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ローリエの回想記:『真夏の夜の夢』

 この記事は、キャラクター視点の日記の形を取った、セッションのプレイ記録です。未プレイで見ても大丈夫です。



西方暦1070年5月5日のこと


 わたくしの名はローリエローリエリルケ。鏡の盾のローリエとも呼ばれます。
 この1070年、ハイデルランド全域を見渡せば未だ戦乱の世。我が無紋の盾に刻む紋章はいまだなく、わたくしは主を持たぬ騎士として世を旅している最中でした。
 我が父上、錬金術師アンセルム・リルケから第五元素の秘跡による命を授かり、遠い異国の月桂樹を意味する名を頂いてから、時は流れました。
 父上が天に召され、わたくしがクレアータとしておそばに仕えるはずだった姫も身罷られてから、わたくしとブリーゼは旅に出ました。世界を旅し、三王会戦の時代には魔神にしてやられ、幾らかの時を奪われてしまいました。火急の折に我が剣を貸すべきだったエステルランドのあの賢明なる兄王子殿下と可憐なる姫君も、今や離れ離れの身。その1070年の今も、わたくしとブリーゼは中原を旅していました。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「ご主人様、僕も紹介してくださいよう」)


 そうそう、これなるはブリーゼ、ジルバァブリーゼ。ドルトニイ語で“白銀の微風”を意味する、わたくしの相棒です。錬金術のからくりで動く機甲馬は甲冑を着込んだわたくしを乗せても疲れを知らず、よく仕えてくれました。
 浜辺の町エトワールで起こった顛末は、そんなわたくしたちの遍歴の旅路の中でも、とびきり変わったものでした。


★     ★     ★     ★     ★


 事の起こりは自由都市ケルバーでした。ケルバー自治領はあの氷竜ディングバウを従えた女傑、リザベート・バーマイスター女伯閣下の地。多くの英雄や聖痕者が集います。よい水の産地であるこの地はわたくしたちにも縁があります。
 蒸気機関で動くクレアータ・ホースは飼い葉はいらずとも水だけで動けます。このブリーゼは、ケルバーの美味しい水が大好きなのです。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「うまうまー」)


 ある日、リザベート女伯に呼び出されたわたくしは謁見の間に参上しました。閣下は何やら面白くてたまらないという顔をなさっておいででしたが、わたくしに仰天の命を下しになったのです。
 自分の代わりにエトワールの町に赴き、年に一度の祭りの中で、花姫を選出する美女コンテストに出場してこいというのです。
 思わず、眼を丸くしてしまいました。後ろを振り返ってもしまいましたが、謁見の間にいたのはわたくしだけでした。なぜ、そんな不可解な命をお下しになるのでしょう。女伯は、あなたみたいな美人ならきっと行けると笑うだけなのです。
 はてさて、わたくしは人とまったく変わらぬ姿とはいえ、第五元素による命を授かった身。わたくしより、花姫に相応しい麗しい娘など他にいくらでもおりましょうに……。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「ご主人様、まあそのなんだ、きっとそういう事なんですよう〜」)


 リザベート伯は英雄に等しい方ですが同時に、悪戯好きです。何度嘆願しても笑って断られ、よもやその命に背くわけにもゆかず、仕方なくわたくしとブリーゼは出立することにいたしました。
 ああ、慈悲深きマーテルさま、どうかお導きを。闇の鎖を打ち砕くためなら喜んでこの剣を捧げ、この鏡の盾を弱き人々の前に掲げましょう。しかし、なぜこのような任のためにわたくしが……


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「僕は、祭りが楽しみだよう」)


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 こうして、元気のよいブリーゼは気乗りのしないわたくしを乗せ、旅の果てに金砂の町エトワールへとやってきました。
 エトワールは美しい浜辺を持つ活気溢れる町。港もあり、交易と商業で栄えております。かつてこの町を救ったとされる伝説の聖女の依代たる花姫を決める祭りで、町中が沸き立っておりました。
 大通りは花で飾られ、商魂たくましき民たちが祭りのついでにと、様々な店に出し物に精を出しています。なるほど、この祭りは商いのほうでも年に一度の稼ぎ時なのでしょう。
 この町の象徴、高いところにしか咲かぬ美しいブローディアの花は、伯に言われてわたくしも造花を一輪持参しておりました。あのお人が悪いリザベート女伯閣下、わざとわたくしには黙っていたに違いありません。この造花の持ち主は、花姫コンテンストの出場者の証だったのです。
 造花を胸に止め、ブリーゼと共に明るい町に入ってすぐに、声を掛けられました。道行く民が、お前さんのような美人さんの騎士ならきっと頑張れると応援していったのです。
 世辞とは分かっておりますが、唐突に言われて面食らってしまいました。その後も、出店の店番も宿屋の主も、途上で出会ったあのギーという少年も、みな異口同音に同じようなことを申すのです。これは面妖な、いったいどうしたことでしょうか。
 培養型クレアータのわたくしはヴァルター人と同じ姿に創られました。透き通るような銀の髪は珍しいでしょうし、遠い異国ブリスランド産の硝子のような空色の瞳の奥には、純血の使徒クレアータの印が刻まれています。近くでよく瞳の奥を見つめれば分かるでしょう。
 わたくしより美しい娘や麗しい姫君なら、そこの街角をを見渡すだけでも、幾らもおりましょうに……。思えば、おかしなことに、リザベート伯の元を旅立ち、この町の門をくぐった時から、会う者会う者がことごとく、みなわたくしを誉めて持ち上げようとしている気がいたします。不破の盾の使徒アダマスよ、どうかその守護を。これは、もしや何者かの陰謀でしょうか。闇の鎖が潜んでいるのでしょうか。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「ご主人様、それはGM席のあたりでニヨニヨしている魔神の陰謀ですよう」)


 そして、暴れ馬が引いていた馬車をこのブリーゼが勇ましくも防ぎ、轢かれそうになっていた少年を助けた折から、エトワールの町の物語は始まるのでした。
 少年は名をギーといい、以前に花姫に選ばれた美しい姉を持つ弟でした。豪商の息子でしたが姉上に似て、美しい子でした。やや幼い印象がありますが、あれで若者に成長し、いずこかに師事すれば、きっと名家の貴公子といっても通じるようになりましょう。
 彼の家に案内され、祭りに出ては駄目だと主張するギーの話を聞き、わたくしはエトワールの祭りを巡る騒動の渦中に分け入ることになるのでした。


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 この町で、幾人かの聖痕者との出会いがありました。
 ウェイブ・ヴェーダは、前にどこかの町でも出会った若い男の賞金稼ぎ。長弓で獲物を射るのを得意にしております。闇の鎖との戦いでは、わたくしと騎士カーンの剣にも増して、あのウェイブの矢が一番の力、大きな助けとなりました。
 今にして思えば、あの者と前に出会った町でも、こたびと同じように宿屋で娘を口説いていたような気がします。あのけしからぬ女好きはこのエトワールの町でも、《真珠亭》の看板娘アリエルを口説いていたのです。
 ブローディアの花が咲き誇る広場で、わたくしとギー少年が話していた折。あのウェイブはわざわざやってきました。いつもの甲冑ではなく、花姫候補の娘たちが着るような衣装を着ていたわたくしをからかいに、わざわざやってきたのです。
 背筋がぞわっと身震いがするようでした。あの若者の歯の浮くような美辞麗句、いくら褒められても世辞にしか聞こえません。あのような女性の敵、ギー少年が手本にしないとよいのですが。


 カーン・ノワールは花姫の有力候補の1人、イレーヌ姫に仕えていた若い騎士です。盾の使徒アダマスの他に、わたくしと同じ癒しの使徒マーテルさまの御技を使います。創られた命のわたくしとは違い、人の子の若者。わたくしは鎧に身を包み長剣を抜いても軽々と動けますが、カーンは力持ちの若者でも、さすがに完全武装で守りを固めるとわたくしよりは動きは鈍いようでした。
 ウェイブとは腐れ縁なのか、よく従者と言われてはそのたびに怒っておりました。はて、我ら騎士は高貴な方にお仕えするならば言うなれば従者。ウェイブもきっと、悪い意味で言ったのではないと思いますが……。
 とにかく、騎士カーンがお仕えしていたイレーヌ姫は、今は光の中にあらずとも男爵家の由緒あるお家柄の、誇りある姫君です。これからも姫を守り共に歩んでくれればと思います。

機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「ご主人様、あいつを乗せて走るのは重かったですよう」)


 “王の瞳”の異名を持つカール・シュナイダー様はかのケルファーレン公の名代でこの町に来られていたやんごとなき御身分の方。王冠の使徒コロナの加護を頂いております。カール、という名にはエステルランドに少々心当たりがありますが、ハイデルランドは広大です。きっと別のカール様なのだだと思っておりました。
 この花姫を決める祭りで、百花繚乱の乙女たちを大いに鑑賞したと聞きます。布で顔を隠した素性に謎のある方でした。
 思い出すにも恥ずかしい、不覚にもわたくしが壇上に立った折、お言葉を頂きましたが……わたくしの名であるローリエ、月桂樹の花言葉が名誉や栄光であることも御存知の、学のあるお方でした。闇との戦いでも、その帝王学や戦場における知恵を存分に発揮なさっておりました。
 心残りなのは、あの闇夜、われらが邪悪と対峙していた折。カール様は顔を隠す布を撥ね上げ、額の見慣れぬ印を見せ、何事か聞き慣れぬ口上を呼ばわっておられました。暗くてよく分からなかったのですが、あのお顔は……そう、わたくしもかつてのエステルランド王宮で何度かお見かけしたことがございました。聡明なるアンセル王子殿下の弟君、カール王子殿下にどこか似たものでした。今の世の趨勢を決める三王会戦で戦死なさったことは、広く知られておりますが。
 わたくしの元には普段の鎧と盾と剣がなく、横で弓を構えるウェイブが代わりにと放ってくれた短剣はあまりに心もとないものでした。赤き魔女と対峙するのに忙しく、不覚ながらシュナイダー様のことは分からずじまいでした。闇との戦いの後、あのお方は行方知れずとなってしまったのですが……。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「ご主人様、あのお方は魔神オクルスに魂を売って復活したカール王子本人という設定で、DP消費が激しい支援系特技の使いすぎで堕ちちゃったんですよう」)


 最後に、パウロ・ボーナム様は齢45の、英雄の導き手である旅の司祭です。わたくしと同じくマーテル様のお導きに従い、星の使徒ステラや無垢なるアングルスの聖痕をお持ちです。
 パウロ様とは以前にもしばし、旅の道中で同行したことがございました。剣や槍、派手な魔法を使うわけではありませんが、あのような方が共にいてこそ、戦士たちの偉業は成し遂げられるのでしょう。
 パウロ様とは少々恥ずかしい再会になってしまいました。思い出すにも恥ずかしい、不覚にもわたくしが壇上に立った折、わたくしに与えられる花の冠と衣装を持って現れたのはパウロ様だったのです。こんな形で再びまみえることになろうとは……。
 とにかく、その後、姫に与えられた館で侍女たちや祭りを祝う民たちや、からかいに来たとしか思えぬあのウェイブたちに囲まれてわたくしが困っていた折。パウロ様が出てきた時にはほっと安心しました。あのような方がいなければ、どんな騒ぎになっていたことか……。


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 さて、思い出すのも恥ずかしい限りですが、このエトワールの町の祭りの本番である花姫コンテストについても記しておきましょう。
 民たちの間を凱旋した後、最初の選考は美しい浜辺で始まりました。エトワールの町じゅうどころか、ハイデルランド中から集められたという美女がなんとその数一千人。見目麗しいことで知られる白鳥人の娘たちも幾人か混じっておりました。その中で落ち着かずにそわそわしていたわたくしが言うのもなんですが、さぞや壮観だったことでしょう。


 花姫たるには美貌だけではなく、高い知性も求められるとのこと。最初の関門は、各々に渡された銀の針金の謎を解くことでした。世に知恵の輪と呼ばれるものです。一千人の乙女が一斉に音を立てて解き始めるのも、なかなか珍しい光景でしょう。
 わたくしはかつて身分あるご令嬢に仕えるために生を受け、その後の漂白の身となった後も、様々な方にお仕えしてきました。教養ある貴人たちの間で適切に振舞うことなど容易いことです。このローリエリルケ、これしきの知恵の輪が解けぬと思うか!
 ……そう、わたくしはあっさり成功してしまったのでした。ああ、あそこで落ちていれば、五百人に減った花姫候補から外れることができましたのに……。


 次は砂浜で勇猛さを競い、遠くにある鮮やかな旗を走って取ってくるというものでした。
 騎士たるもの、戦においては常に先陣を走り、勇気を見せてこそというもの。わたくしも手本を示そうかと思ったのですが……これはしたり。
 普段の甲冑もなく、そばにブリーゼもいてくれない戯れの戦では、逆に調子が狂いました。乱戦の中で砂に脚を取られて倒れてしまったのです。
 銀の髪が汚れてしまい、口の中に砂の味がしました。ところが、乱戦のごたごたで何もかもが混乱していたのか――なぜか、わたくしの手の中に目指す旗が握られていたのです。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「ご主人様、それはどさくさに紛れてシュナイダー様が∴紋章∴を使ったんですよう」)


 だいぶ数が減った花姫候補の最後の関門は、聴衆の前で自らの魅力を訴えるというもの。歌や踊りを披露する乙女あり、自らの家柄を堂々と名乗る姫あり。
 最後まで残った真珠亭の少女アリエルとイレーヌ姫の訴えには星の加護がありました。わたくしは……ふつうに挨拶をするに留めました。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「ご主人様、あの時はシーンカードがマーテルで振りなおしたら、確かクリティカルだったんですよう」)


 そして、いよいよ祭りの最高潮、貴賓席では貴族たちが談笑し、満場の民たちが一心に見守る中、花姫決定の儀となりました。
 わたくしも不本意ながら最後まで残ってしまいましたが、他に高い点数を記した姫たちもおります。これでようやく、わたくしの任も解けましょう。


 そして、しんと静まり返る中、いよいよ本年の花姫の名が読み上げられました。
 ああ、慈悲深きマーテル様、どうか強い心をお授けください。読み上げられたのはわたくしの名、ローリエリルケの名だったのです。
 まったく予想しておらぬこと、思わず取り乱してこれは異なことを承ると聞き返してしまいました。ひとり驚き、呆然と立っている私をよそに町は満場の拍手に包まれ、シュナイダー様とパウロ様がお言葉を述べられ、ブローディアの花冠が私の頭に頂かれることになるのでした。
 ああ、思い出すだけでも恥ずかしい。民たちはみな笑顔で祝いの言葉を掛けてくれ、それはそれで、町が幸せな一日になるのはよいのですが、どうしてわたくしなのでしょうか。祭りのコンテストに出てはならぬと訴えていたあのギー少年に、なんと申し開きをすればよいのでしょうか。
 このローリエは一体、どこで間違ってしまったのでしょうか?


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひひ、ひーん」
(ドルトニイ語訳:「ポイントは判定のダイスで出た目の合計ではなくて、何位だったかに応じた点数が加算されていたんですよう。ご主人様がルールを思い違いしていたんですよう」)


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 兜があったら今すぐ被って隠れたいぐらいでしたが、豪華な衣装を着る羽目に陥ったわたくしは町を凱旋し、かつての聖女がおられたという清めの館で落ち着きました。
 嬉しさ満面の侍女たちや次々に祝辞を述べに来る客人、町の民、野次馬に諸々。あのウェイブ・ヴェーダもわざわざいらぬ祝いを言うためにやってきました。パウロ様がおられなかったら、わたくしはどんなに心細かったことでしょう。
 思い出すのも恥ずかしいので、あの館で落ち着いて話すことのできた、花姫の戦を共に戦った同志たちのことを記しておきましょう。


 アリエルは町の真ん中にある宿屋《真珠亭》の看板娘。まだ齢16歳の乙女です。いつも明るく、笑顔を絶やさぬ愛らしい少女でした。
 こたびのコンテンストのために銀貨を貯め、本を買って勉強もしていたという聡明な娘です。そこまで準備をしていた花姫の祭り、不本意とはいえ横から優勝をさらうようなことになってすまぬと詫びたところ、来年こそ頑張りますと屈託のない笑顔を浮かべておりました。
 よい娘です。あの様子であればきっと来年、花姫に選ばれるのはアリエルやもしれません。返す返すもあのような健気な娘、ウェイブ・ヴェーダのような軽薄な女好きにはもったいないというもの。いま少し成長した後、もっとよい若者と出会えればよいのですが。いや、ウェイブよりましな若者ならば、幾らもおりましょう。


 イレーヌ姫はさる男爵家の血を引く、誇り高い美女です。あの騎士カーン・ノワールを従えて町にやってきた姫は、今は日陰にあるお家を再興するため、自らが花姫の栄誉を得ることが、領地を守る後ろ盾になると、花姫の戦に参戦したとのでした。
 ご立派な心がけです。そのような真摯な理由のある姫を差し置いて、一介の騎士であるわたくしが不本意ながら選ばれてしまうなど、イレーヌ姫の名誉を汚すに等しいこと。
 わたくしがそう詫びたところ、姫は微笑んで許してくださいました。この祭りを通し名誉を回復することができてよかったと。堂々と戦った上での結果ゆえ、満足していると。
 よかった。優勝ではありませんが、最後まで候補に姫が残った事実が、男爵家の名に大いに光を与えますように。全能なるアーよ、どうか誇り高き姫の行く道を光でお照らしください。



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 そして……パウロ様たちが調べられていたように、この町には聖女の伝説と、かつて封じたという邪悪の伝説が伝わっておりました。


 美しいブローディアの花が咲く夜、町のほうで火の手が上がる夜に、わたくしたちは邪悪と、忌まわしい魔女と対峙しました。
 パウロ様とシュナイダー様が何事か口上を呼ばわり、賞金稼ぎのウェイブ・ヴェーダが愛用の弓を構え、花姫の衣装で心もとないわたくしには短剣を投げてくれました。
 これでは戦えぬところ、ようやく我が機甲馬ブリーゼがわたくしの剣と鏡の盾を携えて走ってきてくれました。おかしなことに、乗っていたのはあの騎士カーンでした。ブリーゼがわたくし以外の乗り手を背に乗せるとは珍しいことです。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「ご主人様、あいつほんとに重かったですよう」)


 パウロ様とシュナイダー様がその導きの技を振るい、騎士カーンがその大きな盾で二人を守る。ウェイブ・ヴェーダの頼もしき鋭い弓矢と、わたくしの長剣が我らの武器でした。
 邪悪な魔女はその魔法で我らの技を苦しめ、戦いはしばし続きました。一番最後はウェイブの矢とカーンの剣ののち、我が剣の連続攻撃が闇の鎖を屠ったのですが、クレアータの聖痕の力を解き放ったお陰で、わたくしも力尽きて共に倒れてしまいました。パウロ様のお力でわたくしが目を覚ました時、地に下りた星々の欠片、聖痕は天に還っていったのです。


 ギー少年の姉上、ロザリアは災いの中で命を落としてしまいました。
わたくしはいつも携えている天使像のお守りをギーに渡すと、二人で共に祈りました。
 我らの祈りは天に通じました。慈悲深きマーテル様が、少年の姉の命運を回復してくださったのです。これは、我が右手に刻まれた癒しの使徒マーテル様の力。しかし、それだけではありません。あの少年の、一心に姉を想う純粋な力が天に通じたのです。
 慈悲深きマーテル様、その御業に感謝いたします。かの少年の願いの力が、これからも彼を導きますように。あの願いの力が、いつか彼の携える剣となりますように。かくあれかし。


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 こうして、年に一度の祭りは終わり、エトワールの町は後片付けの頃合もまだ熱気覚めやらぬ状態でした。会う人会う人に声を掛けられ、わたくしがまたも恥じ入っていた頃。なんとこの町にやってきた貴人がおりました。
 なんということでしょう。あのリザベート・バーマイスター伯が、ご自身でほとんど従者も連れずに参られたのです。そして何を言うかと思えば、にやにやと含み笑いをしながらわたくしの優勝を祝う始末。もう、何をしにわざわざエトワールの町までおでましになったのでしょうか。
 英雄に等しいお方とはいえ、お戯れが過ぎます。あの時の伯はいつもの伯となんだか違った気がします。本当に、これは何者かの陰謀なのかという気さえして参ります。
 もう、そこまで花姫の祭りに興味がおありなら、リザベート伯ご自身がコンテストに出場なさればよかったのに。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「だって、リザベート伯は自分で出るにはちょっと年が(ry」)


 聖痕者たちは別れ、それぞれの道を歩んでゆきました。ウェイブ・ヴェーダはあの少女アリエルをどうしたのか、賞金稼ぎとしてまた別の町に。騎士カーンはイレーヌ姫と共に帰路に。シュナイダー様は行方不明となってしまい、パウロ様は教皇聖下のおられる教皇領へ向かわれました。
 わたくしも主君を持たぬ遍歴の騎士の身、いつまでもこの町の世話になるわけにも参りません。それに……祭りが終わってもなお町行く様々な人に花姫花姫と持ち上げられるのは……気恥ずかしくて顔から火の出る思いです。
 暇を告げて、わたくしはギーと姉上のロザリアの商館を後にすることにしました。ギー少年は別れるのを嫌がり、いつまでも名残惜しそうにしておりました。わたくしのような創られた命の身でも、かの少年は慕ってくれたのでしょうか。
 後で分かったのですが、ギーの身にも星の欠片が刻まれておりました。砕け散った天から降ってきた星の精髄、二十二の使徒の力。聖痕のしるしは、かの者が聖痕者としていずれこの乱れた世で、何かを成すことの予言のしるし。
 ギーの身に刻まれていたのは無垢なる使徒アングルスの印でした。今は姉上に似た美しい子ですが、大きくなればいずれは……何かを成すのかもしれません。あの子ならば、騎士にさえなれるかもしれません。
 ――ギー、そなたの姉上を想う気持ちは天に通じた。そなたならいつか、騎士になれるかもしれない。その時に、また会おう。
 全能なるアーよ、慈悲深きマーテル様よ、あの優しい少年の行く道に祝福をお与えください。かくあれかし。


 こうして、わたくしとブリーゼは、手を振る人々を後に、金砂の町エトワールを後にするのでした。ようやくこれで、花姫の務めから解放されます。悪い気はいたしませんが……やはり恥ずかしい限りです。わたくしより美しい乙女ならば、世に幾らでもおりましょうに。


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 しかし、このエトワールの町の物語には続きがあるのです。
 ようやく解放されたわたくしは気も晴れ、出立した次の日の夕刻の頃には、隣町に着きました。ここならば気兼ねなくのびのびと泊まることができます。一夜の宿を頼もうと宿屋に入った時、わたくしは凍りつきました。
 壁を飾る、見慣れたブローディアの造花。商魂逞しい商人たちが祭りに乗じて作った様々な祭りの記念品、あろうことか張り紙には、わたくしの絵姿らしきものまで描いてあります。
 エトワールの花姫の祭りは年に一度の行事、あの町の交易にとっても稼ぎ時。交易品は遠くまで売り出され、花姫の祭りの噂は近隣の町にまで響き渡っていたのです。
 わたくしが優勝者だと知った瞬間、宿の中の皆のものの視線が集まりました。わたくしは急いで取って返し、表で待っていたブリーゼにまたがりました。
 既に日も沈まんとする刻でしたが、計画変更。野宿して次の町まで行きましょう。そして手綱を取ったのですが……
 いつもはよく言うことを聞いてくれるブリーゼが、この夕刻に限ってうんともすんとも動かないのです。そうこうしている間にわたくしは目を輝かせた若い娘たちや町の者に取り囲まれてしまい、エトワールの町でさんざん味わったのと同じ目に遭うのでした。
 慈悲深きマーテル様、どうか哀れな信徒をお救いください。そして……元はといえばリザベート伯。閣下が、閣下があんな、あんな命をお下しにならなければ、わたくしはこんな目に遭いませんでしたものを……。


機械仕掛けの白馬ブリーゼ:「ひひひのひ〜ん」
(ドルトニイ語訳:「ご主人様、あの日は疲れたから、宿屋の納屋でゆっくりしたかったんですよう」)


――ローリエリルケ 旅の途上にて記す



連休連戦 ブレイド・オブ・アルカナ3rd Edition『真夏の夜の夢

  • シナリオ&GM:“勇者”凪汐海梨さん
  • PC1:ウェイブ・ヴェーダ 【イグニス=レクス=デクストラ 人間/21/男性】 PL:キツネさん
  • PC2:カーン・ノワール 【アダマス=アダマス=マーテル 人間/22/男性】 PL:風尾 瞬さん
  • PC3:“王の瞳”カール・シュナイダー 【コロナ=コロナ=ステラ 人間/25/男性】 PL:きみを(細野君朗) 先生
  • PC4:パウロ・ボーナム 【アングルス=ステラ=マーテル 人間/45/男性】 PL:HIROさん
  • PC5:“鏡の盾の”ローリエ・リルケ 【クレアータ=アダマス=マーテル クレアータ/外見25/女性】