カレルの日記:アルシャードガイア『ガイアの愛し子』
この記事は、キャラクター視点の日記の形式を取った、セッションのプレイ記録です。未PLAYで見ても大丈夫です。
西暦2XXX年1月14日
僕の名はカレル。カレル・アンドレー。シャードの加護を受けたクエスターだ。
といっても、僕は神に愛された勇士なんかじゃない。僕はダンピール、ヴァンパイアと人間の間に生まれた半妖の子だ。このブルースフィアに侵攻を続けるスペクターたちと同じ、奈落側に近い存在なんだ。
僕が生まれたのは日本から遠く離れた東欧の国だ。母さんのミルシェは、父さんのことはただ「騎士」としか言ってなかった。
今の僕は知ってる。奈落の怪物たちの中に、「奈落の騎士」と呼ばれる強いスペクターがいることを。今の僕が1人で戦ったら、歯が立たないような相手がいることを。
母さんが病気で死んでしまって、故郷が奈落の力で消えてしまった後。僕は行くあてもないところをこの学園に保護された。東稜聖母学園は僕たちみたいな生徒をプレスクーラーと呼んで守ってくれているんだ。
ただで学校に行くわけにはいかないから、僕は学費の代わりに見習いクエスターの仕事をしてる。
僕を助けてくれた学園長先生には感謝はしてるよ。でも、僕は奈落の側に近いダンピールだ。あの時助けられなくても、いつか死ぬのは同じかもしれない。
この世界にはガイアの意志が、愛の力が働いていると授業で習った日だった。僕は学園長先生に呼び出されて、特別な力を持ったクエスターがN市で何人も行方不明になってる事件を追うことになった。
学園長先生はダンピールだけど大人の女の人で、ガイアの意志の力を優しく教えてくれた。でも、僕にはまだ信じられなかった。ほんとうにガイアが愛と優しさに満ちているなら、世界はこんなに不公平になるはずはない。母さんだって死ななかったはずだ。
そうして僕が学園を出て、黒猫の鳴き声を聞いたときから、物語は始まったんだ。
黒猫のトルーディは本当は使い魔で、ゲルトルート=アンブロジウスという名だ。凶兆をもたらす破壊の魔術の使い手だから、シュバルツカッツェとも呼ばれてる。ドイツ語の黒猫だね。
マスターに創られた人造生命のホムンクルスで、黒魔術や錬金術の力を使う。帰ってこないマスターを探して、自分でもアスガルドを探して世界を回ってるんだ。
トルーディは人間の女の人の姿にもなれるけど、僕は猫の姿の方が好きだな。でもあのイヤリングをつけた姿はきれいで、人間みたいだと思ったよ。
トルーディとは前から友達で、一緒に旅したことがあるんだ。不吉をもたらす黒猫と、不吉をもたらすダンピールの二人組だ。僕たちにはお似合いじゃないか。
そういえばトルーディは黒いカラスが嫌いなんだ。なんでか分からなかったけど、今度会うことがあったら聞いてみよう。
南部 新(なんぶ・あらた)は“シューティングスター”とも呼ばれてて、あの事件でまた会ったクエスターだ。僕と同じ年だけど人間だから、このN市で一番有名な瑞珠学園に通ってる。
あいつはガンスリンガーで、サブマシンガンや拳銃二挺で戦う。家が代々国体選手の一族で、錆色の銃弾のシャードが体の中に埋まってるんだってさ。奈落銃のせいで家族を亡くしたそうだけど、あいつの周りはいつも賑やかなんだ。
別に知りたくて知ってるわけじゃないけど、あいつの背中をいつも守ってるパートナーの女の子の梓(あずさ)さんのことは知ってる。あの人も特別な力の持ち主で、この事件の関係者だった。
そのうえあいつ、西園寺恵とも仲がいいんだ。いいとこのお嬢さんで、地球が浮いた特別なシャードを持ってるクエスターの人だろ。学校でもハーレムだって言われてるんだってさ。
言っとくけど、別に僕はうらやましいわけじゃない。周りにどれだけ女の子がいようが、そんなのあいつの勝手だ。でも思うよ。世界にガイアの意志があるなら、たくさんの人に、どうしてこれだけ差のある運命を分け与えたんだろうと。
土御門静(つちみかど・しずか)さんは四角い水色のシャードを持ったクエスターだ。大きい神社の陰陽師の家系で、小さい頃はずっと昏睡してたそうだ。
僕は知らない人だったけど、白魔術と召喚術と、すべてのクエスターの中でもっともガイアの加護が篤いレジェンドの力を使う。ブルースフィアでも強力な奈落と戦う時には、この人みたいな支援系の力のある人が大事なんだ。そういえば誰かが、中の人が支援厨だからだって言ってたけど、僕にはよく分からないや。
トルーディと街を調査していたとき、グランドマスターにも会った。青い帽子の老人、偉大なる蒼き星のマーリン。トルーディの師匠の師匠。僕がガイアの意志のことを聞いたら、学園長先生と同じようにもっともらしいことを教えてくれたよ。でも、なんかおかしなおじいさんだった。あれでほんとに偉大なクエスターなのかな。
この世はユグドラシルを中心に、僕らのブルースフィアみたいな世界が幾つも存在してる。蒼き星のマーリンはあちこちの世界を渡り歩いていて、忙しい人らしい。リーフワールドの果ての果て、ぜんぜん知らないような世界に行くこともあるのかな。
なんだかどこかで会ったことがあるような気がしていたけど、もしかしたら、遠い遠い平行世界にいる僕の分身が、どこかでこの人と会ってたのかもしれないね。
竹林ではなんかむかつくカラスに僕らは驚かされた。影の短剣を投げて追い払ってたりしたら、僕らは結界の罠にはまってしまった。トルーディと静さんだけが中に入って、僕と新だけが弾き飛ばされてしまったんだ。
あいつは大きなサブマシンガンを見せびらかしてた割に結界に効きそうになかったから、僕もやることにした。僕らダンピールは闇の種族だ。すべての影が僕らの味方をしてくれる。
影から作り上げた剣で思い切り殴りつけたけど……本当に硬い結界だった。何回やっても本気でやってもダメだった。
そしたら新が力をこめた銃弾であっさり結界を破った。あれはクエスターの力、シャードの加護の力だね。まったく、そんな手があるなら最初から使えよ。
その後、奈落の力の正体を知って、剣を持った女性を見つけた後。N市じゅうの特別な力を持ったクエスターの力が吸い取られそうになって、町は大変なことになった。学園長先生から電話があって、僕たちはまたその元凶を追って山の中に分け入ることになった。
力は強大だった。並ぶ水晶の柱からは光が溢れ、その女の人は剣王の城より取り出したる剣を持って待っていた。胸の首飾りの色は悲しい色に染まっていた。
僕たちクエスターは強力な加護の力を持っているけど、相手も同じだった。新は拳銃を撃ち、トルーディが雷の魔法を放ち、僕は空中から闇の剣を振るった。敵は幾つもの加護で打ち消してきて、かなり激しい戦いだった。
ダンピールは奈落に近い存在だ。奈落に復讐するためなら、僕は刺し違えたっていいと思ってる。でも、僕の闇の剣が止めを刺す前に、その女の人は倒れていた。とても安らかな顔をして。
色々あったけど、僕にとっての白き魔女事件は終結した。結局僕は、奈落を滅ぼすのではなくてクエスターを助けていた。始まりの時と同じように、僕は東稜聖母学園の学園長先生の部屋に呼ばれたんだ。
びっくりしたよ。あの青い帽子のグランドマスターまで一緒にいて、僕を見て笑ってたんだ。
なんかずるいよ。学園長先生と蒼き星のマーリンは元から知り合いだったらしい。それでガイアの意志の力のことを聞いた時、2人とも同じような答えを僕に教えたのか……最初からグルだったなんて、そんなのずるいじゃないか。
トルーディのマスターのそのまたマスター、青いグランドマスターは笑いながら僕の頭をくしゃくしゃに撫でた。
いつも優しい学園長先生は、その……僕を優しく、抱きしめてくれたけど、僕はなんか面白くなかった。だいたいもう子供じゃないんだし、子供みたいに女の人に抱かれるなんて、嬉しくないし人に見られたら恥ずかしいじゃないか。
学園長先生の部屋から出たあと、僕は大事にしているブローチを出した。
蓋を開けるといつもそこにあるのは、母さんのミルシェの小さな写真。まだ病気になる前の、綺麗だった母さんの写真。
台座には真紅の宝玉が輝いている。奈落に近しい僕らダンピールの血の色。大粒の涙のような形。
あの大きな樹の幻影を見た日から、このシャードは消えない輝きを宿し、僕を守ってくれる。様々な形で僕に語りかけてくる。あれは母さんの声なのだろうか。ガイアの声なのだろうか。
ガイアは昔の神話の女神であり、その大元の源神話の力ある女神であり、大地の母。
ブルースフィアの大地自身の力であり、意志であり、全ての生きとし生けるものを等しく愛し、希望と幸せを与え、守る力。学校ではそう習った。
でも、本当にそうなんだろうか。
だったら母さんは死ななかった。あんなに哀しい思いはしなかった。僕の故郷は奈落に犯されたりしなかった。僕自身が、この世界に生まれてこなかった。
ほんとうに、ガイアの意志に愛はあるんだろうか。
母さん、僕にはまだわからないよ。