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雪音の回想記:月下第三夜

この記事は、キャラクター視点の日記の形を取った、セッションのプレイ記録です。未プレイで見ても大丈夫です。



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西暦二某某某年 長月の夜


 わたくしの名は雪音。天乃原雪音と申します。
 夏の盛りを過ぎた夜にかように掛かる月。「とろん」から流れる音楽とはいえ、静かに聞こえてくる虫の音。あの弦月を眺めていると、あの春の夜、同じように掛かっていた美しい月の夜を思い出します。
 わたくし、精進が足りないのか、この面妖な「とろん」というものがどうにも苦手でした。難しい機械というものは一体中に何が入っているのか、わたくしが触ればどうにも調子が悪くなることばかり。半ば諦めていたのですが、由那ちゃんに習ったり、書より学びてようやく、今のように少しは使えるようになった次第です。そこで今宵は、あの春の夜の思い出をしたためておこうと思います。



ひよこ監督「ぴよぴよなのだ」


 まあ、あなたはあの花祭りで景品に頂いたひよこさま。時々ひとりでに喋りますが、どういうことなのでしょう。このひよこさまの中にも、あの「とろん」が入っているのでしょうか。なんともはや面妖な、わたくしには今もって仕組みが理解できませぬ。


ひよこ監督「きみもじゅうぶん面妖なのだ」


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 ええと、わたくしたちは故あって、住み慣れた地を離れ、忍ぶように東京新星市へ参っておりました。苦手な電脳をなんとか克服しようとわたくしが「うぇぶこんぷれっくす」で四苦八苦していた折、助けてくれたのがあの由那ちゃんだったのです。
 阿僧祇 由那(あそうぎ・ゆな)さんは本来のお住まいは西方、月の都だと聞いております。痛ましいことに病に伏せっているとのことですが、いつも意識を電脳の海に解放しては、あちこちで遊んでおり、わたくしとも友達になったのです。
 実際に会った時に驚きましたが、由那ちゃんは身を残したまま、魂だけを東京新星市に飛ばすようなことができるのでした。しかもその姿は、十つぐらいの幼子。あんなに若い、というか子供なのに、自由自在に「とろん」を操ります。見ていて惚れ惚れするほどの手練でした。もう、由那ちゃんやあのものは、どうしてあんなにすらすらとあの面妖な機械を操れるのでしょうか。それともわたくしがどんくさいだけなのでしょうか?
 この街の裏街道のことは手に負えず、電脳から噂を探ることも難しい身。わたくしは手練を探しておりました。いくらか心配な知り合いと、信頼できるお方が、ある危うい仕事を請け負っていたのです。
 由那ちゃんのような小さい子に、危ない仕事のお願いをするのは本来よくはないのですが、わたくしが唯一頼りになる手練というとあの子。
 わたくしも手元不如意という訳でもありませぬ。持参の報酬を揃え、両手をついて、卒璽ながら彼女の元に罷り越す次第となりました。裏街道の、素性の分からぬ口入れ屋を調べて頂くために。


 おおさか弁を話す由那ちゃんは快く引き受けてくださったのですが、わたくしの申すことが難しかったようで、何度も不思議そうに聞き返してきました。


ひよこ監督「雪音ちゃんの日本語教室開始なのだ」


 古来より、『親しき仲にも礼儀あり』と申しますし、わたくしは丁寧に申し上げたつもりなのですが……。口入れ屋というのは口を入れるのではなくて、この街の言葉ですと――ええと「ふぃくさぁ」のことです。卒璽というのは、突然で失礼ですがとか、そういう意味なのですが。
 和服姿にもたいそう驚かれたのですが、ひよこさま、わたくしの言葉遣い、そんなに目立つでしょうか?


ひよこ監督「ニューロタングでおkなのだ」


 この街で和服を着た方は多くはありませんが、花祭りの折にも見つけましたし、探せば古風な口調で喋る方もおられると思うのですが。わたくし、そんなに珍しいでしょうか……??
 それからしばらく経った後。わたくしは由那ちゃんと寺の花祭りでまた会うことができました。調べものの方はもうすぐということで、これは重畳、二人でしばらく、桜の下を歩くことにしたのです。


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 誠司=アレクサンドルさまもその時、甘味処の茶屋でお会いしました。玉石のような青い目に薄紅がかった髪でたいそう背も高く、きっと昔の人が見たら異国の鬼と思うかもしれません。誠司さまは別に鬼ではなくて、その、世に言うところの……色男、です。ふだんはこの街で一番大きな企業の本丸に宮仕えしているとお聞きします。
 いつぞやに「雪女みたいだ」と言われてから、わたくしこの雪の柄の着物のことをずっと気にしていたのですが、誠司さまはとても似合うと言ってくださいました。わたくしのことも、可憐でとても可愛い子だと……
 まあ、わたくし、殿方にあのように誉められたことがあまりなくて、恥ずかしくなってしまいました。誠司さまはその様子を見て「初々しいねえ〜」とさらに優しい言葉を掛けてくださったのですが……
 されども、わたくしにはその時、どこからか声が聞こえたような気がしたのです。『雪音ちゃん、逃げろ!』と。
 誠司さまは大人の殿方ですし、やはり、何かこう危のう予感もしました。横にいたネイサンさまも「それくらいにしておけ」等と苦笑しておられましたし、それで、その、その折はそこまでとなったのです。


ひよこ監督「あれは、読者の声が結実した弾幕だったのだ」


 後で分かったのですが、誠司さまは姫方には誰にでも、あのように声を必ず掛けるとのこと。源の字のお爺さまと一緒に「きゃばくら」という大人のお店でお酒を飲んだり、お勤めの方もあまり真面目ではないそうです。
 なんだか複雑な気持ちでしたが、わたくしは、あのような軽い方よりは、どちらかいうと、その……真面目で少々無骨でも、必要な時は必ず助けてくれる誠実な方とか、どこか放っておけないものとかの方が……
 いえ、ひよこさま、そんなことを言っている折ではございません。ええと、誠司さまが本当に愛している一人だけの本命は、仕えている目上の女性の「美沙」さまという方なのだそうです。武術を嗜む、和服の似合う方でしたが……ええと、誠司さまの恋が実ることをお祈りしましょう。


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 ネイサンさまはネイサン・グリッズ・シリトー、“フラムベルジュ”のネイサンと言います。異国の炎の剣のごとく赤い髪をした、誠司さまと同じ年ぐらいの殿方です。
 わたくしは「ネイサンさま」とお呼びしましたが、しきりに知り合いには「ネイでいい」と伝えておられました。というのは、「ネイさん」とさん付けで呼ぶとややこしいからだそうです。なるほど、南蛮のように遠い異国の名では、そうなるのも道理でしょう。


ひよこ監督「ネイはジャンプ漫画の王道主人公系なのだ」


 ネイサンさまは外国系ながら打刀を佩いた手練の剣客で、一時期あの桜華道場に身を寄せていたこともあると聞きます。その後は人を守る用心棒の方に仕事を変えられたそうですが、かなりの傑物。剣筋は未洗練ながら、激情のこもった太刀筋はかなり激しいと聞きます。
 思えばあの方がネイサンさまと初めて月下の夜に出会ったのも、桜華道場繋がりの仕事をネイサンさまがやっておられたからだそうでした。
 わたくし自身は、ネイサンさま本人とはあまりお話しする機会はそう多くはありませんでした。桜舞う夜に再会したネイサンさまとあの方が何を話されていたのかは、詳しくは存じ上げません。
 けれども、あの方も後にこう仰っておられました。「この街で得物を携える者すべての剣に、魂が篭っている訳ではない。だが、ネイサン殿の剣には魂が篭っていた」と。
 あの方が携える“月下”には、ある方たちの想いがこめられておりました。ネイサン殿が携えていた愛用の打刀も、きっと同じなのでしょう。
剣の道に生きる者同士、大人の殿方同士、きっと言葉は交わさずとも、剣を交えれば通じるものも、剣を交えずとも通ずるものがあったのだと思います。お二人を見ていて、ほんにそう思いました。
 お二人が剣を抜いたときは本当にはらはらしてしまいましたが、最後には収まるべきものは収まり、ほんに安心しました。
 あの方はその後も時折、ネイサンさま宛てに文をしたためておられたようです。ネイサンさまは今も、「ないとわーでん」という寄り合いで剣を振るわれているとお聞きします。


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 源の字のお爺さま、土岐 源一郎(とき・げんいちろう)さまはもう七十近くになるお爺さまです。いつもはたくしぃの運転手をなさっています。
 聞けば歴戦の古強者で、北米、露西亜、欧州、南米、あちらこちらのいくさ場で武勇伝が残っているそうです。過去を聞けば、独立紛争時の混乱の中で育ち、北米連合軍から企業軍から傭兵を転々として幾多の伝説を残し。その後はご結婚され、今度は聖母殿の異端改宗局へ。そこでまた幾多の伝説を残し、いろいろあった後に離脱。奥様に先立たれた後は、余生を平和に過ごすため、武装たくしぃ運転手になられたそうです。
 これはしたり、こうして半生をまとめてみると、あの源爺さまはもしかして、相当の傑物なのではないでしょうか? お話を聞くといつも冗談のようで、なにやら信じかねるところがあるのですが。


ひよこ監督「真面目キャラだったら過積載なのだ」


 源爺さまは「てんしょん」が高く「のり」のよい方で、なんと言うか、頭の中まで春というか……いえ、決して呆けておられるとかそんなことではないのです。なんというか……あのものと似たもの同士なのです!
「うぉーかー」詰め所での大乱闘や、浅草での大騒ぎ一歩手前など、話を聞くだけでもう姿が目に浮かぶようです。あの桜の夜でも、ほんにはらはらしてしまいました。


ひよこ監督「双方共にツッコミ待ちなのだ」


 あのものはいまだに納得していないのか、この話をするといつも「あのじじぃとの決着はまだついてないぜ」などと勝手なことを申してきます。確か、最後に勝負して源爺さまが勝ったはずなのですが。もう、年もずいぶん離れているというのに、気が合っているのかいないのか。
 とにかく、源爺さまももうお年を召されているのですから、つつがなく過ごされればと思います。


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 あれからいろいろありました。あの方は今も、主を探しておられます。わたくしとあのものは、精進が足りませんので、身分を変えしばらくはまなびやに通わせていただくこととなりました。
 亀の如く遅い歩みでしたが、ようやっとわたくしも「とろん」が少しは使えるようになりました。遠く離れた月の都にいる由那ちゃんにようやっとポケットロンが繋がり、お話しができた折は、とても嬉しかったです。
これでもう、あのものに「雪っちはどんくさい」などとは言わせません。精進を重ねて、亀ではなく兎ぐらいの速さでいつか使えるようになりたいと思います。


 ところでひよこさま。わたくし、この電脳の仕組みがようやっと分かってきたのですが。この「弾幕」というものは、一体何を指しているのでしょう。
弾は出ませんから種子島の類とも思えませぬし、はて面妖な、「とろん」というものはまことに奥が深いものに思えます。


ひよこ「メタなことは気にしなくていいのだ」


 う、う〜ん、ひよこさまの仰ることもよう分からぬのですが……。
 今宵は筆を置き、ここまでにしとうございます。
 空に掛かるあの月が、あの方たちを優しく照らしますように。宵闇を歩む影の中、心正しきものたちを、月読さまがお守りくださいますように。


――天乃原 雪音


夏の連戦最終日 東京新星デトネイシヨン『月下残影』第三夜