Rのつく財団入り口

元はTRPG系のWebサイトの入り口だったブログです。最近のIT本の感想など。

旧友の詩を探して:ノエル・アヴァロン for 『F-L.S』


 久しく連絡を取っていなかったクリスからの便りは静かに事実だけを述べていて、最初僕は何が起こったのか信じられなかった。あれは僕が小さな社長室で、今も飾ってあるシンセキーボードをいじっていた時だった。エド、君の顔がもう見られなくなるのは残念だ。スケジュールは幾つかキャンセルして、すぐ北米へ発とう。秘書のヴィクトリアは渋い顔をするのかと思ったら……どうしても一緒に行くとなだめるのに苦労した。彼女もエドのファンだったからね。


 僕の名はノエル。ノエル・アヴァロン。僕のダイバージェンスはまだ小さな新興企業だ。ノエルで構わないよ。君がもし音楽の歴史に詳しく、浮き沈みの激しいショウビズの世界で時流に流されない真実の目を持っているなら……Dive-in-coal-tor(ダイヴ・イン・コールタール)の4人目のメンバーを覚えているかもしれない。
 そう、僕がアーキテクト、コールタールの音を作った“ジ・アーキテクト”だ。
 Dive-in-coal-tor。その名がジャンルを表すまでに成長した世界最強のロックバンド。世界で最も音楽に愛された男、エドワード・クロースが率いる音楽の世界の変革者。今もあの頃のことを忘れることはない。
 エドが歌で世界を変えたように、僕は音で世界を変えた。エドの声やギターのリフを際立たせ、盛り立て、そのサウンドの背景に、目立たなく、しかし確実に、世界を構築する。そう、僕はコールタールの音の世界の設計者(アーキテクト)だったというわけさ。キーボードはバンドを脇から支える脇役になりがちだが、僕はあのポジションに満足していたよ。
 なまじ有名になると嫌な思い出も増えていく。確かに、Dive-in-coal-torの約5年という短い活動期間の――特に後期――、黒いコールタールの塊に飛び込むなんてふざけた名のバンドの姿勢と、僕のシンセが紡ぐ電子音の世界は、エナジーの性質とベクトルの方向が若干違ったのは確かだ。
 だが、メンバーの間で確執があって別れたなんてのは北米の糞メディアがでっち上げた大嘘だ。侮辱にも程がある。あれは僕の人生で最良の期間だったし、エドもみんなも、僕のベストフレンドの一人だよ。


 芸術の女神ミューズの名にかけて、解散を言い出したのは僕じゃないんだが――いろいろあって、輝ける懐かしき日々は終わりを告げた。Dive-in-coal-torのメンバーはそれぞれの道を歩むことになった。
 僕はコールタールの中では一番年下だったし、今だから正直に言うけど――まだ若かった。やるべきことは他にもたくさんあったし、選択肢には困らなかった。
 ソロでもアルバムは出したし、別ユニットでの活動や別バンドのバックアップも、ステージも、いろんなことをやった。Dive-in-coal-torにいた頃ほど充実した日々は得られなかった……なんてことは言わないよ。
 だが僕も、チームでなく一人でこの先ずっとやっていくには才能の限界みたいなものを感じていた。何かもっと違うことをやってみようと思ったんだ。
僕はDive-in-coal-torという、いわば閉じた、ミニマムな小宇宙の建築家(アーキテクト)だった。だったら次はもっと大きい世界で……そう、音楽の世界で、ビジネスとウェブの世界で、設計者かつ創造者(アーキテクト)たらんと考えた訳さ。


 こうして僕は演奏する側から育てる側に、アーチストからビジネスパーソンに転向し、世界に点在する新しい星を求める探索の旅を始めることにした。
 元Dive-in-coal-torのネームバリューは予想以上だったよ。誘いや引き合いはあちこちからあった。中でも……チハヤ・ミュージック・エンターテイメントの引き抜き工作のバリエーションの豊富さには驚いたね! きっとCMEでなく本社の差し金の方が多かっただろうが、あれには辟易したよ。
 解散後にウェット化手術を行い、金のことを考えずに世界中をソロで巡っていたエドにはかなわないけど、僕の創り上げた世界にも不可侵の国境めいた灰色の地帯がある。僕はノエル・アヴァロンで、Dive-in-coal-torのジ・アーキテクトだ。スーツを着ていても魂の根底にあるのはアーチストだ。サウンドが生み出す無限の世界の設計者であり、創造者であり、探索者だ。無限に現れては消えるエクスペンダブルな音楽や、金にまみれた音楽は作りたくない。こうして僕はなけなしの反逆者の精神に則っることにしてメガコープの安泰と別れを告げ、新しい事業を立ち上げた。


 そうして生まれたのが、君がいま見ているDIVERGENCE(ダイバージェンス)だ。
 DIVERGENCEの本質はシンプルだ。ビジターに求める音楽を提供する。
 そしてDIVERGENCEの形態はいささか複雑で、このニューロエイジに相応しい多様性を持つ。それは電脳空間トーキョーN◎VAリージョンからアクセスできるウェブコンプレックスであり、君にお勧めの音楽を提供して同じ好みのユーザ同士で友達になれるソーシャルなサービスであり、公告及び曲の販売とアーチストの契約から利益を得る音楽配信ビジネスであり、僕がCEOを務める小さな新興企業であり、通好みの君のためのレコードレーベルであり、所属アーチストにとっては……まだ規模的には零細の、音楽事務所でもある。
 最初は無料で、ウェブにアクセス可能ならどこからでも遊びに来れる。Dive-in-coal-torの過去の名曲も用意してあるよ。君の行動履歴の分析からお勧めのアーチストと音楽も提供できるし、一緒にライブに行ける友達を探すのも簡単だ。音の発信者たらんとするなら、自分のページから楽曲を発信してみんなに聴いてもらうのも敷居がかなり低い。少なくとも、アサクサの寒い路上で一人で寂しくギターを弾いているよりは確実に効果がある。
 そうしてアーチストととして活動を続け、まことの星たる可能性を持ったなら……DIVERGENCEレコードのブランドとして本格的にアルバムを売ったり、デビューしたりできるという寸法さ。

 こうして僕はアーキテクトとして、次の時代を担う新しい星を探すクエストを始めることにした。
 この音楽配信の仕組みは別に独創的なことをしてるじゃない。君が本物のカウボーイで、グールーから学んでいるなら、ウェブの歴史を思い出すといい。サイバースペースの二世代以上前の歴史を辿れば、21世紀にナップスターやアイチューンズの残した伝説を見ることができる。
 僕らはそれをニューロエイジ風に、徹底的に、そしてさりげなくリコンストラクトした。DIVERGENCEにはどこからでもアクセスできる。君のポケットロンからも、サイバーアイの視野の隅に呼び出したアイコンからも、デュアルゴーグルが映し出す強化現実の画像にも、街頭のホログラム公告からも、自動操縦の車やリニアトレインからも。
 そしてDIVERGENCEは大手のようなでかでかとした公告は出さない。あくまでさりげなく、違いの分かるユーザに、真の音楽の持つ不可視の波動を感じるセンスを持った君の前に、必要な時に出てきてお勧めの曲を楽しませることができる。
 注意したのはどんなデバイスでも、どんな経路からでもアクセスできるようにしたことだ。TWウィンドウズのお馴染みの画面からも、セフィロトOSを使っているならマスコットの女の子が新曲を教えてくれるようにもできる。CNNニュース速報の横からもスムーズに呼び出すことができる。多くのサービスと共存が可能だ。
 このへんには僕らも注意を払って立ち上げたから、同じようなことをやってるよそにはつけいる隙がある。まず千早の方式には勝てるよ。あそこはタップからポケットロン、サイバーウェアから住む家、家電まで、なんでも自社製品で全て揃えようとしているからね。自由を愛するハッカーやアーチストなら、今年の冬の千早製新型ポケットロンでしかブルーベリーのミニライブ映像が見られないなんて、我慢できないだろう。
 垂直統合のモデルは真に偉大なひとつの企業が実践した時にのみ意味を持つ。人類が60億を越えた旧世界は一度滅び、この新世界の地球の友人たちは10億人台しかいない。さらに複数のメガコーポレーションが自社製品でユーザを囲い込み、互いが互いを食い合っている。このニューロエイジで、過去と同じことをやってもしかたない。歴史は繰り返し、巨人たちは過去から学んでいないというわけさ。


 僕は元アーチストの経営者で技術者じゃないから、ウェブの深奥については分からないこともある。DIVERGENCEの立ち上げにはスタッフを外部から呼び寄せた。
技術者にも個性的なメンバーが揃ったよ。硬直化したテラウェアに嫌気がさしたとびきり優秀なエンジニア。人間と同じように転職活動をして、丁寧な履歴書を送ってきてくれた元セフィロトの高級AI。フジタ・サイバーガードで鳴らした電子戦スペシャリストまでいる。いよいよWebコンプレックスを立ち上げた記念の日は盛り上がったね。
 まだ小さい企業だから報酬も高くないけど、DIVERGENCEは活気に満ちた会社だ。エンジニアも、音楽事務所スタッフも、みんな新しいことをやろう、世界を変革しようとひとつになってる。旧世界の偉人が残した言葉のように、一番大事なのは情熱なんだ。
 起業は一発立ち上げのビジネスだから不安もあった。だが幸い、DIVERGENCEはオープン後に音楽好きの君たちに徐々に人気を博し、アクセスも順調に伸びた。最近やっと投資分を回収して黒字に転じることができたよ。世界に散らばる新しい星も、幾つか見つけることができた。
 そうそう、今度いよいよ、未来の星たちの登竜門として、N◎VAの屋外ライブとしては最高峰……あのYumenoshisma-Riotにも乗り込むよ。

 ダイバージェンスは拡散とか、相違とか、分岐とか、いろんな意味がある。サービスの名前だから字面的なものもあるし、意味なんてなくてもニューロってわけさ。
 Dive-in-coal-torの“ダイブ”に引っ掛けてあるというのは本当だよ。僕が考えた名前だからね。ちなみに――これも女神ミューズの名にかけて言うが、僕とエドが音楽性の相違で決別した皮肉をネーミングに使っているというのは、これだけはメディアのでっちあげた大嘘だ。


 人類の歴史には常に音楽がそばにあった。かつては記憶の中にしか留めることができなかった音楽はレコードに保存されるようになり、そしてデジタルデータの中にほぼ永久に残るようになった。その多くは災厄を免れて今に至り、新世界の僕らも聴くことができる。
 君が音の世界で何かを為そうとしているなら、きっと伝説に残るその幾つかを、聞いたことがあるだろう。
 僕はブリテン出身で女王陛下の国からやってきた。UKも多くのすぐれたミュージシャンを輩出してきた。ビートルズを始め、20世紀〜21世紀には幾つも伝説が残っている。
ザ・ローリング・ストーンズ、ディープ・パープル、レッド・ツェッペリンジェネシス、クイーン、ピンク・フロイド、ブラー、オアシス、U2、コールドプレイ、そしてレディオヘッド
別種の音に耳を傾ければオービタルもプロディジーも、アンダーワールドケミカル・ブラザーズも、他にもUKから沢山のクリエイターが生まれた。全てが我らの父祖、我らの地より生まれ、今もデジタルの世界に永遠の遺産を残している。
 エドが帰った北米――かつてのUSAにも同じように、多くの偉大なミュージシャンたちがいる。世界の全ての国、全ての地についても同じだ。
 人類は常に音楽と共にあった。世界が傾き、そして蘇ったこの新世界でもその伝説は残っている。僕らはその後継者であり……DIVERGENCEに今アクセスしている君もそうだ。
 君が楽器を弾けなくても案ずることはない。ダイバージェンスが内部に持つ不可視のエナジーを感知できた時点で、君にはもうその資格がある。人はみなアーチストで、変革者で、探索者で、創造者だよ。


 こうして、コールタールを離れた僕は新しい世界のアーキテクトとなり、新たな星を探し続けている。
 そこへエドの訃報を聞き、こうして北米行きの飛行機の中でトロンを立ち上げているわけさ。
 僕が支える音の中で、エドは歌で世界を変えた。僕はもう新しい音を創る力を失いかけているかもしれないが、見つける力は今も持っている。
 だから、エド。探そう、君が遺した最後の詩を。
 あの輝きし日の思い出のために。


――ノエル・アヴァロン

■“ジ・アーキテクト”ノエル・アヴァロン
"The Architect" Noel Avallone

元“Dive-in-coal-tor”キーボード / レーベル DIVERGENCE社CEO
エグゼク◎, カブキ, ミストレス●
31歳 男性 身長169cm 体重54kg 誕生日:11/24

PC2 エグゼク  付属サンプルデータから一部変更
ジャンヌダルク4→盾の乙女4
ホットライン3→直属部署3
社会:北米1→社会:ブリテン連合王国1


■装備
眼鏡美人の秘書ヴィクトリア
至高の一品相当のシンセサイザー予定だったエア・シンセサイザー
プレ購入でワイルド・ゴート相当の車とか


■外見:
 30代始め、やや小柄。ブリテン連合王国出身、N◎VAで活動中。一人称が「僕」で気さくな物腰の柔らかい青年。アッシュブロンドの髪に子供のような明るい鳶色の瞳。アートとビジネスの間で揺れ動く、芸術家肌のベンチャー企業若社長といった風情。
サンプルのエグゼクの男性版のイラストで髪の色を変えて白人にしたような感じ。
秘書のヴィクトリアは初代Dive-in-coal-torの頃からの知り合いだった。眼鏡美人である。


■ニューロトループ DIVERGENCE スタッフ
サポート4、ツェノンの逆理4など
WIZ-Vにサポート×サポート+スピード、マジシャン、IANUS、スペシャライズ:ツェノンの逆理

新事業立ち上げ時にノエルが各方面から集めてきたエンジニアたち。ウェブコンプレックスであるダイバージェンスの立ち上げに維持運営、ハッキングからサポートまで何でもこなす。
ラリーとサーゲイのコンビ、ベテランのビル、新進気鋭のマーク、プレゼンが得意なスティーブなどの個性的な面々が揃っている。



付記:
音楽を愛する諸氏には言うまでもないが、秘書が眼鏡美人なのは『F-L.S』同人誌付属のサンプルキャストのデータに従ったためである。
No music, No life. No glasses, No life!

渾身のhideイズムが詰まった音楽シナリオ『F-L.S』にエグゼク枠で参戦するためのキャストなのです。
音楽というアートを題材にしたシナリオに敬意を表すため、リアル寄りの設定にしてみました。
セッション前に得られた情報の範囲で想像で書いているので、バンドDive-in-coal-torおよび最重要ゲストのエドワード・クロースの情報はシナリオと比べて不正確な可能性があります。
DIVERGENCE社のロゴとかも創りたくなってきたけどやはりセッション前の時間的に無理でした。(´▽`;)