【感想】ジャーニーの途中で立ち止まった時に:『挫折論への招待』@ #技術書典 6
ありえないエントリ。拭えないフライング。そのすべての正体は、Growthfactionからの内密の砲撃依頼にあった。
さあ2019/4/14(日)開催の技術系同人誌イベント、#技術書典 6がいよいよネット上でも盛り上がってきました。順路の最後のラスボスそばの中ボスモンスターサークルとなった壁サー、「さ03」のGrowthfactionの新作『挫折論への招待』の感想です。
実は今回サークルGrowthfactionの総意として、ぜひ感想をブログで書いてほしいという依頼がありまして、事前にできたての電子の完全版を頂戴しました。新メンバーのヨコヤマリョウさんとはまだ面識を得る機会がないのですが残りの4人はいつもお世話になっている方々ですし、特別なPR記事でなくいつものブログ記事でよければということでこうして記事になった次第です。
ちなみにVTRyoさんによるできればのリクエストは、可能なら技術書典の当日前に投稿してイワシマン砲を発射してほしいというものでした。イワシマン砲とは一体なんぞ……本書にたびたび登場する認知心理学の深奥をもってしても解けぬこの謎を抱きつつ、当日現地に行く人がもっと買いたくなるように各章の感想などを記していこうと思います。
- ありえないエントリ。拭えないフライング。そのすべての正体は、Growthfactionからの内密の砲撃依頼にあった。
- 第1章 挫折が人生の不確実性を減らす:ゆのんさんによる自らの挫折経験の解析と向き合い方
- 第2章 挫折回避論への招待:KANEさんによる回避の理論
- 第3章 挫折認知論への招待:てぃーびーさんの経験と、挫折を認識し成長に繋げる理論
- 第4章 「理不尽な人生を愛するために知っておくべき10のこと」:ヨコヤマリョウさんによるBased on a true story
- 第5章 未來論への招待:Ryoさんのエモストーリー再び
- 付録A 特別掲載:広木の挫折論:リスペクト本著者自ら降臨
- 付録B みんなの挫折論:26通りの挫折とそこからの復帰
- まとめ:セイチョウのジャーニーの途上の壁や悩みに立ち止まった時に、手に取りたい本
- 挫折に近い失敗を題材にした本
- リンク集
前回は伝説の1時間で200部完売、総計600部以上売れた『セイチョウ・ジャーニー』は124ページでしたが今回は148ページ。頒布価格は1500円に上がりましたがその分の内容は十分に詰まっています。物理本は見ていないのですが、今回も表紙がトゥルトゥルしていそうです。
第1章 挫折が人生の不確実性を減らす:ゆのんさんによる自らの挫折経験の解析と向き合い方
トップバッターは現アカツキ社のVPoE、人気Podcastとなった『EM.FM』パーソナリティとしてEngineering Managerのあり方を求める界隈を牽引している、ゆのんさん。(@yunon_phys)
Podcastのaozora.fmの25. 公開収録第2弾!技術書典6の楽しい技術書話!でのメンバー宣伝によると、『セイチョウ・ジャーニー』の次は成長に躓いた時の話にしよう…という最初のアイデアはゆのんさんから生まれたそうです。
最初は挫折の定義から始まり、自らの過去の挫折の経験の話を展開していきます。
現アカツキ社でゲーム系のモバイルアプリのエンジニアとして、いち開発者としてのスキルは十分に獲得した後、チームを牽引するリード役になった頃の話へ…
チームには自分と同レベルで自分とまったく同じように動ける人が揃っているはずもなく、混沌とした状況で色んな特徴を持つ人がおり、最初はかなり苦戦したとのこと。このへんを読んでいるとあ〜ゲーム系とかスタートアップ系とかWeb系とかSI系とか関係なく、実地の開発の現場はどこも同じようなものなんだなと改めて思います。
そしてリード役として問題は少しづつ少しづつ解決し前進していったものの、今度は気づかぬうちに自分がボトルネックに。それは自分自身もタスクを持って今までと同じようにコードを書いていこうとしていたため、リーダーとしてのタスクとせめぎ合って知らず知らずのうちに足を引っ張っていたのだった…という展開に。
このへんは開発経験のある程度長いベテランの方なら、みなあるあるな感想を持つのではないでしょうか。開発を初めて数年〜10年ぐらいの間のどこか、リーダークラスと定義している企業もあるし単に数人のチームのまとめ役になる場合もあるし、そのへんの役割をやり始めるとよくぶち当たる壁でもあります。(はい、僕も過去にまったく同じような経験をしてるのでめっさよく分かります……)
本章の中核はその挫折からの復活なのですが、単にうまくいくようになって良かったね〜ではなく、起こった現象、解析した結果、自分の心情や考えの変化、全て分解して非常に理論的に書いてあります。図表も幾つか用意されているあたりもロジカルで、エンジニア向けの本らしいですね。
本書でのゆのんさんは、チームをリードしていきたい気持ちと自分がコードを書きたい気持ちの両方の葛藤が自分の中にあることをまず認知。そこから、その裏に隠れた真の葛藤を探し、自身の思い込みがないかを探し、気付きと取り組み方の変化の中で、挫折を元に新しい一歩を踏み出しています。
学術的なキーワードでは本章では以下が紹介されています。
- 人間には思い込みがあり、自らの価値観や人生経験から形成されて心の奥に根ざしている「メンタルモデル」がある。これが様々な認知や判断の元になっている。欄外ではネットでも時々名を聞く『学習する組織』が挙げられています。このキーワードはあの『カイゼン・ジャーニー』でも氷山モデルの話のあたりで紹介されていますね。
- 人間には「認知バイアス」があり、これも分類するとその中に様々なバイアスが存在する。
- 「推論のはしご」というフレームワークがあり、けっこう大掛かりだけどこれを使うと事実と解釈を切り分けるのが可能になる。
- 作者:ピーター M センゲ
- 発売日: 2011/06/22
- メディア: 単行本
心理学の範疇の中の認知心理学とかそういうアカデミックな領域の世界に突入しますが、このへんを交えて挫折との向き合い方を論じ、そして最後は挫折を適切に振り返ると人生の不確実性にも向き合えるよ…という締め。
出ました、パワーワード「不確実性」。本書がオマージュを捧げる『エンジニアリング組織論への招待』にもしっかり繋がり、EM.FMのパーソナリティらしい内容と締めになるのでした。
VPoE、Vice President of Engineeringというと何やら肩書から既にかっこいい響きがあります。これからエンジニアになろうとしている学生の方から見たら雲の上のすごい人に見えるかもしれません。そんな、業界の一線で活動中の人が自らの過去の失敗を語り、理論的な向き合い方を語るというロジカルで役立つ章です。
yunon-phys.hatenadiary.com aktsk.jp
現在はアルファ版でまだ無料、キャリア相談ができるサービスの『kiitok』(キイトク)でも、「相談相手(一部)」の50音順リストの最後をゆのんさんが飾っています。
Engineering Manager(EM)界隈というと勉強会イベントではEngineering Manager Meetupが有名ですね。よくいろんな方のブログの参加レポで高度なことが書いてあって拝見しています。
engineering-manager-meetup.connpass.com
そういえば最近雑誌の週刊ダイヤモンドでIT人材争奪戦の特集があって見ていたのですが、2019年4月6日号で『スタートアップ4.0』と題してしてスタートアップ企業の特集をしていました。ベンチャーブームの年表や渋谷・六本木・五反田の会社マップがあって面白かったのですが、自己資本利益率ランキング、総資産経常利益率ランキング、従業員の若さランキングでアカツキさんの名前が出てきていました。 dw.diamond.ne.jp
僕が2018年のイベントで何回かアカツキさんのオフィスにお邪魔した時はアニメ化決定!のポップが立っていたのですが、同社プロダクトの美少女青春野球ゲーム『八月のシンデレラナイン』も、遂に2019年4月の春アニメで始まりましたね。
第2章 挫折回避論への招待:KANEさんによる回避の理論
さあ続く2番手は"Podcast生やすお兄さん"としてもはや界隈では不動のキャラ立て完了、おなじみPodcasterのKANEさん!(@higuyume)
そうだ、今年になってなんか寂しいなぁと思ったら、最近ブログでKANEさんをネタにしてなかったんや…(おい)
Podcastでの言葉のアウトプットが多いですが、文章のアウトプット的なところは最近はnoteにまとまっています。
前作『セイチョウ・ジャーニー』でもPodcasterらしく「言葉の伸びしろ」の話をしていましたが、本作でも本章なりの挫折の定義や類義語を上げながら、論旨を展開していきます。
選択肢を増やすことで挫折を回避したり、自分的なゴールをひとつに執着しないようにしているので、ゴールへの手段も複数持てる。ここで2018年に目的を達してめでたくPodcast『おしゅうかつam』は終了→2019年からは同メンバーでコンセプトを変えて『たまよくラジオ』起動の話が出てきて、なるほど確かにと思います。
そして本論の挫折回避論では、だいたい以下の対応方法でポッドキャスターKANEさんなりの挫折からの回避というか、向き合い方の論を展開しています。
- 挫折によって意欲や気力が削がれてしまってはいけないということで、気持ちをスッキリさせる「マインドフルネス」のプラクティスの紹介
- 高すぎる目標を立てると折れてしまいがちなので、目標を細かく設定することでこつこつと攻略していけるよという話
- 自分が向き合っている問題が大きくて挫折しそうだったら、分解していくと良いという話
- そして人と話したり本を読んだりすることで、視野を広げていくことも回避に繋がるという話
僕も今まで挫折したり炎上プロジェクトの中で燃えそうになった経験はあるので、気持ちが張り詰めた状態で仕事をし続けるとよくないというのを経験上感じ取り、自覚したら深呼吸ぐらいはしたりしてるのですが、この「マインドフルネス」はさらに本格的ですね。瞑想とかヨガとかヒーリングとかそっちの世界に近いのですがやってみようかと思いました。
また面白かったのはこの目標と問題を分解していく話。この対象物が大きかったら分解して対処していくという話は、ソフトウェア開発とエンジニアリングの世界では形を変えながらあちこちで登場します。
積み上げ式の見積もり然り、タスクの細分化やWBSを定義していくマネジメントの話然り、世界に轟いた古代ローマ帝国に曰く「分割して統治せよ」の話、プログラミングのKISS原則やオブジェクト指向のクラス設計然り、複雑な問題を分割していくことで解決していく設計の話などなど。
このへんの抽象度が上がった設計やアーキテクチャの話は突き詰めると悟りの境地に達して同じところに辿り着くような感があるのですが、本書で様々な切り口で語られている挫折の理論も、突き詰めると人間の心理とかコミュニケーションとかエンジニアリングそのものとか、色んな方面と根源的なところで繋がっていくのかもしれません。
後書きによるとKANEさん自身はものすごく大きな挫折経験はないそうで「挫折を知りたい...」などの迷言名言が残されています。Podcasterとして様々な人と接し、そのジャーニーを聴いてきた結果が本章に形としてアウトプットされたのでしょう。
これまでに生やしたPodcastは『おしごとam』に『#おしゅうかつam』、『おやかた.am』、『そこまでゆうかねラジオ』に『成し遂げたいam』『KANEのRadioSandbox』…とまさに壮観。ゲストを募集しているPodcastもあって実は気軽に出演できますので、My挫折論を語りたいなんていう方もTwitterなんかで意思表明するとスッと捕捉されてヒュッと出ちゃえると思います!
第3章 挫折認知論への招待:てぃーびーさんの経験と、挫折を認識し成長に繋げる理論
ロジカル担当の3章めは、こちらも界隈ではお馴染み、転職前の大変なご経験と転職後のRuby界隈や各方面でのご活躍で知られるてぃーびーさん。(@tbpgr)
自称しがないラジオアンバサダーでBOT説もあります。当方リアルでまだお会いできていないので、概念存在説も微レ存であります。(約束)
最終ノミネートは逃したもののRuby界隈の貢献者を讃えるRuby Prise 2018でもノミネートされました。
ちなみにハンドルの読み方は後半に若干アクセントつけ気味で「てぃーびー↑」さんだと思っていたのですが、『EM.FM』などを聴いていると「↑てぃーびー↓」さんという読み方もあり、謎の多い御方でもあります。おお…これもMy認知バイアスかもしれぬ…!
ブログでは様々な記事を見ることができて、最近の下請け開発者は成長できるのかという話もなるほどなあと拝見したのですが、挫折論への招待のコンテンツ紹介が以下のエントリ。
章タイトル通り「認知」を切り口に、情報を受け取って解釈していく認知機能は人によって違い、挫折の捉え方も人によって違うのだ…という基本論を元に、てぃーびーさんの人生を例に上げながら展開していきます。ブログ記事に良く出てくる、事柄を丸と四角で囲って矢印で繋げながら相関を図示する図がよく出てきて理解しやすいです。
前作『セイチョウ・ジャーニー』では90年代のゲーセンが熱かった時代のバーチャ2に没頭した話が出てきて、世代が近いこともありエモく共感したのですが、本作では小学校〜大学までの話も出てきます。辛いご経験もされており、こんなこともあったのか〜と思うことしきり。本書の全5章5人+付録の1+26人分全体を通してなのですが、全32通り、「人に歴史あり」とはまさにこのことです。
そしててぃーびーヒストリーは社会人の時代へ。既に大学時代に人生を好転させる機会があり、プログラミングには実績と経験があり、配属時は一番人気だったとのこと。おっこれで順調なエンジニア人生が始まるじゃないかと思いきや……ここではっと気づきます。この先は…Podcastの『しがないラジオ』でもはや伝説回となっているsp.8aで語られてる話に繋がるじゃないか…(涙)
例の月250−300時間に及ぶ激務、IT業界の多重請負構造の闇の代名詞たる7次受けの話も出てきます。例のてぃーびさん記事独特の図解で7次受けの図もばばーんと1ページ分とって出てくるのでインパクトがあります。その様は親のスーパークラスが1つあってサブクラスが6階層続いている、ちょっと継承が多すぎ感のあるクラス図のようです。(一般的なオブジェクト指向設計では親含め3−4つぐらいが普通かな)
ここでの激務や人間関係での苦労から退職、挫折期間へと進むのですが……挫折からの回復の大きな助けとなる要素が人。てぃーびーさんジャーニーの場合は奥様の勧めでカウンセリングを受けたそうですが、ここで人の暖かさ、無条件の肯定、認知療法を経て、徐々に復活していきます。
ここで『エンジニアリング組織論への招待』でもよく登場するキーワード「認知の歪み」が登場、当時のてぃーびーさんも自身に認知の歪みがあったのを知っていきます。炎上プロジェクトの原因はほぼプロジェクトの運用や体制にあり、エンジニア個人に起因することはほとんどない…という下りは、もうわかりみがありすぎて百万回ぐらい頷きたいところです。(僕も駆け出しの頃に同じような経験をして、後から理解しました…)
その後仕事に復帰した後はしばらく激務が続きますが、認知の歪みを理解していたてぃーびーさんは別人のように復活。頼りにされることが多くなり、リーダーをやるようになり、そして未来を示す赤い宝玉の輝きに引き寄せられて新たな世界へ…と、その後の復活はしがないラジオのB面にもある通り。
ラストはこの話を元に、「挫折認知不確実性のマネジメント」と題して挫折への対処の仕方をロジカルに述べています。ひとつはてぃーびーさんのご経験のように挫折してから対症療法で歪みを直していく方法。もうひとつは思考法を身につけて、挫折する前に予防療法で対処していく方法。せっかくなのでちょっとだけリストアップしますと、以下を詳細に述べています。
- 批判的思考:その事柄に認知バイアスや見逃した前提はないか?本当に正しいか?を考える
- 全体像の把握:全体の中での要素のかかわり合いで思考する
- 認知バイアスに対する察知能力:人の思考は容易に歪んでしまうことを知る
- 最後にもうひとつ、「挫折はマイナスだ」という認知自体を正す
「失敗は成功のもと」というやつですね。締めはこれらのキーワードを元にプラクティスを語り、前半挫折経験のエモいストーリー→後半はロジカルな挫折認知論へという、挫折をエンジニアリングしていく章でした。
最後にプラクティスが幾つか解説されているのですが、このへんやってみると新たな発見がありそうですね。「認知バイアス」という言葉は時々耳にしますがWikipediaなどを見るとその中にもまた様々な分類があって奥が深いんですよね。落ち着いた時にこのプラクティスをやってみると自分の思考のバイアスに気づけたりするかもなと思いました。
極めて個人的な感想ですが、てぃーびさんの章もVTRyoさんの章も客先常駐や多重請負の辛さの話は出てくるのですが、定義が曖昧な単語である「SIer」「Web系」は出てこないんですよね。このへんはありがたかったです。
第4章 「理不尽な人生を愛するために知っておくべき10のこと」:ヨコヤマリョウさんによるBased on a true story
エモ担当の4~5章の最初は新メンバーのヨコヤマリョウさんによる小説形式のエッセイ。(@steroid66)
第5章の主人公と同じように、本章の主人公もある程度自分の能力に自信がある状態でエンジニアとしてのジャーニーをスタート。仕事でのふとしたきっかけから大きく挫折し、休職、夜の街で酒に溺れ、どん底の底まで落ちて地べたを這いずり回り、そしてそこから自らのうちに光を見出し、奇跡的に立ち上がっていくまでの物語。
これはもう……歌舞伎町あたりが舞台でチンピラが主人公のピカレスク小説やクリミナル物の映画を見ているような、不思議な錯覚を覚えるほどでした。それぐらい臨場感があるのですが、Based on a true storyとあるのでほとんどヨコヤマリョウさんのジャーニーそのものなんですよね。いやはや、ITエンジニアでこんな人生を歩んできた人もいるのか、繰り返しですが「人に歴史あり」と思うことしきり。
それくらい描写も真に迫っているし、ここまで自分の内面をさらけ出す勇気もすごい。後書きを読むと実際の舞台は銀座界隈だったことが分かります。
そしてこの物語のところどころに計10ポイント、理不尽な人生を愛するために知っておくべき10のことが挿入されています。このポイント群が高い理想や綺麗事でなく、地に足の着いた非常に現実的な、挫折のどん底を這ってきた人だからこそ分かる話が揃っています。
第5章 未來論への招待:Ryoさんのエモストーリー再び
さぁ最後はSES時代から復活後にブログにPodcastゲスト出演に会社公式マツリカfmに『SI業界出身のWEBエンジニアたち』コミュニティ主催にイベントの転職LT#4も3月末に盛況のうちに終了、とアウトプットの嵐、前作『セイチョウ・ジャーニー』でもエモい章を担当したVTRyoさん。(@3s_hv)
vtryo.me blog.vtryo.me soundcloud.com ex-sier.connpass.com
さてセイチョウ・ジャーニーではWebエンジニア3年目の迷える若者、間宵誠君が新たな一歩を踏み出す『マヨイ・ジャーニー』のエモストーリーがひときわ反響を呼んでいました。(Twitterで検索)
実存するTwitterアカウントはフォロワーが35人に増えています。作中に登場した架空のコミュニティ『Everyone Outpuer』が実在を始め、勢いで始まった感はあるものの実際にイベント1回実施まで実現したことも、実にエモい流れでした。
twitter.com everyone-outputer.connpass.com
前作では作中の人物たちにはそれほど描写はなく、名前つきキャラクターもほぼ主人公男性の間宵誠君だけでしたが、御本人のブログ記事によるとこのへんはかなりマヨイに迷ったとのこと。
ヒロイン不在を残念がるブログ感想もあったそーです。ああ…マヨイ・ジャーニーを読んで泣いて感動した人もいる中でそんなアホな感想を書いていたブログ記事がありましたね…ええ…ありましたね……
さァそんな感じで続編かと思いきや、今回は舞台も登場人物も一新して完全新作。人物描写や情景描写もさらにパワーアップして没入感もマシマシ、よりラノベや小説っぽくなっています。
今度の主人公は社会人1年目の女性、水ト未來(みうら・みらい)。
作中では親しみを込めて愛称でミトミクさんと呼ばれています。名前が未来を象徴しているのも良いし、往年のボカロファンや五等分の花嫁ファンやアイマスPあたりにも受けそうなネーミングですね……じゃなかった、大学は文系で心理学専攻、失敗は多かったものの大きな挫折はなし、持ち前の明るさと前向きな姿勢で乗り切ってきたという行動力のある女性。
アニメなどの群像劇だと主人公タイプのヒロインにいそうな感じですね。作中での描写にも容姿端麗とあり、他の登場人物の反応からコミュニケーション力もあるのが見て取れ、エンジニアとしても十分に生存していけそうに見えます。ふつうにモテそうですね。
実際モテるのか豪くんもしくは剛くんと読むらしい彼氏とアパートで既に同棲……と見せかけて、そういう序盤から男が出てくる展開だと盛り下がってしまう諸氏にも安心のとある仕掛けがあります。(何がじゃw)
好きな方は、エンジニアに今も人気の高い『SHIROBAKO』や『NEW GAME!』や『サクラクエスト』や『花咲くいろは』のようなおしごと系アニメの映像あたりに適宜脳内補完しながら読むと、たいへん捗ると思います^^
そんな、SAKURAスキップの季節にいよいよ社会へ飛び出したミトミクさんは2ヵ月の研修の後いよいよ実務へ。爽やかな新社会人の物語が開幕すると思いきや……彼女が就職したのは「未経験でもエンジニアになれる」会社で、例のシステムエンジニアリングサ(ryのアルファベット3文字が……
どうしてこうなった……分かってはいたんや……なんとなくこんな展開じゃないかと思っていたんや…… ( ;∀;)
まったく技術を理解していない営業、かなりの疲弊が見られる客先常駐のチームリーダー、社会人1年目に任せるには難易度と責任が重すぎるタスクと序盤から不吉な匂いはプンプンしています。
ミトミクさんは持ち前の明るさで何とか立ち向かっていこうとするのですが……徐々に疲弊し、自分への信頼や期待に応えようとした分までも大きな挫折を味わい、ダークサイドに落ち、そして本当にまずい一歩手前まで沈んでいってしまいます。
経歴の水増し、一度の大量増員、判断力が極度に低下した状態でも続くタスク、深夜まで続く炎上プロジェクト、極度の疲労、窓のない部屋や鉄パイプの椅子、緊張状態が続き異変をきたす心身、抜け殻の状態で見上げる白い天井……など苦しい描写が非常にリアルですね。
後書きではいちおう否定されていますが、う~んこれは確実に実体験+執筆協力者各位の情報から作り上げられたBased on a ほとんどtrueなstoryですね……(涙)
そして、他の章でも語られているように、人を救うのはやはり人。挫折のどん底にあるミトミクは作中のある登場人物の助けで自分を取り戻し、認知を改め、徐々に復活していきます。この人物のことが分かっていくあたりの流れが実にエモい。もうエモエモのエモです。読者がミトミクに共感して作中世界に引き込まれて没入した頃にこの流れですよ。もう南武線の中で読みながら脳内で「キターーーー!」って感じになりました。
そしてミトミクさんはそのジャーニーの道筋を変える大胆な決断をし、再び桜が舞う頃に新たな世界へと進むのですが……結末とその先は本書でお確かめください。
『マヨイ・ジャーニー』の時と同じように、各所からTwitterに感動のツイートが集まること必至かと思います。
プラクティスなところとしてはミトミクの極秘メモと題して、「メタ認知」のテクニックが解説されています。自分がどう感じ考えたかを自分でなく他者からの客観的な視点で見つめ直し、挫折への対応にも生かすというもの。これは……エンジニア界隈でペアじゃなくてベアのほうのベアプログラミングが流行る予感!
付録A 特別掲載:広木の挫折論:リスペクト本著者自ら降臨
御本人のツイートにもあるし本書の紹介ページにも書いてあるのですが、なんと本書がタイトルをパクr…ではなく正式に依頼をし、オマージュを捧げているあの『エンジニアリング組織論への招待』の著者、広木大地さん自らが寄稿しています。
すごい方なのは知っていたのですが過去の挫折が赤裸々に語られており、なるほどなあと。また繰り返しですが「人に歴史あり」とはこのことです。エンジニアリングへの本格的な取り組みは大学からだったのですねー。
エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング
- 作者:広木 大地
- 発売日: 2018/02/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
付録B みんなの挫折論:26通りの挫折とそこからの復帰
当初の宣伝では24人とよく伝えられていましたが、最終的には26人、本書に寄稿した方々のアンケート結果。
悲しいのは前作のGrowthfactionメンバーだったHideさんのお話ですね……Twitterで間接的には聞いていたのですがお悔やみ申し上げます。
自分的にはリアルでも面識のある
- みずりゅ さん (みずりゅの自由帳)
- hekitter さん (hekitter's log)
の話もあれば、一方的にブログなどでネットで知っている
- このすみ さん (このすみろぐ)
- さとうだいすけ さん (dskst's diary)
や、おなじみ『エンジニアの登壇を応援する会』勢の
- ariaki さん (ariaki's tech blog、note)
- zaki さん (zackey推し)
- kazto さん (楳生庵(ばいなりあん)の閑居)
たち、ほか名前だけは存じている方もあれば知らない方も、界隈で著名な方としては遂にわかばちゃんが魔法少女になってRuby界隈に参戦する湊川あいさんなども寄稿しています。
学歴や生活の挫折もあれば仕事の中での挫折もあり、その定義も復帰の仕方も様々です。同じような経験のある方は共感するでしょうし、これから社会に出たり出たばかりの若い方は、人は誰でも挫折するのだと勇気づけられることでしょう。エンジニアの生存戦略的な知見も得られますね。
そして思ったのは、こんなことなら自分もアンケートに寄稿しておけば……ハッ!これ『セイチョウ・ジャーニー』の時とまったく同じ流れや!w
本書の感想をブログなどに書く方、あるいはハッシュタグ #挫折論への招待 でツイートする方は、合わせて自分なりの挫折アンケートの答えも書いていくと挫折の集合知がさらに集まって後に続く誰かのジャーニーの役に立つことと思います。僕もそのうち書いてみようと思います。
なおいちおう誤植の報告をしておきますと、B16さとうだいすけさん分の本文日本語テキスト中に、<br>{}
の記号が出ちゃってました。brタグは大抵の人は分かるしエンジニアっぽい誤植なので格好はつくかも?
まとめ:セイチョウのジャーニーの途上の壁や悩みに立ち止まった時に、手に取りたい本
本書の冒頭にもあるように挫折の定義は人それぞれ、挫折からの復帰の方法も人それぞれです。各章や付録から得ることのできるプラクティスはその人ならではの多彩なテクニックであることもあれば、辿っていくと根っこは同じところに行きつくような話もあります。
エンジニアとしての成長のジャーニー、そして人生のジャーニーも長いもの。時には途中で躓いたり立ち上がれなくなったり、前へ向かって歩けなく時もあるでしょう。そんな時に人はどんな挫折をどう乗り越えてきたのか、あるいはどう回避してきたのか、知るのは旅人に大きな助けになると思います。
また既に遍歴の旅人ならば、自分が経験してきたあれも挫折だったのだろうか、そのことを語るのも誰かの役に立つのではないだろうか……と考えるきっかけにもなると思います。
みずりゅさんの先行サンプル版の感想記事に『プログラマが知るべき97のこと』が上げられていましたが、確かにそうですね。同書とその姉妹本の『ソフトウェアアーキテクトが知るべき97のこと』『プロジェクト・マネジャーが知るべき97のこと』のようなエッセイ集の趣もありますね。エッセイ的にエモくも読めますし、各章のプラクティスで心理学の触りを学びながらロジカルにも読むことができます。
ふとはるか遠くを目指したジャーニーの歩みを止めて、切り株で一休みして開く本として。あるいは『セイチョウ・ジャーニー』『完全SIer脱出マニュアル』のセットで転職の高速道路にいざ乗ろうかと思ったけど……戻れない高速に入る前にふつうの道路脇のカフェで取り出す本として。旅のお供に持ちたい本です。
という訳で今回は技術書典当日前のフライング感想エントリでした。
それでは、あなたが頒布する側の方なら……ドキドキの被チェック数がぐんぐん伸びて当日は大盛況、終わった後には戦利品ツイートやブログの感想が各所に上がり、ここ数か月の苦労が今こそ報われますように。
あなたが当日戦地に赴く方なら……お目当ての本とお目当ての人と思わぬ収穫に満ちた、知の楽しみと刺激に満ちた興奮の一日になりますように。
あなたが当日行けない方なら……頼んでおいた本が無事確保できたり、待望の電子版がいち早く揃ってBOOTHが本の表紙で賑やかになったりして、この祭りに合流できますように。
楽しい技術書典6を!
挫折に近い失敗を題材にした本
ITエンジニアには情報を共有する文化があって良いのですが、中には失敗の情報も共有されています。本書に寄稿しているこのすみさんが技術書典5で頒布、商業版も出た『エンジニアアンチパターン』はエンジニアならあるあるの失敗経験が言語化してあって参考になります。電子版を読んだのですが立場は違えど自分も同じような経験してます…
技術書典6では『Kuinプログラミング入門 くいなちゃんとはじめるゲーム& 実用アプリ開発』が見どころですね。
プログラミングでなくデータベースの話ですが、『SQLアンチパターン』は文句なしの良書ですね。僕もRDBは各種さんざん触ってきたので、この本のアンチパターンにも身に覚えが…
- 作者:Bill Karwin
- 発売日: 2013/01/26
- メディア: 大型本
ネットでも話題になったそーだいさんの『失敗から学ぶRDBの正しい歩き方』はまだ読めていないのですが、こちらも似たようなアプローチの本で評判がよいです。
失敗から学ぶRDBの正しい歩き方 (Software Design plus)
- 作者:曽根 壮大
- 発売日: 2019/03/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
リンク集
著者陣のてぃーびーさんによる随時更新の関連記事リンク集。
こちらも随時更新と思われるtogetterによるまとめ。
みずりゅさんによる先行サンプル版の感想記事。