牙下冬治郎の日記 - Rのつく財団入り口

　この記事はmixiからの転載です。

　３連発完了。この記事は、キャラクター視点の日記の形を取った、セッションのプレイ記録です。

西暦2XXX年XX月XX日

　社長直々の命で私がオーストラリアから呼び戻されたのは、私がミラージュ・コーストのエクストラクション現場を調べているところだった。
　確保対象の博士は見事に連れ去られ、死体は15人分転がっていた。後方処理課１班の精鋭も何人か混じっていた。実に見事な手際だ。一人でこれだけの数を仕留め、対象と共に離脱。侵入者はよほど腕が立つ。ぜひ、手合わせしたいところだった。
　仕方なくヘリでN◎VAに戻ると、街は大騒ぎになっていた。ナノマシン・テクノロジーを使った実に見事な手口で千早アークの一区画が全滅。“サイレント・ソルジャーズ”を名乗るテログループが日本開国を要求。悪徳の都はもはや最期の時かと人々は逃げ惑っていた。
　後方処理課員にも損害は出ていた。早川美沙課長が嘆いていたが、私は何の感慨も抱かなかった。課長には申し訳ないが、私は人斬りだ。我が妖刀影蛍と共に、朧夜の中に人の命を刈り取る身。人の命を守る側の身ではない。

　今回の事件においては数名の人物と接触した。
“ナイトレーベン”こと永沢智は、様々な銃器の扱いに長けた若い兵士であり、現在はマーダー・インクで活動している。外人兵士として様々な戦場を巡り、本件の重要人物と数年前、アゼルバイジャンで接触している。殺人請負企業ではその後、私と遭遇した際は剣を抜かせるなと命が下ったそうだ。勝手にしろ。
　ナイトレーベンは狙撃にも長け、南米某国では常識だと自称する、ハートのスートでのプラーナ貯蓄の技を備えている。まとう雰囲気はいつもの、儚げなほりのコズムだ。
　だが、私の目はごまかされたりしない。硝煙の匂いは、石鹸や香水で消せる。だが、その者の魂が持つ死の匂いは、決して消すことはできない。ナイトレーベンは、私と同じ側の人間だ。
　施設での戦闘では、超遠距離からの狙撃手としてバックアップを担当し、最後はウォーカーから降りての素手の殴り合いまで演じていた。あの戦いに関しては礼を言おう。
　だが‥‥ウェンズデイ・マーケットで私がウォーカー編隊に囲まれた時、遠距離に隠れていたヴァローナが立ち上がり、支援砲撃を掛けてきたことには礼は言わん。あの部隊なら、私の力だけで倒せた。ナイトレーベン、余計なことを。

“ChillingEffect”イヴ・ローテイシアは、国際警察ケルビムの警視だ。キャリア組なら当然だが曲者の女で、いろいろと嗅ぎ回り、余計な事をしてくれた。
　私が重工本部で豪州の農業の父、クヒオ博士の業績に関する講義を受けている時にあの女も来たが、呆れたものだ。博士は建国の父だったと、心底悲しそうな顔をしていたよ。あの女にあんな顔ができるとはな。
　２班の調査結果を拝借したが、ローテイシア警視のバイザー、紫の長髪の外見は、“2PAライダー”だそうだ。女らしさを示しているつもりだろうか、背広にフリルとスカーフをつけた姿はガンダムWのリリーナのような姿だそうだ。RLの中の人が萌えていたよ。それでいい。私の任務には関係ない。
　そういえば‥‥Rのつく財団の情報によると、別のアクトではローテイシア警視はオーストラリア出身ではなく、どうもアフリカ出身だったようだ。これが真実とすれば、何ともいい加減なことになる。だが、ツタヤ☆クォリティがどうだろうと私の任務には関係ない。

　綿密な計画の下に実行されたテロ作戦『黄昏作戦』は実に見事なものだった。N◎VA軍の櫛田少佐、ケルビムから出向してきたローテイシア警視が中心になってのハウンド、街に潜伏していた傭兵たち、幾つもの勢力が動き、事態の解決まで多くの出来事が起こった。
　数年前のアゼルバイジャンと現在、幾人もの重要人物の思惑、ナノマシンを使用した綿密なN◎VA転覆作戦。実に見事だった。素晴らしい作戦だったよ。力押ししかできない浄化派の生き残りやテラウェアの厨房超人共も見習ってほしいものだ。

　‥‥「しかし、その計画は我々の活躍により阻止され、N◎VAの平和は守られた。」そんな安っぽい答えを期待したか？

　残念だが、私は正義の味方ではない。私は剣客、妖刀を携えた人斬り。この街の空虚なネオンの狭間にうごめく、不吉な影のひとつに過ぎない。全てが単純な善と悪に分割できるというのは、千早重工が善でテラウェアが悪だというのと同じぐらい馬鹿げている。
　あの戦いでは戦場の後方にいた博士の首を取ったが、他に大したことはしていない。ウォーカーを相手に居合い斬りの構えに入った時、あの女警視がサムライはクレイジーだと呆れていたよ。
　前面装甲を厚くしたナイトレーベンのウォーカーが狙撃の後は接近戦を演じ、ウォーカーを降りてもあの若者は戦った。砲声の中をローテイシア警視の指揮する特殊部隊が前進し、最後はオーストラリア宙軍まで動き出した。首謀者は死に、あの暗殺者は捕らえられ、特務警察の牢獄に拘束された。

　‥‥そして、私はその犯人の前にいた。若い娘だったよ。後方処理課１班の精鋭を含む15人を殺し、見事エクストラクション対象と離脱したほどの腕前だ。厳重に拘束され、喋ることもできず、涙を流していた。
　辞世の言葉を聞いてやったあと、私は“影蛍”に手を掛けたが――気が変わって手を下ろした。

　無抵抗の人間を斬るのは、私の趣味ではない。そういえばあの博士も無抵抗に近かったが、あれとこれとは話が別だ。
　代わりに私は剣の一閃のみで全ての拘束具を断ち切り、偽造ビザを放って渡した。女はすぐに姿を消したよ。
　哀れみか、偽善か？　そのどちらでもない。借りを作ったまま仕事を終えるのは、私の流儀に反する。ナイトレーベンにはひとつ借りができた。その借りをここで返したに過ぎない。

　女のその後のことは知らない。公式には脱獄したまま行方不明となっている。すぐに外国に高飛びして行方をくらましたはずだ。
　ローテイシア警視の悔しがる顔が目に浮かぶよ。私とテロリストを同義としたあの女の言葉は面白い。確かにその通りだからな。

　あの女なら‥‥そう、おおかた数年後、アゼルバイジャンでナイトレーベンと再会を果たした。そんなところだろう。
　私は朧夜の冬治郎、朧に輝く蛍の暗殺剣を携えた剣客だ。人のフラグ立てにはしたないと汚名を着せられた、Rのつく財団に秘せられた最後の懐刀だ。その名に恥じぬことをやってみせただけだ。

　こうして私の仕事は終わった。
　‥‥つまらん仕事だった。

――牙下冬治郎

http://www2s.biglobe.ne.jp/~iwasiman/foundation/nova/stajD/toujirou.htm