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月曜日は魔法使い

 なんとっ。4-5月の頃に書いてうpし忘れていた感想記事があった……!(ガクリ)
 というわけで勿体無いので掲載しておきます。
 ラノベに混じって時々濃いラインナップが上がるHJ文庫。これは、流行のドラマもファッションも大好き、ゲーマーから見ると堅気の世界で生きているアメリカの大人のOLの女性(こんな方)が、ひょんなことからD&Dのセッションに参加することになり、その面白さに目覚めてゆく過程をつづったエッセイにしてD&Dの入門書です。
 2008年4月の出版時にもD&Dゲーマーには話題になりましたが、TRPG書籍でもこういう入門書系の本というのは日本だとかなり珍しいですね。

月曜日は魔法使い (HJ文庫G シ01-01-01)

月曜日は魔法使い (HJ文庫G シ01-01-01)


★まず最初にR.A.サルヴァトーレが夫人と一緒に、自分が妻にD&Dを教えたころにもこの本があったらよかったのに、と夫婦でかなりぶっちゃけた序文を書いています。
 R.A.サルヴァトーレといえば。ぽっくんがリアル中坊〜高坊の頃に最も感動したTRPG小説といったら『ドラゴンランス』と並んで必ず上げる『アイスウィンド・サーガ』の作者ですよ。その人が胸のうちをぶっちゃけていますよ。もうたまりません。w


★作者のシェリー・マザノープル女史はウィザード・オブ・コースト社で仕事をしている以外にシアトルタイムズ紙の人気エッセイストでもある、れっきとした働く女性。
「私は女の子らしい女の子でありたいの!」と序盤で言っているように、自己主張が強くて言いたいことははっきり言い、好き嫌いがはっきりしており、ファッションもスイーツ(笑)も大好き。自分の恥ずかしい10代の頃の話を惜しげもなく明かしたりと、あけっぴろげで開放的なタイプ。何となくいかにもドラマなんかに出てきそうな、現代アメリカを象徴する女性に見えます。そんな30代の大人の女性がD&Dという魔物に挑む。日米の文化の違いや、一般人からTRPGがどう見えるのかなども、興味深いです。


★作中では「ダンジョン出身の人たち」と題してアメリカでD&Dを遊んでいた有名人の一覧も載っています。ほとんどは分からない人だったんですが、先頭が俳優のヴィン・ディーゼルでかなり笑いました。
 あんまりメジャーではないですが『トリプルX』や『リディック』に出ていた彼ですね。あの顔でD&Dやってたんですねー。なんか戦士系でパワーゲーマーな感じがします。(超偏見)


TRPGD&Dも未知だった作者はいろいろあって欠番の魔法使いを求めていたパーティに参加し、月曜日に集まってセッションをすることになります。
 日本だとここで例が高校の同級生とか学生サークルとなりそうですが、ここがさすがアメリカ、メンバーはみな職を持っている大人です。もう子供がいたり普段は企業世界の一線でバリバリ働いていたり、MBAまで持っていたりします。具体的な基準まで知りませんが、MBA資格を取るって相当優秀で知的な人たちなはずです。


★そんな大人パーティがいざセッションへ。日本のゲーマーに比べたらさぞかし知的レベルの高いインテリで高尚なPLAYでもしているのかと思えば……これがもう大笑い。
 ファンタジー世界でスイーツ(笑)を探したりあるはずのないスーパーマーケットでセッションと関係ない雑談で脱線しまくったり、もう滅茶苦茶です。作中ではメタ・ゲームと呼ばれていますが、現実のあれこれをゲーム内に持ち込んでしまうことたびたび。日本の市販リプレイの方がよっぽどクォリティ高いです。w


★そんな困ったちゃんパーティを忍耐強く見守る名ダンジョンマスターが、作者にシミターの違いを57分間語ってしまう濃ゆいゲーマーのテディ。この人はゲームマスターとしてとても優秀なのか、それとも退屈した場の盛り上げ方が足りないのか文章からはいまいち判別が付かないのですが、忍耐強いのは確か。
 セッションと関係ない脱線話が続くと不機嫌になって、鞄から分厚い本を取り出して読み始めるんですね。これがDMからのサインだと分かってから、プレイヤー面子がみんなでご機嫌を取ろうとあたふたするあたりが実にリアルです。
 ちなみにこのテディ、不機嫌のサインに何の本を読み始めるのかと思えばトム・クランシーというのが私的にかなりツボに嵌りました。やばい、この人も冒険小説のファンだ!w


★という感じで毎週月曜日にパーティは冒険を続けるのですが、当然作者のシェリー女史もキャラクターを使っています。
 どんなキャラかといえばの……エルフの女魔術師、アストリッド・ベラッジオ。ソーサレスは134歳。D&Dのエルフの寿命は確か700〜800歳だそうですし、作中でも思春期らしき描写があります。STRは低いけどDEXとINTは高、CHRは17。人間で言ったら多分10代、勝気で高慢なエルフの美少女ですよもう。日本のTRPG界の元祖アイドルのディードリット様も新世紀エルフのスタンダードもまっつぁおです。w
 そしてアストリッドの設定を初心者なりにいろいろ考えるんですが、これがまた微妙に「D&D世界の中のキャラにそれはねーよ」的な現実世界のことが混じっていておかしい。やっぱり自分のキャラは大事なお姫様、大事なお人形さんなのでどんな装備を持たせようとか、マジックアイテムはあれがほしいこれがほしいと色々考えるんですね。
 後半には実際のキャラシーまで書いてあるのですが、備考欄に「アストリッドはとってもクール」と書いてあります。
 他にもあちこちでキャラ語りが入っているんですが、つまり日本のゲーマーと何も変わらずキャラ萌えしてるわけです。海の向こうでも何も変わらないんですねー。w


★そうしてやがてD&Dの魅力を知ってゆくアストリッドの中の人、やがて全員RPG未経験の女友達を家に集めてなんとかセッションめいたものができないかと、暴挙もとい大冒険に出ます。
 ここで出てくる女性たちがみんなちゃんとした大人なんですが、またみんなこれがスイーツ(笑)が大好きでTVやファッションやとりとめのない無駄話や噂話が大好きで、いつになってもセッションにならないんですね。w
 ここで出てくるアンケートでも未知の遊びであるD&Dに対する印象や、アメリカでのNERDに対する赤裸々な印象が語られていてもうオーゴッドって感じなのですが、面白いのが「ロールプレイ」で何を連想するかの問いの答え。
 日本だと新社会人の研修ぐらいがありそうな答えですが、ここで出てくる人々は大人だからか、「セックス」と答える人が多いんですね。アメリカの女性もナースとかに扮したロールプレイでオトナPLAYをしているわけです。w


★「美人OLがDDの真実を暴く!」とキャッチーな帯もまぶしい日本語版の表紙は、日本のラノベ調の可愛いイラストになっています。これは、原作者の人にも気に入られたそうですね。
shellymazzanoble.com>blog記事のI’m Turning Japanese!
 中身のイラストの方は洋ゲーのサプリなんかを買う人にはおなじみの、アメリカ〜ンで萌えの欠片もない日本人のセンスからするとイマイチな絵なんですが。時折出てくるコラムを囲っているアストリッドの横顔は、いかにも勝ち気なエルフみたいでクールですね。


★本文は日本のTRPG文庫書籍には珍しい、二色刷りの横書き(!)で書いてあります。アメリカの文化を知らないと分からない固有名詞が大量に出てくるので、脚注が大量に各ページに用意されています。
 エッセイなので口語に近い文体で、話題もけっこうあちこち飛んでいます。英語独特の言い回しも多いですし、「その時の〜といったら、まるで〜の〜(*ここに脚注が入る)みたいだったわ!」的な比喩表現も大量にあります。また、英語の言い回しとは別に、このシェリー・マザノープル女史の文章はちょっと回りくどいですね。
 国産TRPGしかやっていない方や、日本人の書いた文章しか読んでいない方にはちょっと読みづらいかもしれません。ホビージャパンD&Dゲームガイド『月曜日は魔法使い』プレビューで一度覗いてからが安全かもしれません。
 元からD&D洋ゲーに親しんでいる方、映画やアメリカのドラマが好きな人なんかには比較的抵抗なく読めると思います。ドラマといえば、流行りのドラマの話題も作中にはよく出てくるんですが、やはり『24』キーファー・サザーランドは向こうでも人気高いんですね。w


D&Dを普段からバリバリ遊んでいる方から見ると、ルール関係で正確でない記述もあるようですし、いかにも「こんな種族やこんなモンスターがD&Dにはいるのよ!」的に書いてあるんだけれども実際にはそれは背景世界のひとつのエベロンだけで閉じた話だったりする所もあるようです。
 というわけで我々日本人が読むには、D&Dのルール的な入門書というより、言葉も文化も違うアメリカの女性がRPGという異文化に触れる軽妙な語り口のエッセイ、として楽しく読むのが正しいように思えます。
 ゲーマーというコミュニティの中での処世術や対人コミュニケーション術は、D&Dの本場でもやっぱり大事なところなんですね。日米の文化の違いに着目して読むのも面白いでしょう。


Confessions of a Part-time Sorceress: A Girl's Guide to the D&D Game (Dungeons & Dragons)

Confessions of a Part-time Sorceress: A Girl's Guide to the D&D Game (Dungeons & Dragons)

 原題は "Confession of a Part-time Sorceress: A Girl's Guide to the Dungeons & Dragons Game"。訳すると「パートタイム女魔術師の告白:女性によるD&Dゲームへのガイドブック」。1週間に1回、月曜の午後にはアストリッドになりきって遊んでいるシェリー女史になぞらえて邦題は「月曜日は魔法使い」。
 ジャパンの慣習に縛られたワタクシとしては、週末の土日ではなく仕事が始まる週明けの月曜の午後になぜこの人たちは遊べるのかちと謎にも思うのですが、日本のゲーマーにも読んでほしい、日本でもこういうジャンルの本はもっと出てほしいと思った作品でした。



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