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リプレイ『ヴァニティ・エンジェル』

★前編の『神殺し』はだいぶ前にゲーマーズ・フィールド誌に掲載されたものの再録です。その後長らく音沙汰がなかったのであんまり人気がなかったのかなと思ったのですがめでたく再録されました。


★キャストで目新しいのは『ナイトウォッチ』の扉絵小説でもひっそり六道法師と戦っている火炎公ベラーノですね。リアクションしない言い訳に常命の者に一撃を許すことを宣言してメモリの中の人に冷静にツッこまれるなど、一般的なアストラル系アクトでもアヤカシ枠のエルダーなキャストなんかにありがちな(?)、超人ロール周りの笑いを見ることができます。


★そしてほとんどの読者にとっての目玉は、後編の書き下ろしの『ヴァニティ・エンジェル』でしょう。
 Vanityは虚栄や慢心の意ですが、ここではうぬぼれ、“うぬぼれた天使”といった意味合いで使っています。主要登場人物のひとりを暗示する言葉なのでしょう。20世紀の古い話ですが、むかーしのレベッカの曲のタイトルにもありました。


★キャストでは過去リプレイから、アストラル系オフィシャルゲストの定番の一人、カイルとクロイツェルのコンビが続投。
 何のかんの言いながら2人は常時コンビな感じもしていたのですが、本作を読むと、目的が果たされるとクロイツェルはさっさと主から離れようとしたり、他のキャストの手に持たれる場面があったりと、実は単独で動くこともあるようです。
 中の人は笑いあいながらやっているのでしょうが、クロイツェルは隙あらば相手が誰でも永生者級のアヤカシを斬るのが大好きのようですね。

★そして非アストラルのマンデイン視点から見るとAIの剣に話しかけている寂しい人だった槍のカイルも、本作で過去が明らかに。死んでしまった恋人がいたりその妹も密かに(以下略)だったりと、オトナな青年主人公らしい設定が付いています。
 確かに20代後半設定でそういうのがまったくなかったらそれはそれで寂しいですからねえ。w あのカイルにも若き日や春の時代があった。うーんラビューン。


★歴代のオフィシャルゲストでも人数が一番多いブラックハウンドからは、今回はレイでも鹿島アスカでもなくメモリが参戦しています。
 筆者もシナリオのチョイ役ゲストで出す際は、突出するレイを止める神経質ないいんちょ役だったり「主はこう仰いました」の適当格言で笑いを取ることが多かったのですが……今回のメモリはかなり輝いています。サポート特化型データとアクト開始時は非アストラルの立場を生かしてうまく立ち回っています。メモリ無双です。w
 そして……眼鏡を外して髪を下ろすと実はかなり美人という追加設定がまさかのポップアップ。しかも正装して弘司イラストの力を借りるとナイスミドルのおぢさまが一目惚れするぐらいの可憐な乙女だという正道ヒロインぶり。
 Detonationももうすぐ終わるんじゃないかというこのご時世になってまさかのメインヒロイン昇格。この発想はなかっ……いや、伏兵はどこにでも潜んでいるものです。w
 ちなみにリプレイ収録がサプリメント『ナイトウォッチ』前だったのかもしれませんが、某ナイトウォッチ付属シナリオで明かされるモニョモニョモニョは一切言及されていませんね。かなり突飛なシナリオでしたしやはりアレは……黒歴史として扱うのが正解か?


★本作のカバーイラスト公開時に一番最初に見たときは、アルドラそっくりの少女が現れてN◎VAが混乱するとかそんな話なのかなあと思っていたのですが、このキャラクターはキャスト4人目の人形娘リアーヌでした。サプリメント『ナイトウォッチ』の扉絵小説や1行ゲストにも出てきます。なるほど、言われてみればそれで説明が付きますね。
 とりあえず彼女をチョイ役ゲストで出す時は、相手がエキストラだといい気になる執行人とすれば笑いを取れるようです。w


★チョイ役といえば、サロン・ドルファンの執事のアルフレッドもチョイ役で登場します。『ナイトウォッチ』の1行説明には誰もその姿を見たことがないという旨が書いてあるのですが、大公の脇に控えている執事ですから様々なアクトで登場させちゃったRL諸氏も多いのではないでしょうか。(筆者も何回も出したことがあります)


★データ的にはリアーヌは人形の一族の利点を生かしたドラッグ大量摂取でのリアクションなしの制御値防御、固定値のダメージ上昇や多生閻魔からの自動防御呼び出しなど、かなりテクニカルなこともしています。クロイツェル+カイル組や他のキャストでも、協調行動で50〜60点台の大ダメージの斬撃を叩き出しています。この辺も過去リプレイ通り。
 しかし『ナイトウォッチ』を全面的に取り入れてコアなユーザ同士でどこまでもマンチに戦うと、最初のセットアップ近辺で全てが決まってしまう、それこそ目も当てられないような大惨事戦闘もありえます。その辺の極端に行きき過ぎた領域には達していない、N◎VAらしい戦いをしていたのでこの辺は安心して読めました。
 いや、でもN◎VAに慣れていない人から見たら恐ろしい戦闘に見えるかもしれませんね。w


★アストラルやアヤカシ周りは人によってイメージがそれぞれかなり違い、キャスト毎、シナリオ毎、遊ぶユーザ毎にもずいぶん差があります。
 そんなアストラルの物語のひとつの形として、未来の電脳都市の夜に隠された退魔ものの物語として、読み物としては十分楽しく読めました。


★どうでもいいですが主要ゲストのシュトレッサーがアルドラと同じで爵位が大公、本文中で「大公」とだけ書かれると一瞬紛らわしいんですね。同じぐらい力があるという設定なんでしょうか。TRPGシナリオとしての認識のしやすさから言うなら別にしても良かったのかなと思います。まあN◎VAユニバースのアヤカシの爵位なんてかなり適当なんですが!w


★弘司イラストを久々に見るからか、この作品もなんだか画風が今までと変わった感触がありますね。カイルなんかは見慣れたしのとうこイラストの方がイメージとして定着しちゃったような。


★後編ではゲストのシュトレッサー大公、アルドラ大公の2人が、本文中から読み取れる行動原理とは一見矛盾する言動を取っています。このへんが、外見は人間でも人間とは完全に違う夜の種族であるアヤカシらしさ、長命種である永生者らしさが出ていていいなあと思いました。


★もうひとつ良かったのは、内容に踏み込みますがエンディングの余韻のシーン、アルドラ大公がもう会えない旧友たちの名を呟くくだりですね。
 実は筆者も自作のオリジナルシナリオのアヤカシ枠のエンディングで、まさにまったく同じようなシーンを用意したことがあります。(複数回回しているので、実際のアクトでは描写しなかったこともありますけどね) 不思議なデジャヴを感じました。


★筆者もネットで活動し、リプレイ、プレイレポート、オンラインリプレイ編集などはかなりの回数と量を製作してきました。
 いわゆるTRPG業界人やその後業界に入った人/入りかけた人、商業リプレイの参加者と遊んだこともありますし、そうした人々の実際のセッションは我々のセッションと特に差はないと感じています。同じ人間だし実際のセッションはやっぱりこれぐらいで、そこにこれぐらい文章の力で補強を加えると活字媒体の読み物ではこれぐらいになり、それがTRPG歴のまだ浅い読者等から見るとすごいセッションのように見えるんだろう……という感触は感覚的にはだいたい分かります。
 商業リプレイのスタイルにも色々ありますが、俗に言うこの稲葉リプレイのシリーズは、キャラクターの台詞や描写はかなり補強されている部類に入るでしょう。シリアスさではきくたけリプレイなんかの対極にありますね。
「実際のセッションがこんなにうまく行くはずがない」という感想もありますし、感覚は人それぞれでしょう。
 筆者としては、ブレカナやN◎VAで演出面を強化したシネマティックでスタイリッシュなセッションを読み物メインとして文章化するなら、実際のセッションの場よりもゲーム内世界にこれぐらい没頭した書き方もアリじゃないかなあと思います。


★ということで、コアなN◎VAユーザーならみんな買うでしょうが期待通りの出来のマストバイな一冊でした。
 4版のDetonationが2003年に出てから早7年。2009年頃から現在、そろそろ次版の噂もユーザサイドでよく話題に上がるN◎VA。
 もう幾つかオフィシャル設定上の大事件が解決してからになるでしょうが、世界設定変動はどうなるのか、システム的なブレイクスルーはあるのか? 他のSRS系システムやアリアン、DX3などが主流になりつつある現在、今後の動静が気になるところですね。