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ガンドッグ紹介

 遅ればせながらRole&Roll誌上でも連載されていたガン・アクションRPGガンドッグ』ので紹介をば。231ページ、\2857で新紀元社からRole&Roll RPGシリーズとして刊行されました。
 Web上では妖さんの 妖日記 やSIN_Snakeさんの Snake My Way のレビュー&プレイ記録が早いですね。



 舞台は西暦2016年、ほんの少し未来の、現実より悪い方向へ進んだこの地球。ナイトメア・ストームと呼ばれる異常気象が連発したせいで世界はより混乱し、穀物の生産は壊滅的な打撃を受け、多くの国では食料自給率が低下し治安が悪化、治安機関の力も弱まりました。

 食糧危機からようやく脱出しつつあるアメリカでは相変わらず強硬派の大統領が当選、イギリスでは21世紀初頭に武装解除が進んだ IRA が再び台頭。ヨーロッパではネオナチなどの勢力が現れ、マフィアが巨大化し、食糧危機からいち早く回復を見せたロシアはユーラシアの覇者として米帝国にふたたび対抗し得るまでもう少しのところまでに復活しつつ、内部ではチェチェン問題を抱えています。
 南米・アフリカでは今も貧しい国々が貧困にあえぎ、中東ではイラク戦争後に崩壊したアル・カイダに変わってテロ組織“フッリーヤ”が世界中のイスラムの敵を狙う。混沌としたアジア圏は穀物被害が大きく、唯一オーストラリアだけが食料自給率100%の平和を勝ち得た世界。

 現実より少し悪い方向へ傾き、ナイトメア・ストーム後の混乱がようやく収束しようとしている未来です。(ただし銃器関係の製品・テクノロジーは2004年の現代とまったく同じになっています。)

 保険会社のための保険会社である再保険会社は頻発する大規模テロや誘拐事件で支払いで大損をすることもが多くなり、世界保険安全企業(W.I.S.E.、ワイズ)という連合体を組織。大元の根源を断ち切るため、治安機構も対応しきれなくなった現在は私兵を雇い、テロの根源を撃滅したり自らの警護の為に使うようになりました。

 そして経費節約の為に常時私兵を囲うのではなく、案件ごとにフリーランスと契約を結ぶ仕組みに徐々に変化。ワイズの窓口のワイズマンと仲介役のコーディネーターを介して対テロ作戦、警護、コーディネーターの属しているセキュリティ・コンサルティング企業の任務などに、そうしたフリーの集団をその都度雇用するような形態となりました。雇われるプロフェッショナルは元傭兵や特殊部隊員から構成される、この世界で銃器戦闘においてはほぼ最高水準の能力を備えた戦士たち。猟銃を使った狩猟に使う猟犬の名になぞらえ、彼らはいつしかこう呼ばれるようになった‥‥ガンドッグと!


 というなかなか面白い設定。再保険会社という辺りがやや分かりにくいですが、ファンタジー世界において冒険者の店で仕事を請け負う冒険者や、サイバーパンク物でフィクサーから任務を請け負うフリーランスのチームのような存在を、世界設定に沿う形でうまく表現しているわけです。

 まずはエリア別の世界設定と重要人物、WISEの影響力などが書いてあります。昨今のTRPGの中ではかなり詳しく、リアルっぽい世界が濃い密度で描かれています。有名なワイズマンや治安機構の長、テロ組織の重要人物など有名パーソナリティも並んでいるのですが、これがまた名前も絵も設定もリアル系。

 萌えイラストのなんというか読者に媚びたようなキャラが並ぶFEARゲー系のTRPGなどに比べるとかなり新鮮です。ネオナチのスキンヘッドは俳優のヴィン・ディーゼルに似てるしチャイニーズ・マフィアの幹部はちゃんとジョン・ウーの系譜をひいてますよ。パーソナリティ唯一の十代の娘なんかイスラム圏のバーレーン国の王女だけです。


 判定は基本的に1d100の成功判定。そして2d10の10をゼロに読み替えて2d9にするという、少々なじみにくい達成値判定があります。ほとんどの判定はこのふたつを同時にやるデュアル・ロール(DR)です。1d100でスキルの以下が出たかどうか成功判定、その時の10の位+1の位+スキルLvを足して出すのが達成値。この達成値の度合いによって交渉や情報収集ならば結果に差があり、射撃なら相手のボディアーマーの装甲値を貫通できたかどうかの判定に使います。つまり基本的には、d100で10の位も1の位も高い目が出つつ成功するのがよいわけです。


 キャラクターメイクは アサルト/スナイパー/スカウト/デモリッション/コマンダー/パイロット/オペレーター/メディック の8つのクラスから、メインクラスとサブクラスを決めるよくある方式。クラスによってスキルの初期値とクラスアーツ(1セッションに使える神業のようなもの)が違います。年齢ルールもあり、高いと経験から来る経歴とボーナススキルは伸びるものの、41歳以上は能力値劣化ロールで能力値減少の可能性があるというリアル指向のものになっています。割り振り式の能力値は8種類で数値は1〜10、うち外見だけは好きに決めてよいのが面白いですね。

 スキルレベルは1〜5まであり、1あるごとにスキルが10%上昇。クラスによる基本値、能力値から得られた値、経歴とボーナス分だけスキルレベルを上昇させた後の最終的な%値の成功率が、ゲーム中に使う値になります。言語ルールで全員が基本的に話せるのは英語になっており、やはりガンドッグ英語圏を中心に世界で活動するようです。

 これも最近のゲームによくある方式ですがコンベンション等のため、作成済みのサンプル・キャラクターも計10種用意されています。クラス選択や数値書き込みは完備、イラストに加えて所有する銃器のカードも一緒に書き込んであり、これだけでも十分遊べる形になっています。

 スカウト/アサルトの偵察兵“バイパー”の銃は FN Project90 、サブウェポンは弾薬を共用できるファイブセブンになってるあたりがたまりませんね。蠍の刺青をしたお姉さんの狙撃手“ニードル”はドラグノフ使いでなんとなくメタルギアのスナイパー・ウルフを思い出します。男のスナイパーのサンプル名が“デュラハン”でちゃんとギリースーツを被って遠くを見ているのも燃えますね。アサルト/メディックの衛生兵“アムリタ”が唯一戦場の儚げなヒロイン(しかも眼鏡っ娘)というカンジですが、このゲームはメディックはかなり必須です。

 R&R誌掲載記事から注目していたのですが、イラストがなかなか格好良くて描かれている銃もリアルなので雰囲気が出ています。

 各クラスごとに用意され、1キャラ5つ持っているクラスアーツは、それぞれ1ミッション(=セッション)に1回づつ使える特殊技能や神業のようなもの。判定の成功率や達成値に+、やり直しが出来る、蘇生が可能‥‥などなど、どちらかいうと『ブレイド・オブ・アルカナ』の奇跡や『アルシャード』の加護に近いものです。効果は世界の雰囲気を踏まえて派手ではありませんが強く、これらの使用時にはある程度の演出を伴ってもよいとなっています。リアル系の世界の雰囲気を壊さずに、クラスアーツの判定を見せ場にしているわけです。両手利きのアーツもあるので二挺拳銃に鳩が飛んだりギターケースから銃が出てくることもできなくはなさそうですが‥‥メインは特殊部隊チックなガンアクションになっています。


 ゲームのコンセプトを踏まえて面白いルールは幾つかあります。アイテムの重量である携行値はα×βで表わされ、キャラクターシートの筋力×体格の分のマス目に収まるように記入していきます。「カービン銃もう一丁は無理だが閃光手榴弾ならもうひとつ持てる!」などというシチュエーションも再現できるわけです。(点数を数えるだけの簡易ルールもあります。)

 移動関係も偵察兵のスカウトがいると有利になるよう広い野外での長距離移動に使う3種類の戦術移動があり、屋内戦闘などで使う戦闘移動のルールがあり、室内突入作戦などの状況を踏まえて様々な修正や銃声のルールが列挙されています。

 情報収集ルールもあり、『トーキョーN◎VA』の社会技能判定に似たような感じでセキュリティレベルによって掛かる経費や難易度が変わる中で、特定のキーワードに対してスキルで判定、達成値によって得られる情報が変わるというスピーディなものになっています。

 他の目玉としてはターゲット・レンジ・システム(TRS)。他のゲームでの継続判定に似たようなもので、行為の成功をだいたい5段階に分割し、スキル判定の1回の成功ごとにシートの上をマーカーなどで段階を進めていき、最後に成功できるというものです。
「激しい銃撃戦の状況下で爆弾を解除する」「機会が一度しかない中で狙撃」などのシチュエーションを再現でき、また狙撃をTRSで行った場合は晴れて成功すれば、通常のスキル判定の代わりにクリティカル成功になります。


 目玉の戦闘ルールは細かく設定されています。戦術スキルの成功率順に行動、銃器のセミ/バースト/フルオートなどのモードによって1ラウンド内の射撃回数が決まり、武器ごとに決まっている目標までの距離、目標の人数、何射目か、遮蔽や周囲の状況によって%に修正が加わった上でハンドガンやライフル、SMGのスキルで判定。成功したらデュアル・ロール結果の達成値と武器ごとに決まっている貫通値を足した値を目標のアーマーの装甲値と比較。(ここ、文面そのままだとスキルレベルを2回足してしまうことになりますが、やはり1回が正しいでしょうか。)

 武器のダメージは貫通できたかできなかったによって XdX+X の形で2種類決められており、ダメージ算出後はアーマーの装甲値分を減算。最終的なダメージは耐久力から引いてゼロ以下になったら死亡の可能性あり。一度に10点以上食らうとダメージ・ペナルティ表というクリティカル表ライクな表で2d9、出血や朦朧、転倒などのコンディションダメージを受ける可能性があります。

 ふつうの単なるHP削りあいのTRPGに比べると処理が面倒ですが、銃で撃たれたら普通の人は死んでしまうリアル系世界、これは仕方ないでしょう。実際負傷を治療できるクラスのメディック、あるいはサンプルキャラのアムリタは本気で遊ぶならチームに一人は必要になりそうです。

 ほか、フルオートで複数人数に当てる以外にも、目標がそこから移動しなければ当たらないが移動すると高確率で弾幕にさらされてしまう制圧射撃、ショットガンやグレネードを撃った際の処理、受動側がカウンターも狙える格闘のルールもあります。日本刀やナイフもアイテムで用意はされていますが、メインはやはり銃同士のガンアクションのようです。


 勢い、『ガンドッグ』の戦闘は先に撃った方が勝つリアル指向の短く激しいものになるでしょう。当然ながら銃弾はいっさい回避できませんし、戦術スキルを上げるか、元から戦術スキルの高いコマンダーなどが戦術勝負で勝てば、味方全員が先に行動できます。

 コマンダーやオペレーターなどのクラスが裏世界の人間と交渉したりコンピュータで情報収集して敵アジトの情報を事前に入手、スカウトが偵察の後に襲撃。戦闘系クラスが音を立てずに忍び寄ったり間取りを把握した上での一瞬の強襲作戦で突入、負傷による命中率低下を避け、相手に反撃の間を与えずに倒す。‥‥そんなプロ同士の戦いが再現できます。


 付属シナリオは2本、そして最後は72種に及ぶ武器カード。説明テキストと別ページなのが二度手間ですが、各データ、写真から解像度を落としてぼかしたようなイラストつきで多数並んでいます。
 本当に濃いガンマニアの方々から見れば銃のデータに??な点はいろいろありそうですが、TRPGで遊ぶならこれくらいで十分ではないでしょうか。銃器は意外にそれほど多くはなく、映画や漫画などフィクションに登場する有名どころを一通り押さえた形になっています。

 ハンドガンはベレッタに FNハイパワーやグロック、SIG、リボルバーも数点。珍しいのはスチェッキンまで。(これはラグーンのバラライカ姐さんのようなキャラを作れということか?) SMGはお馴染み H&K MP5 シリーズや UZIスコーピオンや P90。アサルトライフルはコルトM16 や M4、SIG550 シリーズやFA MAS、ステアーAUG、H&Kの G3 やおなじみ AK74 など。スナイパーライフルはドラグノフにワルサー WA2000、PSG-1 や50口径のバレットなどなど。

 比較的有名どころで載っていない銃といったら、ハンドガンのワルサーP99 や SIG やグロックの細かい他シリーズなどでしょうか。アサルトライフルや P90 などは貫通力が高く設定されており、ファンブルの確率を示す信頼度は実はあまり差がありませんが、SIG SAUER や SOCOM Mk23 など高精度の拳銃は壊れにくくなってます。

 面白いことにボディアーマーや手榴弾類や医療セット、車両、テロリストやボディガードや一般市民なども統一の書式でカード化され、管理しやすくなっています。R&R誌上の記事や出るかもしれないサプリメントでは、このカードが追加される形で追加銃器データなどが出るようです。敵データの最後にゾンビがあるのはご愛嬌で、リアル系世界のテロリストとの撃ち合いの他にバイオハザードごっこもできるようになっています。


 全体として、ルールブックはそれほど長くないながら、出来はなかなか良いです。ゲーム用語にはすべて最初から [ ] がついていますし、FEAR社の作品などを参考にしたのか本文の体裁もハシラつきでとても読みやすく、重要なルールにはチャートもついています。すぐ遊べるサンプルキャラも完備、巻末のチャート一覧や出来のいいキャラシー関係もコピーしての運用を考えて作られており、全体的に実戦を想定して作られています。

 万人受けではなく完全に趣味系のTRPGですが、たまには渋いプロ同士の戦いも良いのではないでしょうか。後書きにも、ファンタジー世界で魔法を撃ち合うのと大差ないのだからプレイヤーの銃関係の知識などは気にせずまず遊んでくれと書いてあります。


 作中には少なめですが参考文献も載っています。コンシューマーゲームには約束として『メタルギア』『バイオハザード』そして『ゴーストリコン』や『レインボー・シックス』などの洋ゲーが。

 映画では『レベリオン』や『デスペラード』ははっちゃけ系ガンアクションとしてありがちですが戦争物としては『プライベート・ライアン』『プラトーン』『ハンバーガー・ヒル』が。スナイパー必見の『山猫は眠らない』や『スターリングラード』もあります。昨年公開された『S.W.A.T.』や元のTVシリーズも、特殊部隊物でデルタとレンジャーを見るなら必見の『ブラックホーク・ダウン』も。激しくリアルで驚いたイギリスのTVドラマ『S.A.S.英国特殊部隊』や激渋の『RONIN』まである!
男たちの挽歌』『リプレイスメント・キラー』があるのにウー最高峰の『フェイス・オフ』がないのと『ザ・ロック』がないのが残念ですが、ぼきゅの好きな映画が沢山あるじゃないか!(;´Д`)

 小説ではミスターCが夢の多国籍部隊レインボーを結成するトム・クランシーの『レインボー・シックス』に『トータル・フィアーズ』で映画にもなったCIAのジャック・ライアンのシリーズもあります。湾岸戦争スカッドミサイル撃破作戦から生還した英国SAS連隊員のアンディ・マクナブの戦記『ブラヴォー・ツー・ゼロ』や自伝と小説シリーズまである! 同僚で後に小説家になったSAS隊員クリス・ライアンの小説シリーズが載ってないのが残念ですが、もうたまりません。(*´Д`) ハァハァハァハァハァハァハァハァ(駄目)