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アレックスの日記:『炎のたからもの』

 この記事は、キャラクター視点の日記の形を取った、セッションのプレイ記録です。未プレイで見ても大丈夫です。


西暦2XXX年5月3日


 俺の名はアレックス。アレックス・タウンゼント。デス・ロードとも呼ばれている。死の卿、死神の使い。好きに呼ぶがいい。あの名が付いたのは故郷の軍にいた頃だろうか。それとも常夏の災厄の街に来た頃からだっただろうか。
 どちらでもいい。約定にあらざる死を退け、正しき死を暗殺者たちに与えながら、俺がBGとしてこの街で活動を始めてから、もう何年も経った。


 あれは、ストリートの一部でシンジケートの抗争の激化がひそやかに囁かれていた頃だった。殺人企業マーダーインクの連中とは、俺も戦ったことはある。その中でも飛び切り危険な殺し屋たち、偽りの王アーサーに仕えるクーゲルズ・チャンバーのヒットマンたちが、この街を狙っているという。戦いの時が来たら、その時はその時だ。必要な時、俺はいつでも戦おう。過去と未来の王の、正当なる子孫の民として。
 サイバー市場も常に変わっていく。俺も最近、自分の装備は幾らかアップデートしていた。千早製のシークレットトークは価格に見合う性能はあったな。対ハッキング防御もかなりのレベルで達成しているし、何より軍用品は品質において信頼できる。
 もうひとつ……俺の銃にもコンバットアシストを付けてみた。射撃場でサイバーリンクとサイバーアイとコネクトして確かめた限りでは、そう悪くはなかったな。俺の攻撃拳銃にも、SOG仕様の小型SMGにもアタッチメントは共通だったし、屋内戦でも取り回しはよさそうだ。あとは実地で試してみるとしよう。


 そんな頃だったが――俺が呼ばれたのは夜。人気のない夜の廃ビルであの青年は待っていた。今回の任務も、昼のN◎VAから隠された、夜の秘密の戦いだった。
 能天使とは今までも何人も戦ってきた。BGとしての俺のクライアントに害を成す敵としても、直々に抹殺を依頼された危険なテロリストとしても。
 多くの能天使が滅んだ轟爆の時代、流石に彼らの数も減ってきた。真教教会の影に潜んだ聖母殿に属する勢力も台頭してきた。
 だが、彼らの戦いは今も終わっていない。聖母の懐で袂を分かった彼らの秘密の戦いは、相当根が深そうだ。
 俺のクライアントはその聖母殿の神の戦士たちの最精鋭だった。俺が携える魔剣“アズュラーンの威令”よりなお深い夜色の剣の使い手。その身が活宝具である機甲聖人。
 そう。槍のカイルだ。彼ほどの剣の使い手が俺を求めていた。彼らの戦いは最後の1人になるまで続くのだろうか。どうやら、聖母殿の人材難は相当深刻なようだ。


 討伐を依頼された偽りの天使は、聖遺物や力ある工芸品の収集や封印に高い力を持つ浄化派だった。渡されたホロにはシスター服がよく似合う、宝石のような美しい眼をした若い娘が映っていた。暗殺対象ではなく、Mr.ブロッカーにむりやり頼まれた時の俺の警護任務の相手によくいそうな娘だった。
 テロリストと戦う時は、相手が誰であれ決して油断はできない。ことに狂信者は危険だ。善人の顔をして恐ろしい所業に手を染める輩は、何人も見てきた。



 今回のビズでは何人かの人物と出会った。
 佐倉菊は、まだプロボクサーだった頃に護衛した事があったな。リングの護衛は簡単な仕事だった。今はスラムでジムを開いていた。近所の子供も沢山来ていたな。この種の仕事の一時的なセーフハウスにはもってこいだ。左右色違いの瞳の少年を助けたのはこの女だった。

 ヨハン=ジルベルトと俺が再び接触したのは、あのジムでだった。
金髪碧眼、2m近い長身に着流しの紺碧の剣士。会った瞬間、俺は懐の銃に手が伸びたよ。あの男は“紺碧の刃”、俺と戦った浄化派の剣士だった。
 東洋の諺に「昨日の敵は今日の友」と言うが、そう簡単に信用する訳にはいかない。安易な友誼を考える人間も、テロリストに親しい人間を目の前で撃ち殺されたり、爆弾で死んだ惨たらしい死体を見ればすぐ考えが変わるだろう。
 聞けばあの男は、今は音羽組に身を寄せているという。神を捨て、外国人ながら任侠の道に入り、“紺碧の任侠”と名乗っているそうだ。
 我々には戦力が必要だった。敵は能天使だけではない。企業世界からやってきた、飛び切り腕の立つ2人の男も混じっていた。元浄化派と共闘するとは皮肉だが、ヨハンとも共に戦うことになった。
 神はもうこの世界にはいないと呟き、あの男は日本刀を抜いていた。なるほど、任侠の世界に新たな信仰を見出したのは確かなようだ。剣の腕も確かだし、戦力としては非常に頼もしい力だった。
 能力の方は、烈しい剣を高性能の完全義体で更に底上げしたタイプのカタナだ。まったく同時に、反射神経強化の起動から始めたら、俺でも敵わないかもしれない。


 もう1人、千早重工から来た面白い男がいた。あの社長がメルトダウンだった頃から、様々な形であのメガコーポとは縁があったが……例の後方処理課は、昨今は多種多様の課員から成していると聞いている。
 美門 九(ミカド ココノツ)、別名“九字切り”のあの男は、ある軌道の危険人物と同じ顔をした青年だった。昔の映画の悪役と同じ顔をした戦闘エージェントシリーズ――何といったか、クサナギだったか。
 俺も連中と戦ったことはあるが、この美門君は彼らのシリーズと正式採用を巡って争い、欠陥から敗れたという。今でも時々故郷が恋しくなって軌道には戻り、そのたびに落とされて大穴を開けて重工本社に落ちてくるそうだ。あの企業も大変だな。今の課長はさぞかし費用に苦しんでいることだろう。
 美門君は義体のフルボーグではなかったが、能力の方は極めて高かった。幾つかつい笑ってしまう弱点があったが、あれがなければ恐ろしい軌道エージェントになったかもしれない。
 俺が特に感心したのはその隠密行動能力だ。今はあまり発揮することはないが、故郷の軍にいた頃も、俺たちは隠密能力を学んだ。特殊部隊員はみなゴーストだ。気付かれずに相手に近寄り、反撃を受ける前に速やかに敵を倒す。今でも奥の手の夜の魔法を使えば、俺も並みの光学迷彩以上のことはできる。
 だが、この美門君はさらに上を行っていた。そう、アサクサで真教徒の娘の説法を聞いていた時……俺はずっと、彼を説教好きのシスターに捕まえられた哀れな一般人かと思っていた。しばらくそのまま会話を続けていたよ。何分かして初めて、協力者だと写真を渡された相手だと気が付いた。
 彼には悪いことをしたな。まるで背景と同一化していたようだった。レッドエリアのジムで合流した時も、ふと気を緩めるとすぐ彼の姿は見えなくなっていた。子供たちに混じって紙芝居をしていたのに気付くまで、しばらく掛かったよ。
 まるで空気のようだった。あそこまで完璧に気配を絶つのはなかなかできることではない。
 空気空気と皆で繰り返して、美門君には申し訳ないことをしたな。だが、まあ、能力の高さを誉められているのだと思って欲しい。



 俺たちはある古き国の身分ある少年と出会い、敵を退け、秘せられた宝を探すことになった。宝に至る最初の鍵は剣と聖杯、つまり我々はちょっとした聖杯探索者というわけだ。
 宝の秘密は最後まで分からなかったが、それもいいだろう。ロシアに赤い旗が立つ前の時代に連なる歴史ある国だ。歴史ある国には、それに相応しい秘密があるということだ。
 そして、俺たちは敵と対峙した。夜明け前の暗闇が、美しいとさえいえる翡翠色に染まった夜だった。
 腕の立つ2人の男を従え、あの娘はそこにいた。あの宝石のような瞳は少しも揺らぐことがなく、その言葉は主への絶対的な信頼の元にあった。
 いつまでも。その命の炎が消え去る時までも。空に満ちる翡翠の光が、俺の魔剣の前に退いた時までも。


 槍のカイルと会ったのは、やはり夜の、同じビルだった。
 また1人、能天使が滅んだことを告げると、彼は頷いた。
 あの娘は最後まで、神への言葉を呟いていた。本当に、あのシスターには主の言葉が聞こえていたのだろうか。俺には内なる偽りの声が聞こえていたような気がしてならない。あの宝石のような瞳が、檻の中に囚われていたように。あの娘の心も、翡翠の檻に囚われていたのではないだろうか。


 テロリズムの源泉は憎しみの連鎖だ。俺は様々な戦場で、テロリストたちと戦ってきた。故郷の王立陸軍であの連隊にいた頃も。女を失い、まだ箱庭の街だったN◎VAに流れてきた頃も。あの銀の守護者がA級ボディガードだった頃も。浄化派が蠢き始めた革命の時代も、あらゆるものが変わった破砕の時代も。
 信仰のもたらす狂気に支えられたテロリストはとりわけ厄介だ。多くの浄化派がこの街で滅ぼされてきた。だが、なぜ彼らは絶えることがないのだろうか。
 必要な時、俺はいつでも引き金を引こう。この夜の魔剣で彼らの狂気を断ち切ろう。
 だが、時々ふと思うこともある。将来、うちの娘があのシスターと同じぐらいの年頃になった頃――俺は、あれぐらいの年頃の娘の姿をした敵を相手に、ためらうことなく引き金が引けるのだろうかと。
 その時はその時だ。老兵は潔く引退して、ワーデン社で教官にでも雇ってもらおうか。


 痛ましい惨劇の夜、袂を分かった氷の静謐結社と聖母殿の志士たちの戦いは、数年を経た今もなお続いている。東京新星市の繁栄の陰で、世界の秘密の戦場で。
 最後の1人になるまで白い大地を血で染め続けるという予言は、あながち嘘ではないのかもしれない。そうでなければ、あの青年が俺に依頼をしてくるはずもないだろう。彼らの秘密の戦いは、これからも続くようだ。
 夜の中で俺たちは別れ、互いの道を歩んでいった。

 さらばだ、槍のカイル。運命の天輪が導くとき、また会おう。



――アレックス・タウンゼント



連休連戦 トーキョーN◎VA The Detonation『炎のたからもの』