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冒険小説『暗黒の特殊作戦』

 ソーシャルライブラリからの転載ですよ。

暗黒の特殊作戦 (ソフトバンク文庫)

暗黒の特殊作戦 (ソフトバンク文庫)

 元ゴーストライターの英国新人作家による冒険小説のシリーズ第二段。前作で危険なアフガンでの金塊奪取作戦を辛くも一部成功させた主人公の元イギリスSAS隊員のスティーブ・ウェスト率いる傭兵チームは1人日本円だと5千万円クラスの報酬を得て一旦解散しましたが、金をすったり盗まれたり使っちゃったり諸々あって民間軍事企業にまた集合。破格の報酬と引き換えの今度の任務は今度はこれまた危険なアフリカ、豊かな大地を血で染めてきた独裁者の暗殺。正規軍でない民間軍事会社の作戦、バックアップなしの危険極まりない作戦……!
 元SASにグルカ兵、豪州SASR、ロシアのスペツナズ、元IRAの爆弾プロ、アフリカ国防軍特殊部隊レキ、英軍近衛騎兵連隊に近衛兵、国防義勇軍……とアメリカ軍系部隊が抜けていますが世界最強クラスの経歴を持つPMC契約社員の主人公サイドの荒くれ者9人チーム。前作は脇役まで行くと個性付けがいまいちな感がありましたが2作目で割と安定化してきた感があります。
 主人公格のスティーブ・ウェストは状況に柔軟に対応する歴戦の兵士、しかし勝算がある場合は進んで危険に飛び込み、他の面々から見るといかにもSAS隊員らしい無謀に見える面もあります。平等に誰かが死の危険を冒さざるを得ない時は自分が進んで買って出るし非戦闘員には銃を向けない、仲間は必ず助けるあたりの男気は冒険小説のヒーローの定番ですね。そのくせ夢は故郷で叔父さんのガレージで高級車を売ることで、勉強しても経理が全然分からず商売が全然上手くいかないあたりは完全に戦い以外のことには向いてないようです。いつも軽口を言い合ってる英国軍近衛部隊のオリー・ホールは世話女房役、そしてこの人もエリート部隊出身で強いんだけど戦い以外は以下略で女を見る目もないよーです。w
 英国が舞台の小説ならきっと敵役で出てくる、SASの仇敵である元IRA(アイルランド共和軍)のイアンは爆発物のプロ、面々の中では一番陰険で狡猾、人を信用しませんが逆に最も注意深く、チームの危機を何回も救います。現実でもフィクションでもイギリス軍のSAS勢の忠実な相棒としてよく登場するグルカ兵のガンジューはいかにもグルカ兵っぽい役、謎のナイフを手に主人公たちを助ける無口で思慮深い異教の戦士のたたずまいです。
 本作で正確な年齢が判明する最若手のイギリス国防軍出身のニックは環境がよければよいパフォーマンスを発揮できる素質ある狙撃兵で、ヒーロー物だったら未来の若主人公格ですね。
 そして獣のごとき獰猛な兵士なのは誰にも劣らずとも酒好きで命令違反突出あたりまえの一行のパワー系キジルシキャラ役に納まってしまうロシア軍スペツナズ出身のマクシム。スペツナズってもっとちゃんとした部隊だろうと思うんですがこの人は実写映画版にしたら『エクスペンダブルズ』でドルフ・ラングレンが演じてた役みたいなんじゃないかと思ってみたり。w
 などなどから構成される独立愚連隊は今回も例によってチームに犠牲者が1人出てしまいますが、改めて読み返すとこの人任務の前から死にフラグがちゃんと立ってます。他にも郷里の婚約者と結婚式が控えてるサブ主人公のオリー・ホールも日本のラノベだったらモロなんですが、こっちは生還します。w

 半分現実半分架空?らしい新型機関銃やセンサーで見えない敵を撃てる銃など新兵器や大型火器、爆薬を含めた戦闘シーンは幾つもあり相変わらず圧巻。まだ計画が順調に進む最初のゲリラ要塞襲撃シーンでは湖から船で近付いて要塞を奇襲、同時にヘリからファーストロープで降下して閃光手榴弾で不意を撃ちつつ突入という二正面作戦、主人公スティーブの台詞にある「最大の速度、最大の火力」の通り、いかにも元SASらしい鮮やかな奇襲作戦を見せてくれます。(この序盤の戦いからもう予定が狂いだしますがががwww!)
 冒険小説の筋書きというのは大抵独創的というよりかは約束の展開が多いですが、本作も裏切りがあったり物資がなくなったり予想外の状況で戦闘になったり敵部隊に見つかったりとっ捕まったり捕虜になって拷問されたり濡れ衣を着せられたり、このへんは定石。今回は任務の出発前夜に兵士とイイことをしてくれる謎の美女キャラも登場しますが、残念ながら冒険小説の約束通りやっぱり(以下略)だったりします。w
 様々な困難な状況下での圧倒的な戦闘が何度も出てくるので、歴戦の兵士たちならそこでどういう戦術を取るのか、小説の中とはいえ元特殊部隊員クラス9人が揃うと何倍もの敵戦力を相手にどこまでできるのかよく分かります。ミリオタやサバゲ方面の方にもこのへんは見逃せないでしょう。
 アフリカというのは冒険小説の舞台でも時々出てきますが、過酷な自然や野生動物の群れまで行軍する兵士の横にすぐ出てくることはそれほどないのでこのへんのサバイバル方面も見所です。あとは主要キャラがしょっちゅう言い合っている、互いをけなしているのか励ましているのかよく分からない冗談がいかにも兵士らしくてそれっぽかったり。空腹時に帰ったら何を食べるか互いに話しながらとぼとぼとサバイバル行軍を続けたりするあたりは、どんなに精強な歩兵でもやはり同じ人間ですね。

 元SAS隊員だった冒険小説家のクリス・ライアンがレコンメンドしているようにこの作品で描かれている元特殊部隊員たちは地に足の着いた兵士、清潔な軍司令部で命令を下している士官ではなく実際の戦場で戦っている泥臭い兵士たちです。米国のトム・クランシーのジャック・ライアン・シリーズに出てくるようなアメリカの理想を体現した模範的な兵士たちとは対照的ですね。
 かなり強いとはいえ寄せ集めの民間軍事企業の傭兵チーム、統制も取れていないしやってることも犯罪者スレスレの大金に目がくらんだ荒くれ者集団。最初から極めて困難な任務だし作中で予定も順調に狂い、真に死の足音が聞こえる絶望的な状況での戦いも何度も出てきます。いがみ合っていても戦いにおいては戦友を決して見捨てず、銃火の雨の中でも最後まで諦めず、ブーツを履いたまま闘って死ぬことを選びとる主人公たちには兵士の心意気を感じました。
実際のアメリカで過ごした傭兵たちにインタビューして執筆したそうで圧倒的な迫力があります。ラストで面々が得た大金はきっとまた使い果たしたり騙し取られたりして3作目に続くのでしょうが、続きがちょっと読みたくなりました。