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映画原作冒険小説『キラー・エリート』&アクション映画四方山話の事


 5月に映画公開、デ・ニーロとジェイソン・ステイサムとクライブ・オーウェン共演で映像にの映画の原作を読んでみました。原題は『フェザーマン』、作者のサー・ラヌルフ・ファインズは元イギリス特殊部隊SAS隊員でオマーンでの戦いで勲章も受けた歴戦の兵士、冒険家で南極にエベレストに世界各地を制覇したかなりすごい人。俳優のレイフ・ファインズの同じ一族だそうです。すごい。

キラー・エリート (ハヤカワ文庫 NV)

キラー・エリート (ハヤカワ文庫 NV)

 複雑な経歴とかつて家族を失った過去があり、現在は大金と引き換えに依頼された人物だけを静かに消すスペシャリストとしての職業暗殺者チーム《クリニック》を率いる主人公格のダニエル・デヴィリャーズ。オマーン国の大物族長から日本円だと数億レベルの大金で受けた依頼は、イスラムの複雑な教えと部族民の政治のしがらみで、戦士した息子たちを戦場で殺めた仇のイギリス軍の相手を1人づつ探し出し、確証付きで復讐していくこと。綿密な調査の末に発覚していく復讐相手はみな英国軍士官やSAS隊員でそれぞれ輝かしい経歴を持つ優秀な兵士ばかり。
 一方、音もなく近付いてくるスペシャリストたちに気付いたのが元SAS隊員や英国軍兵士たちをこうした危険から守るために密かに結成された警察とも軍ともMI6とも違うあくまで民間の自警団的組織《フェザーメン》。中枢部にいるのも退役したSAS隊員や英国の大物で地味だけど何やら秘密結社めいた感もあります。十数年の時を掛けて続く血の復讐と《クリニック》vs《フェザーメン》の対決。最後の方でなんと作者のラヌルフ・ファインズ本人が出てきちゃったり、どうも《フェザーメン》創立の背景にはSAS連隊の創設者である伝説的なデイヴィッド・スターリング大佐まで絡んでいるらしい。そしてこの《フェザーメン》周りがどうやら半分本当らしくてノンフィクション扱い、イギリス政府は全面否定したそうな……という曰く付き。向こうではベストセラーになったそうで事実と創作が入り混じっています。

 映画の方は地味ながら骨太のサスペンスアクションに仕上がっているようですが、『キラー・エリート』というタイトル通りのスタイリッシュなアクションの原作を求めて読むと肩透かしを食らいます。英国ではベストセラーらしいのですがなにぶん昔風の小説。分厚くて描写が細かくて長いく、登場人物は多く感情移入もしづらいし、たぶん主人公は《クリニック》のダニエルなんですが元のタイトルは『フェザーメン』だしどっちが主役かよく分からない。各々の過去エピソードや経歴や肩書きの説明が長い。プロット上重要でない端役やあと数ページでさくっと死ぬような人の過去の武勇伝がずらずら語られたりします。w
現実でも兵士たちはなんとかの戦いの武勇伝とか伝説とか追憶とかそういう類は好きらしいですが、イギリス人はどんだけ経歴や肩書きにおだわるんだ!とちょっとツッコミたくなってしまいます。w

 作中の舞台は60年代?〜70〜80年代と長く血の復讐は続きます。奇しくも映画『裏切りのサーカス』が静かにヒットしているスパイ小説のクラシックな名作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の舞台の70年代前半と同じ。しかし面白いことに陰鬱な東西冷戦やソ連の影はまったく出てこないんですね。世界が緊張したキューバ危機も関係無し。アメリカもCIAも出てこない。湾岸戦争ソマリア内戦、ベルリンの壁崩壊や9・11テロはまだ未来。出てくるのは世界の七つの海を制覇し植民地で隆盛を極めた大英帝国時代の栄光を引きずるイギリス、第二次世界大戦時に結成され第三世界の影の戦場で輝かしい戦歴を挙げてきた初期の栄えあるSAS連隊。作者の豊富な経歴が色濃く反映されているのでしょうが、ああ、21世紀の現代からするとやはりちょっと昔の時代の話なんだな、とよく分かります。

 昔の話なので銃やメカの面のミリタリー描写はあまり深くなく古いのですが、オマーン国の内情やエキゾチックな中東イスラム圏の話、英軍SAS回りの描写はなかなか深いです。
 ちょっと内容に触れてしまいますが暗殺者集団《クリニック》は綿密な調査の上で証拠を残さずターゲットを殺めていくので、車やヘリに細工をしたりけっこうやることが地味で激しい銃撃戦はほとんどないんですね。
「過酷なことで知られるSAS連隊の選抜試験の徒歩行軍の脱落者に見せかけて、薬物を使った低体温症でターゲットを殺す」なんてのはえらく地味ですがいかにもプロフェッショナルの仕事らしくてある意味新しいかもしれません。斬新な手口です。w
 殺す側も殺される側もみんな家柄が凄かったり勲章を持ってたり輝かしい経歴持ち、けっこうエリート色満々です。書いた人がそうだったんでしょうが、選抜された優秀な人間はさらにチャンスが与えられ、同様の立場の人間と知り合えて交友が広がったりしてさらに肩書きがついて上に昇って一族が繁栄する、広い家に記念品を飾って武勇伝を語っちゃったり広い書斎で秘密の会合を開いちゃったりする……という感じで、やっぱり英国の文化は軍関係も階級社会なのかなあと思いました。

 映画の方はは暗殺チーム《クリニック》のリーダー役のダニエルがきっとデ・ニーロなんだろうというのは見当がつくのですが他が見当がつかず。
 と思ったらこのダニエルに弟子がいて師匠を救うために戦うのが主役のジェイソン・ステイサムの役で映画オリジナル部分があるようですね。この配分は正しいと思います。
 あまりヒットしてないようで上映館が少ないのですが名優が揃った自分的には好みの骨太アクションなので、ちょっと観てみたくなりました。うーんどうしようかな。


〜デ・ニーロ様のアクション映画を振り返る〜

 もう68歳のロバート・デ・ニーロ御大が久々にアクション映画に出るので謳い文句になっているこの映画。現代アメリカを代表する名優の出演作をなんとなく勝手に振り返ってみます。21世紀になってからのコメディ系もよいですが80-90年代のアクション系がよいですね。

キラー・エリート』もきっと同種であろう、飾り気なしの激渋骨太アクションで単品ながらイイ映画がこの『RONIN』。1998年。大敵ソ連を失った冷戦終結後に諜報機関をお役御免になったフリーランスたちが欧州はフランスを舞台に謎のトランク奪取に挑む。フリーのプロフェッショナルたちが協働で仕事に挑むセッティングはなかなかTRPG者にもお勧めです。
 車はかなり拘っていてプジョーアウディ、ベンツにBMWが所狭しとカーチェイスしまくり、もう本気でガチンコでぶつけ合う車両戦闘をしまくりです。車好きにもお勧めです。そしてこのチェイスの舞台がパリというのがまたオサレ。
 街中のアサルトライフルでの銃撃戦あり爆破あり、デニーロ様が腰溜めで機関銃を撃つ襲撃シーンなど静かに熱い骨太アクションも満載。
 デニーロ様が演ずる主人公のサムは元CIAエージェント、恐らくは実際に照らすとラングレー本部から世界に旅立つ正規職員のケース・オフィサー(情報工作官)でなくフィールド・エージェント(現地工作員)ですね。必要以上のことを語らない冷静なプロフェッショナルです。過去のことなんか最後まで全然分からないのですがそこがいい。
 特殊部隊員役などの御用達俳優としてアクション映画ファンには知られるショーン・ビーンロード・オブ・ザ・リングのボロミアの人)も元SAS隊員役としてチームに加わりますが、読者の期待を裏切るように詐称SASなのがニクイ。w
 あのジャン・レノも出てきます。途中主人公が負傷したりする中を支えて進むこのジャン・レノデニーロ様の男同士の静かな友情がアツいです。漢祭り開催中です。美人のヒロインとかあんまり出てこないのですがそこがいいっていうかもう出なくていい。とにかく漢を見る映画です。奪取対象のトランクの中身も結局最後の最後まで分からないあたりもこの映画の雰囲気に相応しい。
 そして映画自体のタイトルがまたかっこいいんですね。飾り気なしのRONIN。浪人のローニンです。仕えるべき主を失ったフリーランスの主人公たちを表している言葉ですが、この言葉がフランスのパリを背景に添えられるというのがまたシャレオツです。エスプリでジャポネスクです。


 ヨーロッパを舞台にカーチェイスがアツい同種の骨太な映画というと、2000年代に入ってからはマット・デイモンの『ジェイソン・ボーン』3部作がかなりオススメですね。上の予告編は3作目完結編の『ボーン・アルティメイタム』なのでチェイスはNYです。



 アクション映画の歴史に残る1995年の傑作『HEAT』。あのアル・パチーノとデ・ニーロが夢の競演を果たすということで世界中が熱狂したものでした。これほんとに傑作なので未見の人はマストです。
 パチーノが家庭は崩壊寸前ながら執拗に獲物を追う海兵隊出身のロサンゼルス市警の鬼警部役、デニーロが周到な計画で警察を出し抜き続けるプロフェッショナルの職業犯罪者役。もうこの名優二人の見えない対決がアツい。
 撮影現場でもほとんど互いに会わなかったそうで作中でもほとんど一緒のシーンに登場しないのですが、だがそこがいい。対極の存在で相容れぬ仲だが互いにどこか似通い惹かれあう孤高の二人。互いを追い詰め、遂に夜の高速のカフェで初めて対面するシーンはゾクゾクします。
登場人物も多く、市警サイド犯罪者サイドそれぞれで焦点が当てられますが登場人物たちの妻や恋人は添え物、やっぱりメインは男同士の友情や対決なんですね。硬派です。漢祭り開催中です。そこがいい。
 マイケル・マン監督の映画はその後の『コラテラル』などにも続きますがシーンの夜景も綺麗だし街の使い方が上手いですね。退廃の都、繁栄の都、巨大なロサンゼルスが役者の1人のように効果的に使われています。
 二大スタァ競演以外にも出演は超豪華。太る前のヴァル・キルマーも銃撃シーンがめっさかっこいいし何気にジョン・ボイトも出てくる。犯罪者一味の中の顔が濃い人は個性派俳優のダニー・トレホだし、ちょい役でナタリー・ポートマンも出てきます。最近見返して思いましたが一緒に銀行襲撃する部下の人って『ブラックホーク・ダウン』のマクナイト中佐役の人じゃないかっ。
 音楽もいいですね。緊張シーンの張り詰めた音もいいし最後のあの静かに爽やかな曲もいい。頭上を飛行機が飛び立っていく空港の光と影のあの最後のエンディング、二人が手を取って掲げるあの最後のスローモーション……ダメだ……思い出すだけでもう涙が……(´;ω;`)ブワッ



 そして当時たびたび宣伝でも使われましたが圧倒的なのが中盤の銀行襲撃のシーケンスから始まる10分以上に渡る銃撃シーン。今ではYouTubeやニコ動でも見れますがこれはアクション映画の歴史に残る屈指の名場面です。
 白昼堂々と鮮やかな手口で誰も傷つけずに大量の金を盗み出すデニーロ様たち犯罪者チーム一行。駆けつけるパチーノ警部たちLA警察一行。車に乗り込んでまんまと脱出……の一瞬前に警察に気付いたヴァル・キルマー役の発砲から始まる壮烈な銃撃戦。真昼のロサンゼルスでアーマーを着てアサルトライフルで撃ち合うとどうなるかよく分かります。銃声も本物、実銃もけっこう使われててガンマニア垂涎です。役者は全員訓練を受けて動きがめっさプロっぽい。ゲキアツです。
 英国軍SAS出身の冒険小説家クリス・ライアンと同じチームで中東から生還したアンディ・マクナブという人がこの銃撃シーンのアドバイザーをやったそうですが、なるほどそれもなんとなく頷けてしまう圧倒の出来です。



2012年の公開が待たれるバットマンの最新作『ダークナイト ライジング』の前作2008年の『ダークナイト』。これもアカデミー賞の一大傑作ですが、クリストファー・ノーラン監督は制作にあたり『HEAT』を参考にしたそうですね。
 なるほど言われてみると確かに似てます。善悪を体現したバットマンジョーカーが互いに相容れぬ仲ながら似てる対決の構図とか犯罪の描写、都市そのものをうまく背景に使った抑圧されたシーン、張り詰めた雰囲気などなど。映画全体のトーンがどこか似てるんですね。



う〜ん『ダークナイト ライジング』も楽しみだ。鳥肌が立ちますね。
アベンジャーズ』も公開されるしるろ剣も映画になるしジェイソン・ボーンシリーズも主役が代わって4作目『ボーン・レガシー』も出るし『エクスペンダブル2』でガチムチ兄貴たちも集結するし『007 スカイフォール』も予告編が出たしホビットの冒険も映画になるし、今年も見たい映画がたくさんあるぞ。 (´ω`)