ローリエ・リルケの回想記 - Rのつく財団入り口

　この記事はmixiからの転載です。

　この記事は、キャラクター視点の日記の形を取った、セッションのプレイ記録です。

西方暦1068年XX月XX日

　あれは、辺境で魔神と戦い、不覚ながらわたくしがしばし倒れてしまうしばらく前の物語でした。まだ紅公ガイのいた頃の動乱のケルファーレンを旅していたわたくしとブリーゼは、辺境にて“暁の谷”という魔獣が住むという谷の噂を聞きつけたのです。そして幾人かの旅の仲間と再会を果たすのでした。

　フィリス・リーテリア様はわたくしと同じく、マーテル様のお導きに従うマテラ人の修道女です。聞けばあの名門、イスマリア学院で教師もしておられたとか。なるほど、名門貴族のお嬢様たちを躾けるには、あのような方こそ相応しいでしょう。
　操る奇跡の技も非常に力強く、我らの剣と盾を何度も支えてくださいました。お人柄としても、世を導くのに相応しいお方です。わたしはいつかまた、どこかあの方にお会いすることがあるような気がします。
　時折、非常に眠たそうにもしておられましたが、ここはケルファーレンの奥、きっと長旅でお疲れだったのでしょう。

ここで、からくり仕掛けの白馬ブリーゼ曰く：
「ひひーん」　（意訳：「それは、中の人の睡眠不足だよう」）

　また、ブリーゼを駆って谷に急ぐ途中、懐かしい友人に再会しました。金髪に灰色の瞳をした森人の娘、ライラ・リューベルトです。
　魔法使いの血統に恵まれ、若くして魔術を極めたライラは凍の元力と様々な魔術の技を操ります。天慧院の天の塔より直々の命を受け、ある魔術師と、魔道書のためにやってきていたのでした。森人の体は人の子より軽くできています。ブリーゼの背にかの娘も乗せると、わたくしたちは谷へ急ぐのでした。
　ライラは少々気の強いところがありまして、意地を張ることがあります。わたくしも最近知ったのですが、都のことばではかような物言いを“つんでれ”と称すとも聞きます。
　唯一神アーの導きにより、その者の本質は表すべきでしょう。わたくしも旅の道連れの友の務めとして、ライラの“つんでれ”な物言いを引き出そうと努めたのですが、旅の途上、“展開ふぇいず”では果たせませんでした。
　しかし懸念は無用でした。魔道書の中から人と魔獣の姿をした忌むべき魔物が、闇の鎖に囚われた殺戮者が出でて我らが剣を抜いたとき。
　ライラは自分の魔術が炎なら今すぐに焼き払ってやると言い放ち、その後も“つんでれ”な物言いで強力な魔術を次々と放ち始めたのです。
　なるほど、戦いになれば、あのエルフの娘の特徴はすぐに出るようです。

　もう一人――懐かしい、と表すのは我が騎士の誓いに掛けて認めたくありませぬが、偶然の出会いがございました。わたくしとライラに先駆けて進み、行く先々で悪しき者を退治してくれようと村の若者と意気投合していた騎士がおりました。
　何処かの国の名のある騎士かと期待しておれば。草原で追いついたその顔には見覚えがありました。あの頑丈そうな馬デュナンも、大槍を携えた若者も。
　数年前、北の地獄塔において強大なるオーク王ゲーマルクに相対した時にわたくしと肩を並べて戦った、ブレダ王国の英雄、オルフェン卿だったのです。
　目の見えない老婆に対する親切さや、獣たちに出会ったときの気遣い。小ツェルコンも多少は進歩したかに一見見えたのですが‥‥すべての使徒の名に掛けて撤回いたしましょう。あの少年騎士、体は大きくなりましたが、心は少しも変わっておりませんでした。
　都の言い回しに“空気を読めない”なる言葉がありますが、小ツェルコンはまさにそれに当てはまります。強き大槍で突撃するのは結構ですが、あれではいつ、足元をすくわれて倒れることやら‥‥。
　今はもうお目通りすることもありませんが、オークとの戦いでブレダがエステルランドと講和し、連合軍を結成した折、開明王ガイリングII世はわたくしに小ツェルコンの世話を命じました。
　陛下はあの時の言葉を覚えておられるでしょうか。「案ずるな、機甲馬の世話よりはたやすいであろう」と。
　あれから数年ほど経ちますが、あの御言葉は誤っていたこと、我が鏡の盾のローリエの名に掛けて断言できます。こたびの再会でも、小ツェルコンは我がブリーゼよりよほど手間がかかりました。

からくり仕掛けの白馬ブリーゼ、大いに頷いて曰く：
「ひひひーん」　（意訳：「ご主人様、激しく同意だよう」）

　そして‥‥わたくしはアーレットという人の子の少女と出会いました。けしからぬ人買いの商人に捕まりそうになっていたところを、ブリーゼが鼻で気付き、路地裏でわたくしが助けたのです。といっても、我が無紋の盾と剣を見ただけで、彼奴らは逃げ出したのですが。
　アーレットとは思わぬ場所で、暁の谷でまた邂逅することになりました。
　すべてが片付き、オルフェン卿が村の酒盛りの席で武勇伝を語っていた頃、わたくしはかの娘と話をしました。聞けばあの小さな獣たちと、あの場所で暮らすつもりだというのです。自ら決めたこと、それでよいでしょう。
　かの娘から見たわたくしは「騎士様」でしたが‥‥わたくしの瞳をよく見せた時、アーレットは驚いておりました。わたくしの瞳は空色ですが、その奥に、無垢なる使徒クレアータのしるしが刻まれているのです。
　我が命は母より授かったものではなく、第五元素の秘跡によって得たものです。わたくしもかつては心なきものでした。ですから‥‥あの獣たちの気持ちが、少しは分かるような気がいたします。

　偉大なるアーよ、慈悲深きマーテルさまよ、彼らの行く道が光で照らされますように。あの修道女様に、森人の娘に、空気の読めない王の子に。
何よりあの少女に、そして騎士の誓いを立てた、あの小さな有翼獅子に。かくあれかし。

　そしてわたくしとブリーゼは、また遍歴の旅を続けるのでした。
あの時、別の方角に向かっていれば、異なる人との出会い、異なる敵との戦いがあったかもしれません。エステルランド火急の折、あの聡明なる兄王子殿下と可憐なる姫君のために、我が剣を貸すことができたのかもしれません。
　ですがそれはまた、別の機会に書き記すことと致しましょう。

――ローリエ・リルケ　旅の途上にて記す

http://www2s.biglobe.ne.jp/~iwasiman/foundation/boa/engraved/3rd/lorie.htm