Rのつく財団入り口

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「パム、少し安め。顔が疲れてる」@3部作完結『ボーン・アルティメイタム』

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 ひとつ前の記事をmixiにも上げたところ、どうも知り合いにワタクシの硬派なイメェヂ(←うそ)がみっくみくに崩れているようであります。そこで今回は硬派な映画の話題で盛り返すぜ!


 マット・デイモン IS ジェイソン・ボーン! という訳で観てきました秋の話題作のひとつ、マットが眉間にしわを寄せた特大マヂメ顔ポスターが目印の『ボーン・アルティメイタム』。本国でもかなりヒット、日本でも概して評判が良いようですね。
『ボーン・アイデンティティ』『ボーン・スプレマシー』と続いて堂々完結したこのシリーズ。どんな3部作かといいますと……


The Bourne Ultimatum (Jason Bourne)

The Bourne Ultimatum (Jason Bourne)

  • 原作はロバート・ラドラムの小説。映画は舞台が現代になり原作と違う部分、省略もあるが、原作ファンからも概ね評価が高い。
  • 主演はナイーブな若手スターとしてスタート、社会派の作品にも多数出演してキャリアを固めてきた個性派俳優マット・デイモン。珍しく彼がアクションに挑んだ作品でもあり、しかもほとんどスタントなしで相当頑張っている。
  • 主人公ジェイソン・ボーンは記憶を失った暗殺者。その正体はCIAの特殊プログラムで育成された超凄腕の殺し屋。彼が本当の自分を探し、自己を回復するまでがテーマになっているスパイ・サスペンス・アクション。
  • 舞台はアメリカのほかにフランス、ドイツなど欧州各国、ロシアまでオールロケ敢行、風光明媚な欧州での骨太なカーチェイスシーンも出来がよい。アメリカ映画だがヨーロッパぽい独特の雰囲気がある。
  • 人間のアクションシーンも評判がよい。基本的にリアル路線の映画なので生身の人間には無理な超人的な動きをしないのだが、その中でかなりキレのいい動きをする。ボーンは強い上に頭が滅茶苦茶切れるので頭脳で切り抜ける場面も多し。
  • 監督もインデペンデント映画出身、ドキュメンタリータッチの映像で比較的地味な、骨太の独特の雰囲気ある映画に仕上がっている。アクション映画なのだが、頭を空っぽにして観るようなハリウッド大作映画とは趣が異なる。
  • 情報機関としては米国CIAが全面に登場するが、こちらもリアル路線寄り。優秀な偵察チームや現地警察とのボーンの息詰まる対決、シリーズを通し何度も出てくる追いかけっこも見所。


 日本でも大ヒットまではしなかったのですが、そんな違いの分かる映画ファンのゴールドブレンド的な知る人ぞ知る名作だったボーン3部作が、雰囲気をそのままに遂に堂々完結。スパイ物というとジェームズ・ボンド『24』ジャック・バウアーと偶然頭文字がみんな同じJBなジェイソン・ボーンの物語も遂に終幕を迎えます。
 実は公開に合わせて最近TVで前2作もやっていました。


ボーン・アイデンティティ』:

 記憶を失い、フランス沖の海で浮かんでいるボーンから開幕。徐々に記憶を取り戻し、自分がCIAの極秘計画『トレッドストーン計画』の暗殺者で目標の暗殺に失敗したのを知る。ヒロインのドイツ娘マリーと出会う。フランスはパリの街並みを舞台に、小さな車での小気味よいカーチェイスあり。敵の殺し屋の中では凄腕のスナイパーの“教授”がキャラが立っている。
 最終的には既に中止されている『トレッドストーン計画』の責任者が殺害、計画は闇に葬られ、ボーンは姿を消す。物語からしばらく経って、地中海の町でマリーと再会、二人は新たな人生で幸せに暮らした……と単独エンド。


ボーン・スプレマシー

 インドで幸せに暮らしていたボーンとマリー。ロシアFSB出身の殺し屋キリルがボーンを狙撃、マリーが撃たれてしまったところからまたも運命は狂い始める。暗殺者としての行動に移り、濡れ衣を晴らすべくボーンの行く手を追うCIAチームと接触/攻防戦。CIAの捜索チームが本部を置いたドイツはベルリンのビルに、遠くで逃げ回っているはずのボーンが隣のビルから狙撃銃で狙いを付けながら電話するシーンがラストの伏線になっている。
 最終的にはCIA内部で公金横領をしていたアボット局長が自殺して疑いは晴れ、CIA内部調査局長の女性パメラ・ランディはボーンが濡れ衣を着せられていたのを確信。
 ボーンはロシアのモスクワに赴き、ここで殺し屋キリルと壮絶なカーチェイスの末にキリル死亡。ボーンは撃たれて傷ついた体で、自らが任務で殺してしまったロシア人夫婦の娘に謝罪。(この贖罪のためだけにロシアに行くのが偉すぎる。そこがボーン・クォリティ。)
 空白の期間。そしてCIAのパメラ・ランディがCIAニューヨーク支部の自分の机にいる所に、世界のどこかにいるのであろうボーンからTEL。パメラ・ランディがお礼に調査の結果分かったボーンの本当の名前、出生地や誕生日などを伝える。
 ここで実は隣のビルから実際に姿を見ながらTELしていたボーンの名台詞「少し安め。顔が疲れてる」。はっとして背後窓の外、ニューヨークの摩天楼を振り返るパメラ。しかし彼の姿はどこにもなく、Mobyのエンディング曲がうぃーんと始まる中を、ジェイソン・ボーンは颯爽とあの歩き方で雑踏に紛れどこへともなく去ってゆくのだった……。



 そんな2作に続いての最後通告、『ボーン・アルティメイタム』。どんな構成かというと、なんとなんと2作目『スプレマシー』のクライマックス後、少女に贖罪した直後の夜、ロシア警察に追われる所から始まります。
 その後の空白の期間を描き、『スプレマシー』のラストのパメラへの電話のシーンに見事に繋がり、そして『アルティメイタム』のクライマックス開始という複雑で凝った構成になっています。
 3部作が完全にリンクしていてこれは実に見事ですね。世の中には続編になるほど出来が下がっていってしまう映画はけっこう多いのですが、まったくテンションが下がらないまま堂々の完結を迎えています。
 映画のパンフは前2作のあらすじも世界地図と一緒に紹介しつつ、アルティメイタムのあらすじは「映画の前には開かないでください」と断りつつ折込みの中に書いたりして凝っています。


★物語はある新聞記者が『トレッドストーン計画』の後に始まった政府の極秘計画『ブラックプライアー計画』の話を聞きつけ、ボーンと密かに接触を試みるところから始まります。
 これが発覚するのが携帯電話での「ブラックプライアー」の会話が電波に乗った所から、合衆国の誇る傍受システムのエシュロンに感知されてCIAが即座に動き出すんですね。もう冒険小説ファンやスパイ小説ファンはこのあたりからテンション上がりまくりです。


★シリーズを通し何度も登場するのが、本拠地でコンピュータを駆使し敵の情報を突き止めてゆくCIAの捜索チームときびきびと指示を出す指揮官、無線で連絡を取り合いながら包囲をせばめてゆく現場スタッフ、たった一人で肉体と頭脳を武器に彼らを出し抜いていくボーンの息詰まる対決。
 この優秀な人間同士の対決の描き方が実に上手いのですが、今回は序盤からこれが開始。なんとイギリスはロンドン、2階建てバスが行き過ぎる人でごった返すウォータールー駅で鬼ごっこが始まります。


ジェイソン・ボーンは基本的に非殺主義で一般人や銃を持たない相手、現地警察のシタッパーズなんかを相手には戦わないのですが、一旦接近戦になるともうすごいです。本作では完全に記憶が戻りつつあること、マット・デイモンがいつにも増して気合を入れていることから、アクションはかなり力が入っています。
 追跡チームと鉢合わせすると出会い頭に奇襲からもう瞬殺フルボッコ状態ですからね。手足の動きも大仰にならず最小限で実践的な格闘技の感じが出ています。


★そしてシリーズを彩ってきたのが単なる格闘だけでなく頭脳を駆使した危機からの脱出。
「雑誌やボールペンやそのへんのものを武器にして室内格闘」「敵の無線を奪取して裏を掻く」「逃げながら領事館の地図をGetして裏口や窓から脱出」「デコイを活用して注意がそれた瞬間に行動」「一般客を装ってホテルに電話し、CIA面子の宿泊先を突き止めて尾行してそこから本部を確認」「自分の現在位置を惑わして逆に目標に接近」
などなど、鮮やかな手腕を見せてくれるのですが今回も魅せてくれます。


★「傍受を予期して駅でその場で買った携帯電話でコンタクト相手と接触」「ロンドンバスで監視カメラの視界が遮られた瞬間に行動」「人込みでごった返す駅を利用して潜伏」「扇風機で殺し屋の注意をそらせてその隙に奇襲」「スペインの現地警察に通報してCIAチームと鉢合わせさせてその隙に逃亡」などなど、相変わらず芸が細かい。


★ロンドンでロケした冒頭のシーンは一般人の新聞記者相手になんとスナイパーまで持ち出したCIAロンドン支部側の勝利になってしまうのですが、あの人込みの中で一瞬で狙撃に成功する狙撃手デッシュも腕が相当ですね。冒険小説だとロンドンの街中でこんなことをしたら女王陛下のMI6やMI5がすぐ飛んできそうですが、CIAvsボーンの対決だけでもう十分アドレナリンが出っ放しなので物語はテンションが高いまま続きます。


★毎回、ボーンが調べ物をしたりするシーンが出てくるのですが、今回はネットカフェとおぼしき店でインターネットを使う場面でおもいっきりGoogleが映ってます。w ボーンでもググるんですね。ビるはしてませんでした。


★そして目的の情報が分かると、必ず即座に席を立って早足で颯爽と去っていってシーンエンドになるのがボーン・クォリティ。w


★3部作すべてで世界のあちこちの大都市でロケし、警官隊との追いかけっこやカーチェイスのシーンでも異国情緒を味あわせてくれたシリーズですが。今回はスペインのマドリッドを経て、アフリカのモロッコの白い都タンジールが出てきます。007シリーズでも過去に登場したような街です。


★ここでもCIA局員で協力者の女性ニッキー、ボーン、ボーンを追う殺し屋のデッシュ、ターバンを巻いたモロッコの警察の皆さんの間でまた屋根から屋根に飛び移ったり本格的な追いかけっこのシーンがあります。


★これがまた「泥棒よけにガラス片が撒いてある屋根のヘリは、直前に洗濯物の布を手に巻いて防護してから通過」「屋台で売っているスプレー缶を焚き火に投げ込んで追っ手が来る頃に爆発(ここで、一般ピープルのおばあさんに害が及ばないように突き飛ばして逃げるところが芸が細かい!)」などなど相変わらずのボーン・クォリティです。w


★そんなボーンと死闘を演じるのが爆破が得意な殺し屋のデッシュ。『アイデンティティ』に出てくる教授や『スプレマシー』に出てくるロシア人のキリルに比べるといまいちキャラが濃くないんですが、演じている中の人もマット・デイモンをリスペクトするこのシリーズのファンだったようで、ボーンとの対決シーンはかなり気合が入っています。
 シタッパーズは瞬殺フルボッコ(但し命は奪わない)のボーンも、このデッシュには苦戦。室内で互いに一瞬で武器を持ち替えたり本で喉を突いたりしながら、地味ながら鮮やかな格闘戦を見ることができます。


★そして中盤の盛り上がりを経て、最後の舞台はボーン生誕の地、アメリカのニューヨークに戻ってきます。前作のラストと完全に繋げるこの流れは見事ですねー。
 YouTubeなんかで動画を見ると、『スプレマシー』のラストシーンとは若干台詞が違ったりしているようなのですが、それはそれとしても上手いです。


★脇役では、1作目『アイデンティティ』から通して登場する、「トレッドストーン計画」の後方支援担当だったCIAの若い女性局員のニッキー・パーソンズが嬉しいことに再登場します。ジュリア・スタイルズが演じるこの人はすごい美人という訳ではなく地味めなんですが、またそれがこの作品世界に似つかわしい。
 作中ではボーンと手を取り合って共に逃亡する形になります。ボーンの恋人マリーは2作目『スプレマシー』冒頭で狙撃で殺されてしまうところから、このニッキーがあわや本作のヒロインに昇格してしまふのかと思いきや……


★記憶喪失のボーンは覚えていないのですが、2人の間に過去に何か関係があったらしきことは2人の台詞のやりとりから匂わされています。目で語り合う二人。そして……
 モロッコで爆破を生き延びたニッキーが潜伏のために洗面所で自分で髪を切り、黒髪に変身してボーンと目が合うシーンがあります。1作目『アイデンティティ』でも、ボーンと共に逃亡中のシーンでマリーがまったく同じような状況のシーンがあります。そこから成り行きから2人はキスし、恋に落ちてしまうのですが。
 だがしかぁし。3作目のここで安易にラブなシィンになるのはボーンにとっての最愛の恋人マリーの思い出を汚すことになってしまうのです。目だけで語り合ってるけどその後も何事もなくボーンとニッキーは別れるんですね。オトナです。硬派です。これがボーン・クォリティ。w


★脇役の女性でもう一人存在感を放っているのが、ジョアン・アレン演じるCIA内部調査局長のパメラ・ランディ。2作目『スプレマシー』から登場し、当初は暗殺者ボーンの追跡を指揮するのですが徐々に彼に同情的な立場になり、本作では対テロ特別局長のノア・ヴォーゼンと局内部で火花を散らす役どころなのですが。
 ちょっと耳が尖っていてブロンド、痩身で背の高い女性でもういい年のおばさんなんですが、とにかくこの人が格好いい。男たちの間に毅然と立ち、自信に満ちていてきびきびと情報局員の部下たちに指示を出し、その上頭が滅茶苦茶切れる。リアル寄りの冒険小説的な世界でCIAで一線に立っている女性局員ってこんな感じだろうなあと思わせるに十分なのですが、本作でも一際輝いています。


★演じているジョアン・アレンは役作りのため、実際にCIAのベテランの女性局員に話を聞いたそうですが、本作でも颯爽とNY支部のオペレーションルームに登場、朝食はハートに優しいオムレツ派のヴォーゼンおじさんを明晰な頭脳でギャフンと言わせてゆきます。
 そして凄いのは前作とリンクしたクライマックスの「パム、少し安め。顔が疲れてる」の直前、ジェイソン・ボーンの本当の名前や出生地を彼女が極秘資料から伝えるシーン。
 フィクションとは分かっていてもあのモニョモニョのトリックは脱帽します。もうどんだけ頭が切れるんでしょうこの人たちは。このシリーズに出てくるCIAの人たちは優秀杉です。ボーンを追う側もクォリティタカスです。w


★そしてボーン確保の作戦実行に動く車中のヴォーゼン局長が携帯で、実はまんまと面々を出し抜いて空っぽのビルに潜入を果たしたボーンと会話し……「今どこにいる」「オフィスの中だが」「おかしいな。俺も今CIAのオフィスにいるんだが」
そして小悪人風に超びっくりするヴォーゼン局長が「コーテネボーコーテネボー! 作戦中止、全車引き返せ!」とよく予告編で流れたシーンから怒涛のようにテンション加速、一気にクライマックスに進んでいきます。


★このシリーズの見所の骨太なカーチェイス。警官の制服もパトカーも、周りの車も街並みも国によって違って異国情緒に溢れているのですが。
1作目ではフランスはパリでミニカーで路地を駆け回り、2作目はドイツはベルリンの重厚な町で人vs人の追いかけっこ、そしてベンツの走り回る雪の残るモスクワで殺し屋キリルと死闘。
 3作目はアメリカに戻り、ニューヨークの真ん中で激しいカーチェイスを見ることができます。予告編トレーラーでよく流れていたシーンですね。ここでもボンドカーのようなすごい車が出てくるわけではなく、ふつうのタクシーやパトカーで車がどんどんボロボロになりながら頑張ってしまうのがボーン・クォリティ。w


★今回はバックでの逆走やバックからの相手車無効化などかなり力強いです。車のバックからの衝突ってあれほどパワーがあるものですね。
 常人なら即死するんじゃないかというひっくり返った車からボーンが何とか脱出してまだ行動してしまうあたり、ちょっと超人度が増しているのですがそこはまあ完結編のご愛嬌かと思います。w


★そしてフラッシュバックで蘇る過去の光景に悩まされながら、ボーンは自らの出発の地へと遂に至る……。


★この作品には遠回しに批判が込められています。元はといえばボーンが地上最強の殺し屋になったのも政府の特殊プログラムの訓練によるもの。本作ではどちらかいうと悪役でボーンの過去を隠そうとするCIAノア・ヴォーゼン局長が所属しているのも対テロ特別局。
 悪と闘うために、我々は何をしてもよいのかという現在のアメリカの姿勢への問い掛けが込められているわけです。メジャーなアクション映画でこういう姿勢がとられているのも、いかにもマット・デイモン出演作らしいなあと思います。


★そしてちょっとネタバレなんですが、一番最後の終わり方がいいんですね。撃たれつつ海に飛び込んだボーンは行方不明で終わるのですが。
 水中で動かないボーンを映し、場面は変わってどこかの店でニュースを見ている逃亡中のニッキー・パーソンズ。「3日後となった今でも遺体は見つかっていません」とアナウンサーが言った瞬間、作中でほとんど笑わない彼女がにこっとスマイルするんですね。
 同時に水中で動き出しどこかへ泳いでゆくボーン。そしてMobyの曲が掛かってエンドテロップが流れ出すという、いかにも小気味よいこのシリーズらしいエンディングでした。


★かくして3部作はここに堂々の完結。マットも比較的口数が少ない暗殺者の役ながら仕草や表情で熱演、いつになくはまっています。
(予告編によく出てくる窓から窓へのジャンプやスクーターでの疾走、ほとんどアクションはスタントなしで自分でやったらしいですね。偉すぎます。)
 本作『アルティメイタム』がヒットした事から、もしも仮に4作目実現の可能性があるならやってみたいとマットもコメントしたそうですが。
 ここまで3作が完全にリンクし、少しもたるむことなく引き締まったままきっちり完結した3部作です。下手な続編で失速するよりは、映画ファンのほとんどは本作で美しく終わったままにして欲しいと思うことでしょう。
 僕も同感なのですが、俳優陣も監督もそのまま、地味でリアル寄りだけどかっこいいこの雰囲気を保ったままで、もしもボーンの活躍の番外編が観られるならそれはそれで楽しみだなあと思いました。