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【感想】『ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方』 #ここアジャ

ここアジャ! (4文字タイトルっぽく)

 業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士として様々な書籍や講演などで知られる沢渡あまねさん、あの『カイゼン・ジャーニー』でもお馴染みの新井剛さんがタッグを組んだ、なんかIT書籍界のドリームタッグ的態勢からのアジャイル開発最初の一歩の入門本。2020/10/14に出たばかりの本です。

登場人物紹介、プロローグ

 小説パートの主人公は相良真希乃女史。舞台となる大手精密機器メーカー ハマナ・プレシジョン社に3年前に転職してきて現在は情報システム部門配下の運用チームを束ねる課長代理という設定。33歳で文中の描写から見るに独身、人の話はきちんと聞き入れる素直な性格、前向きで、かなりのキャリアウーマンに見えます。
主人公も女性ですし舞台はソフトウェアエンジニアの開発チームではなく情報システム部門、なかなか異色です。
 ハマナ・プレシジョン社も会社名は横文字ですが、作中の社内文化の描写を見るに日本企業ぽさがあちこちに出ています。静岡県浜松市浜名湖のあたりに大きな工場とか創設の地があったりするのかな?と思ったり。

 他にもやれば伸びそうだけど眠そうで受け身体質の部下、見るからに作中で抵抗勢力になるんだろうな~というおぢさん、ベテランの女性社員、社員でなくグループ会社所属だという障壁に阻まれている人などなどが登場します。
 こういう話によく出てきそう(な気がする)意欲のあるフレッシュな若手の女性もいますが、登場人物の平均年齢は高め、オフィスが舞台のIT小説としてなかなかリアリティがあります。女性の登場人物も多くワーママもいたりして、21世紀の今っぽい感じです。

 主人公の真希乃女史は突然の異動で認証基盤運用チームの管理職を任されることになります。急遽リリースされたばかりの社内システムの面倒を見る情報システム部門の中の運用チームです。メンバーは社員の若手1名、外部会社のエンジニア2名、ヘルプデスクのチーム、そしてインフラなど社内の他チームとも連携が必要ですが上手く行ってない。
リリースしたばかりのシステムはトラブルだらけ、悪のパワーワード「運用でカバーしろ」がまかり通ってしまう、かなり士気の低い現場。
 小説とはいえ、様々な会社を渡り歩いてきた著者の沢渡あまねさんの過去のご経験がかなり反映されているなーという感じの、プロローグ時点ではかなり先の思いやられる職場です。

第1章 無力感

 受け身な部下、個人ベースでなんとかこなしているだけの無力感に満ちた現場。残業して疲れた相良真希乃女史は遅い帰りの電車の中で、週末のアジャイルの勉強会に行ってみることを決意します。
 普段はLTが主ですがその日は長い基調講演だったということで、割と首都圏のふつうの勉強会っぽいですね。ここで基調講演をしていた中須賀葵女史に勇気を出して話しかけ、のちにアジャイルの師匠となるこの人から様々なことを学んでいきます。
 アジャイルの講演をするぐらいだからこの人はどこかの名のある会社で流行りのエンジニアリングマネージャーでもしているのかと思いきや……北欧雑貨を扱う通信販売の会社の人という設定。このへん、アジャイルを適用できるのはソフトウェア開発だけではないのだ!という本書の想いを感じます。(笑)

 また細かなネタとしてはこの勉強会の参加者のデバイス9割がMacという描写がありますね。Webエンジニア系など先端技術の勉強会だとほぼオールMacクラウド系などビジネス寄りの人も参加するイベントだと半々ぐらいというのが自分の感触だったのですが、新しいものが好きな人が集まるイベントだったようです。

 後半の解説ではまずはアジャイルの基本から。ウォーターフォールは開発方式だがアジャイルは「思想」であり「あり方」であって、この2つは2項対立でなく共存できること。一部を取り入れることも可能なこと。あの有名なアジャイルマニフェスト宣言の話などが解説されています。
 最後にさらなる探求として、アジャイルに正解はなく常に現在進行形であり、変化できる姿勢を持つことが大事である。"Do Agile"でなく"Be Agile"が本質であると述べられています。このへんの根本的なところは大事ですね。

agilemanifesto.org

第2章 小さな一歩

 師匠に職場の問題を相談した真希乃女史は、まずはチケット管理とホワイトボードを取り入れるといいよというアドバイスを受けます。まずは職場でBacklogによるチケット管理、朝会と夕会を取り入れていきます。
 ちなみに舞台のチームでは朝会は9:45、夕会が16:00という決まりです。朝が遅めなのは子供の保育園の送り迎えがあるメンバーへの配慮というのがリアルです。しかし部下の若手の森岡平氏の寝坊対策でもあるとのことで、いやそこはちゃんと起きろよ!と思ってしまいました。(笑)

 後半の解説ではまずは個人での受け止めからチームでの受け止めに変えてタスクを回していけるように、チームの機能化の目指してチケット管理で見える化してやっていく方法が解説されています。実際のチケットの例が、あるユーザがログインしようとしたら認証エラーになったというの対処になっていていかにも運用っぽいです。

 朝会夕会の解説ではちょっとした会話で顔色や健康状態も分かり、チームの安心感も増すことが解説されています。
最後によいチームの指標として、画面なりホワイトボードなりの前に集まったとき、全員が均等に綺麗な半円形に並んでいることが大事であると述べられています。主導権を取ろうと前に出たり人の後ろに隠れたりする人がいるのは悪いサインな訳ですね。このへん地味だけど大事なんだなーと思いました。

 さらなる探求としては手段を前面に出さずに、とにかく現場が楽になるようなことから始めるといいと述べられています。変化に乗り気でない人のことも予想してあるあたり、本書は全体に渡ってリアルです。

第3章 抵抗

 作中の運用チームでもチケット管理が無事開始しました。しかし案の定、面倒くさがる人が出てきます。技術力や経験は豊富だけど癖の強いベテランという設定の原野谷渉氏が枕詞「そんなことして意味あるの?」と言い出したりして、なかなかうまくいきません。

 師匠に夜にオンラインのWebミーティングで相談するシーンがあり、作中世界ではコロナは発生していないようですが、このへんなんだか2020年ぽいですね。
 そこで得られたアドバイス「やってみる」「ふりかえる」の2つの「る」をまず実践すること。駄目なら辞めちゃってもよいし、良かったらその成功体験を言語化すること。

 職場もチケット管理のメリットデメリットを話し合うことになり、付箋でみんなで意見を出し合い、メンバーからも案が出てくるようになります。次は朝会夕会でチケットを確認していくことになりました。

 解説では「Just Do It」として、新しいプラクティスはまずは少人数で小さく短く回し、良かったこと悪かったことを振り返り、気づきや発見を楽しんでいくことが解説されています。
 付箋については、声の大きい人の意見が増大するのを防止してメンバーの声を平等に吸い上げることができる、1枚の付箋には1つことだけ書く、発表では各自が付箋1枚分づつ交代で話す……などが解説されており、このへんも小さいことながら重要なテクニックですね。

 さらなる探求では朝会夕会、見える化、ふりかえりと複数プラクティスをやると相乗効果が生まれ、やがてカルチャーの変化に繋がることが述べられています。サイクルを回すコツとしては以下が述べられています。アジャイルと聞けばいいけどなかなか上手く行かない現場も考えて書いているあたりがリアルですね。

  • 放置が多い:最初の手軽な一歩をやってみる
  • 大計画主義になってしまう:軽い実験の位置付でやる
  • やりっぱなしで評価できない:最初に仮説を立てて、ゴールに近づいているかを評価する
  • 手探りで始めるのが不安:まずはやってみた事実や数値を記録してみて、次回のサイクルに活かすなど

第4章 変化

 運用チームで起こった変化が広がり、他のチームでもBacklogを使いたいという声が上がったりして、よい感じに改善が進んでいきます。真希乃女史の次なる一手はチャットツール、ということでエンジニア界隈では定番のSlackを提案。しかし偉い人にすげなく却下されてしまいます。この時のセリフが「はあ、チャット?遊びのツールだよね」で、ITエンジニアが聞いたら実にイラッとしそうな上司です(笑)
 しかもせっかく軌道に乗ったホワイトボードまで却下されそうな流れになり、ピンチに……

 コラムとしてチケット管理は組織の「判例集になり、蓄積した情報が後で役に立ったり事例になったり新規参加者へのガイドになったり、様々に役立つことが解説されています。
 解説パートではタスク管理の利点を深掘りし、こうした新しいツールを組織に広めていくための手順も言語化されています。まず小さく試す→初めての人と一緒に操作する→全行程を一度体験してもらう→精神的な楽さのメリットを体感してもらう→必ずふりかえる、という流れです。ここも実地で役に立ちそうですね。
 別のコラムでタスク名は状態ベースでなく作業ベースで命名していくのがよいとガイドされており、例に挙げられているタスクが「カレーの作り方」でとても分かりやすいですね。

第5章 意外な理解者

 さぁホワイトボードまで撤去されそうになってピンチの真希乃女史。しかしここで喧嘩別れで終わっては今までと変わりません。こうして偉い人に従うだけだと上に従順なだけの人、顔のない妖怪カオナシが量産されてしまう、他の部署からいらない子扱いされてしまう部署になってしまう……と考えるくだりが、ジャパニーズトラディショナルな日本企業の一面を表しているなあと思います。
 ここではさらに偉い人がたまたま通りかかって会話して距離が縮まり、ホワイトボードの良さを分かってもらったことから事態が好転。アジャイル師匠が教えてくれた「説得戦略より、納得戦略よ」のワードが効果を上げてきます。ユーザエクスペリエンスを実感してもらい納得すると、人は動く訳ですね。Googleが提唱して以来あちこちで聞くようになった心理的安全性」のワードもここで登場します。
 そしてまだ諦めていないSlack導入作戦を成功させるため、LT大会で情報収集へ……

 解説パートではホワイトボードの価値を改めて深掘りして言語化し、ステータスによって分類するなどのテクニックを紹介しています。ホワイトボードは「情報ラジエーター」である、というメタファーが面白いですね。
 付箋は互いに貼り合わせると自重で落ちるのでホワイトボード自体に必ず重ねて貼った方が良い、なども何気に実践テクニックです。本書ではデジタルツールとアナログツールはそれぞれ特徴を示し、重複管理は避けた上で良いとこどりで両方使うのが良いと解説しています。

 心理的安全性の深掘り説明で、仕事場が「業務をする場所」からそれぞれが工夫を凝らした「秘密基地」と認識するようになると良い...というメタファーがあり、なるほどと思います。
 小ネタとしてはホワイトボードに親しみやすい名前を付ける例で「○○ダム統合管理事務所」というネタが入っています。こんなステキネームのホワイトボードが並ぶオフィスが実在するのでしょうか。さすが、ダムのそばでの仕事に定評のある沢渡あまねさんやで……

第6章 相手のキーワードに飛び込む

 舞台のハマナ・プレシジョン社でも最近1on1を導入したそうで、真希乃女史は上司の絡みづらい課長とじっくり対話することに。イラストでも文中の描写でも、このおぢさんは見るからに話しかけづらそうなのが笑います。
 意外にも社員のエンゲージメント向上が上層部で課題になっているとのことで対策を話し合います。「相手のキーワードに飛び込む」を実践した真希乃女史はこの対策にうまく巻き込む形でSlackを提案。やっと承認が下り、メンバーも喜びます!

jinjibu.jp

 解説パートではチャットツールの「言える化」によるメリットを整理して言語化。Slackが例ですがガイドライン、チャンネル名の付け方などなどを解説しています。
プロジェクト別のチャンネルの付け方の例は「proj_プロジェクト名」になっていますね。ここの略し方は会社の文化によってpj、PJ, prj, proj といろいろありそうです。
 さらなる探求では本書の小説パートでの主人公と上司の立場を言語化し、共通のゴールに進んでいく様子を図で言語化しています。対立するのではなく、「断絶に橋をかけていきましょう」という締めがエモワード...!

第7章 快感体験

 さっそくSlackを活用し始めたチームではコミュニケーションが格段に改善し、チケット番号でスムーズに会話したりするようになります。
 なんとその先はタイミングよくオフィスのレイアウト変更の大仕事が。周囲を味方に付け、これまではフロアの端っこに縮こまっていた運用統制チームはフロアの真ん中に陣取ることに。
「執務エリア」「コラボレーションエリア」「会議エリア」「リフレッシュエリア」を備えた、シャレオツなオフィスが出来上がりました。エンジニア絶賛募集中の今どきの企業サイトの社内紹介のページに出てきそうです。仕事しやすく、一人で悩みを抱えず、フルコミットでき、社員が成長できる職場...

 解説パートでは空間をデザインしてコラボレーションを誘発し、コミュニケーションをよくしていく手順やポイントを説明しています。人の導線で互いが出会うように仕向け、雑談力を上げて無駄な会議を減らす。例としてお菓子置き場で「おやつ神社」を作る話なんかは面白いですね。
 さらなる探求では「チェンジエージェント」(変革を担う代理人)の話も出てきて、誰もいなかったらあなたがやろう!と読者を鼓舞しています。

jinjibu.jp

 オフィスレイアウトの話題まで出てきて、なんかもうアジャイルと(直接は)関係ないじゃん...! という気持ちになりますが、本書の前半にあるようにアジャイルは思想でありあり方である訳で、良いオフィスへの変化を受け入れて気持ちよく働けるようになったらパフォーマンスが上がってみんなハッピーになって、これもアジャイル文化な訳ですね。
 アジャイル関連の本でオフィスレイアウトの話が出てくるのは自分的には初めて見た(気がする)ので、このあたりは新鮮でした。

第8章 衝突からのセイチョウ実感

 今度は運用やユーザから見たら納得できない仕様のシステムが開発チームだけの都合で勝手にリリースされ、真希乃女史はイケメーンの開発コンビと直接バトルしてしまいます。
 物語の舞台では女性の比率が多いのか、様々な職種の人が集まっているからか、イケメンかどうかも評価基準のひとつになっているようです。(男性の割合が多い開発の現場なんかだとあまり見ないような?)

 しかしバトルで衝突していては今までと変わりません。ということで「クロスファンクション(組織横断型)」の集団を作り、各チームから人を出して自分事として事に当たっていくことになり、徐々に相互理解が生まれていきます。最初に必ずドラッカー風エクササイズを使って互いに自己紹介、定期的にKPTでふりかえり、コミュニケーションはBacklogとSlackを使うという寸法です。
 フロアではコミュニケーションが活発になり状況は好転していきます。前章で解説してあった「おやつ神社」も出てくる。細かいネタとしては真希乃女史の感じ悪かった部下の人にも、ギャップ萌えな隠し属性があるのが判明します...!(そこじゃない)

 解説パートでは断絶が二項対立の衝突を招いていたことを解説し、「ドラッカー風エクササイズ」のやりかたを解説しています。自分が得意なこと、自分が貢献すること、自分が大切に思う価値、メンバーは自分にどんな成果を期待しているかの4つを付箋で出していく方式です。このエクササイズは理解が深まりそうですが自分はやったことがないので、怖くもあります。
 ネガティブな側面を聞き出すエクササイズとして、不得意なこと、よくない仕事の仕方、地雷原の3つを自分から言っていくのも紹介されていて面白いですね。

 Keep, Problem, Tryの「KPT法」の振り返りについても詳しく解説してあります。マンネリ化を防ぐためとして派生形のYatta/Wakatta/Tugiの頭文字の「YWT法」、「Fun! Done! Learn!法」も書いてあります。
 さらなる探求ではモブプログラミングならぬ「モブワーク」として、業務フローをみんなで回して俗人化を下げていく手法も紹介されています。「ECRS」というワードは本書で初めて知りました。

第9章 越境

 職場は良い感じに変化が続き、次の開発では要件定義から運用チームにも入ってもらうというチャンスが巡ってきます。こういうのは若手のメンバーには絶好の機会ですしよい兆しですね。「ありがとう」を言う文化も浸透を始め、セイチョウが続いていきます。

 解説パートでは最近よく聞く奉仕型の「サーバント・リーダーシップ」の話を深掘りしています。みんなでありがとうを出し合う「賞賛の壁・サンクスボード」の具体的なやりかたも解説しています。確かにこれがあったらモチベーションが上がりそうですね。
 コラムでは「ハイパープロダクティブなチーム」として「量」ではなく「価値」に重きを置いた高生産性のチームの話を論じています。アジャイルなありかたではアウトプットより「アウトカム(成果・価値)」が重要ということですね。
 大企業の、特に大規模な開発になると何事も量で判断しがちなので、こういうところは意識を変えていかないとな~と思いました。

第10章 さらなる成長

 作中の一大事になるのかと予測された子会社への業務移管は順調に進み、作中の舞台ではセイチョウへの自走が続きます。要件定義段階で机上テストをしたい...というアイデアが出て意外にもここでTDD(テスト駆動開発)のワードが登場し、もはやOpsとDevsが渾然となってきています。
 チームの取り組みとしてはチケット棚卸、気分を変えてのふりかえり合宿、アンチパターンのストーリー化、ランチ勉強会、社内のライブラリ、マンスリー勉強会、社外勉強会への参加などが実践されていて、もはや運用チームの物語なのかエンジニアチームの物語なのか区別がつかないほどです。

 解説パートでは様々な仕掛けを「ふりかえりむきなおる」「ナレッジマネジメント」「発信の文化」の互いに一部重なり合う3分類でそれぞれ深掘っています。中でも「発信の文化」で社外への情報発信が、仲間を増やしたりカルチャーを外に伝えて人材採用でも優位になれたり、組織の優位性や会社の戦略の一部になりえると論じているのが今っぽく、なるほどなあと思います。自分的にはこの発信の文化がへーしゃやエンプラ界隈でなかなかまだまだ広がらないのが残念に思っています。
 さらなる探求では、自己組織化していくチームで意識したほうがよい「8つのP」が紹介されています。
People, Practice, Place, Process, Project, Product, Pattern, Performance とよく8つも語呂合わせしたなという感じですが、このワードは初めて知りました。

エピローグ

 冒頭のかなり先が思いやられる状況からここまで成長した現在を主人公の真希乃女史が振り返りながら、小説パートはいい感じに爽やかに終わっていきます。
 と見せかけて……最後の最後、とある出来事と、ITエンジニア界隈にもなじみ深いとあるイベントが実名で登場します。

なんとなんと全部架空に見えたこの物語は、この2020~2021年の現実世界とちゃんとリンクしているのが最後の最後で分かるのです!!

 このくだりはぜひ実際に読んで確かめていただきたく。ちょっと長い本書のタイトルも、なぜこの名前なのか最後の最後で分かります。
なんというエモエンディングや…くっここでタイトル回収とか……こんなんアニメの最終回みたいやないか……うっ、目から汗が……

まとめ:非エンジニアでも手軽に読めるアジャイルエッセンス習得の本

 小説パート、解説パートの両方とも文章のボリュームもそれほど多くなく、手軽に読めます。本書の登場人物たちと同じような運用や情シスの立場、あるいは人事とか総務、採用担当、会社やフロアを改善していきたい方、非エンジニアの方にこそお勧めできるでしょう。
チケット駆動開発にチャットなんてもう当たり前だぜ~というソフトウェアエンジニア勢には前半部分は若干物足りないかもしれませんが、そこは入門書の位置付けなのでしょうがないかと思います。

 また小説パートの情シス部門の話も現実的ですし、後半の解説パートもちょっとずつ実践することやうまく行かない時のことも記述がありリアルです。アジャイルというと高尚で難しい話とか意識の高い理想論に羽ばたいてしまう時もある気がするので、こういう地に足がついた所は良いですね。

 僕のところでもフロアレイアウト改装にコワーキングスペース導入、1on1制度開始、全社的にも変化を呼びかけ、チャットはSlackは一部だったところ全社標準ではTeamsが去年から導入が始まってコロナ禍で一気に普及……と変革が現在進行形で進んでいるところなので、本書の小説パートにも親近感を持ちました。2020年現在の日本企業の変化の場を体現している本という感があります。
また自分はもろに開発側の人なので、本書の物語のように運用側を下に見たりしないよう自分を戒めないとなあと改めて思います。

 後書きに沢渡あまねさんご自身がアジャイルウォーターフォールかのゼロかイチかの話には嫌気がさしていたという話が書いてあり、ここは非常に同感です。IT関係のワードって何かと二項間対立になりがちなんですよね。
 確かに本書の小説パートの中身には、「ウォーターフォール」「アジャイル」の単語自体は意外なほど出てきません。自分たちでカイゼンしたりセイチョウしたりしていったら結果的に自然とアジャイルの思想に寄り添っていたこともありますからね。
 こんな本を書きたいと前から思っていたところ、あの『カイゼン・ジャーニー』が先にどどんと出てきてやられた!となったこともあとがきで正直に書いてあり(笑)、その新井剛さんとタッグを組んで別の切り口での本書となったそうです。
カイゼン・ジャーニー』のようなストーリーのウォーターフォール版、情シス版、運用大好きあまねさん版+新井剛さんによる解説パートでのアジャイル入門本といった趣でしょうか。

 そして本書の特色は、半分はIT小説であること。前述のようにエモく終わるタイトル回収エンディングやノンフィクションとフィクションが入り交じる途中の描写などなど、単なる教本でない面白さがあります。
自分はこうしたリアル寄りの設定でもアニメや漫画やラノベみたいなフィクション寄りの設定でも両方イケる口ですが、時折商業本や技術同人誌でも見かけます。
小説仕立てのIT本というのはいろいろ可能性がありそうだし、もっと増えてほしいなあと思いました。なお購入者特典でPDFがダウンロードでき、本編では詳しく描写がなかったところも含めた登場人物設定も見ることができます。

ここアジャなリンク集

codezine.jp www.shoeisha.co.jp

noteに上がった最速レビューは発売日直後の10/14となっています。実は会社のアジャイルコミュニティの書き込みで発見して、えっ書いたの弊社グループの方だったのか!と驚いたり嬉しくなったりしました。

note.com

他にもnote中心に感想が上がっています。

note.com note.com note.com note.com

madowindahead.info

ハッシュタグは「#ここアジャ」となっています。兄弟っぽいタグで「#みんアジャ」があり、こちらは同じくアジャイル入門書のオライリー本『みんなのアジャイル』本を指します。

みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた

みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた

  • 作者:Matt LeMay
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

うっかり「アジャ」だけで探すと女子プロレスラーアジャ・コングが大量にヒットするので注意しませう。

著者陣の方々からも反応いただきました!