「よせよ。俺の剣は浪人の剣だ」:『プロメテウスは火を運ぶ』 【2】
『プロメテウスは火を運ぶ』
(物語の中核に関する部分は一部ぼかしてあります)
「未踏の大地(テラ・インコグニト)」をめざし
ハイランダーたちは歩みだした星が軋み悲鳴を上げても
地上が血と絶望に満ちても
歩みは止まらなかった人類の夢“永遠”が
彼らを強く結びつけたけれど 一人の若者が
永遠を持つ者に出会った時結社を暗黒大陸へ叩き落とし
ハイランダーの夢を焼き尽くす
「プロメテウスの火」が生まれた
トーキョーN◎VA The Detonation
『プロメテウスは火を運ぶ』天から落ちた炎は今、
キミの内で燃え上がる。
大戦の傷跡から復興し、次の世紀を迎えたドイツ。数ある名所の中でも最も美しいと言われるケルン大聖堂に、黄昏が訪れようとしていた。
暮れゆく光で話しているのは大聖堂に似つかわしくない神に背いた吸血鬼と、人間の若者だった。ドイツ系の女性のリーゼロッテと、ヨーロッパとインド系のハーフの科学者、ラージ・ラビリ。
ラージ・ラビリ「笑い話に聞こえるかもしれない。でも、科学によって不老不死は実現できるかもしれないんだ」
リーゼロッテ「20世紀にも科学者たちが考えたことだ。……だが本気なのか、ラージ? 神の領域に踏み込むことだぞ」
ラージ「神か……でも僕は探したいんだ。困難に挑むことが、生きる実感なのかもしれない」
彼が考えるのは、リーゼロッテのような呪われた血による超自然的な不死ではなく、ナノテクノロジーを用いた老化抑制による、究極的には不死を実現する人間の寿命延長だった。
若者の瞳は情熱に満ちていた。それは彼女が、沢山の人間の瞳の中に見てきたものだった。
災厄による大破壊を免れたヴィル・ヌーヴ。イタリア行政圏、フィレンツェ。遥かなルネサンスの時代から芸術の都として知られた街に、教会の鐘が響き渡る。
長い人生を経てきたラージは年老いていた。向かいに座る赤い髪の女性は若く、何も変わっていなかった。あれから50年が過ぎていた。
ラージ「夢のひとつにようやくたどり着いたんだ。わたしのナノ技術は、役目を終えたよ」
リーゼロッテ「そんな顔をするな、ラージ。そなたは定命の人間の一生としては、十分過ぎることを成し遂げてきたではないか」
老人の瞳には人生の悲哀が混じっていた。彼は語った。軌道世界から降りてきたが、もう二度と来るかもしれないということを。長い友情の証に渡されたものは、ホログラムの炎が揺らめく指輪『プロメテウスの火』であった。
ラージ「これを……。創るのが精一杯だった。もう地上に来る時間はないかもしれない。わたしの一番の友人である貴方に持っていてもらいたいんだ」
リーゼロッテ「待て、ラージ。そなた、また軌道に行くつもりなのか?」
老人が言外に示している覚悟を悟り、彼女ははっとした。
リーゼロッテ「ラージ。どうして人間はみな、いつもそう死に急ぐのだ!」
そして、彼が言った最後の言葉は……
それから50年。科学者ラージ・ラビリが成した不老不死研究の秘密は人間の歴史からは消え去り、指輪だけが不死の生を歩む吸血鬼の手の中に残っていた。
ヴィル・ヌーヴ、ドイツ行政圏。訪れる人間もいない古城で、紫の女卿は夜空を見上げていた。星々が巡り、運命が動き出そうとしていた。
リーゼロッテ「ラージ。そなたはこの指輪に、何を託したのだろうな――」
城の庭では、世界のあらゆる空を駆けることのできる機械仕掛けの黒い天馬たちが、出発を待っていた。
地球を遥か眼下に見下ろす静止衛星軌道上。ひとつのコロニーが終焉を迎えようとしていた。
断続的な爆発が起こり、コロニー内では赤い光が明滅する。
その中に映るのは2人の男であった。白衣の老人と、車椅子に座った男。
2人は激しく言い争い、車椅子の男は手を伸ばし、そして爆発の煙が全てを覆い隠す。
ある秘密結社の所有物であったコロニーは光の尾を引き、母なる地球へとゆっくりと落ちてゆく……
ニューロエイジのアフリカは雪と氷、激しい寒風に覆われた死の荒野となり、眠る旧世界の遺産やレアメタル、様々な秘密を覆い隠している。
今もひとつの探検隊チームが、吹雪の中で遭難しようとしていた。チームを構成しているのは山師、史学者、ジャーナリスト、宗教家、運び屋、冒険家、火星人、そして1人の女子高生である。
探検隊メンバー「視界が利かなくなってきたな……。まずいな、旧ケニア空軍の情報は使い物にならん!」
探検隊メンバー「あるいはランドマークを見過ごしたかじゃ。どちらにしろ移動は無理じゃのう……」
探検隊メンバー「神よ、我らを助け給え……」
みんな「やばい! 全滅しそうだ! ヽ(@▽@)ノ」
面白がってみな探検隊の死にフラグをさらに立ててゆく。(中の人:はたの人&総帥の人)
探検隊メンバー「なあ……綺麗な星が見えるぜ。あれがきっと……序死公星なんだろうな…… (;´Д`)」
探検隊メンバー「しっかりしろ! 眠っちゃダメだ! 俺たちにはユイがいる。あの子が俺たちの星なんだ!」
探検隊メンバー「最後に煙草を……一服だけ…… (;´Д`)」
電脳ナビゲーター役として現役女子高生を冒険に誘った火星人カーロスも、遂に観念したか。火星人も煙草に火をつけようとしたが、強風の中で火がつかなかった。
だが……ユイが電脳上の視界を伸ばし、吹雪が晴れたとき。なんと探検隊の目の前には、とてつもない大きさのスペースコロニーの残骸が広がっていた!
カーロス「こいつは……本当にすごいな。本当にあったのか……」
ユイ「カーロス、あんたもしかして信じてなかったの?」
星の世界から堕ち、数十年間眠っていたのであろうコロニー。中は発掘品とロストテクノロジーに満ちていた。
そして唯一の生体反応は……ぼろきれをまとった幼い女の子だった。物陰で小動物のように震えている。
探検隊メンバー「(銃を構えて)なんだ? エイリアンか? (`ー´)」
ユイ「違うよ! この子を連れて、N◎VAに戻ろう!」
アフリカ探検は大成功に終わった。メンバーは大金持ちになり、一躍有名人に。中でも命運尽きるかに見えた探検隊チームを導いた、女子高生の人気は高かった。N◎VAスポでは“美少女トレジャーハンター”の名で連日記事が踊り、巷ではユイちゃんグッズまで売られる有様である。
そんなある日、ユイの自宅に連絡が入った。
仲間たち「ユイか? た、大変だ。俺達、狙われているぞ! (´△`;)
仲間の学者先生の家に、銃を持った黒服たちがやってきたんだ。あぁ……俺の家にも……」
ユイ「ちょっと、何言ってるのよ! Σ(´□`;)」
異常気象で雪の舞う東京新星市、ある高級ホテルの最上層。
報酬と引き換えに誰でも仕留める剣客商売を長く続けてきた山村正は、依頼人と共にいた。依頼人はベルティーユ・サーディク、軌道の特権階級の娘である。ややきつそうな目元、肩で切り揃えた髪、柔らかな美しさを損なう硬い表情。張り詰めた雰囲気が彼女を支えていたが、その年は弱冠18,19と見える。
既に年も30過ぎ、世界が変革する前の時代からあちこちを巡り、刀一本で多くの戦いを生き抜いてきた山村から見れば、まだあやうい娘であった。
ベルティーユ「この会議で結論が出る。サーディク家を再興し、空に戻ることができるかどうか……。再興がかなった暁には、山。貴方には必ず報いるわ。約束する」
山村正「(耳をぽりぽり掻きながら)ま、期待しないで待ってるよ」
酔狂人がにやにやしながら待っているとやがて扉が開き、大部屋でオンライン会議が始まった。ハイランダーたちはみな高みから肘をつき、顔の前で両手を結んで若いサーディク家の後継者を見下ろしている。エヴァの会議シーンさながらである。周りにいるのはモノリス……ではなくホロ映像だった。軌道人たちの本体はみな、軌道コロニーにいるのだ。
会議メンバ「サーディク家の支援については多くの賛成を得ることができた」
会議メンバ「力量の証明として……現在N◎VAにいるこの者を連れてきてもらおう」
会議メンバ「この娘は大いなる遺産なのだ」
会議メンバ「功績の暁には、サーディク家を全面支援しましょう」
会議メンバ「ククク……かつての力を持たぬサーディク殿には、厳しい仕事になりましょうなぁ……」
会議メンバ「ここはお手並み拝見といきましょう」
ホログラムの写真に写るのは連日のニュースでもよく流れた顔……弱冠5歳ぐらいの少女の顔であった。
円卓会議が終わった後。後継者の娘は女の細い腕で、机をがんと叩いた。
ベルティーユ「遺産を手に入れねばならないわ。絶対よ。サーティグの復興は……貴方にかかっているの」
山村正「分かった分かった」
あくまで飄々とした剣客は娘の決意を軽くいなし、二人は部屋を出た。
山村正「――よく耐えたな」
それは、危うさを残した娘への、浪人からのせめてもの優しさだったのだろうか。報酬は残された時間相当のシルバー2枚であった。実験体強奪を果たすのに残された猶予はない……!
一方、新宿インペリアルパークの緑の中。かつてアジアの遊牧民が用い、ST☆Rの民が今も使うパオに似た移動式テントに特製の結界を張り巡らせ、若者と少女が暮らしていた。
N◎VAスポの謳い文句は「過去からの使者ふたたび――か?」。
マスコミやパパラッチから攻勢の相次ぐ少女トワを守り、“西風の守護者”こと仁志小十郎はここでしばらく暮らしていたのである。
小十郎「ほーら、チョコレートだよ〜 (´ω`*)」
お菓子を見せると寄ってくるトワは小動物のようだった。やがて打ち解け、幼い娘は若者には心を開くようになった。トワはいつも大事そうに、『Gift of Fire』の題が記された絵本を持っていた。
トワ「べんきょう、しました。あいさつ、おぼえたのです」
ある日、小十郎が料理していると切羽詰った声の電話が掛かってきた。誰あろう、彼にトワを託した火星人からである。
カーロス『そっちに変わりはないか? お姫様は無事か?
まずいことになった。アフリカでチームだった仲間たちと連絡が取れねぇんだ! ("д゜;)』
小十郎「え、何? こっちはいま手が離せないんだよ〜」
携帯コンロで料理の真っ最中だった小十郎は何気なく聞き流していたが、やがて事の重大さが分かってくる。
小十郎「カーロス、あんた何型だっけ?」
カーロス『俺は……えーとB型だ』
小十郎「射手座のB型の今日の運勢は、北に気をつけてね」
カーロス『分かった。北だな! 俺は南に逃げる。こいつは迷惑料だ。しばらくお姫様を頼む! (><)b』
小十郎「全身全霊をかけて、ぼくがトワを守るよ!」
カーロス『頼もしいな……! (><)b』
だが、その台詞もエプロン姿で決まらない仁志小十郎であった。
異常気象の影響でN◎VAは気温が低い日が続いていた。雪までちらつき、鈍色に立ち込めた雲に遮られてほとんど日も射さない。それは、吸血鬼にとって致命的な日光をも防いでいた。
オープンテラスのカフェ。スタンド付きのテーブルで悠然と新聞を読んでいるのは、欧州からやってきた、紫の長衣をまとった赤い髪の女性だった。彼女は感心しながら記事に目を通していた。
リーゼロッテ「名を上げたな、ユイ。立派な冒険家になったものだ」
N◎VAスポは刺激的な見出しで満載だった。
『探検隊メンバーは語る――「彼女が俺たちの星だった」』
『美少女トレジャーハンターの活躍――「ユイは、俺たちの序死公星だ!」』
ユイ「あれ……リーゼロッテ??」
すると、黒髪の典型的な日系人の現役女子高生が、カフェのそばを通りかかった。見出しの写真と同じ顔をした少女である。
年経た吸血鬼は時として、稲妻の如く素早く移動することができる。次の瞬間、ヴァンパイアの女卿は少女の真後ろに立ち、ゴシック調の日傘を回しながら微笑んでいた。
リーゼロッテ「久しいな、橘ユイ。すっかり有名人ではないか」
ユイ「ちょっと、人を驚かすのやめてよ!」
リーゼロッテ「そう言うな。この街は、そなたの商品で溢れているではないか」
そう、巷ではポケットロンやカバンにつけられるユイちゃんグッズまでばっちり売っていたのである。チア・エンジェルは生産が追いつかないに違いない。
二人がしばらく話をしていると、台風のように現れた一団がいた。幼い少女を抱えた1人の若者。そばを走る白い犬のような生き物。謎の小鬼たちが必死に追っ手と戦っている。追っ手は、災厄の街の物語の多くで不吉の象徴でもある、メン・イン・ブラックな黒服の男たちであった。
小十郎「トワ、ここは逃げるんだっ!」
トワ「トワ、てをしっかりにぎってるのです」
小十郎「急々如律令……てや〜! Oo(≧≦)oO」
MIB軍団「待て! その子を渡せ! うわ〜! (゜∀。)」
ユイは目を見張った。あのアフリカの大冒険でコロニーから助けた、あの小さな女の子ではないか。
ユイ「あれ、あの子、トワじゃ……?」
一方、少女を抱えて必死の西風の守護者も、かつてヘルメス魔術を習った師匠を認めた。
小十郎「あ、リリエンタール先生! ではまた! (*゚▽゚)ノ」
巡り出す運命のもと、神々の炎の導きのもと、邂逅を果たす者たち。だがしかし、仁志小十郎はそのまま行ってしまった。台風のような騒ぎが、女子高生と日傘の女性のすぐそばを通り過ぎ、そしてそのまま消えてしまう。
髪を乱す突風が収まった時、二人は顔を見合わせた。
ユイ「い、今のは……いったい……?」
リーゼロッテ「「小鬼の瞬間召喚か……新しいな、ゼピュロスの守護者」
呆然と見守る美少女エクスプローラーの前で、魔術の師匠は何やら感心したように呟いていた。
山村正は戦歴の長いキャストが持っているオフィシャルゲストコネの代表格、フィクサーのマイケル・グローリーと連絡を取っていた。最近めっきり影が薄く、イケてないマイグロである。
墜落したコロニーは生命科学の研究を行っていた。発見された少女トワには、何か高度な技術が使われているらしい。彼女を確保した者に出る賞金は、なんと500報酬点であった。ストリートも色めきだっている。マイケルもヤる気だった。
みんな「マイケルがイケてるクロマクになるつもりだ! ヽ(´▽`)ノ」
みんな「女の子をさらうなんてイケてないよ! ヽ(`ー´)ノ」
そんなことをしていると、もう涙目の少女を小脇に抱えた若者がやってきた。追っ手からやっとのことで逃げおおせてきた仁志小十郎とトワである。ペットの白虎も遅れて駆けてくる。
二人の背後で、雇われ剣客はヒュゥと口笛を吹いた。
小十郎「なんと山村さんじゃないですか! いやぁ山村さん、探してたんですよ〜 (☆▽☆」
山村正「そうか偶然だな。俺もお前たちを探していたんだ ( ´ー`)」
小十郎「ところで山村さん、血液型は?」
山村正「俺はB型だが」
小十郎「僕はO型なんですよ〜。いやO型とB型、相性もぴったりです! (>ω<)b」
そこへ不吉の象徴MIB軍団がやってきた。彼らは秘密結社“テラ・インコグニト”の尖兵たちだったのである。無重力の軌道世界からやってきた黒服集団はただものではなかった。武器は無反動銃である。熱すぎる。
またもやなんとか撃退した後、酔狂人は剣を収めて言った。
山村正「隠れ場所はあるんだが……」
小十郎「隠れ場所? 方角はどっちですか?」
山村正「北東だが」
西風の守護者は風水占いを始めた。一瞬で結果は出たようだ。
小十郎「よかったー。今日の僕はラッキー方向が北東なんですよー。行きましょう! (´ω`)b」
なんということだろうか。かたや大きな秘密を宿した少女を守るカブト、片や実験体の少女の強奪を企むカタナ。二人が出会いがしらに意気投合して合流してしまった。
ほりの監督の音声解説によれば、歴代のアクトでこれは初めてだそうである。果たして、もはや涙目の少女トワの運命や如何に?!
発見されたコロニーは元は軌道の名家サーディク家のもの、そして所有者は「未踏の大地」を意味する秘密結社“テラ・インコグニト”のものであった。軌道では生命科学を用いた不老不死の研究を行っていたという。
コロニーが軌道上で謎の爆発事故が起こり、地上に落下してきたのは50年前であった。そう、その年こそ……
雪が降り始める街。橘ユイは人だかりができた事件現場を訪れていた。大挙して倒れている黒服軍団の死体を、警官たちが調べている。実はゴニョゴニョのモニョモニョによって圧力を掛けられているため、この物語中では警察の捜査はあまり役に立っていないのだ。
SSS警部「はいそこ、ここは立ち入り禁止ですよー。テープから先は入らないでー」
しかし警官たちの中にもダメな人たちが混ざっていた。制服姿の女子高生を見た途端、彼らの目の色が変わる。他のプレイヤーたちも面白がってエキストラを演じてくる有様である。
SSS警官「ユイたん……本物だ! 本物のユイたんだ! (☆▽☆」
SSS警官「ああユイちゃん、入っていいよ入っていいよ (´ω`*)」
SSS警部「おい、お前たち勝手に入らせちゃ……」
SSS警官「警部、ご存じないのですか!?」
SSS警官「彼女こそあの美少女エクスプローラー、橘ユイちゃんですぞ! (o≧∇≦)o」
軌道から来た尖兵たちに、あまり手がかりはなかった。サインを求めるファン達からほうほうのていで逃げ出したユイはようやく落ち着くと、日傘を差して佇んでいるリーゼロッテに、地上の人間たちはほとんど知らない組織の名を尋ねた。前も占いやら何やらを教えてもらったことがあったのだ。
ユイ「ねえ。“テラ・インコグニト”って知ってる? 『未踏の大地』って意味らしいけど」
リーゼロッテ「若いのに感心だな。そなた、秘密結社のことを勉強しておるのか?」
真理を求める魔術師は微笑むと、顎に手をやって考えた。
リーゼロッテ「うむ。アメリカより始まり北米に今も続くフリーメイソンや薔薇十字団の階位の話なら、何なら今度私が講義してやってもよいぞ」
ユイ「いや、それは別にいいんだけど…… (´▽`;)」
一同「リリエンタール先生の講義キター! ヽ(´▽`)ノ」
リーゼロッテ「インコグニトか。インコグニートとも言う。懐かしい名だ。古いイタリアの言葉で、匿名者を表す。我が闇の一族の名を表すこともあるな。
古来より、知を好む者は秘密を好むものだ。そう、知られていない秘密の結社の名だよ」
舞台裏一同「おおー (・о・」
ユイ「それで、そいつらがあのコロニーで何か研究をしていたとして、あなたがどうして?」
リーゼロッテ「古い友人と関係していてな。もう……100年も前の話だ」
ユイ「ふぅん……ちょっと待ってよ。100年前? Σ(゚△゚;)」
美少女トレジャーハンターは、白すぎる肌を持ち、日光の元に決して姿を現さない年上の不思議な女性を見上げた。
リーゼロッテ「そうか。そなたにはまだ話していなかったか――」
やらないと全CGが回収しきれないという、ユイのイベントシーンがめでたく進行してゆく……
小十郎の中の人「CG2枚ゲト〜 ヽ(´ω`)ノ」
一方、仁志小十郎は。ヒロインルートでもトワルートでもなく、カレールートを進んでいた。
場所はホワイトエリアのホテル。山村正が幾つか持っていた隠れ家のひとつである。エプロンを締めるとカレー(栄養ドリンク相当)を作り、トワと仲良く食べていた。
トワ「トワ、カレーおいしいです」
小十郎「そうそう。たくさん食べて元気をつけないといけないからね〜。 (´w`)
元気のない時や病気の時は、同じ所を使った料理を食べるといいんだ。肝臓の病気になったらレバーのお肉を食べればいい。トワは、ニンジンは嫌いかい?」
トワ「トワ、にんじんもちゃんとたべるのです」
小十郎「そうそう。ニンジンは大地に根を張って生きる。だから大地の力がたくさん入ってて、だから体にとてもいいんだよ〜」
一同「小十郎先生の料理講座キター! ヽ(´▽`)ノ」
食事をして人心地ついたあと、暖かい部屋で幼い少女は大事に抱えている本を出した。
トワ「トワ、ねるまえにほんをよむのです」
『Gift of Fire』。それは神話の時代を描いた絵本だった。真っ暗な夜で火を知らず、震えていた人類。それに初めて火を与えたギリシャの神プロメテウス。だが大神ゼウスは言うのだった。人間は何も知らない方が幸せなのだと――
難しい話だったのか、眠くなってトワは目をこすった。
トワ「ふぇ……ねむいのです……」
一同「ほりのコズムきたー! (´ω`*)」
そう。こういうキャラクターを演じるにかけては、ほりのコズムはすごいのである。
トワ「トワのひみつ、とけたら。みんなしあわせになります。かなしむひと、いなくなります。おそらにいたとき、えらいがくしゃさんが――」
出生不明の少女にそう教えた学者は、果たして誰だったのか。西風の守護者が見守る前で、幼い少女はすやすやと寝息を立てて眠ってしまった。
だがそこへ。ドアを開けて入ってくる不吉な影が。
皮肉げな笑みを浮かべた日系人の男。携えるは無銘の日本刀一本。剣客商売を続ける酔狂人である……!
山村正「ほんとに持つべきものは……ネギをしょった鴨どころか、ネギとカモを両方持ってやってくるダチだな (´ー`)y-~~~」
小十郎「ぽ? (・о・」
仁志小十郎は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしていた。
あらゆる戦の守護神よ御照覧あれ! すやすやと眠る幼い娘、そしてそれを付け狙うは、多くの標的を斬殺してきた手練の剣。ここは、西風の守護者がカブトぢからを発揮してくれるのに違いあるまい。
仁志小十郎は何をするのかというと、ボンクラプレイを始めた。
小十郎「ヘッヘッヘ、いやぁダンナ〜、そろそろ来る頃かと思ってたんですよ〜」
山村正「(ニヤニヤ)ほう、お前さん少しは話せそうだな (´¬`)」
エニグマの白虎「ウ、ウーッ!(警戒しながらトワを背に乗せて逃げる準備)」
小十郎「ダンナにいい話があるんですよ。このスケ、500プラチナムで売りますぜヘッヘッヘッヘ」
こっそり逃げる準備に入りながら、仁志小十郎はもみ手でヘラヘラと商談を始める。あまりのボンクラプレイに、カメラをドミネートして電脳から意識体登場していた美少女トレジャーハンターもツッコんだ。
ユイ「あんた、ボディガードじゃなかったっけ? (・_・)」
小十郎「(断言)もちろんですとも! (><)b」
そこへいきなりの爆発音! ドアが吹っ飛ぶと黒服の面々が現れた。秘密結社テラ・インコグニトはまだ諦めていなかったのである。爆破工作ぢからであたりは大混乱に陥った。ホテル上層にある部屋の窓ガラスが吹き飛び、大変なことになる。
災厄の街には粉雪がちらつき、夜の帳が訪れようとしている頃合だった。魔力が高まり、夜の秘密の種族たちが動き出す時間だ。
四頭立ての馬車の中で物思いに耽っていた紫の女卿は、ふと窓の外を見やった。中央区の夜空を貫く摩天楼、ホテルの上の方で爆発が起こるのが見える。
リーゼロッテ「ほう――夜が動き出したようだ」
ようやく、俗にPC1と呼ばれるキャストのシーンとなった。リーゼロッテの中の人は、ほりの監督の右側に座っていたので最後だったのだ。
夜の力が満ち始めた災厄の町。魔力が弾幕となって走る。
小十郎の中の人「なになに、ラブい話? (*゚∀゚*)」
ほりの監督「ちょっとはたさん! その弾幕はしたないですよ! (><)」
リーゼロッテの中の人「じゃあラブっぽい話するか〜」
ゴシック仕立ての品のよい馬車の中にちょこんと座った橘ユイは、どこか所在なげにしていた。御者もなく独りでに走るのは黒曜石の如く漆黒の、キュンストリッヒ・ペーガズスの四頭。彼女の向いには、金糸のルーン文字を縫い込んだ紫の長衣をまとった吸血鬼が座っている。
リーゼロッテ「そなたは乗るのは初めてだったな。古代ギリシャでは天馬は不死の象徴でもあった。我が一族には相応しいであろう」
リーゼロッテが託された指輪には、ニューロエイジの高度な技術で何かが埋め込まれていた。ホログラムの炎はそれ自体が秘密を指し示していたのだ。何かの方角を指し、炎はゆらめいている。
50年前に贈られた指輪をそっと握ると、夜の旅人は呟いた。
リーゼロッテ「ラージ。そなたは、この指輪に何を託したのだろうな……」
かたかたと走る馬車の中で、吸血鬼の魔術師はいつも携えている古めかしい魔道書を開いた。グリモアはひとりでにページがめくられていく。
リーゼロッテ「紫の女卿の名において我は召喚す。いでよ、三十六の軍団を指揮する神秘の賢者、ダンタリアン公爵!」
千の顔を持つローブ姿の悪魔はうやうやしく秘密が記された書物を差し出した。エニグマの<※アドバイス>が走ったところでリサーチ進行である。
軌道で研究されていたのは不老不死をもたらすウィルスであった。それが他者に渡るのを嫌ったゴニョゴニョは関係者を全て抹殺して回っていた。ラージ・ラビリは最後にそれを、追っ手の届かない地上に逃がしたのだった。そう、指輪とコロニーに残された何かが関係しているのだ……
ユイ「それで、これが大乱闘の映像なんだけど」
高級ホテルでの大騒ぎの一部始終を映像に捉えていた橘ユイは、トロンで内容を見せた。どう見ても、仁志小十郎はトワを売ろうとしているように見える。
ユイ「これ、ほんとに渡すつもりなのかしら。それとも見せかけ? (・_・)」
最後は爆発で映像は消えていたが、少女トワは果たして、500プラチナムで売り払われたのだろうか。慣れないトロンの映像を、眉をひそめて見ていた魔術の先生は、咳払いした。
リーゼ「(おほん) う、うむ……だが古来東洋の諺に『兵とは詭道なり』とも言うからな」
舞台裏一同「いま、先生がいいこと言った! (´ω`)b」
ニューロエイジの軌道世界の三大名家といえばサーディク家、フェスラー家、そして千早家である。(Revolution時代の『トータル・エクリプス』に「有数の名家」と記述があり、ハイランダーSSS『夕日の沈む朝』もこれに習って三大名家と記述している。)
スペースコロニー『ルオド・ルオディ』を本拠地としていたサーディク家の当主、オフィシャルでは珍しくアフリカ系だったグレゴール・サーディク、そしてその後を継いだベルナルド・サーディクは、実際には上の某オフィシャルシナリオであっぱれな最期を遂げている。
しかし一般には「テロで死んだ」と伝えられていた。そして、残された天上の姫たるベルティーユは、コロニーを取り戻そうとしていたのだ。
一方、フェスラー家の超大物、ゴニョゴニョは自らが地上に来ていた。世界を変える大きな遺産を回収するために。そして彼には強力な手勢があった。かつて世界を震撼させ、多くのキャストが戦ったであろうゴニョゴニョ。かつて北米の持ち物であった強力なゴニョゴニョ衛星、ゴニョゴニョである!
夜の力満ちる災厄の町。ホテルから場所を変え、またも二人の男が対峙していた。
片や、多くの相手を始末してきた用心棒の刀を今にも抜かんとする山村正。片や、しがみついて怯える少女を後ろに、対峙する仁志小十郎。
小十郎「この子の未来はこの子の物だ。ここから一歩でも近付けば――」
ああ、トワは500プラチナムで売り払われてはいなかったのだ。全国の若カブトファンよご安心あれ。西風の守護者はようやく今、ボンクラプレイを経てようやく今、真のPC1として……
小十郎「……一歩でも近づけば、何が起こるか僕にも分かりません! ヽ(@▽@)ノ」
一同「ヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノ」
腕のラチェットDタップが光り、得意の混合魔術で召喚されたのは、なんと空中に浮かぶたらいの群れであった。素早い抜刀と共に抜いた山村正が踏み込み、一刀両断すると、今度は当然ながら中から水が降ってくる。
決戦というには少々様にならない対峙を二人が続けていると、こつこつという馬の足音と共に、見慣れぬヴィークルがやってきた。N◎VAでは珍しい四頭立ての馬車である。
ドアから悠然と降り立ったのは、紫のローブをまとった背の高い女性だった。横から美少女トレジャーハンターのユイも顔を覗かせる。
小十郎「リリエンタール先生!ちょうどよかった!」
リーゼロッテ「今度はたらいの召喚か。新しいな、ゼピュロスの守護者」
妙なところに感心し、右手に魔法の杖を携えた女性魔術師は近付いてくる。雇われの剣客も新たな登場にニヤリとした。
山村正「ほう、お前さんが例の別嬪の先生さんか」
よく考えるといまどき別嬪である。山村先生らしいかなり古風な言い回しだが、果たして吸血鬼の女卿には聞こえたのか。
リーゼロッテ「いかにも、我が名は紫の女卿。今宵、この炎に導かれてここに参上した」
人化も隠密もせず堂々としているアヤカシの永生者はローブを翻して毅然と立ち、微笑んで左手を示した。カリスマの<※名声>ぱわーが効力を発する。指輪『プロメテウスの火』の揺れる炎は確かに、運命を指し示していた……
一同は剣を収め、場所を変えて話し合った。50年の時を経て、運命は巡り始めた。あの星々と序死公星と、指輪に託された想いが彼らを導いたのだ。
徐々に明らかになる真実。トワ強奪を企むゴニョゴニョにはもうひとつ切り札があった。自身の暗部が人の形を取ったという歪んだ人格を持つ凄腕の殺人者、ゴニョゴニョである。
話終わった面々は、改めて一同を見渡した。
小十郎「そういうわけで、天上の姫と小さき姫には盾が必要なんですよ〜」
リーゼロッテ「なるほど、ではそなたが、天上の姫を守る最後の騎士の剣というわけか」
山村正「よせよ。俺の剣は浪人の剣だ」
女卿の言葉にも、剣客商売の酔狂人はにやりとするだけだった。
西風の守護者は一同を見渡し、決意を固めた。
小十郎「そういうわけで、小さき姫を守る盾に僕がなる。そして山村さんの浪人の剣がある。そして“スーパー美少女エクスプローラー”のユイがいる。そしてリリエンタール先生のようなアークウィザードがいる。
みんなで力を合わせて、道を開こう! (><)b」
“美少女トレジャーハンター”からさらにレベルアップである。一同は一致団結した。時の旅人は不敵に微笑むと、ひとつだけ訂正する。
リーゼ「(おほん) 小十郎。私を表すならばアークウィザードではなく、アークウィッチだぞ」
小十郎「あれ〜そうでした〜 ヽ(@▽@)ノ」
指輪を少女トワがはめた時、その秘められた力ゴニョゴニョが解放される。世界を変えるほどの大いなる力である。だが本当に、解放すべき力なのだろうか?
橘ユイは回想した。あの極寒のアフリカで大冒険の果てに、生死の境をさまよった果てに発見したコロニー。連日のメディアの攻勢。だが、それよりも大きな力、人類の歴史を変えてしまう力が、あのコロニーには隠されていたのだ。
ユイ「不老不死か。……でもリーゼロッテ、永遠に生きるって、楽しいことなのかな」
リーゼロッテ「その通りだ。私は何人もの人間が死んでいくのを見てきた」
時の旅人の瞳は束の間、遠くを彷徨った。
リーゼロッテ「高潔な者も、勇敢な者も、知恵ある者も、愚かな者もいた。
それらが全て、死んでいくのを見なければならない。
これが我が一族が神に背いた代償、不死の呪いだ――」
そして舞台はオープニングと同じ、50年前の回想シーンに繋がる……
美しいフィレンツェの街には教会の鐘が鳴り響いていた。50年前の、あの最後の会合の夜。
ラージ「わたしが求めていたのは何だろう。夢をがむしゃらに追い続け、ひとつの形となったのに。
貴方は今も変わらない。今も美しいな……。私が求めていたのは、貴方だったのかもしれない」
老人の瞳には様々な色が入り混じっていた。話を聞いた彼女は、そっと言った。
リーゼロッテ「――私は50年間、そなたから一回も血を吸わなかった。そうして正しかったと思っているよ。ラージ、そなたは真に高潔な魂の持ち主だ」
そして老人は語った。世界に唯一の指輪を造り、残した理由を。それを友人に託した理由を。その顔には、人生で為すべきことを為した男の、満足げな表情が浮かんでいた。その瞳を見た時、2世紀の夜を生きてきた女は言った。
リーゼロッテ「――ラージ。私の祖国が一度滅んだ時、最後まで戦った勇敢な男たちも、そなたと同じ目をしていたよ。
分かった。ならば……私からは何も言わない。行くがよい――」
回想シーンは終わり、現在。浪人は天上の姫を呼んでいた。ベルティーユ・サーディクに向かい、面々は話す。少女に秘められた秘密、彼女の目的。軌道の円卓会議が出した条件。
山村正の話に、彼女は言った。
ベルティーユ「私が望むのは空に上がること……未来だわ。永遠ではない。軌道の老いぼれたたちには過ぎた力よ。私は、当主の首級をとる」
計画は変わった。浪人の剣を携えた男は頷く。
小十郎「約束してください。彼女をもの扱いしないって」
ベルティーユ「ええ……約束するわ」
白虎と戯れるトワを見やり、天上の姫は言った。
いつの間にかソファに座り話を聞いていた、吸血鬼の女卿も頷く。
リーゼロッテ「よかろう。もしも最初の計画に固執するようであれば……私はそなたを、大義ある人間と認めないところだった」
運命はここに交わった。天上の姫と小さき姫、それらを守る剣と盾、そしてスーパー美少女エクスプローラーとアークウィッチは共に動くことに……
シーン終了後、監督から音声解説が入る。
ほりの監督「今回は敵そんな強くないんですよ〜 (っ´▽`;)っ」
ひよこ衛星の偵察の通りである。ほりのシナリオは(一部を除いて)それほど激烈に強いゲストデータではないことが多いのだ。帝都近辺はヘビーユーザーが多く経験点も豊富なため、そうしたキャストに対応するインパクト重視のとにかく敵が強いシナリオが注目を引きやすいのも影響しているだろう。
特に浪人の剣を振るう山村正はカタナ2枚、通常行動でも<■二天一流>からの連続した高い攻撃力を有しているため、《死の舞踏》が余ったりすることもあるかもしれない。だが、星々と序死公星に導かれ集った今回の旅人たちに、そのような心配は無用であろう。
はたはたの人「先生、フラグはマカブルできますか? (´・ω・`)」
ほりの監督「できます。生き物ですから! (><)b」
分かったような分からないような解説がなされた後、いよいよ舞台は佳境へ……。