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イベント向けシナリオ作成で注意したポイント【後編】

の続きです。

優先度の高くない作業に時間工数をかけすぎない

 TRPGは趣味でほとんどの場合金銭の報酬は関係しませんし、シナリオ同人誌は対価として金を払っても、創り手側の報酬は大抵は製本代や打ち上げで消えてしまうものです。ビジネスでなく遊びなら、何よりも楽しいことが重要。PLサイドのことを考えるのも大事ですが創り手サイドもクリエイト活動が楽しくなければ意味がないでしょう。
 様々なところに工夫を凝らしたシナリオがあります。作中のギミックだったり、添えてあるイラストだったり、専用チャートだったりマップだったり、専用シートだったり、美しいレイアウトだったり、同人誌の余った最後のページに描かれたおまけだったり、様々です。筆者もタイトルロゴを創ったりイラストを発注したり綺麗な情報カードを創ったり動画でトレーラーを創ったり、様々に工夫してきました。
 こうした楽しい工夫が凝らされたシナリオを遊ぶのも面白いものですが、必須ではない作業もあります。オフ会は〆切が決まっているので、時間を掛けすぎないようにしました。



実例:たとえば、シナリオを構成する各シーンのシーンタイトル。これも注意して観察していると曲のタイトルやシナリオがオマージュを捧げている作品の名前、有名な台詞だったり意味があるタイトルだったりする場合もあります。かっこいい名前があるに越したことはないですが、必須かというとそうではないですね。
 筆者の自作シナリオ群でも和風シナリオ『月下残影』ではタイトルに合わせて調子に乗って全イベントシーンのタイトルを漢字4文字で揃えてみました。SFシナリオ『アストライアの涙』ではほとんどのシーンタイトルを古典SFの名作から借用し、PL陣がSFファンで固まった時はいっそう盛り上がりました。RLサイドの楽しみの範疇に入りますが、こういうのもやってみると考えるのがけっこう楽しかったりするものです。w
 とはいえ必須ではないので、『アステールの宝珠』ではシーンタイトルには凝りすぎて時間を掛けないようにしました。
アフリカで死にかけているローランド・ガイエから『PC2』に連絡が入るオープニングは……そうだ、タイトルを"It Began in Afrika"にすればおいらの好きなケミカル兄弟の昔の曲の名前に掛けられるじゃないか! と思いついたけどやめといたんだお!(´・ω・`)


題材の新しさに拘りすぎない

 これは自分の場合なので一般的な注意ポイントではないですね。誰しもシナリオを考えるときは今度は何のネタでいこう、何路線でやろうといろいろ頭を捻ることでしょう。


実例:筆者はオフィシャルシナリオや他作シナリオも多数RLしてきたこともあり、自作で作る際は何かありきたりでない独自のものを、題材を変えて新しいものに挑戦を……といつも考えてきました。スパイスリラー、アストラルファンタジー、ギャグ、和風、SFジュブナイル……。しかしイベントには時間制限があるので、題材の新奇さにこだわりすぎるとその検討だけで時間が過ぎてしまいます。w
 そこで今回は、基本は冒険ものですが一部過去作品と被ってもいいや、と考え直し、故意に過去作品のエレメントと共通化させることにしました。過去の作品でやり残してできなかったことを入れたり、お遊びでリンクネタを入れたりです。遊んだ人にだけ教えていますが、こっそりとバックグラウンドで他の作品と繋がっていたりします。


ゲーム内世界の現時点に合わせる

 システムによりますが、N◎VAを遊ぶユーザはコアなゲーマーが多いです。経験点0点完全初心者向けコンベンションでもなければ……やはり追加ルールや追加アウトフィット、サプリメントで進んだ公式歴史年表のタイムライン諸々を反映させた方が盛り上がるでしょう。特にイベントではその時々の最新状況に合わせた方がキャッチーです。


実例:というわけで、『アステールの宝珠』もその頃の最新時点である『ナイトウォッチ』に完全に対応させています。夜警追加装備もいろいろ出てきます。このらららオフでは13卓中アストラル系と思われるのが2卓と、意外と少なかったのが興味深いですね。
 また、シナリオ背景の物語がナイトウォッチで語られている(ピーーーーー)とも関係……おや、ひよこが《完全偽装》しに現れたようでs


プロットを抑えてストレートなストーリーにする

 ひよこが現れたが大丈夫問題ない……。ここは、普段から「Simple is best」を心がけている人には不要かもしれません。イベントで回すならそこには制限時間があり、不測の事態も起こりえます。短いシナリオを膨らませるのは比較的簡単で、戦闘やアクト後の感想タイムを多く取る方法もあります。一方、長いシナリオを短い時間でまとめるのはハードルが上がり、最後だけ飛ばすと尻切れとんぼにもなりかねません。
 シナリオを構成するプロットも過度に複雑はやめてある程度に抑え、比較的ストレートなストーリーで分かりやすく、なるべく短めにした方が安全と言えるでしょう。


実例:筆者もまあ素人ではないので、過去に作ってきた作品もかなり凝った作品が多くなっています。今回は当初からターゲットがイベントということで、短くストレート寄りでキャッチーにするよう、プロットを簡潔に抑え、工夫を凝らしました。数字で言うと登場人物数やシーン数、情報項目数などにも当てはまります。
 近年の傾向としてはアクト中に2つめのハンドアウトが渡される「キーハンドアウト」を使ったシナリオも増えてきましたが、なるべくシンプルにしようということでこれもなし。過去の公式設定知識が必要なクロニクルプレイもなし。比較的小品としてひとつにまとまるよう、工夫を凝らしました。ゲスト名以外の、記憶が必要な固有名詞もなるべく少なめにするようにしています。
 また、時間内にストレートに終われるようにしようということで、作品を構成する要素の全てが伝わらなくても大丈夫な設計にしました。具体的に言うと(ピーー)が(ピーー)であること仮に伝わらない場合でも、悪い(ピーー)を倒して(ピーー)を助けてはいめでたしめでたしで終われるようにする、などです。おや……またひよこが《完全偽装》しに現れたようd


導入の枠を広く取る

 神は言っている。ここで終わる定めではないと……。これもイベント向けというよりは一般的な話かもしれません。世の中には「PC1(あるいは好きなPC番号)が凄く面白そうなんだけど、設定が特殊すぎて新造するしかない」ようなシナリオというものもけっこうよくあります。
 オフ会などのイベントでは新造キャストもよく見られるのでこれを期待するのも手です。一方、アクトまで時間がなかったり、慣れていない人が遊んだりする可能性を考えると、導入の枠を広く取るというのも重要です。


実例:頻出するスタイル導入というのは、シナリオの実データから算出できます。
 公式のSSS完結後に更新していませんが、拙サイトのコンテンツにも考察記事があります。

導入トップのスタイルは誰しも思いつくスタイルが並んでいますが、『アステールの宝珠』の各4導入もなるべく頻出スタイル、よく見られる設定を持つキャストが入れるように工夫しました。らららオフ13th全卓中ほとんど1卓のみでしょうか、各枠の想定スタイルを1つでなく2つ用意しています。また、必要な防御系神業も1もしくは2と少なめに抑えました。


時間の掛からない戦闘データにする

 どんなTRPGでも大抵出てくる敵との戦闘とそのデータ。N◎VAの戦闘は魅せる戦いという面もあり、一方でガチバトルになる場合もあり、シナリオや遊ぶ人の志向によって様々です。データの工夫の仕方は様々なルールブックやサプリメント、実際のユーザによっていろいろ考えられています、実際のプレイやネットの情報を参考通して考えるとよいでしょう。
箇条書きで上げるとたとえば……

  • 千日手にならないようにする
  • アクションランクを増やしすぎない
  • 人数も増やしすぎない
  • 防御系神業を増やしすぎない
  • ゲストサイドのコンボアクションの種類を抑える
  • 倒せない敵は出さない
  • マイナーアクションで起動するものは最初のスリーアクションで抑える
  • 1アクション複数判定をゲスト側は控える(<練気>や<エイミング>など)
  • 能力値を平らにする
  • 万能防御を万全にしない
  • 必ず弱点をつける
  • リアクション制限攻撃をあまりしない

などなどなど。


実例:ほとんどのシナリオではクライマックスは戦闘となり、『アステールの宝珠』もラストは戦いとなりますが、いろいろ工夫してインパクトは与えつつもそれほど時間はかならないようにしました。
 ちなみにど〜もその後「このシナリオ敵がけっこう強い」という噂が流れたようでひよこ衛星から調査したところ、RLの時に敵が強いことで知られる某人物や某人物が噂の出所らしいことが判明しました。いやはや、修羅の国の住人からそのように評されるとは、さても面妖なこともあったものぢゃ……(笑


表記方法を工夫する

 データの工夫は様々にあるのですがその中から特にひとつ。2010年に筆者が大阪に遊びに行った『第1回オーサカM○●Nオフ』の時に各卓で回したシナリオ『ドッグランド』は頂戴した後、トーキョーでも『ドッグランド』@Tokyoとして回しました。
 この作品のデータ記述方法で面白かったのが、能力値が6/2/7/6に達成値上昇+6ではなく、+分を加えた形で判定値12/8/13/12として書いてあること。出すトランプ1枚分をこの判定値に加えればよい訳です。この表記方法が面白かったので記述に採用しました。

実例:1-2桁の足し算なので大したことはないように見えますが、様々なことが同時に起こる戦闘中ではこれが1ステップ減るだけでだいぶすっきりするものです。こういう工夫は他にもいろいろ考えられるので、既存作品やRL経験のある人を参考にするとよいでしょう。


ゲストデータを調整可能にする

 これはシナリオがイベント向けかどうかに関わらない話です。同人誌シナリオ等でも、達成値21と25の2パターンで書いてあったりするものもあります。トーキョーN◎VAはシステムとして経験点によるレベルがなく、キャストの強さがかなり変動するゲームです。様々なキャストに対応できるようにしておくのはよい考えです。
 筆者は自作シナリオにはゲストデータの後にいつも『●ゲストの改造指針』という項を定め、強化と弱体化の指針を書いています。武器にこれこれを追加する、特技のこれのLvを上げ下げする……などですね。


実例:実際の例は記念にWeb掲載もしている『星月夜作戦』のゲストプロファイルにも書いてあります。筆者は嘘をつくのはゲームマスターの仕事だと考えているので、弱体化手順に「プロットで手を抜く」と堂々と書いています。
 ちなみに偵察すると世の中には、キャストが強いと通りすがりのA級スナイパーを敵ゲストに追加したり、自分のキャストを追加したりする人もいるそーです。恐ろしいこともあったものぢゃ……w


タイムスケジュールを決める

 これからGMをやってみようという方なら誰でも悩む時間管理。これもシーン制のTRPGであれば、シーンの予定時間概算を出してその合計値から算出、フェイズごとにだいたいの時間を予定しておくとうまくいきます。
 たとえばオープニングが4シーン、各10分ぐらいと設定するなら、4*10=だいたい40分前後と見積もれます。これを積み上げて合計で見積もればよい訳です。


実例:『アステールの宝珠』は筆者の最近の自作シナリオでは唯一、シナリオ本文に各フェイズごとに時間の目標を併記しました。オープニングが0.5時間、リサーチが2時間、クライマックスが1.5時間、エンディングが0.5時間で合計約4.5時間です。このスケジュール表は、画像にしてiPad用のイメージ画像集に加えて本番でもPL陣に事前に提示しました。

こうしてマイルストーンを提示して「4時半ごろはもうクライマックス突入ですよ〜」と伝えると、分かっているとPL陣も協力するものです。本番ではこの策定したスケジュールより若干前倒しで、余裕を持って進むことができました。


確実に自己管理する

 自分のプライベートなセッションならまだしも、大人数が集まるイベントにはシナリオ情報提出の締め切り、シナリオ作成の締め切り、PLサイドも参加申し込みの締め切り、諸々スケジュールがあります。これらは守れて当たり前の話ですが、スケジュールを管理してくれる人や秘書が別にいるとは限りません。確実に管理していくようにしていきました。


実例:この辺は人によって手法が様々になるでしょう。筆者も社会人で忙しい部類に入り、常に複数の事を並行して進めなければなりません。趣味の活動も電子管理でiPhone上に集約していますが、スケジュールはいつも使っている定番スケジューラーのiPhoneアプリの『さいすけ』、ToDo管理はこれも有名アプリの『domo Todo+』で確実に自己管理するようにしました。

 ToDoソフトは色々ありますがこのdomo Todo+はチェックリストが作れるんですね。今見返したらこのシナリオ作成に使ったチェックリストは項目が合計41ありました。
 余談ですが社会人のスマートフォン使いにはiPhone/Android双方、こういう仕事効率化アプリ系でも様々な工夫を凝らして使っている人が多いです。スマホに乗り換えるなら調べると面白いですよ。キーワード「ライフハック(Lifehack)」系でいろいろ出てきます。


ツールを活用してゆく

 誕生が1970年代、日本に伝わったのが1980年代。かなりアナログなTRPGもネットの進化、コンピュータの進化に沿って形を変えてきました。イベント向けシナリオと関係ありませんが、こうしたツールを活用するのも手です。

実例:筆者もこの辺はかなりいろいろ活用しています。管理は上のようにiPhoneアプリ。全体の設計時はマインドマップ用の『Freemind』を使用。情報項目関連図は『astah community』、完成後の情報カード印刷は『ラベル屋さんHOME』。HTMLページのプレアクトページはあれは秀丸エディタで手打ち、タイトルロゴはPhotoshopではなくて『Fireworks CS4』+著作権フリーの画像で作成。今回はゲストイラストを発注できないので3Dお絵かきSNSの【パーティーキャッスル】でゲストの3Dモデル作成、キャラ絵+フリー素材やGoogleイメージ検索で集めた絵でイメージ画像作成、最後は秘密兵器iPad……と、様々なツール類もバリバリ活用して準備を整えてきました。
 TRPGはこういう工夫しがいのある+αの部分が多いので、そのへんが面白いですね。


本番前から情報を発信し、盛り上がる

 複数で執筆しない限り、TRPGのシナリオ作成というのは孤独な作業という一面があります。一生懸命自分で書いてやっと出来上がったら本番、もしかしたらうまくいかないかもしれない……と、プレイヤーはただ遊ぶだけですがマスターへの負担は大きくなっています。
 これについては近年はBlogやSNSTwittermixiボイスなどの発展から、思いついたシナリオのネタやトレーラーの短い記事、ハンドアウトの修正やテストプレイなどなどを手軽に情報発信し、そこからリアクションが生まれたりするという流れが多くなりました。このあたりはネットの進化ですね。


実例:らららオフの参加者もほとんどがネット接続となり、2010年当時のインターネット上での各種サービスも進化を続けています。
イベントには本番前のムーブメントでの盛り上がりも重要なので、らららオフ&その前の6月に名古屋で行われたイベント『Tokai N◎VA Devotees』の告知、A卓分作成の進行状況なども、mixi/はてなダイアリー、そしてTwitterでも意識的にツイートするようにしてきました。こうした自分のツイートが別のサービスに捕捉されて記録され、それが最終的にGoogleの検索結果にも出るようになるのを見ると、本当に世の中も便利になったものだと思いました。
 これらは情報発信の他にも、本番に向けて意識やテンションを高めていくという意味もあります。プレプレアクトのBBSで盛り上がっていくのと同じですね。


 思いつくままに列挙してみましたがいかがだったでしょうか。まとめるとイベント向けのライト級なら全体的にやや短めに……ということですが、シナリオを考える際はまず最初に全体のボリュームやターゲットを漠然とでもいいので考え、全体の設計から徐々に細部の検討に進んでゆくとよいでしょう。マインドマップなどを活用したシナリオ設計技法の話は、また別エントリでまとめようかと思っています。
 それではよい冒険を!ヾ(´ー`)ノ