゴニョ「わしは何も手放す気はない。何も、何も、何ひとつだッ! ??(`Д´)
好きな望みを叶えてやる。そいつを置いて失せるがいい」
ユイ「だから、いま話しましたってば! 渡さないです! (´□`;)」
鬼気迫る形相の老人には、まったく交渉の余地がなかった。
一同「やばい、◎イ◎ード必死だ! ヽ(@▽@)ノ」
交渉は決裂した。小十郎はどこからともなく取り出した手袋を、決闘のしるしに投げつける。旧世界より、貴族が決闘に用いた正当なしきたりである。
だがしかし……手袋は途中で鳩に変わると、どこかへ飛んで消えてしまった!
手の中で何かの光を閃かせる青年。怪物じみた姿へと変貌していく老人。
窓ガラスが割れ、外から吹雪が舞い込んでくる。ゆっくりと降下を始めるゴニョゴニョが本格的な影響を東京新星市に及ぼし始めたのだ。そしてドアが破られると、未だに不死の秘密を求める秘密結社インコグニトの者たちが迫ってくる。
小十郎「水行をもって金を制する……アチョー! (>ω<)」
既に得意の複合魔術は東西混合混ぜるな危険の域に達していた。
陰陽五行の木火土金水を操り始めた小十郎は、<※自動防御>から守りの体勢。イントロン状態からの<※消沈>で止めきれなければ<※カバーリング>、<■ブービートラップ>で反撃の1アクション取れれば<※サポート>で他キャストを動かす構えである。エニグマの白虎は低く唸りながら<※障壁>の構え。
幸い場所は超高級ホテル。電脳設備も充実している。スーパー美少女エクスプローラーの橘ユイも電脳/現実双方を<※フリップフロップ>で知覚しつつ<※ポルターガイスト>でリアクションの構え、<※ジャンヌダルク>で動かす相手は……やはり総合火力の最も高い浪人の剣、山村正であろう。
その時、割れたガラスから寒風が舞い込む中。窓の外に黒い影が浮かび上がった。超高級ホテルのしかも最上層である。
それはヘリではなく、漆黒に輝く天馬たちであった。後ろに引いている馬車の扉が開き、紫のローブをはためかせた女性が絨毯の上にひらりと降り立つ。
小十郎「リリエンタール先生!」
リーゼロッテ「待たせたな、小十郎!」
セットアップの処理が終わりメインフェイズ。キャスト側のAR3から、最初に加速能力を備える彼女からになった。
ついに魔性を顕し、青灰色の瞳が真紅に染まる。右手には魔法の杖、左手にはグリモア、吸血鬼の魔術師は唱えた。
リーゼロッテ「紫の女卿の名において宣言する。この戦いには義ありと。あらゆる戦の神々よ、高名なるワルキューレよ、ご照覧あれ!」
各々の武器に魔法の輝きが灯った。戦闘中ずっと有効な<カリスマ:リーダー>による達成値+2。これが後々、地味な強さを発揮することに……
ゴニョゴニョ「娘をよこせ!今すぐにだ!」
一同「やばい、この人自重しない! ヽ(@▽@)ノ」
小十郎「ならば、奇門遁甲の術だ! (>ω<)」
何ひとつ自重しない老人はゴニョゴニョマジックでまるごと粉砕に掛かる。西風の守護者は、今度は古代中国より伝わる術数を使って防ぐ。
怪物の如く変化した老人を強敵と見た山村正が素早く抜刀し、切りかかる。だが、浪人の前に素早く立ちはだかったのは、ナイフを煌かせる銀髪の青年であった。
片や軌道の凍れる刃、片や主を持たぬ浪人の剣。二剣士の瞬速の斬り合いが始まる。天にありしゴニョゴニョのサポートも集中し、吹雪の壁が山村の剣を遮った。女卿の召喚したダンタリアン公爵が未来を見通す力で剣に力を与え、スーパー美少女エクスプローラーによる<※ジャンヌ・ダルク>でアクション、そこから<■二天一流>による連続斬撃。対するあまりに美しすぎる青年は、《不可知》からの<■分身>!
絨毯に砕け散ったガラスが、二剣士たちの刃の舞を映し出す……
RLの左隣にいた山村先生に攻防サポートも集中した戦闘は続き、時計回りに順番が巡って右のほうに。山村先生ともう一人いる先生の番になった。時代劇の悪役のようである。
中の人一同「先生、お願いします! (*゚▽゚)ノ」
リーゼロッテ「遠いな……」
彼女は夜空の向こうを振り返った。恐らくニューロ役との対決を想定しているのであろう女王ゴニョゴニョ、しかし橘ユイは序死公星ヒロインであるゆえサポート系専門なのだ。
旧世界からニューロエイジの技術は進化を続け、武器や兵器の類も進歩し続けている。だが、どんな高度な武器でも、射程はあるのだ――
リーゼロッテ「紫の女卿の名において我は召喚す。天の第八階層より来たれ、大天使ウリエル!」
立ち込めた雲を割り、差し込む光。そこから現れたのは翼を持ち、剣と槍で武装した天使の軍勢であった。吹雪の中心へ上っていき、戦いが始まる。もはや黙示録の戦いもかくやである。魔術の演出をとった精神戦は[超遠]まで届くのだ。しかも超高度なテクノロジーの塊である女王ゴニョゴニョには、天使の群れは視認できない!
異常をきたし、落下体勢に入ったゴニョゴニョはしかしまだまだ健在だった。サポートは地上のホテル内に集中し、吹雪が室内に舞い散る中で戦いは続く。攻撃をリアクションしきれなくなった仁志小十郎は<※カバーリング>し、防ぎきれなかったダメージが入ってカバーリングインフェルノ状態に陥った。
青年「最後に生き残るのはぼくたち怪物かな? それとも可哀そうなお姫様かな?」
右手のナイフ一本で山村正の剛剣と同等に渡り合っていた美貌の青年は、微笑みながら左手を出した。隠し持っていた拳銃による不意の抜き撃ち!
トワを狙った必殺の射撃を防いだのは、なんと仁志小十郎が手で掲げた小さなカメさんの甲羅であった。これぞ仁志流・奇門遁甲の術の奥の手である。諸葛亮孔明も、鳩が好きなジョン・ウー版孔明も御覧あれ……!
遂に山村の浪人の剣が歪んだ心を持つ青年の体を捕らえ、剣士たちの短くも激しい戦いが終わった頃。徐々に落下しながらも、ゴニョゴニョはまだ雪を眼下の災厄の都に放射していた。
リーゼロッテ「まだ堕ちぬか。私が生まれた時代には、人工衛星はまだなかったからな……」
赤い髪を揺らして振り返り、ふと微笑むと、20世紀生まれの吸血鬼は杖を掲げた。
リーゼロッテ「紫の女卿の名において我は召喚す。来たれ、三十の軍勢を指揮する有翼の狼、マルコシアス大侯爵!」
二度目の魔術攻撃、今度はグリフォンの翼を持つ狼がグリモアから現れると、天へと駆け上がっていく。悪魔は白の女王ゴニョゴニョに取り付くと火を吐いて大暴れを始めた。そこに謎の装置がポップアップし、地上を指し示すが、大侯爵には理解できなかった。
悪魔マルコシアス「がおー(訳:ほえ?)」
ゴニョゴニョ『――トーキョーN◎VAに全出力を解放します』
機能を停止する直前、ゴニョゴニョは相撃ち反撃の神業ビィム攻撃。超高度なAIであるゴニョゴニョの電脳視覚には、完全ウェットの災厄前から存在する吸血鬼も悪魔も視認できない。
照準が狙った先は遥かな眼下、超高層ホテルで続く戦いの中に点灯する電脳上アイコン。制服もまぶしい女子高生ひろいんであった。危うし、スーパー美少女エクスプローラー! 序死公星の命運はここに尽きるのか?
仁志小十郎が連れている白虎が飛び出し、《難攻不落》で防ぐ。
最後の攻撃も尽き、ゴニョゴニョは煙を上げ、引力に捕らえられて地上へと落下していった。その光景は地上から、多くの人間に目撃されることになった……
空から戻ってきた狼はグリモア目指して舞い降りながら、狼の両手を合わせた。白虎も返事をした。これがエニグマの絆(うそ)である。
悪魔マルコシアス「がおー(訳:正直、スマンかった)」
白虎「わおー(訳:今回だけだよ)」
老人「わしは……何も手放す気はないッ! ( `△´)」
軌道の高度な延命技術を表す高レベルのゴニョゴニョに守られたフェスラー家の超大物は、まだ諦めなかった。
カバーリングインフェルノ状態だった小十郎は、今度は古風な呪いのわら人形を取り出して魔法を使い、致命的な攻撃を防ぐ。もう地獄通信も関係なしである。
そして小十郎の糸目が開いて本気の邪鬼眼ならぬ釈迦の目ぱわーが炸裂、ようやく山村正の剣が変異した老人の体を捕らえ、あわや相討ちというとき……
小十郎の中の人「最後は〜、《電脳ゴッド》を使うのデース (@▽@)」
ほりの監督「はたさん! 東西混ざりすぎです! (><)」
西風の守護者はマーダーインク追加のアウトフィッツ、オートアクションで使える“封魔鏡”を取り出した。リーゼロッテのエニグマも所持していたこのアイテム、敵に術使いがいなかったため今回は出番がなかったのだ。
魔法の鏡に映し出されたのは過去の光景。延命装置もいらず、まだ元気な頃の穏やかな顔をした◎イ◎ードの姿だった。清潔な軌道コロニーの暖かな風景。フェスラー家の一族郎党が集い、誰もが優しい顔をしている。
牧歌的な光景にまどろみ、自らを悔いながら、永遠の生を求め果てた老人は逝った……
ほりの監督「はたさん! 最後だけいい話になりましたよ! (><)」
美貌の青年はガラスと雪の舞い散る広間に倒れ、その主も最後を遂げた。吹雪の止んだ夜空をゆっくりとゴニョゴニョが墜落していく。
だが広間にはまだ黒服たちが残っていた。アツい無反動銃を備えた秘密結社“テラ・インコグニト”の残党の面々。彼らは実は、高度な訓練を受けたプロフェッショナルではなかった。永遠の命を求めた軌道の人間たちだったのである。
結社員「あの娘だ! あの娘に永遠の命が! (*ω*)クワッ!!」
結社員「どけ、私が先だ! ヽ(`Д´)ノ」
顔をこわばらせる少女トワの元に殺到する秘密結社員たち。小さな少女の上にコートが投げかけられた時、全てがスローモーションの如く時を止めた。
山村正が投げたコートであった。幼い少女をふわりと覆った時、その上を浪人の剣が雷光の如く疾る。5歳の少女にはその凄惨な光景も映らず、返り血も掛からなかった。数十人のトループは《死の舞踏》で数瞬のうちに斬り伏せられたのであった……。
一同「サムライだ〜! ヽ(´▽`)ノ」
ちなみにトループはもう1グループいた。紫のローブの女性を取り囲んだ彼らは何やらざわついている。リーゼロッテの顔に動揺が走った。
結社員「おい、この女の顔、どこかで見たぞ……?(ざわ ざわ」
結社員「見たことがある……写真で!(ざわ ざわ」
結社員「そうだ……アーネンエルベだ!(ざわ ざわ」
リーゼロッテ「なぜそなたたちがアーネンエルベを知っている!
まさか……私の写真を見たのか?」
山村正の中の人「え、そのリアクションなんですか? (´w`)」
一同「ヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノ」
知を求める者は秘密を好む。不老不死を求めた軌道の結社テラ・インコグニト、まこと勉強熱心にしてその知は深きものであった。災厄前の20世紀、大戦中までドイツに実在したともいうナチスのオカルト機関の名を知っていたのだ。TRPGゲーマーに好きな人が多い某ゲーム世界では、喫茶店の名前にも使われている。きっと軌道で暇なときは、ダロのウィアード・エイジで遊んでいたに違いない。(うそ)
過去設定まできちんと活かしてきたこの攻撃を最後の最後のここでしてくるとは、実はリーゼロッテの中の人にとっても不意打ちであった……w
結社員「我らテラ・インコグニトを舐めるな! お前たちアーネンエルベが不死の研究も続けていたことは分かっているのだ。その不死の研究を我らが引き継いだのだ! (☆ー☆」
結社員「この女に、不死の秘密が! щ(゜д゜щ)」
リーゼロッテ「ええい、散れ! アーネンエルベはあの炎の中に、第三帝国と共に永遠に滅んだ。もはや見ることは叶わぬ! (くわっ!)」
結社員「アァアアアァ(´Д`;)」
どこか焦りを見せた吸血鬼は双眸を真紅に輝かせた。戦意消失っぽいダメージの《神の御言葉》で、結社員たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていったのである……
リーゼロッテ「私の昔の写真を……見たのか…… (*ノノ)」
戦いは終わった。東京新星市を覆った異常気象は去り、雪は止んだ。
小十郎と白虎が、トワに怪我がないかを確認する。
女子高生のスーパー美少女エクスプローラーは、割れた窓ガラスの先に一望できる光景に目をやった。空を覆い隠す雲は去り、曙光が射すところであった。
ユイ「終わったんだね……悪夢は終わったんだ。こんなに綺麗な夜明けが……」
リーゼロッテ「ああ、だが、我が一族には見ることのできない光景だ」
女子高生の横で日傘を広げると、吸血鬼の女卿はその影に佇んだ。
そんな面々を後に、山村正は黙って立ち去ろうとしていた。目標であるゴニョゴニョの首級は取った。浪人の仕事は終わったのだ。酔狂人への社会ダメージは消えておらず、追っ手の殺し屋がいつまた差し向けられないとも限らない。
無言で去ろうとする彼に、後ろから声が掛かった。日傘を差した女であった。
リーゼロッテ「待て、山村正。行ってしまうのか?
せめて、あの天上の姫に挨拶ぐらい……」
剣客は立ち止まると振り返った。
山村正「あの娘のフォローを頼む。そして、もうひとつ伝えてくれ」
山村は激しい戦いの末に討ち果たした相手の死体を見下ろした。不自然な延命処理で寿命を延ばし、それでも永遠の命を求め続け、異形の体となって死んだ醜い老人の死体を。
山村正「――あの老人のようにならぬよう、せいぜい気をつけることだと」
リーゼロッテ「分かった。そのふたつ、私からしかと伝えよう」
彼女が神妙な顔で頷いていると、酔狂人はニヤリと笑った。
山村正「じゃあな。次は、あんたみたいな別嬪さんとヨロシクやりたいもんだな」
そして返答する間を与えずして<※チェシャ猫>で退場!
一同「おおー (☆▽☆」
あっぱれな使い方であった。ゲストが顔見せ時にしか使わないようなケースも多い、キャストにとってはマイナー特技のチェシャ猫を使った退場。これはルール上も神業でないと妨害できないのだ。
後には意外そうな顔をして言い返せない女卿が残された。ユイも口に手を当てて驚いている。
リーゼロッテ「(おほん)……なるほど。これがローニンの剣ということか」
ほりの監督「先生がうまいことまとめました! (っ´▽`)っ」
橘ユイは残った《ファイト!》で小十郎の《電脳神》を活性化! ラチェットタップが爆発するほどのメガンテ級の超パワーが満ち、奇跡を起こす。少女トワの体内に秘められたゴニョゴニョのゴニョゴニョを消去したのだ。身寄りのない身とはいえ、これで彼女はふつうに生きていくことができる。
残ったもうひとつの電脳ゴッドならぬ《電脳神》で……なんと彼女は、地上に落下した女王ゴニョゴニョの位置を特定した!
ユイ「次の冒険は、こいつを探しにいくのよ! (*^ー゚)b」
現在位置は突き止められた。たとえ道中が大冒険になろうとも、超高度なテクノロジーの塊であるゴニョゴニョには多くの秘密が隠されているだろう。新たな冒険談に、きっとN◎VAスポの記事は大賑わいに違いない。
いざ立て、スーパー美少女エクスプローラー。序死公星の光の下に。新たな冒険が君を待っている。火星人もきっとまた仲間に加わることだろう。冒険の旅路を共にするなら……メンバーはウェット禁止が妥当である!
みんな「珍しい冒険家エンドだ! (´▽`)」
みんな「映画の『トゥームレイダー2』とかみたいな続き方だ!」
みんな「♪ちゃーちゃらっちゃー (ジャカジャン) ちゃっちゃら〜 (ジャカジャン)」
みんなで『インディ・ジョーンズ』の有名な『レイダースのテーマ』を口ずさみながら、橘ユイの冒険は続くのだった……
戦いで怪我をした仁志小十郎は病院にいた。自慢の料理の腕も病院ではあまり振るうことができない。栄養ドリンク相当のインスタントカレーを温め、ハフハフいいながら食べる。
夜になるといつもの通り、トワは大事に持っていた『Gift of Fire』の本を持ってベッドにやってきた。二人でもういちど絵本を読む。
夜を恐れ、獣を追い払うこともできずにいた人間。火を与えたお陰で罰を受けたプロメテウス神。大神ゼウスが言う、知ってしまえば消えてしまう幸せとは――
小十郎「トワは、どうしたい?」
トワ「トワ、みんなにあいたいです」
小十郎「そうだね。でも、今日はおやすみ (@´ー`@)」
明かりを消し、二人は安らかな眠りについた――
財団のひよこ衛星が偵察した未確認情報によれば、山村正があの後ちゃんと天上の姫のところに挨拶に行けば、ベルティーユ嬢の長きに渡るツンの後、ようやく、ようやく訪れるデレの瞬間を見れる可能性もあったようだ。
なんともはやもったいな……いやいやいや、ローニンの戦いは終わりであった。
山村はレッドエリアを歩いていた。軌道の大物の首を獲ったせいで名が売れてしまい、刺客や賞金稼ぎがあちこちから現れるようになったのだ。
賞金稼ぎ「見つけたぜェ、このカタナだ! ヘッヘッヘ、お前の賞金は現在8プラチナムだぜぇー (*゚∀゚*)」
山村正「じゃあこいつで、賞金額が上がるな……!」
賞金稼ぎ「ぐはぁっ! ( ゚Д・)」
刺客「これで9プラチナム……みんな、一斉にかかれ!」
彼を付け狙う幾多の追っ手を剣一本で裁き、彼は歩いていた。
山村正「さて、行くか」
無銘の斬魔刀を携え、剣客商売は続く。酔狂人の剣客が、次に行くはどの街か。捧げられる浪人の剣、次に抜くは誰がためか。それは、別の絵巻の語るところであろう……
デレの機会は永遠に失われてしまったが、仕方がないので約束を果たすべく、リーゼロッテはローニンの代わりにベルティーユ・サーディクの元を訪れていた。
彼女へのフォローの約束、そして伝える伝言。ホロに映った、著しく変異した醜い老人の死体。星の世界に帰らんとする若い娘は、そこに何を見たのか。
ベルティーユ「リーゼロッテ卿。申し出はありがたいが、助けを借りるわけにはいかない。私は自分の力で、サーディク家の再興を行うの」
夜の世界での呼び名で呼ばれたことを意外に思いつつ、彼女は頷いた。
リーゼロッテ「その言葉を待っていた。世に名を残す女傑はみな、そうして自らの力で事を成してきた。ならば、そなたの道を歩むがいい――」
夜の新宿インペリアルパーク。結界を張ったパオの中では、運命から解き放たれたトワが静かに眠っている。
指輪に秘められた最後の力を使うときが来た。吸血鬼の魔術師は左手に魔道書を持ち、ぱらぱらと頁をめくる。
リーゼロッテ「いでよ、三十六の軍団を指揮するダンタリアン公爵!」
神秘の知識と隠された知識の主、芸術と科学の守護者、秘密の書庫の主たる悪魔はうやうやしく魔法のグリモアを出した。魔術師はそこに、さらさらと魔法のペンで言葉を書く。
リーゼロッテ「ラージ・ラビリ。そなたとそなたの記した不老不死の秘密は、昼の世界から永遠に消え去る。だが夜の世界に留まり、秘密の魔道書に書き記される。
真に大望のある者が求めた時、そなたの名は、必ず求める者の前に現れるだろう」
真に大望ある魔術師や科学者、技術者が求めた時、大いなる業績を成し遂げた者の名は、世界のどこかの書物の中に必ず見つかる。ラージが定命の一生で為したことは、生きた証は、消えることはないだろう。彼の人生は無駄ではなかったのだから。
彼女はふと胸元のウロボロスの蛇のメダルに手をやり、そして、ホログラフの炎がいまも揺れるプロメテウスの指輪をそっと握った。
リーゼロッテ「ラージ。私もかつて、大切な師を失った。だが偉大なる我がマイスターは、私の心の中に思い出として今も生きているのだ。
そなたも、思い出となって永遠に生き続けるだろう――」
眠っているトワを起こさないようにしながら、仁志小十郎もパオの中から出てきた。魔力の満ちる夜の種族の時間に、先生と生徒の別れの時が近付いていた。
小十郎「人はいつの世も、不老不死を求めるものなんでしょうか」
リーゼロッテ「そうだな。そなたも知っているだろう。古代中国の皇帝たちは、不死を求めて何人もが水銀を飲んで死んだ。
西洋世界でも同じだ。私も長老たちから聞いたよ。ローマ帝国をはじめ、いつの世でも支配者たちは不死を求め、我が一族の父祖たちに永遠の命を請い願ったという。いつの世も同じだ」
複合魔術を操り、西風の守護者として、見事に少女を守りきった若者は、いつになく真面目な顔で言った。
小十郎「先生。人の夜は繰り返す。いつか、この輪廻を断ち切ることはできるのでしょうか」
リーゼロッテ「神に背いた我が一族には無理であろう。だが――」
2世紀の夜を見つめてきた時の旅人はいたずらっぽく続けた。
リーゼロッテ「だがそなたたち人間になら、いつか可能かもしれないな」
小十郎「はわ〜 ヽ(@▽@)ノ」
その時小十郎が感じたプレッシャーは、定命の人間だけが持ちえる運命を変える力だったのか。あるいは偉業を為すであろう勇者の力の類だったのだろうか? おかしなことに、女卿の背後に控えるエニグマの悪魔ダンタリアン公爵まで、親指を立ててGJサインをしてくる。
リーゼロッテの中の人「よーし真のPC1ぢからをトスだ〜 (っ´▽`)っ」
小十郎の中の人「うわ〜い ヽ(@▽@)ノ」
ほりの監督「その悪魔、挙動がおかしいですよ! (><)」
相変わらずな裏舞台はさておき、表舞台では別れの時が来た。夜の中で四頭のクレアータ・ペガサスが引く馬車が、主を待っていた。
小十郎「先生、行くんですね」
リーゼロッテ「さらばだ、ゼピュロスの守護者。このプロメテウスの指輪は、私が貰ってゆく」
紫の長衣を悠然と翻し、腰まで届く赤い髪を靡かせながら、吸血鬼の女卿は歩んでいった。馬車の戸口に足を掛けたところでふと振り返り、若者に微笑む。
リーゼロッテ「次は、もっと美味しいカレーを頼むぞ」
黒い天馬たちは翼を広げ、主を乗せた馬車はゆっくりと動き出した。雪の消えた夜空へ、光に満ちるニューロエイジの夜を駆け上がる。
夜の帳にはそこかしこに火が輝いていた。天を駆ける馬車はゆっくりと、夜の中を消えていった。
かくしてプロメテウスの指輪を巡る物語は終了。PLとしてのゲーム納めに相応しい一日になりました。素晴らしい!
参加者個人間ではお初もありましたが全体としては息もぴったり合い、キャストもシナリオにぴったり嵌った4人が揃いました。
ローニンの剣を振るった山村先生の大人カタナぶりはいつもの通り。前に遊女を侍らして歩いていたのを目撃したので、プレプレアクトのBBS時点で女関係のネタを振っておいたのですが、よもやチェシャ猫と合わせて使ってくるとは……っ。ずるいぞぬ!
またこの記事はダイジェスト版なのでアクト中の「いかにもユイらしい台詞」を全部は拾いきれていないのですが、唯一の一般人であった女子高生ひろいんの橘ユイの驚きシーンやひろいんシーンも大事でありましょう。ニューロ役なのに冒険家っぽいエンディングで終わったのも珍しいですね。
さすがに経験点差と専業サポーターであることから戦闘中は目立ちきれませんでしたが、やはり今の世に必要なのは序死公星なのです。うむ!
プレプレアクトBBSの時点で仁志小十郎とリーゼロッテの関係を考えた際、ヘルメス魔術の知識を授けたことにしていましたが、魔術の先生と生徒というコンビもスムーズに嵌りました。双方とも演出に幅を持たせたキャストでしたが、互いに方向性の違う魔法使いということで対比も出ました。
また、序盤でいきなり山村先生と小十郎が合流して一緒に行動し始めるくだりもかなり意外な展開で笑いを取ったと思います。
今回は僕が珍しく新キャストでしかも所謂PC1となりましたが、自己評価としては十分な及第点ですね。この日のために準備もしておいたしイメージも完全に固まっています。それにキャスト初稼動と言っても、ゲストとしてなら9回登場していますしね。w 実アクトでやろうとイメージしていたことは、ほとんど達成できました。
また、僕が特に気をつけている「PC番号云々に関わらず他のキャストを尊重する」「ゲストを無闇に罵倒しない」「ゲストやストーリーを尊重する」もいつもどおり十分に達成できています。自画自賛になっちゃいますが十分な結果でありましょう。うむ!
シナリオの方は。過去が絡み、軌道が絡み、しかし舞台は現代のN◎VA。確かに一風変わった造りだなと思いました。諸々の思惑が絡むので特に前半、きちんと話を聞き情報を認識していないと全体が把握できないですね。雪の降る町、過去から続く指輪に秘められた想いなどのしっとりとした情感……のあたりはいつものほりのコズムでありましょう。確かに『ドゥームズデイの雪』なんかに雰囲気が似ていますね。
皇子によると戦闘が押され気味だった……とのことですが、これは別に問題ないと思います。(キャストに合わせてデータを調整するRLさんはいますし、僕もやりますけどね)
ある程度以上慣れたプレイヤーならば残った神業でニューロ!なことぐらいしてきますし、シナリオ中核のストーリーがあるなら、別に毎回恐ろしく強い敵が出てくる必要はないと思います。
強いゲストや激しい戦闘の話は、東京近辺という母数が大きい鳥取では割合と見られる現象ですね。アクトの機会が多ければ経験点も溜まり、コンベで今日は0点キャストで……というのとは桁違いの能力を持ったキャストも作れます。N◎VA-Dが出てから5年、そろそろ持ちキャストの消費経験点が増えてきて、対抗するためにシナリオのゲストも全般的に強めに……というのもあるでしょう。
オフ会等でも1回きりの使いきりのキャストとなると、最初から高レベルのブランチを取得し、局所化した能力を持つ受け狙いインパクト重視の一発キャラも目立ちます。ネタにしやすいことから誰それのあのキャストが酷い、やれあのシナリオのゲストは酷いなどといったネタ話の類は話題に上りやすくなっています。
といってもルールを読み込んで経験点を注ぎ込めば強いキャラクターなんて幾らでも作れます。『クリスマスサバイバルナイト』のような最初から狙った作品はさておき、僕は薄いシナリオの白紙に近い世界の中で単に強い敵と戦うだけよりは、こういうストーリーのある話の方が好きですし、世界と物語の中にキャストが生きている瞬間を感じた時にこそ、楽しみを感じますね。
僕も2009年にそろそろ何か新しいシナリオを考えようとしているのですが。やっぱ浪漫を広げると宇宙だよなぁとか何かを探す冒険風の話もいいなぁとか軌道の描写が入るとSFっぽいかなぁとかなどなど漠然と考えていたのですが。本日やった本作がイメージが似ていて笑いました。去年、和風しなりおを考えていた時もそうだった……なぜいつもこうなんだ……w
その後は皇子を見送った後、帝都組はなぜかZOHNさんとsiganeさんとたかどのさんと遭遇、年末の突発忘年会に。やっぱりこの時期はどこの店も混んでますね。今までずっとニアミスばかりだった、たかどのさんと正式に御挨拶できたので丁度よかったです。
帰りが同じ方向というか本拠地がニアレストなので巣さんと電車の中でいろいろ話したのですが、橘ユイたんは序死公星の加護の元、今後もスーパー美少女エクスプローラーとして冒険を続けて欲しいものです。しかしデータ的にサポート専門系なので、必ず誰かと一緒に冒険に行かないといけないんですよねー。w
リーゼロッテ卿は冒険が好きそうなので一緒に行きそうですが、ウェットな吸血鬼なので<※サポート>も効かないし電脳上からまったく認知できないという穴が。やはりまた火星人カーロスと冒険するしかないのか?!w
かくして、2008年のゲーム納めに相応しい一日となったプロメテウスの長編レポは終わりでございます。皆さんお疲れ様でした。
〜プロメテウスのリンク集〜
- ほりのさんの[mixi] 【N◎VA】プロメテウスは火を運ぶin新宿東口
- 松本哲也さんの[mixi] 年末にN◎VAを遊ぶ
〜おまけ〜
作中で吸血鬼の魔術師リーゼロッテが召喚している諸霊は魔道書レメゲトンに記されし七十二柱の中から、比較的マイナーで日本語で発音しやすいものから選んでいます。
ダンタリアン(ダンタリオンとも)は最近だと角川のラノベにも出てきますね。
というわけでアクト後に記念に『ダンタリアンの書架』(角川のサイトへ)を読んでみました。
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この少女ダリアンのいかにもラノベ風のかなり狙ったとも思える造形は、ドSツンデレ幼女系というのでしょうか、ラノベはすごいなぁと思いつつなんかローゼンメイデンのキャラに口調が似てるなあと漠然と思っていたのですが。書評サイトを巡ったらみんな同じような事を書いていて笑いました。w
脳内変換して読むのが正しいよーです。そうか、ラノベとはそうやって読むものなのか……
ちょっとダークファンタジーっぽい話ですぐ読める短編集の小品、シリーズがまだ始まったばかりの作品ですが、なかなか面白かったです。舞台は英国だし。(そこかよ)