ノーコードを知ろう
会社の社内コミュニティでも紹介されていたので、ちょっと知っておこうかと読んだ本。2021/6/23発売の最新版、ノーコードというキーワードを取り巻く各種情報が概観できる本となっています。以下、軽く自分用の読書メモと感想です。
- ノーコードを知ろう
- CHAPTER 01 ノーコードはなぜ今ブームなのか
- CHAPTER 02 ノーコードをどのように導入活用するのか
- CHAPTER 03 ノーコードは誰の何をよくするのか
- CHAPTER 04 ノーコード開発事例紹介
- CHAPTER 05 ノーコードツールの種類と選定基準
- CHAPTER 06 ノーコードの学習方法
- CHAPTER 07 先端技術とノーコード
- まとめ:ノーコードが概観できる本
CHAPTER 01 ノーコードはなぜ今ブームなのか
プログラミングができる人は人類の総人口の0.3%、そのうち80%が男性で40%が白人!というキャッチーな見出しから、ノーコードを概観していくます。
ノーコードとは
- ノンエンジニアがプログラミングすることなく、Webアプリケーション(サービス)を作ることができ、提供される機能を自由に拡張できてテクノロジーの恩恵を受けらること。
- 用語として登場したのは2019年だが、概念はインターネット黎明期から。Apple IIのVisiCalcが最初という説も。
- 第1世代 1990年代 Microsoft FrontPage, Macromedia Dreamweaverなど。デザインをHTML出力。
- 第2世代 2000年代 WordPressやDrupalなど。HTMLを直接編集可能 CMS、クラウド登場。
- 第3世代 2010年代 ブログ機能の多くがノーコードに、一般向け機能と企業向け機能が別に 国産のkintoneが有名。
- 第4世代 2020年代(と期待されている。) AI、IoTなど先端技術のノーコード化が期待。
懐かしやFrontPageとかDreamweaverなどのホームページ作成ツールもノーコード扱いなのか! と驚き。確かに言われてみるとHTML的にはノーコードです。後にも様々なツール類が出てきますが、ノーコードの範疇は広いのですね。
ノーコードがブームになった背景
- クラウドが一般化した。SaaSが浸透して使った分だけ払うサブスクのスタイル。セキュリティより利便性優先。APIを使った連携が一般化。ニッチなサービスに需要がある。世界でIT人材の不足が続く。ノーコードコミュニティの力。
ノーコードでエンジニアは不要になるのか
- プログラミングも進化に伴い、重複コードを共通化したりライブラリやフレームワークで抽象化したり、昔のC言語などより簡単に使えるようになってきている。ノーコードもその進化の延長である。
- ノーコードで代替されるのは2つ。
- 定常的IT業務:データを取り出してExcelに転記、メール内容を別システムに手動でコピペなど
- 定型化したプログラミング業務:検索結果から商品1件を表示、ランディングページ作成、CSVを取り込んで処理などのよくある処理。
- 逆に代替されないのは非定常で非定型な仕事。自動車運転など。こちらはITエンジニアの分野。
- よくバズワードのブームのたびにエンジニア不要論を煽る人はいるが、ノーコードでITエンジニアが不要になることはない。
ノーコードの分類と特徴
本書では4つに分類しています。
ウェブデザイン系:
HTMLを書かなくても画面作成、CMS機能。作成物を一式ダウンロードできるサービスだと、サービスが止まっても大丈夫。ランディングページ向けの簡単なものや高度なものなど様々。
ツール名:Webflow、STUDIO、Wix、ペライチ
データ管理系:
DBの内容を表示したり更新したり。
ツール名:2013年発のAirtable
タスク自動化系:
入力フォームの内容をDBに保存するのと一緒にメール送信するなどの決まったタスクを自動化。複数サービス間の連携など。APIを通して連携するので、integration Platform as as Service(iPaaS)
と呼ぶ。
ツール名:Zapier
オールインワン系:
上記のウェブデザイン/データ管理/タスク自動化 の3分類の機能を全部載せのツール。
ツール名:Bubble、Adalo
オールインワン系の中にまた特化系ツールという分類で、たとえばECサイトに特化したShopifyのようなものもある。
Zapierはサービス間で連携するタスク自動化ツールとして前から有名でしたが、これもノーコードの範疇なんですねえ。
ノーコードの文脈に限らず、APIの口から通信して疎結合を保ちながらサービス間で連携...というのはよく聞くというか当たり前という感じですが、ノーコードの文脈だとiPaaS
というワードで特にここが強調されている印象です。
CHAPTER 02 ノーコードをどのように導入活用するのか
ノーコードのメリット
- 開発が速い。
- サービス自体が提供する機能が多く、後からから増えるのでそれを使えばよく柔軟性が高い。API経由で呼べる。
- 習得に時間が掛かるプログラミングや開発スキルに比べると学習コストが低い。
- プログラミングができない社内人材を活用できる。
- 自動化することで事務処理の精神的な負担を軽減。
- だいたい初期導入費用が安い。
ノーコードのデメリット
- 柔軟性は高いがツールの設計思想は決まっているので、できることの範囲は決まっている。
- だいたいクラウドなのでサービスが停止することがある。
- セキュリティやプライバシー認証を取得したサービスを使う方が安全。またオールインワン型だと開発者にもセキュリティ知識、プログラミング知識の基礎は必要。
- 顧客にもデメリットはしっかり使える必要がある。
本格的にやるとなると、結局エンジニングのスキルはやっぱりいるのね……と思いました。
業務用途のための5つのステップ
- 業務範囲を明確にし、要件を明確にし、ツールを選定してフィット&ギャップ作成、ロードマップを作る、最後はIKEA型ツール運用体制づくり
最後の「IKEA型ツール運用体制」はIKEAで買ってきた家具を自分たちで組み立てるがごとく、実際に業務で利用する人たちを選定し運用体制を作っておくやり方とのこと。
新規サービス検証のための5つのステップ
CHAPTER 03 ノーコードは誰の何をよくするのか
個人が使う場合
- 作りたいと思ったサービスを自分で作れる。
- 自分で運用してSNSで拡散したりスキルを証明。
- 副業にも生かせる。なんらかの業種や職種×ノーコードで掛け算になる。
フリーランスが使う場合
- 稼げるスキルの幅を増やせる。
- 納品までの工数を削減して他の作業へ。
起業家やスタートアップが使う場合
- アイデアを素早くプロトタイプで開発してリリースへ。
- これまでのプロトタイピングツールより後から柔軟に変えられる。
- 細かく改善できる。ネットから潜在顧客を見つけるグロースハックに活用できる。
中小企業が使う場合
- 低予算で従来業務をデジタル化してDXへ。
- IT人材不足を補って自社で内製化できる。
- 大手集客サービスから独立できる。Amazonでなくても小売りができる。HotPepper Beautyがなくても美容室の集客ができる。
大企業が使う場合
- 社内の情報システム部門の作業を自動化して負荷軽減。
- 部門ごとのシステムをSaaS化しAPIで連携して小回りをよくする。
- システム運用は専門家でなくてもよいので内製化できる。サイト制作をノーコードで外部に委託、その後の修正は自分でやるなど。
普段からSNSで自分をブランディングしつつ副業でいろいろやっている人やフリーランスなど、大企業で毎日働いている人よりもCitizen寄りの世界観向けのツールなのかなあという印象。
プロトタイピングツールより後から柔軟に変えられるという話は、それはツールが進化すれば使いやすくなるわけだからノーコードかどうかとは関係ないのでは?という気も。まあこのへんはバズワードなので都合よくグルーピングしている感はあります。
CHAPTER 04 ノーコード開発事例紹介
様々な成功事例が紹介されています。役所勤めや一般企業など開発の専門知識のない人が短期間で求めるシステムを作れた、等の話が多いですね。
最初はランチ決済アプリをオールインワン型のAdaloで作り、サービスが軌道に乗って負荷が大きくなってきたた後は最近よく聞くFlutter
で再開発、バックのDBはGoogle Firebase
に変えた...という話が面白いです。
こうした最初はノーコード/ローコードで作り、後からちゃんと開発し直す話は、アジャイル開発や新サービス立ち上げでよく聞きます。
事例で使われたツールとしては以下が紹介されています。
kintone、Matrixflow、Adalo、Anyflow、STUDIO、クラウドBOT、ARの仕組みを作れるpalanAR、モバイル用のUnifinity、Gravio、クラウド型アプリプラットフォームのYappi
CHAPTER 05 ノーコードツールの種類と選定基準
ウェブデザイン系
- 古くはIBM Homepage Builder、Dreamweaver、Yahoo Geocities、Wordpress。現在は2006年スタートのWixが有名
- テンプレートの豊富さや拡張性の高さ、デザインの柔軟さが大事。文字を日本語にするときは国産のツールの方が良い場合がある。
- ペライチ、carrd、Google Sites, STUDIO, Wix, Webflow, WordPress, Notion, Softr
データ管理/顧客情報管理系
- 古くはCRM系。Microsoft Access, Fileaker, Salesforce
- 情報セキュリティポリシーやガイドラインに合致するものを選ぶ。
- Airtable, kintone, Zoho, Salesforce, Notion。特にNotionはユニコーン企業として有名。
ノーションはメモアプリやオンライン情報共有アプリというイメージですが、ノーコードの範疇なんですね。
タスク自動化ツール
- RPAによる自動化は画面のUIが変わるとダメになるが、iPaaSはAPIで連携するので大丈夫。クラウドサービス向け。
- 連携可能なアプリが多いツール、操作と動作のしやすさで選ぶ。
- Zapier, Integromat, IFTTT, Parabola, Automate.io
スマホアプリが脚光を浴びた頃から有名だったサービス間連携サービスのIFTTTも、ノーコードの範疇!
オールインワン系
- 一番歴史があるのがEC業務特化のShopifyで2006年から。2012年発のBubble。Shopifyは機能拡張のうちにノーコードツールになったが、Bubbleは最初はローコードからスタート、抽象化されてノーコードになった。
- 利用する業務を明確にするのが大事。またモバイルアプリ対応を。
- Bubble, Adalo, Glide, Shopify, MemberSpace, Retool
CHAPTER 06 ノーコードの学習方法
日本語での学習方法
と、ここはごく普通な学習方法。やっぱりノーコード周りはYouTube界隈で盛んですね。学習コンテンツも幾つか紹介されています。
ノーコードでも必要な基礎IT知識とは
- データベース、セキュリティ、ネットワーク、要件定義、動作確認テスト、法律など。基本情報処理技術者試験の本がお勧め。
ノーコード界隈だとIT/エンジニアリングのスキル不要!なんて煽りもよく目にしますが、結局このへんは必要なのね...という感じです。
CHAPTER 07 先端技術とノーコード
ノーコードが実現する未来
- ノーコード/ローコード市場の一層の拡大はガートナーも予測している。
- GAFAクラスでも、GoogleはAppSheetという業務アプリ開発のノーコードツールを買収してラインナップに。AWSも2020年にAmazon Honeycodeを公開。Microsoftは2016年からPower Apps公開、2019年にPower Automateリリース。
- システム開発の現場でもノーコードのキーワード登場。
- ノーコードのサービスを組み合わせて開発し、マイクロサービスアーキテクチャ化することもできる。
MicrosoftのDynamics365
と繋がったPower Apps
は前に仕事でちょっと調べたことがあります。会社でもRPAを中心にやっている部署はあるので、Power Automate Desktop
登場時はえらいもんがタダで出てきた...!と話題になりました。Power Automate
は自動化、その中のPower Automate Desktop
がRPAツールという位置付けだと理解していましたがだいたいノーコードの範疇らしく、やはりこのへんの境目は曖昧なのだなあと。
またマイクロサービスの定義は個別に開発してデプロイできるかなので、ノーコードツール同士が連携して何かをする仕組みもマイクロサービスと言えるのかというと...一応言えるのか、とこのへんはちょっと不思議な感じもしました。
職業の変化
- ビジネス開発とシステム開発の境目がなくなっていく。ビジネス開発を
BizDev
と呼ぶ。DevOps
と組み合わせてBizDevOps
。 - 会社の各部門にIT職の代わりにノーコーダーが配属されるのでは。
- ノーコードコンサルタントが台頭していくと予想。
社会課題の解決加速化
Citizen Developer
が増えるので、当事者たちがニッチなサービスを作れるようになる。- アイデアを形にする障壁が下がる。
- ノーコードでプログラマー人口の偏りが是正。白人男性主導がなくなり多様性の社会に。
- 地域のサービスを自分たちで作ったり、コミュニティに主体的に関わっていける。一部の巨大企業から独立してITツールが市民権を得ていく。
まとめ:ノーコードが概観できる本
ノーコード界隈のことがより理解できる本でした。既にあるものに名前を付けて改めてブランディングしたり、悪く言うとバズワードとして普及する流れはIT業界でもよくありますが、ノーコードもそうしてグルーピングされてできたのだなあと改めて思います。
ノーコード、ローコード、RPA、タスク自動化、Webサイト作成、プロトタイプ、APIによるサービス間連携、SaaS、iPaaS、このあたりのワードが指す機能の範囲は渾然としてだいぶ互いに重なり合っているのですね。そこにCitizen Developer、BizDevなどのワードがあり、さらにDX、クラウド、マイクロサービスなどのお馴染みのワードが合わさって展開されていくと。
巨大企業に独占支配された既存市場や既存SNSでなく、自分たちで作り上げた地域サービスなど草の根的な、先端企業と逆の一般市民の立場からの盛り上がりという点では今後の盛り上がりが楽しそうだと思いました。
誰も考えつかないような新しいサービスというとそんなに思いついたりはしなさそうなので、本書に登場するようにニッチなサービス、特定の業務や特定の地域に根差したローカルなサービスを素早く形にする際に力を発揮しそうです。
240ページの本で割と手軽に読めます。(自分も1時間足らずで読みました。) 代表的なサービス名もかなり列挙されていますし、キーワードを押さえたり参考のために読んでおくのも良いかと思います。